垣間見える不穏な空気
わたしは腕時計を見た。
学校が終わってすぐ出てきたけれど、ちょっと時間が遅い。
委員会やら部活やらをこなした後では、どんなに急いでもこの時間になってしまう。
家には父さんとお母さんが待っていてくれる。
そう思うだけで、自然と足が速くなった。
けれど…人通りの少ない道に入ったところで、気付いた。
―尾行されてる。
気配は…二人分だ。
実家が実家なだけに、幼い頃からこういう状況に慣れていた。
対処法もだ。
わたしは角を曲がるとすぐ、誰の家かとも分からない塀を飛び越えた。
そして身を屈め、気配を抑える。
「…あれ? 見失ってしまいましたか?」
「おかしいな…」
声は若いな。
塀は少しボロかった。
おかげで穴から道路側が見える。
こっそり見ると、制服を着た男子生徒が二人、辺りをキョロキョロと見ていた。
あの制服は…見覚えがある。
この地域はヤクザの力が濃く、警察さえも何もできないぐらいの力を持つ。
そのヤクザが経営の一部として、学校を作った。
よりにもよって、小等部から高等部までのエスカレーター式。
入学資格はとにかく、力があればいい。
それだけで学費免除で、卒業は単位制なんだから、ここらの不良は喜んで入学する。
その高等部の制服を着ているのが、尾行してきた学生だ。




