占師の冒険奇譚
水晶には不思議な力がある。
それは否定しない。
でも、何かを感じる、予知する道具として
私は見ていない。
◇ ◇ ◇
「もうヤになっちゃう」
黒いスカーフをソファーに投げ、私は言った。
「ほんと、不愉快」
文句を言いながら、ソファーに寝そべる。
テーブルの上に置いた水晶を足で蹴ろうとすると、
シャドゥウが止めた。
「そんなにイライラしないで下さい。いつものことじゃないですか」
「それが腹立つのよ」
蹴るのを諦め、身体を起こす。
「どこでもフリーパスの第1級熟練資格を持ってるのよ?
なのに・・・・・・あーっ、もう!!」
「正確にはどこでも占える、ですよ。ドサ回りのような仕事が嫌なら
もっと都会へ行けばいいと前々から言ってるじゃないですか」
シャドゥウの言うことは、イチイチ最も過ぎてイヤになる。
「確かにあなたの腕はすごいですよ。でも、その第一級資格は――」
「ストップ。わかってるわよ。裕福、優雅な生活を捨てたのも私。
一つ所に居ることができないのも私。
第1級の資格ももう一つのことがバレたら檻の中」
ワインを飲もうとするのをシャドゥウが止める。
忠実で、真面目で、頑固。だけど一番使いやすい。
「毎日・・・・・・それこそ毎回のように
『何か道具は・・・・・・ほら、例えば水晶とか』
って言われるとイヤになるわよ」
空のグラスを軽くまわす。
それでイライラがなくなるわけでもないんだけど。
「それだけ占いと水晶の関係が深いということなんですよ」
なぐさめるようにシャドゥウが言う。
第1級熟練占師リラ。
これが私の肩書きだ。