平等に与えられるもの 2
コユビさんのスキルは<スキルを知ることができるスキル>だ。
それを聞いたコユビさんは少し驚いた後、ニコリと笑顔を浮かべて言った。
「残念、外れぇ。全然違うよー。」
……
……
え、嘘。ほんとに?
自信満々に言った手前めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「僕が自分のスキルを知らないのが嘘だってところまでは当たってるんだけどねぇ。」
「……?じゃあコユビさんのスキルって?」
困惑したまま単純な質問をぶつけると、コユビさんは珍しく言い淀んだ。
少し逡巡する様子を見せたが、次の瞬間にはいつもの明るい表情に戻り自分のスキルについて打ち明けた。
「僕のスキルは<お互いの合意のもとに交わされた約束を反故にできない>だよ。」
………………ん?それがスキル?
思っていたのとやっぱり違うけど、それはスキルなのか?
「……約束を破らせないっていうスキルなんですか?」
「約束が完遂されるっていうスキルだよ。」
いまいちしっくり来ていない自分の様子を見て「ちょっと実践してみようか。」とその場で立ち上がった。
「君も立つんだ少年!」
「は、はい!」
訳も分からず立たされ、切り株の上で向き合う。
「うーんと、じゃあ今から言うことに対して“合意する”って言ってね?」
「合意する?」
「そう。いいかい?」
「……変なことになりませんよね?」
「少年は意外と慎重だなぁ。大丈夫だよ。いいね?」
「……はい。」
しぶしぶ了承した自分に苦笑いすると、右手をこちらに差し出して掴むよう合図する。
少し躊躇しながらも出された細い右手を掴んだ。
それを見届けるとコユビさんは“約束”を始めた。
「えーでは。“約束”する。これから僕とシフ少年はお互いに、右手でしか触れ合えないものとする。ただし次にお互いの右手が触れ合ったとき、この約束は破棄される。」
……なんだそれは。というか何をされるんだ?
動揺しているとコユビさんが目で合図してくる。
「……合意する」
「僕も合意するっ……と。はい、終わり。」
そう宣言すると手を離した。
特に体に変化が起きた様子はないんだけど、これが約束?これがスキル?
はっきり言って拍子抜けだった。
こちらが首をかしげているとコユビさんがとんでもないことを言い始めた。
「じゃあ少年。キスしようか。」
「はい。……はい?」
え、今この人なんて言った?キス?どうしてそんな……?
慌てふためくこちらを気にすることなく顔を近づけてくる。
よくわからないうちに性別もはっきりしない人とのキスなんて、さすがに勘弁してくれ。
拒絶のために近づく顔を押しやろうとして、ようやく約束の意味を悟った。
ふれることができない。
伸ばした手がコユビさんの顔に触れることはなく、見えない膜に覆われたかのように数センチの空間が永遠に詰められない。
「今ならどこ触ってもいいよ。原理はわかんないけど、服越しとか靴の裏とかも触れなくなってると思うから。」
そう言われたことで思い切って様々な箇所に手を伸ばすも、あと数センチのところで触れられない。
なるほど、これがスキル。
交わした約束を物理的に破らせない。使い方によっては非常に便利そうだと思う。
だが、過信してしまえば裏をかかれることになるだろう。
これほどの拘束力を持つなら自分の身を危険にさらす。
「もうそろそろいいだろう。約束を破棄するよ。」
そう言うとコユビさんは右手を差し出し、それをまた右手で掴む。
直前まで空気の膜に覆われていて触れられなかった肌が、右手同士でだけ効果をなさないことが奇妙に感じた。
つないでいた右手を離すと、その手をまじまじと眺める。特に変わった様子は見られない。
「少年!」
近づいてきたコユビさんが勢いよく抱きついてきた。
パニックになりかけたが約束破棄の証明だと気づき冷静になる。
特に慌てないこちらを確認し、
「なれるなよ、可愛くないなぁ。」
と口をとがらせながら、体を引き離した。
「えっと、まあこれが僕のスキル。実はここに物を売りに来るのは副業みたいなものでね。いつもはこのスキルで商人同士の仲介人みたいな仕事をやってるわけ。その仕事の関係上、スキルを知ることが多いってだけでした。自分のスキルがわからず終いでがっかりした?」
横目にこちらを見やりながらコンコンッと、かかとで切り株を叩く。
その横顔にはほんの少しだけ申し訳なさが浮かんでいるように見えた。
自分のスキルを知ることができなかったのは確かに残念だったが、それ以上にコユビさんのスキルの衝撃が強かった。
「いえ。それにしてもスキルってすごいですね……」
自分には思いつかないが、裏をかけない約束の仕方を見つけてしまえば、それは何よりも固い絶対の契約となる。
前世の世界でそんなことが起こり得ないことを考えると、派手ではないが非常に有用だ。
スキルの可能性について自分の認識の甘さを痛感していたのだが、それはコユビさんによって否定された。
「いやぁ、感心してもらってるとこ悪いんだけど、僕のスキルほど強力なのはそうないからね。枝毛ができないとか、二重爪にならないとか、あれば便利くらいのがほとんどだよ?だからそんなに期待されると……。」
前言撤回。
自分のスキルに対する認識は何一つ間違っていなかった。
よく考えてみればそうだろう。
誰もがコユビさんと同程度のスキルをもっていたら、きっと世界はめちゃくちゃになっているに違いない。
むしろ助かったと喜ぶべきだ。
これから会う人すべてがそれぞれ違う強力なスキルを持っていたら、旅なんて危険すぎてしていられないだろうから。
だけど、ひとつだけ言わせてほしい。
異世界に転生してまで得た唯一のスキルが<枝毛が生えない>だったら自分はどんな顔をすればいいのだろうか。
これから判明するであろう自身のスキルに、予想外の恐怖が潜んでいることに気づいて瞳をどす黒く染めるシフ。
それを遠巻きに見ていたコユビは静かに後ずさるのだった。
安心したまえシフ少年。君のスキルはもうみんな知っている。
決して<枝毛が生えない>とかじゃないよ!
しかしここまでネタにしていると、能力の持ち主が不憫だな……




