88 出航は波乱を含めて
お待たせしました。
新章突入です!
「港もデケェけど船もデケェなぁ」
ホヘーと見上げるオレとホルン。クサレ神との一戦のあと、オレたちの代わりにリアリーさんがこの港まで護衛に入ってくれた。別れ際にお土産のスイートポテトを渡したらスゲェ撫でてもらってオレの気分は最高潮。
そうそう、オレたちがあのクサレ神とドンパチしている時ナバルも凄まじい化物と一戦繰り広げていたそうだ。
何でも現魔王の前に魔王の座に君臨してた邪悪な竜人?らしい。結局その日はみんなボロボロになって帰ってきた。と言ってもオレとホルンは『合成獣』の特性なのか傷は直ぐに治ったけどね。だけどナバルはそうもいかなくて今も鎧の下は湿布と包帯まみれだったりする。それなのに周りを威嚇しているつもりか、ふんぞり返って立っている辺り鈍感かバカなんだと思う。
「ナバルさぁ…出発まで時間あるんだし休んでれば?」
「ハハッ!余裕だぜこれくらい」
ピトッ! (わき腹に触る)
「ヌグォォォォ!!」
うん。バカの方だわアレ。
「休めるときに休んどけよナバル君」
悶絶するナバルに声をかけオレは出向の準備に取りかかった。
オレはナナイたちと馬車の荷物を積み込む。馬車本体は船に積めないから仕方ないね。
「トラン~、この子はどうするニャ?」
ホルンがここまで運んでくれた竜馬に手をやり聞いてきた。竜馬もホルンになついたのか顔をスリスリしてる。…あの馬、オレに対してあんなに愛らしくしてこないよ?
「預かってくれる厩舎があったからそこでしばらく居てもらうのよ」
答えたのはナナイだった。
「ナバルの奴なんか無理してんだけどナナイからもなんか言ってやったら?」
「うん…さっき言ったんだけどね。トラン君たちが戦った帝国の大将?なんか一戦交えたかったみたいでチャンス逃したくないとか言ってたの」
困った顔をしてため息をつくナナイ。あー、そういえば『戦闘狂』だったねナバル。
「食事に酒を混ぜてみる?」
「…それ戦闘狂がダメ人間になるだけだよね」
「ですよねー」
「元気でいるんだニャ…また冒険するニャ」
「ヒヒン…キューン…」
オレとナナイがそんな話をしている横でホルンは竜馬と別れを惜しんでいた。
…
…
「デカイ水たまりニャ!」
「風が気持ちいいね!」
ホルンとナナイが船首近くで海を見てはしゃいでる。アレ?ナバルとテリオがいないよ?アイツらどこだ?磯の臭いに混じって二人の臭いが解りずらいが…あ、こっちだ。魔力の反応の方がわかりやすかったわ。どうやら船室の奥の方にいるらしい。二人してもう飲んでるのか?やれやれだぜ。オレが様子を見に行くと…二人は医務室で寝込んでた。
「ノベルさん、コイツら何?どうしたの?」
「あははは…船酔いだって」
病人が二人ベッドの上で唸ってる。まあ、これでナバルは休めたわけだが…締まらないね。甲板に戻っている途中だった。巨大な魔力が『下』から近づいてくる。なんだ!急いで外に出ると船員が慌ただしく動いてる。
ナナイは結界の準備に入りホルンは護衛についてナバルは外に吐いていた。
「ナバル!お前は足手まといだから部屋で寝てろぉ!」
「お、おでも…たたかうどぉぉ…うえっぷ!」
キャラがおかしい!そう突っ込む前に海面から白く巨大な柱が立ち上る。違う!あれは触手?!
「クラーケンだ!」
船員が叫ぶ。恐怖と動揺が伝播するなか既に術を発動させていたナナイがみんなに向かって叫んだ。
「さっきから結界を叩いてたけど!…焦れたみたい!
もうすぐ本体が上がってきます!」
ザバァッッ!と音と衝撃が響き船が揺れる。そして…目の前には船の倍はあるだろう巨大なイカが顔を出していた。
「で、デケェ…!」
誰かが呟く。魔力崩壊を纏うオレとホルン。イカが触手を大きく振りかぶったときだった。
「撃ち方!放 『やめとけぇ!アイツの邪魔になる!』…!!」
魔術を構える船員と号令をかけた船長に割り込んで邪魔をしたのは獣王 ガウニス・フォン・フェルヴォーレだった。
「おっさん!なに言って…!」
オレがそこまで叫んだときだった。イカから大きな爆音が響いた。
え!なに?慌てて振りかえると…。
クラーケンが宙を舞っていた。
体に大穴を開けて。
一人を除きその場の全員が固まった。獣王だけはニヤリと笑い呟いた。
「相変わらずだなぁ、良いタイミングだ。
…
…
ゼノン!」
その名を聞いた時、船乗り全員からもの凄い歓声を含んだゼノンコールが響きわたる。…って誰だよそいつ!どこにいるんだ?なにも感じねぇぞ!
「大抵の奴はビックリするんだよ。気配も感じねぇんだろ?今アレを仕留めたのがウチの切り札だ」
イタズラが成功した子供のような笑いを浮かべオレに話しかける獣王。
「ゼノン・ルクソドール。獣王国が誇る海上戦最強の男だ!」
加筆するかもしれません。
ここまで読んでくださりありがとうございました