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勇者の相棒は森のクマさん  作者: タローラモ
6章 人類の敵
123/128

123 分岐路

お待たせしました。

ちょっとシリアス

 こげたシチューは無事にロックバイソンのビーフシチューへと生まれ変わった。色が変わりゃ分かりはしないだろ。アホ共だし。


「焦げ臭いなこのシチュー」


 テリオめ!こんな時だけ味に気付くんじゃねぇよ! バカ舌のクセに!海の塩と岩塩の味の差もわからねぇクセに!!

 隣を見るとナバルの手が止まっている。


「ナバルちゃんや、たんとお食べ。お残しはクマちゃん許しませんよ」


「焦げクセぇけどな」


(だま)れフラレキング!そう言うのは作ってくれる女出来(でき)たら言えや!」


「はっ倒すぞ腐れクマぁ!」


 オレとテリオがいがみ合った瞬間、2人のまわりを氷の槍が『シャキィン』と音を立てて囲むように展開された。


「2人ともその辺でね?」


「「すみませんでした」」


「むぐむぐ…2人ともオギョウギ悪いニャ」


「面目ない」

「かえす言葉もありません」


 …ナナイの目がマジでした。年々迫力増してくのは何でだろ?等の本人は吸血鬼娘から「ナナイさん、魔法のうで、また上げたのね」なんて言われて照れていた。隣のホルンも照れていた。何で??


「ラウラ姉さん、そろそろいいかな。

姉さんの口ぶりだとカースがここに来たのも関係あるんだろ?」


 気付けばシチューを食べ終わって食器を片しているナバル。…ナゼか知らんがはりつめてるなぁ。良くない空気に場を和ませようとギャグを考えると、ふと先ほどのメガネボーイと目があった。


「ナバルはそこの少年と知り合いか?」


 吸血鬼娘とは知り合いらしいからメガネボーイも実は悪魔種だったりするのだろうか?だが、それはそれでライフル型の杖の説明つかないんだよね。


「そういや自己紹介まだだったな。俺はナバル・グラディスだ。冒険者やってる。よろしくな」


 対するメガネボーイはちょっとびびってる。うん、ヤンキーに近づいてしまったオタクボーイまんまやね。


「安心したまえよメガネボーイ。ナバルは悪人ヅラだが中身は一般人だぜ。

…あれ?戦闘狂を一般人に入れて良いのか?」


「茶化すなよトラン」


「で、そこのシケたツラした野郎はフラれ人数30人を達成したテリオだ。

 こんなんだけど冒険者ギルドの職員なんだぜ」


「バカ野郎!まだ28人だ!」


「30人いったらパーティーしてやるよ。報告しろよな」


「覚えてろよクマ野郎」


 オレ達がバカトークをしている間に、ノベルさんと吸血鬼娘さん、黒い服のひとたちが深刻な顔で話し合ってた。そして…少し離れた場所のテントから耳を疑う会話が届く。


 「どこぞの貴族のご令嬢が極刑?マジかそれ」


「ああ、聖教会の大聖堂の前で大々的にやるらしいぜ」


「…何やったらそんな事になるんだよ。

あの衛兵殺しのデッド・バンドラスや乙女喰いのゲイシー・ウォンだってまだ牢獄だろ?」


「デッドは変死体だぜ。誰が仕留めたか知らねぇが。

 話は戻るがそのお嬢さんの罪状は…反逆罪だと」


「は??なんだそりゃ。

平民じゃなく貴族のご令嬢だろ?さすがに絞首台はあり得ねぇよ。普通は毒酒だろ?」


「絞首台じゃなく斧でスパンだとよ。

 何でも…魔族を手引きしたとか」


「それこそ『はぁ?』だろ。

1000年近くも引きこもってる奴らだぞ。森の中でアホ強いって連中に手引きも何もねぇだろうに」


「ばか!気を付けろよ。新しい教皇は【人間族至上主義(ヒューム二スト)】って話だ。下手すりゃオレらもやられるぞ」


「うへぇ。そいじゃ見せしめか。その下級貴族のご令嬢も可哀想になぁ」


「いや、上級貴族だ。しかも最上位の」


「え」


 気がつけばオレらは全員、耳を澄ましていた。そして告げられた名に衝撃が走る。


「アルセイム王国のデルマイユ公の一人娘


アイリス・フォン・デルマイユ孃だとよ」



ガダン!!


 音の発生源は倒れた簡易椅子。座っていたナバルは鬼の形相で魔力を集束して…。


「落ち着け!このバカ野郎!!」


 オレは速攻、ナバルに乗っかって地面に倒した。


「どけよ!トラン!!

アイリ(アイツ)がやべぇんだ!!」


「止めねぇよアホォ!!

準備もなしに飛び出すなっつってんだよ!!」


 オレがナバルを抑えている間に黒服の1人が会話している冒険者に近づいた。


「騒いですまんな。ところで先程の話だが…詳しくは聞かせてくれないか?」


 そう言うと、そっと何かを握らせた。あ、金貨だわ。当の冒険者は金貨よりもナバルのとっさの魔力にビビっていて、すんなりと話し始めた。


「あ、ああ。と言っても大した内容を知ってるわけじゃないんだが。

 新教皇が新任の挨拶の時に聖堂騎士団と【新たな勇者様】とで、敵対勢力の早期炙り出しをやるって話だ。」


「【新たな勇者】?」


「そっちは詳しくは知らねぇ。

ただ、アルセイムに宣戦布告するのは間違いないらしいぜ。西のソウードと手を組んだって言うしよ。でもあっちはネシアと獣王国(フェルヴォーレ)の連合軍とドンパチの最中だろ?

 西と東がやべぇなら、とりあえず俺らは南に逃げとくかって思ってよ」


 黒服が話を聞いている時、オレ達の前に来てかがんで目線を合わせる人がいる。ノベルさんだ。

 その目を見てナバルは はっ!とすると視線を落とした。


「…分かってんだ。ノベルさん。

俺もプロとして引き受けた仕事だ。



…だけど…


分かってはいるんだ…。」



 悔しさともどかしさからか俯くナバル。


「先程、デルマイユ公ご本人が襲撃を受けてたとラウラさんから報告を受けました」


 その言葉にナバルだけでなくオレたち全員に衝撃が走る。


「公爵家の方は我々、冒険者ギルドにとって最上級のVIPです。ですので…




 ナバル・グラディス殿、貴方に緊急クエストを発令します。


 目標はアイリス・デルマイユ公女の救出と保護、やっていただけますね」


 …参ったぜ。ナバルは立ち上がると直立不動で拳を胸に当てた。魔王都(ギルドラン)の敬礼のポーズだ。


「ナバル・グラディス、お受けいたします」





『私は…救えるなら

全ての人を救いたかった』


 誰かの声が聞こえた気がした。いつの間にか隣に立っていたナナイを見る。


 花畑を前にした、若い魔王(ウィル)が瀕死の女性を抱き抱えている姿が目に浮かんだ。

 その女性が何故か、ナナイに似ている気がしたんだ。







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