ありふれない日常―魔王を添えて―
前回の投稿から少し時間を置いてしまいました。
しかし書きたい内容を入れられるものが出来たので良かったです。
まだまだ初心者なので読みにくい箇所があると思いますがよろしくお願いします。
ふと目を覚ました丑三つ時。
喉の渇きを癒すため私はキッチンへ向かった。
自分以外の人間が寝静まるこの家はなんだか少し怖かった。
一歩一歩階段を下り、目的地のキッチンに足を進める。
古い家ではないが暗いとそれなりに雰囲気があるというものだ。
まあ、姉ならばこんな事怖いなどとは思わないのだろうが。
そんな姉も今は寝ている。
今この家では姉と私の二人だけで生活している。
それは急な父の海外への転勤に伴い夫婦は揃って海外で暮らすことになったからである。
両親は、一応海外で一緒に暮らさないかと言ってくれた。
しかし私と姉はそれを断った。
私ももう今年の春には大学生になる。
せっかく決まった大学を棒に振るような真似はできないし、私もそこまで子どもではないのだ。
姉もこちらで仕事をしている社会人だし。
夫婦仲良くいってらっしゃい、と姉と一緒に空港で別れを告げたのはそんなに古い記憶ではない。
二人とも元気にしていればいいけど。
そんなことを呑気に考えて歩いていたら目的の場所であるキッチンに着いた。
それは暗いキッチンの明かりをつけようとした時だった。
がたん、と突然大きな物音がキッチンに響く。
どうやら使っていないキッチンの収納から聞こえてきたようだ。
ねずみかそれとも名も言いたくない黒光りするあいつなのか。
嫌な考えが頭をよぎる。
それでもごそごそと断続的に物音が聞こえる。
思わず設置してある殺虫スプレーを手に取った。
凄く動揺していたのだ。
しかし、それがこの先の運命を変えることに繋がるとはこの時は思っていなかった。
電流が一瞬で体を駆け抜けるように、その時私に戦慄が走った。
スライド式の収納が勝手に開いていく。
何やら大きな黒い影が収納の中で動いているようだ。
びっくりし過ぎた私は手にある殺虫剤を黒い影に思い切り噴射した。
すると、
「えっ、ちょ、やめっ」
けほけほとせき込む知らない男の声。
「ぎゃー!!」
自分の声とは思えないほど大きな声が出た。
もう何がなんだか分からない。
まさかGが擬人化したのだろうか。
それは嫌だ、生理的に無理。
黒い影が見えなくなるほど殺虫剤を当て続ける。
私の叫び声に起きたのだろう、姉が階段を下りてくる音が聞こえる。
姉が来る前に早く始末してしまわなければ。
黒い影はどうやらまだ動いている。
しかし動きが遅い、弱っているようだ。
これならば、いけるかもしれない。
私は殺虫スプレーを噴射するのを止めた。
「やっとはな」
やつが何か言おうとしていた。
しかし聞く耳をもってはいけない。
私はスリッパを両手にもつ。
そして渾身の力を込めて振りかざした。
”必殺、二刀スリッパアタック!!”
黒い影に二つのスリッパの底で叩き潰す。
「ぐはっ」
確かな手ごたえがあった。
これで結構なダメージがいったはずだ。
あともう一撃で終わらせる。
そんな時だった。
姉の大爆笑が背後から聞こえてきたのは。
「………お姉ちゃん?」
後ろを振り向かずに言う。
今は振りかえられないからだ。
やつは死にかけが一番厄介なのだ、気を抜いてはいけない。
「電気もつけずになにやってんのよ、もう。」
そう姉は笑い半分に言うと同時にキッチンの電気をつける。
突然の光に目が痛い。
私が眩しさのせいで動けずにいると。
「っキョーコぉ、たすけてー。」
「えー、面白いのに。」
「笑いすぎ。こっちは割と本気で死ぬかと思ったんだって。」
黒い影の主が姉に話かけ、姉も笑いながらそれに答える。
当たり前のように姉の名前を呼び、二人の仲は良さげだ。
薄目を開いて黒い影の主を見る。
髪の先からつま先までも、全身が黒で統一された装いの人型だ。
その顔の造形をまじまじと見る。
「惚れるなよ。」
「うっわ。まーくん何言ってんの。逆でしょ、あんたがこの子に一目惚れしてんじゃない?」
「いや、その、あれだ、」
「ぷぷ。動揺しすぎ、てかやっぱり図星か。」
「あっ卑怯だぞ。」
「いやいや何言ってんの。あんたが勝手に自爆してんじゃん。
まーでも、流石私の妹ちゃん!どうだ、かわいいでしょ~。」
………何やらおかしな会話が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
ひとまずそれは置いといて思考に戻る。
やはりどんなに考えても知らない男だ。
というかどうみても人間に見える。
でもどうしてキッチンの収納に入っていたのか。
いや謎はそこだけではない。
そうキッチンの収納はこの男が入れるほどのスペースはないのだ。
………本当に、一体どういう状況なのだろう。
私は困惑して姉の方を向いた。
そんな私に姉はいつも通りに笑いながら
「ごめん、ごめん説明するって。」
と近くに来て私の頭を撫でながら言う。
そんなこんなで男を伴い、居間に移動した。
そしてそこで私は思いもよらぬ説明を受ける羽目になったのだった。
リビングにある四人掛けの椅子。
姉が私の正面の椅子に座り、もう一人の得体の知れない男はその隣の椅子に座った。
壁時計は四時を指している。
目は完璧に醒めてしまっている。
これでは二度寝はできないだろう。
今が春休みでよかったな、と私は密かに思った。
話を聞くべく正面の姉を見つめる。
「さて、説明しよう。」
姉が真面目な顔を作る。
鋭利な刃物の様に切れ長な目の彼女は、はっきり言って怖い。
緊張した空気が流れる。
「佳純ちゃんも気が付いたと思うけど、キッチンの収納にはこいつが入る隙間なんてありません。
実はあのキッチンの収納は異世界に繋がっているの。そしてこいつはその異世界の住人です。」
ノンブレスでそう言って姉は隣の男を指さす。
「ほら、自己紹介どうぞ。」
「そこで俺に話振るんだ。」
笑いながら言う姉に。
ツッコミを入れる男。
お笑い芸人のように流れるような阿吽の呼吸だ。
「おほん。どうも初めまして。
驚くだろうけど俺が魔王です。気軽にまーくんと呼んでくれ。
ちょくちょくこっちに遊びに来るから、よろしく!」
「…………。」
彼らは何を言っているのだろう。
異世界?魔王?
突然、家のキッチンの収納が異世界に繋がっているなんて言われても現実味がない。
普通なら何の世迷い言を言っているんだ、と笑い飛ばしてしまえるだろう。
でも私は他の誰でもなくこの目で、何もない収納からこいつが出てくるのを見てしまった。
いわば私自身が生き証人。
思えば変な話なのだ。
我が家ではあの場所だけ、あの収納スペースだけいつも物を入れないようにしている。
姉も、それに少なくとも母も異世界や魔王について昔から知っていたのだろう。
そう考えれば辻褄がぴったりと合う。
パズルのピースがはまった。
因みにこの間数十秒。
気を取り直して。
まあ取りあえず現状として私は自称魔王から自己紹介をされた。
ならば例に倣って私も自己紹介をするのが筋だろう。
「どうも初めまして。
私はあなたの隣に座っている京子ちゃんの妹の佳純です。
知らなかったとはいえ、先はほどはすみませんでした。」
先手必勝、早めに謝っておこう。
後々に面倒事になるのを避けるためにも。
あまり”魔王”の風格が見られないけれど、よく分からない相手だし。
今後関わりたくないからこれで縁を切ろう。
自己紹介をしてから内心そんなことを思った。
ポーカーフェイスは得意なのである。
それなのに、だ。
当の魔王はというと
「まあ確かに驚いたけど大丈夫だよ。でもそうだな~。」
話を一度切りこちらをちらりと見てくる。
「こちらの世界でいいから俺の買い物に付き合ってくれない?」
にこやかな笑顔で、しかしその実断れない雰囲気を醸しながら魔王が言った。
やばい、何がやばいって。
実はこれかなりお怒りなのではないか?
すごいキラキラした笑顔だけど纏っている雰囲気が高圧的だ。
これが魔王か。
もしかすると今日が命日になるかも。
お姉ちゃん助けて。
そう思い姉の様子をうかがう。
すると何でもないように笑いながら私の希望を打ち砕く発言をした。
「私としては面白かったけど、確かにまーくんに結構すごいことしちゃったしね。
一応迷惑かけちゃったんだし買い物ぐらい一緒に行ってあげれば?」
これで許してもらえるなら安いもんでしょ。
そう付け加えて姉は私に笑いかける。
いつも通りの笑顔だけど、私には追い打ちをかけるものだった。
………どうやらこのお誘いは断れそうにない。
私は意を決して口を開く。
「その、ただその買い物に付き添う程度であればいいですよ。」
緊張して少しだけ片言になってしまった。
恥ずかしくて顔を下に向ける。
そして考える。
一体私はこの買い物の付き添いから無事に帰ることが出来るのだろうか。
不安だ。すごく不安でしかない。
………そんなことを思いながらも話は進む。
そして私は、どうか何の問題もなく行ければいいな、と密かにため息をついたのであった。
最期まで読んで下さりありがとうございます。
前から書きたかった要素、ファンタジーな話に日常系ほのぼの話が組み合わさりました。
書いていてすごく楽しかったのでいずれ続きを書くかもしれません。
また表現力を上げるためにも語彙力をまず高めなければなと思いました。
これからも精進していこうと思います。
もう一度、最後まで読んで下さりありがとうございました。