ハイドの頭
―――ハイド本部会議室―――
ハイドの本部と言っても数十人が集まって会議できるほどの広さである。
「やっぱり居たか……」
何か考え事をしながらハイドの総司令官キルアは言った。
「あの三人は人払いの結界まで使用していました。」
「まったく…軍の上官は何をしているんだ」
キルアは呆れている。それもそうだろう。このような事は日常茶飯事だ。
そして決心したかのようにして、椅子から立ち上がり
「俺は軍にバレないように監視結界を張っておく。総員厳重に警戒しながら事を大きくする前に牢屋へ転送させてくれ。国からの依頼も溜まっている。任務中でも構わないので町に目を向けてくれ。」
「「「了解」」」
キルアの以上という声と共に、ハイドのメンバーは、部屋を後にしていく。
「ライザー、ちょっといいか?」
部屋を出ようとしたときだった。
「構わん」
キルアと向かい合うようにして座った。
「今日…いや日が変わってるから昨日だな。君が助けた銀髪の少女がいただろう?」
緑色の瞳を大きくし、訪ねてきた。
「あぁ…」
それがどうしたと言い、キルアの秘書ミーラが出したコーヒーを一口飲んだ。
「以前君には誰かとタッグを組んで、優秀な子を育てて欲しいと頼んだはずだ。彼女は君と、相性が悪い。魔脈のシンクロ率も低く、性格も合わないことだろう。」
「そんなのと組んだら、大変な事になるだろう…」
キルアは俺の発言を肯定した。
コンビを組む上でパートナーとの相性が悪ければ連携だってまともに機能しない。
「だが、お前が言うからには何かあるのだろう」
「ああそうさ。相性が悪い方が逆によく育つと思う。一人でも戦える力、判断力だってつく。それに…」
「……どうした?」
「いや、何でもないさ。それが理由だ。」
「少し時間をくれ…。もしお前が今、正式に命令をするのであれば今すぐ承諾しよう。」
相性が悪くても一人だけならまだいいだろう。
「いや、今すぐには言わないさ。拒否権だってもちろんある。最終的に決まったら報告することだけは、忘れないでくれよ。」
「承知した。……まだ何かありそうだな…」
「君の目には毎度、度肝を抜かされるな。 …本題に移ろう。」
緑色の瞳が細くなる。場の空気が変わった。
「今この国が狙われてる…。ユーラキに。」
ユーラキは隣国だ。隣国と言ってもだいぶ離れてはいるが。武力はこの国よりも劣る上に、面積だってこの国よりずっと小さい。だが問題はそこじゃない。
暗殺や情報を盗むのに特化した連中がゴロゴロいる。これが一度の驚異であり、ユーラキという国が他国からの侵入を防いできた、最大の理由である。
きっと、この国の中にもスパイは潜んでいるはずだ。
「この事を知ってるのは俺と、政府上層部だけだ。しないとは思うが念のため、口外しないでほしい。」
「…。どこでその情報を手に入れた」
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干す。
「こっちもスパイを送り込んだ。お前も知ってるやつだライザー。」
「……。ふっ、まさかとは思うが…」
「そのまさか、ハステルトだ。あいつを送り込ませた。」
「今どこにいる?バレていないだろうな…」
「それは大丈夫だ。君が一番理解しているだろう。彼は多分この国はいるだろう…。後は自分で探してくれ。」
「そのつもりだ。」
俺の話は終わりだとキルアは言い、首の骨をコキコキと鳴らし、夜の街に消えていった。
まさかあいつが出てくるとはな。面白くなりそうだ。
今は午前三時になろうとしてる。俺は、本部から出てある場所へ向かった。