プロローグ
「恥の多い生涯を送ってきました、って感じかなぁ。」
水面を眺めながら浮かんできた有名な一節をつぶやいた。
タイトルすら思い出せないことが、自分の薄っぺらさを突き付けるようで小さく笑う。
幼いころから将来の夢などという質問は大嫌いだった。
スポーツ選手とか漫画家とかそんな大層なものになれるはずがない。
自分にはできないに決まっているという強迫観念に近い何かをいつも感じていた。
しかし社会の一部にすらなれないとは思っていなかった。
大人になることが怖いとは思っていなかった。
就職に失敗するとも、そのまま引きこもりになるとも思っていなかったのだ。
「まあ、もう関係ないんだけど。」
浴槽に背を預けて赤く染まる水をぼんやりと眺める。
どうせ腕を突っ込むなら風呂に入ってしまえばよかったなどと考え、でも全裸で見つかるのはなんだか嫌だと考えなおす。
もう悩むこともないのかという少しの不安と安堵を抱えながらゆったりと目を閉じる。これ以後自分のようなどうしようもない存在を世に生み出さないでほしいものだ。
精一杯の強がりを胸に抱き、静かに眠りについたのだった。
この時の自分は転生して異世界で生きていくことになるとは少しも思わなかったのだった。