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勇者の相棒は森のクマさん  作者: タローラモ
第4章 狙われた獣王国
93/127

93 交わる刃は知らせとなりて

大変お待たせしました。

「…()ぅ~、ここはどこだ?」


 そこは地面はおろか壁や天井までやけに『肉々しいナニカ』で出来ていた。一見すると洞窟に見えなくないが一寸前の記憶が否定する。そう、ここは海域の主、リヴァイアサンの腹の中なのだろうという事だ。


「…どういう理屈か知らないが…意外に明るいな」


 プニプニするが歩けなくはない地面を踏みしめ前に進むナバル。ふとここが胃袋なら胃酸が襲ってくるのではと思いブルリと震えると周辺の気配を探った。


(消化されるとか勘弁だぜ。…んん?)


 ナバルの索敵範囲は一般兵士の倍以上という驚異の性能をもっている。その理由は魔力に干渉する能力がずば抜けて高いのに加え『戦士としての勘』が非常に優れているからである。

それは人間の約2000倍の嗅覚を持つ『クマ』のトランと変わらない領域を持つところから如何に異常かわかるだろう。トランいわく

「ナバルは色々ぶっ壊れてるよね」


 そのナバルの索敵に反応があった。それも恐らく『魔術師』だろう。人の気配だが内在する魔力が異常に高い。ルナ・ア・カーデを抜くと近づいた。そして見えてきたのは…。


「…小屋…だと!!」


 木造のホッタテ小屋だった。作ったやつはイカれてるのか?と、関わりたくない雰囲気が漂う。しかし海王リヴァイアサンのおかしな行動 (と思われる) の元凶があるとすれば『アレ』だろう。

 小屋に近づくと『カチッ』と何かが鳴った気がした。恐らく範囲型の探知魔術だろう、咄嗟(とっさ)に構えをとるナバル。ギィィ…と鈍い音をたてて扉が開き、出てきたのは高齢に片足突っ込んだモノクロ眼鏡を掛けた男だった。


「ホウホウ、海蛇のハラの中に入る変わり者がワシ以外にいるとは驚きだワイ」


「俺は偶然だ。好き(この)んで入ったアンタと一緒にされるのは心外だな」


 愉快そうに笑う男に警戒するナバル。この男はどうも好きになれない。なんとも言えない『どす黒』さを感じたからだ。


「おっさん、バカンスならもっと雰囲気良いところに移ったらどうだ?」


 自身を落ち着かせる意味でもどうでもいい言葉で語りかけるナバル。


「バカンスか…いい得て妙よなぁ。

…海蛇で『獣狩り』は中々痛快じゃぞ?」


バチィィン!!


 男の不快な返答が戦いの合図となる。魔力を帯びた刀身が男を襲うが瞬時に展開された障壁で防がれた。


(硬ってぇ!俺の一撃を防ぐだと!)


 男の障壁が魔王都(ギルドラン)の宮廷魔術師 エルメ・ディアブに相当するのではと推察する。それは魔術師の中でも超一流を意味する。何せエルメの障壁はナナイを超え魔の森の黒刃熊(ニグレドラ・ベア)変異種の攻撃を防いで見せたのだ。


「こりゃ驚いた!剣聖以外にもこんな剣士が居たか!ヴァレンティの小僧にも匹敵するとは…。

 そうか!お前が邪竜殺し(クライドスケイス)か!」


 そう叫ぶとニヤリと嗤う男。ナバルは薄気味悪くなる感覚を無理矢理ねじ伏せ冷静に考える。ディアブ級の魔術師で敵対勢力、海王の体内に潜り込む大胆さ。導き出したのは…。


「一人で何しに来やがった!帝国の魔術師!」


 凪ぎ払うと距離をとり息を整えるナバル。そして敵を見据える。


「俺は冒険者ナバル・グラディス。アンタは何者だ」


 クックックッと嗤う男。よくぞ聞いてくれたと言うように盛大に両手を広げ大々的に叫んだ。


「ハァーッハッハッ!

我こそは帝国が誇る最高の魔術師にして軍事においては参謀を勤める者、

四天王が一人 パクシャール・オベントス でッアアアアアアアーーる!」



「だれ?」


 ナバルの記憶に名のある魔術師ははっきり言って魔王都(ギルドラン)限定だった。男は大きく目を見開き固まった。



「………ワシを知らんだと?




うせやろ?」



 そこには涙を浮かべたおっさんが棒立ちしていた。


……

………


「畜生!帝国の奴らは何やってんだ!」


「艦長!このままでは巻き添えで我が艦も持ちません!」


 獣王国(フェルヴォーレ)近海に展開する帝国、ソウード連合軍の艦隊、その後方で帝国軍大将シャクラ・ウリジャンと小グマのトランの一騎討ちは前衛のソウード艦隊にまで被害をもたらしていた。


獣王国(フェルヴォーレ)の連中の前に同士討ちでも始める気か!とにかく離れろ!」


 斬撃と合わさった魔力崩壊は黒い渦雲となって触れるものを(ことごと)く破壊していく。その有り様はトランのバトルスタイルの真骨頂とも言うべきものだが大将ウリジャンへの決定打とはならず火花を散らし続けていた。


「この俺を相手にしながら周りを巻き込み戦力を削ぐか!器用な真似をするものだな!」


「そう思うんならァ!

さっさと墜ちろやぁぁ!」


 雷撃を躱しながら叫ぶトラン。少しでも数を減らすために無茶な戦い方をしているのは自覚がある。派手に大技をぶちかませばそれだけで被害は甚大なものになる。だが、それは隙を作る事になりこの男相手には非常に危険な賭けであった。


(だいぶ抜けられちまったな)


 船団から大きく距離を離す艦隊をちらりと確認すると苦い気持ちになる。奴らの先に居るホルンたちが心配でならない。だがそんな心配もさせまいと多数の雷撃がトランを襲ってきた。


「バリバリ煩せぇなぁ!!」


「クックッ、俺を相手に余所の心配とは…ずいぶんなめられたものよなぁ」


「アア”!、汚ねぇおっさん舐めて喜ぶかアホォ!顔洗って出直せや」


 ギリギリのタイミングで回避する。帝国軍大将を相手に決定打を与えるどころか嫌な予感が背筋を走る、まるで追い詰められている気がするトランだった。










ここまで読んでくださりありがとうございました。

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