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さまざまな短編集

こけおどしの対戦車砲

作者: にゃのです☆

 対戦車砲とは、戦車を破壊するための野砲、または速射砲のこと。

 どの国の対戦車砲も高初速の砲弾を撃ち出す。

 ただ今はどの国も開発途上だった。

 戦車も前大戦で出来たばかりで、装甲を持っていても数ミリと比較的薄かった。この時の対戦車砲も口径が五〇ミリ以下のものが多かった。

 私が配置された砲兵連隊の対戦車砲も三七ミリであり砲弾も小さい分、速射は可能だが装甲貫通能力は低いと言わざるを得ない。

 これは数日前の話だが。一台の戦車が目の前に走ってきていた。場所は見渡す限りの平原であり小高い丘に陣取っていた私たちの部隊には対戦車砲四門で陣形を取っていた。私は一番左側の端っこに照準手として配置についていた。


「照準手、あの戦車を追っかけろ。いつでも撃てるようにしておけ」

「了解」


 照準器で戦車を捉える。砲塔を捉え続けておくと弾が下がって車体に良い具合に命中することは訓練で知っていたし体験していた。今回もそうして照準を行う。


「隊長からは攻撃命令がもう下っているのだが、なんせ距離がなぁ……」

「ざっと八〇〇メートルといったところでしょうか」

「ああ、砲弾は徹甲弾を装填しろ。一番右側の連中が撃ったら射撃開始だ」

「了解」


 砲を動かすには照準手と砲弾装填手、予備装填手、小銃手、測儀観測手などで構成されそれらを統括するのが班長。さらにこれを一班として四班一つのグループを小隊としている。

 だが、待機の時間はすぐに終わった。右端の連中が発砲したのだ。


「撃ち始めた。こっちも撃て!」


 照準はバッチリ。引き金となる紐を思いっきり引き切ると衝撃と共に戦車に向かって赤い砲弾が飛んでいった。

 間違いなく命中コース。

 こっちの砲弾が届く前に最初に右の連中が撃った砲弾が戦車の手前に着弾して土煙をあげる。

 土煙で戦車全体が見え無くなる寸前にこっちの砲弾が命中して火花が飛んだが、赤い砲弾は貫通せずに反対側に飛んで行った。

 嘘だ。と思って次弾を撃つ。

 ほぼ、同じような場所に命中し同様に弾かれる。

 

「弾かれるなんて……!」

「足を狙え! 足なら弾かれることはないはずだ!」


 狙いを変更して撃つ。

 狙いすました通りに履帯と転輪の間に命中。戦車は動きを止めた。

 もちろん反撃も来るが、見当違いな場所に着弾する。その間にも他の砲から停止した戦車に向けて次々と射撃を絶え間なく続けていた。

 結果は戦車を撃破することには成功したが、一門当たり約一〇発の砲弾を消費していた。

 後に撃破した戦車を調査すると、貫通していたのはわずかに三発しかなかった。他の砲弾は弾かれたか砲弾自体が砕けていた。その証拠に戦車の周りには鉄片が散らばっていたのだ。


「距離があったとはいえ、撃破できない装甲厚でもない。砲弾の貫通力不足と強度、戦車の装甲の強度が予想以上にあったということか」


 だから、改善のために調査が行われたが、今まで改善するための方策、戦車撃破用のマニュアルすら伝えられずに別な場所へ配置転換となった。

 これが私自身体験して得た我が国が使用する対戦車砲の弱点だ。

 戦車が破壊できない対戦車砲はただの威圧用の空砲と同義なものとなっている。


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