5/66
2
こういう場合は…断らない方が、男の子の面子を潰さずに済む。
「じゃあお願いね。大事なお弁当が入っているから、大切に」
「わっ分かった!」
彼は恐る恐る自分の肩にかける。
何か…新鮮だなぁ。
「ねぇ、正義くんは彼女いた?」
「えっ…!? かっ彼女らしい彼女はいなかったかな? 何か中途半端なままだったし…」
そう言ってわたしに視線を向けてくる。
「ひなさん以上に…好きになった人はいないし」
「まあ」
嬉しい言葉。
顔がゆるんでしまう。
二人で手をつなぎながらビルの中に入った。
入場券を買う時だけ手を離して、後はずっとつないだままだった。
この水族館、地元のデートスポットとしても有名だし、家族連れにも人気。
日曜日なだけに人は多かったけれど、中は広いからゆっくり見られる。
「ねっ、キレイでしょう?」
アクアブルーが目の前に広がり、色とりどり、形いろいろの魚達が泳ぎ、舞う。
「うわ…。ホントだ」
彼は感動して、言葉を失っていた。
動かなくなった彼を、無理やり引っ張り回す気はなかった。
感動している彼を見続けているのが、結構良いなって思えたから。




