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勇者の相棒は森のクマさん  作者: タローラモ
第1章 クマと少年
15/127

15 贈り物

「真っ白ニャー!突撃ニャー!」

オレンジュ祭りから(しばら)く経つと魔の森には雪が積もり始めた。

我慢しきれないホルンはトランの静止も聞かず外に飛び出す。


バフッ!


「…ニャはは♪冷たいニャー♪」

ゴロンゴロン


「おいホルン、マフラーくらいはしとけ」

この間完成したトランお手製の赤いマフラーを渡されて

「暖かいニャー、トラン!ありがとニャ」

ますますご機嫌になるホルンだった。

「そろそろ師匠も来るし俺ももう出るわ」

日課の訓練の時間になるためトランは出てしまう。いつもならナナイが来てくれるのだが今日は風邪を引いてしまったと先程来たナバルに言われ、ちょっとだけしょんぼりしてしまった。

家の横の大木に去年トランが付けてくれたブランコがホルンの特等席だった。

「ナナイと遊びたかったニャー…」

何時(いつ)もなら交代でブランコをこいだりポポリスと戯れたり退屈しないのに…

仮にトランについていってもホルンは暇をもて余してしまう。それは去年に経験済みだった。

「トラン早く帰って来ないかニャー」

ギーコギーコ一人(ひとり)でこいでる時だった。


『………………』


「誰ニャ?」

キョロキョロ見回しても誰もいない。

本能のレベルでホルンもトラン並みの探知能力は持っている。なのに反応はなかった。

「んー?おかしいニャー…」

ギーコギーコ


『…………………』


「う~ん、だれニャー!」


言葉にならない叫び声とも言えるノイズがホルンの耳を刺激する。ちょっと不愉快だ。

「もういいニャ!ホルンから行っちゃうニャ!」


『………………』


「こっちニャ!」

音の元凶に駆け出した。


……


そこは洞窟の入口だった。

「はへー、こんなとこ知らなかったニャー」

興味津々に耳をピョコピョコさせてスンスン臭いをかぐ。

「う~ん。知ってるような、知らないような臭いがするニャー」

ホルンはずんずんと洞窟に進んだ。敵意を感じないのもあったがホルン自身、経験が浅いのが大きいのだろう。

…目の前の大きな巨体に気づかなかったのだから


『…誰じゃぁ…』


「ビックリしたニャー!」

壁の一つと思っていた処から声がした。


それは全長20mを越える年老いた白闘虎アルベドラタイガーであった。


「オマエ喋れるのかニャー!」

驚くホルン。魔獣が喋れるなど聞いた事がない、ただひたすらに獲物を追うのが魔獣だと聞いていたから。


『…そうじゃのう…ワシは喋れてるのかのう?』

「…バッチリニャ!」

『ほっほっ…『げほっ!』…そうかい、喋れてるのかい』

咳き込む白闘虎(アルベドラタイガー)

「じいちゃん苦しそうだニャ、病気かニャ?」

『ずいぶん前からだのう…年かもしれんしのう…』

目を細める老虎に

「ゴハン食べれば元気になるニャ!」

そう叫んで外に飛び出した。


……


「しくしく…

 ゴハンできないニャー」

途中で見つけたウサギの肉に木の実をくくり着けてみたものの、わけの分からないものが出来た。

「この辺で声が…あ、いた。

どしたの?泣き声聞こえたんだけど…怪我でもしたか?」

ホルンの頭を撫でながらトランは心配そうに顔をのぞきこむ。

「ん~!トラン~」

ひしっとしがみつくとホルンは

「じいちゃんがゲホンゲホンでゴハン作れないニャー」

ウサギ肉らしきものを見て

「あー、さっぱりわからん」


……


「でかっ!虎のじいさんデカっ!」

案内されるままに付いてきたら巨大な白闘虎アルベドラタイガーがいた。今まで狩ってきた魔獣の中でもここまでの相手はいなかった。

『…おお、ムスメのつれかね?』

「…語弊がありそうだが、まあいいや。俺はトランだ。よろしくな」

敵意のない魔獣はトランも初めて会ったが、本当に魔獣なのかと疑い始めた。

(魔獣独特の邪悪な気配がないんだよなぁ)

「じいさん、飯作ってきたけど食えそうか?」


『すまんのぅ、腹は減ってるが食いたくないんじゃよ…』

ヤバいな、とトランは思う。試しに試作段階の魔術を使うことにした。

「じいさん、魔術で身体を調べるけど魔術抵抗(レジスト)するなよ?」

『…ああ、わかった』

「よしよし、んじゃ早速『(エックス)サーチ』!」

トランは生前の記憶から実用できる魔術、出来ない魔術をいくつか実験して選別していた(自分の技量込みで)。そして最近になってレントゲンを模倣する魔術が使えるようになっのだ。と言っても使用時間や魔力消費量など課題は山ずみだが。

「んー、あ、コイツか?」

喉の先に巨大で丸い塊がある。

「なぁじいさん、俺が口の中から入るけど飲み込むなよ?」

返事を待たずにトランは魔術を行使する。


『ウィンド・クロス』


トランの体が風のバリアに包み込まれた。

「流石に白闘虎アルベドラタイガーの胃液はヤバいからなぁ」

心配そうなホルンをよそに口の中にずんずん入っていくトラン。そして…


「とったどーーー!!」

大きな毛玉を引きずりながらトランは帰ってきた。

『げほっ!…ふーっ。いくぶん(らく)になったわい。』

老虎はトランに向くと

『小さな戦士よ、感謝する』

そう、頭を下げた。

「トランーー!」

抱きついてくるホルンの頭を優しく撫でたのだった。


暫くは老虎のそばがホルンの特等席になった。トランがナバルと芋の取り合う話、ナナイと見つけた綺麗な小石の話など、ホルンは楽しそうに老虎に話して聞かせた。老虎もウンウンと聞いていた。その眼差しは孫の相手をしているような優しい眼差しだった。

そして…

雪も溶け花が咲き始めた頃、老虎の容態が悪化した。


「バアちゃん!じいちゃん助けてニャー!」

洞窟の先にいた白闘虎アルベドラタイガーを見たキャリバンヌは、予想した通りとはいえ驚きを隠せなかった。

「話には聞いていたけどねぇ…」

彼に触れ、容態を確認すると

「お前さん、もうわかってるんだね?」

『ああ、偉大なる魔女殿よ。

…私はもう永くない』

泣きっぱなしのホルンに付き添っているトランはどうしても確認したくなった。

「バアちゃんでも駄目なのか?」

「そうさね。怪我や病なら魔術でも治せるんだがね。」

キャリバンヌは老虎にふれる。老虎もゆっくりと目を閉じ

「寿命っていうのはね、身体という器と中身の魂が安息を求めてるのさ」

そして老虎に告げる

「それにしてもずいぶん珍しいねぇ。アタシも長く生きてるが魔獣から聖獣に進化してる存在なんてのは初めて見たよ」

やはりか。予想していたが改めて言われるとトランは驚きを隠せなかった。

「でもお前さん、未練があるんだね?」

『…そうだな。共に野を駆けること叶わずとも、せめて護る牙でありたいとは思っていたのだがな』

老虎は最初に見つけてくれ、僅かではあるが共にすごした少女に何もしてやれないのが無念でならなかった。

『せめてワシの素材で…』

「いらないニャ!じいちゃんと一緒がいいニャ!」

ぼろぼろ泣く彼女にトランは一緒にいてやることしか出来ない。

「そうさね…ちょっと見せて、出来るなら手伝わせるかねぇ」

そういうと魔女は空間に揺らぎをおこし手を入れると

「ほれ!来な!ウィル坊!!」

魔王を引きずりだした。

「ブッ!!何するんだいキャリィ!お茶が鼻に入るじゃないか!」

持っていたカップの中身が思いっきり顔にかかっていた。

「そいつは悪かったねぇ。後でトランが何か旨いもの作るからそれで勘弁しな」

「あ、ならいいよ」

あっさり了承する魔王

「俺かよ…まぁ、いいけど」

魔王は老虎に触れると

白闘虎アルベドラタイガーの聖獣か、凄いね。もっと早く出会っていれば契約したのに」

残念そうに呟く。契約?何の?とトランは思うが

「ああ、なるほど。」

手を離すと老虎に訊ねる。

「今の君なら武具精霊にすることが出来そうだが…どうするかね?」

老虎は大きく目を見開く

「まことか。是非に頼みたい」

魔王は任せろと、魔女は必ずと云わんばかりに、彼らは大規模な魔術を行使する。

トランとホルンは固唾を飲んで見守っていた。魔女により空中で編み出された魔方陣が老虎を覆う。

「ウィル、準備はいいよ」

キャリバンヌの合図に魔王は老虎に、『世界』に告げる


「我、夜を征し、闇を統べる者なり。我、 ヴィレント・イル・ギルドランの名においてかの者、白き王を精霊の御名へと冠する事ここに宣言する。……」

詠唱は続く、周りの魔方陣は様々な色を解き放つ。老虎はホルンを見つめ


『ホルンよ、我は姿形は変われど心は汝と共にある』


そう、宣言した。


直後、トラン達の目の前は真っ白に光出した。思わず目をつむるホルンとトラン。

老虎のいた場所には小さなペンダントが1つあった。


……


「師匠も来るし俺ももう出るわ」

トランが鍛練に出掛ける。ホルンは何時(いつ)もの特等席に座りなからブランコをこいで

「ナナイ早く来ないかニャー」

首から下げたペンダントを手に取り


「ね?じいちゃん」






駆けながらトランは老虎が語った言葉を思い出していた。

『老いたとはいえ、ワシもそれなりに自信はあったのだかな。』

もう動かない後ろ足を見つめ

『奴はそれでも異端であった』

森の西、千年以上も前の遺跡があり、奴は其処にいると言う。

生けるもの全てを憎み、その血を求めるあまり同族ですら食らう魔獣を。

自身の種族と双璧をなすその怪物を


『トランよ。奴は主と同じ黒刃熊ニグレドラベアであったぞ』

読んでくださりありがとうございました

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