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【05】 友人と旦那様

すべて会話文で出来ています。

地の文はありません。


どっかのお屋敷の応接室。

元悪役令嬢の友人と、旦那様の秘密の会話です。

壁に耳を当てている。

そんなシチュエーションでお楽しみください。






「はじめまして」


「はじめまして?」


「……」


「……」


「……じゃ、なかったわね……久しぶり、と言うべきかしら?」


「そうだな。ひ・さ・し・ぶ・り……と言うべきだな」


「……」


「……」


「……」


「……何か言ったらどうだ」


「……まさか、貴方があの娘と結婚するなんて……ね」


「……」


「……って言うか、貴方良く結婚したわね」


「……」


「あの娘、言ってたわよ。貴方が断ってくれればよかったのに、って」


「……」


「あら、答えないつもり?」


「……俺は、結婚する気なんてなかった」


「ふーん。じゃあ、何で断わらなかったの? 断ればよかったじゃないの」


「……」


「貴方なら断れたでしょ?」


「……断ったさ! 断ったが、王命と言われた」


「まぁ! 貴方、あの王様が怖かったって言うの?」


「俺にだって……怖いものはある」


「あら、貴方ほどの人が、何を怖がるって言うの! あの糞どもを黙らせて、今の地位を手に入れたって人が!」


「あの時とは違う……俺だってあの時とはずいぶん変わったんだ」


「変わった? どこが? 貴方、あの娘に向かって、開口一番『命令だからお前なんかと結婚するんだ』なんて言ったそうじゃない。ちっとも変わったとは思えないけど?」


「それは……申し訳なかったと思っている」


「申し訳ない! はぁ!? よく言えるわね、そんなこと! 申し訳ないですむこと!?」


「仕方がないだろう。あんな酷い噂付だ。警戒するなと言う方が……」 


「噂? そんなものを信じてあの娘を傷つけたって言うの?」


「俺が……俺がどんな目にあったか知っているだろ」


「えぇ、知っているわ。だから?」


「なら分かるだろう。“聖女”を虐げた、なんて聞いて冷静でいられると思うか?」


「ふうん……まぁ、期待はしてなかったけど、やっぱり貴方はちっとも変っていないのね。あれからもう何年もたっているのに」


「……そんなに簡単に変われるなら……誰も苦労しない。それに、俺はもう、見限られたんだろう?」


「見限る……私が? 貴方を?」


「そうだ、俺が、何もしないまま、あいつらに屈し、この地位を手に入れた事が、気にくわなかったんだろう? だから」


「だから、私が貴方を見限った、と?」


「そうだ。役に立たないからと、捨てたんだ」


「捨てた、ねぇ……人聞きの悪いこと言わないで欲しいわ。私は忠告した筈よ。この国の王家が……人々がどんなものかをぎりぎりまで何度も何度も。それでも貴方は王家を選んだんでしょう?」


「!」


「なんて顔してるの。分かっていたでしょう? あの人たちとの取引はそれ相応の対価が必要になるって。私は貴方に期待していた。貴方ならこの国を変えてくれるんじゃないかって、そう思っていたのよ? なのにその期待を裏切ったのは貴方。私ががっかりして、貴方に会いたくなくなってしまうのは仕方がない事じゃない?」


「……それは」


「貴方が望む姿も力も与えたのに全部捨てて、なんにもしないで結局前と同じようにこんな所に引きこもってる。その上何にも関係ない、私、が、選んだ、あの娘に八つ当たりまでしている。見捨てられたってしょうがないでしょう?」


「だからって急に全部を奪う事はないだろう。俺は今でも選ばれたとあいつらに……って、今選んだって言ったか?」


「言ったわよ。あの娘は、“私”が、選んだ娘よ?」


「え? は? なんで? え、じゃあ、今言われてる聖女ってのは……」


「“聖女”は“聖女”よ。偶然だけれど、開いたままの扉からこちら側へ来ちゃったみたいね」


「来ちゃったみたいって……そんな無責任な」


「無責任なんて貴方には言われたくないわね。しょうがなかったのよ。たまたまあの場所にあの娘がいて、適性がある人間が扉のあちら側にいたんでしょう。ほら、あの娘ってば、無意識の力が強いから」


「強いからって……放置するなよ。巻き込まれる方の身にもなって見ろ」


「あら、扉が開きっぱなしなのは、誰かさんが帰らなかったせいでしょ。あの扉は一度開けば二回使わないと閉じないのよね。帰りたくないからってこっちの世界にとどまった人がいるから、扉が開きっぱなしになってるのよ。それにあの扉を開いたのは私じゃないもの。私のせいじゃないわ」


「私のせいじゃないだと? 何の関係もない人間を巻き込むようなものを作っておいて、私のせいじゃないなんてよく言える!」


「言わせてもらうけど、本人の心にその気がなければ扉はくぐれないわよ。あちら側の世界の人たちは、こう言った事を皆望んでいるんでしょ?」


「望んでない。娯楽として……想像して楽しんでいるだけだ。本当に違う世界があるなんて誰も思っていない。きっと今回の“聖女”だってそうだろう。あいつらにいい用に使われて……」


「そうかしら? 意外と、っていうかかなり楽しそうだったわよ? 貴方よりずっと早く馴染んでたし。貴方と違っていろいろしているみたいよ」


「いろいろ?」


「そう、いろいろ。貴方も噂は聞いているでしょ?」


「俺は引きこもりだ、噂なんて知るか。結婚しろと言われた時に、あいつが“聖女”を虐げた女だと聞いただけだ」


「わざわざそれを教えるのがあいつららしいわね。それにしても、やっぱり断われたんじゃない」


「……また悪事を働かないよう監視しろとも言われたんだ。俺もそれなりに苦労したからな。後進のためになるならと……」


「監視、ねぇ……それで結婚したんだ。お優しいこと。その優しさをどうして、"初対面"のあの娘にもかけてあげられなかったのかしらね」


「それは本当に悪かったと思っている。だから俺だって反省して、少しずつ距離を縮めちゃんと夫婦になろうと……」


「その距離の縮めかたがちゅーなわけ?」


「……アイツが言ったのか?」


「そうよ」


「よくもまあ、ぺらぺらと」


「あら、貴方だって執事には話しているんでしょ?」


「マルコは……あぁ、もう! アイツだって話しているじゃないか!」


「あら、私はあの娘の相談役だもの。何だって話してくれるわよ?」


「相談役? 誰がそんなことを信じると思う?」


「あら、私の正体を知っているのは貴方だけだもの、貴方以外は皆信じるわよ。あの娘でさえもね」


「アイツは自分が何かも知らないのか!?」


「知らないわ。何も」


「何で……」


「何でって、私もね、そろそろ限界なの。王家……この国には何度も慈悲をかけた。でもね、ちっとも良くならない。悪化する一方。彼らの懺悔を聞いてあきれちゃった。なんて言ったと思う? あの娘を見るとね気分が悪くなるんですって。あまりにも綺麗過ぎて。真っ白過ぎて、汚したくなるんですって。意味が分からない。彼らにはもう正しい信仰も、自ら綺麗であろうとする気持ちもない。ただ自分の我欲を満たすことだけが正しいと思ってる。どんなに新しい道を示す力を与えても、それをちゃんと自分たちの力に出来ない。そしてそれはもう国の隅々にまで浸透している……そうよ、私はね、ずっと彼らを試していたの。あの娘を通して、王家とこの国を」


「それは、俺も含まれるのか?」


「あら、理解が早くて助かるわ」


「なんで俺が!」


「貴方が自らあの娘を受け入れたんだもの、今度こそ役目を果たしてちょうだい」


「役目?」


「あの娘の事、かなり気に入ってるでしょ? なら、あの娘を幸せだと思わせてみなさい」


「幸せ?」


「そう、あの娘をこの国で誰よりも幸せに」


「それは……無理だ」


「あら、また何もしないつもり?」


「いや、そうじゃなく、俺には呪いが……」


「呪い? あぁ、姿が変わるって奴ね?」


「そうだ、アイツとその……すると」


「それは呪いじゃないわよ? あの娘は“聖女”だから……と言えば分かるかしら?」


「どういう意味だ?」


「貴方がこの国に住み続けたいと思うなら、それも含めて少しは自分で考えなさい。だって、この国の存亡の危機なんだから」







最後まで読んでくださりありがとうございました。


不定期更新になりますが

また次作もよろしくお願いします。

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