54 3人 対2人と1匹
どこの国にも日陰者ってのはいるものだ。ここアルセイム王国は比較的平和と言われているがそれでもスラムに一歩でも踏み込めば只では済まない。
その国の辺境の村が公爵領になってから、みるみるうちに発展していった。急激な成長は治安維持に関しても不十分になりがちになる。つまり俺たちのような者にとっては最高の穴場なわけだ。しかも最近まで魔物が森の入口で暴れたお陰げで俺らにまで目がいかない。仕事がしやすくて最高だ。
町の外れに汚ねぇ孤児院があった。しかもありがたいことにかなりの敷地を持ってやがる。ろくに身を守ることも出来ないカスどもには勿体ねぇ。俺らが有効利用してやらなきゃな。
だが、聞いた話じゃどうやら公爵が孤児院の援助を検討してるらしい。何が切れ者領主だ。だが…時間がねぇな。
たが、心配なさそうだ。これまでに何度か院には脅しをかけていた。そこにいるバカな女もそろそろ折れる頃合いだ。
だから今日、俺達はとどめをさすつもりだ。今まで以上に痛い目見せて…
この国じゃ禁止されてるが他所にいけば奴隷を買い取るヤツらがいる。そろそろガキどももソイツらに売っぱらっちまおう。
…ただ、バレねぇようにしなくちゃならねぇ。と、言うのも奴隷商を全面禁止してるヤツらがヤベェんだ。
例えば、ここ人間サイドのアルセイム王国はバレると何十年も拘束される。が、本当にヤバイのは魔王、獣王、龍王のいわゆる三厄の王と呼ばれる連中だ。コイツらにバレると即皆殺しにされる。
…本当に意味わからねぇよ。まあ、やつらの国そのものに入るわけじゃねぇから関係ねぇな。
…さっそく見えてきた。今日が最後とも思わねぇでガキどもがはしゃいでやがる。
俺らを見て怯えるガキども。
建物のなかに逃げてくのとは別に見覚えのない3人組がいた。
一人は魔術師見習いの小娘。
顔は悪くねぇ。上手くすれば高値がつくか?
二人めは白いネコ獣人の小娘。
コイツも高値がつきそうじゃねぇか、笑いが止まらねぇ。
三人めは…2足歩行の服を着た小熊。
なんだこりゃ。邪魔だな。ゴミだゴミ!
「おいおいおい!そろそろ決心ついたんじゃねぇか?あ!」
女は顔を青ざめながらも気丈に振る舞おうとする。だが足が震えてるのが丸見えだぜ。クックッ
そんな中、ネコ獣人の小娘共が空気をぶち壊しやがった。
「…ビックリだニャ!オークがしゃべってるニャ!」
「コイツ昨日の生き残りか?」
「ふ、二人とも、これ太ったおじさんだよ!」
「横の骸骨は何の魔物だニャ?」
「屍喰らいじゃね?」
「…痩せてるおじさんだよ」
「じゃあ隣の赤いのはなんだニャ?」
「ゴブリンの変異種だな」
「それ、酒焼けしたおじさん…」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
その3人組の後では、さっきまで泣きそうだったガキ共が笑いをこらえてる。
…こんなにコケにされたのは初めてだぜ。
「クソガキが!痛い目みねぇとわからねぇか!」
俺は怒りのままに掴みかかる。が…
「う!オマエ臭いニャ!」
バッコーーーン!!
「ゲベバァァァ!!」
空が見えた。
気持ち悪い浮遊感。そして…
バコン!バコン!バコン!
俺の体が何度も地面を跳ねる。
その後に殴られた顔面を中心に身体中から痛みが走る。
「ゲヘッ!…い、痛てぇ…」
「スゴい臭かったニャ!やっぱりオークだニャ!」
「あれはアウトだわ」
「…昨日のオークはあそこまで臭くなかったような」
何なんだこのガキ共は!
同じ様に感じたんだろう。二人の仲間がナイフを抜いた。もう奴隷とかどうでもいい、やっちまえ!
そこへ二人の前に小熊が前に出る。
「やれやれ…物騒だねぇ」
キィィィン!
いつのまにかクマの手には長い爪?が生えている。
そして…仲間のナイフは刃の部分が無くなっていた。
「…なんだそりゃ」
…
…
…
とりあえずオッサン3人組を無力化したあと、暴れられてもメンドイので叩きのめしたあとナナイが土の魔法でガッチガチに固めた。
…まあ、死なないよう手加減したとはいえ岩石の雨を降らされて心折れないチンピラはいないわな。最後泣いてたし。
孤児院の姉ちゃんに衛兵を呼んでもらい、連行されてった。その間もヤツらはナナイに恐怖を覚えたようで怯えまくってた。…その視線を受けてからナナイは今ちょっと凹んでる。
なんとか一段落したからオレは姉ちゃんに聞いてみた。
「で、結局アイツらは何だったの?」
「ええ、この土地が欲しかったらしくて最近嫌がらせをしてきてたんです」
「土地ねぇ…」
いわゆる地上げ屋ってやつかね。昭和のコントじゃあるまいし。にしてもこの手のバカがまた来ないとは限らない。どーすっかなぁ。
子供たちはオレたち3人をまるで『ヒーローが来た』と言ったテンションではしゃぎ回ってる。
お陰でナナイが落ち込みから立ち直れたからいいか。
…ただ、今度は照れまくってるが。そこへ一人の少女が嬉しそうな声で叫んだ。
「あー!アイリお姉ちゃんだ!」
子供たちはおおはしゃぎして駆け寄った。オレたちも視線を向けるとそこには…
服装は村人とそんなに変わらないのだが…
流れる金色の髪、
美しく整った顔立ち、
何より彼女の纏う空気が『本物のお嬢様』を表してた。
これがオレたちとアイリス・フォン・デルマイユ嬢との最初の出合いだった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。