第六章
第六章
「正義さん、正義さん」
その日、朝食の席でマオーが興奮気味に正義に話かけた。
「ん、何だ?」
「私、良いこと思いつきました」
「良いこと?」
「はい。正義さんばかりにアイデアを考えてもらうのも悪いと思いまして、私なりにどうすれば魔王パワーを溜められるかを考えてみたんです」
「ほう。それで?」
「近頃の正義さんのような、冴えない、モテない、金もないの三ない男子は、メイド喫茶なるものに足繁く通うという情報をキャッチしました」
「……ほう。それで?」
おでこに青筋を立てながら、正義が先を促す。
「それに因んで、魔王喫茶というのはどうでしょうか?」
「まおう……喫茶だと?」
「はい。お客様を出迎えるメイドを魔王に置き換えた、斬新かつスタイリッシュな喫茶店です」
「…………」
「まず、みんなに私と同じようなマスクとマントに着替えてもらいまして。接客時の言葉は『お帰りなさいませ、ご主人様(またはお嬢様)』から『よく来たな、愚民ども』に。そして、『ごゆっくりおくつろぎくださいませ』を、『せいぜい、今のうちに楽しんでおくがいい』に変更します」
「…………」
「それに加え、まずは店内を真っ暗にし、あたかも魔王の居城のような雰囲気を演出。ご希望のお客様には、魔王気分を味わえるマスクとマントの貸し出しサービスも実施します」
「…………」
「そんでもって、ボッタクリとまではいかないものの、少しお高めの料金設定にして、利益を得ようかと」
「……ちなみにそれで魔王パワーは溜まるのか?」
無言の正義に代わって横から口を挟んだのは、正義の隣で味噌汁をすすっていた凍姫だ。
「いいえ、溜まりません」
「じゃ、意味ないんじゃ……」
そう言ったのは、お漬物を齧っていたポルルン。
「チッチッチ。甘いですよ、みんな。私だっておバカじゃありません。ちゃんと考えてます。まず、メニューにある『とれたてフルーツも直搾りジュース』には、実は生のフルーツを使わずに濃縮還元のものを使用。『高級茶葉を使用した魔王特製ロイヤルティー』には、安く仕入れた『午前ティー』を使うなど、色々と工夫します」
「「「「…………」」」」
「どうでしょう、正義さん?」
「却下だ、アホたれ!」
それまでずっと大人しく聞いていた正義が、ついに爆発した。
「メニューの件に関してはまあいい。しかし、魔王喫茶はねーだろ! 店員が全員マスクにマント着用なんて、もはやどっかのオカルト集団だろうが! しかも店内を真っ暗にってなんだ! それじゃ何も見えねーだろうが! 斬新通り越してシュール過ぎるわ! そんなもんに来るのは、一部の物好きとコスプレマニアだけだ。そして最後に誰が、冴えない、モテない、金もないだテメー!」
正義が溜め込んでいた怒りを吐き出すかのように、マオーの首を締め上げる。
「イタ、イタイ! ギブギブギブ!」
マオーが高速で正義の腕をタップしたところで、正義がようやく腕を放した。
「ひ、ひどいです、正義さん。せっかく私が一生懸命考えたのに……」
「一生懸命考えて、何でそういう結論に行き着くんだ? 案を出すならもうちょっとマシなものを……いや、待てよ」
正義の頭に、何かを閃いたようなランプが点灯した。
「いけるかもな」
「え? 魔王喫茶ですか?」
「アホか。メイド喫茶だよ。ちょうどウチには綺麗どころが揃ってるわけだし。おまけに資金も、この前のアイドル作戦で稼いだのがそのまま残ってるしな、やってみるか」
そう言って、正義は一人、考え込むようにして自分の世界へと入り込んでいった。
「おはよう諸君。では早速、メイド喫茶の概要について説明する」
翌日、早朝からマオーパーティー(マオー、ポルルン、パルルン、凍姫)を黒き胎内へと呼び出した正義が、壇上に立ち、整列する四人に声をかけた。
「さて、これから我々は、打倒勇者のために『メイド喫茶で丸儲け作戦』を開始する。一応一通りの流れは、昨日渡した資料に書いてある通りだ。君達の奮闘に期待する。特に、ポルルンちゃん、パルルンちゃん、凍姫にはな」
「そ、それはいいんだがな、参謀。一つ質問があるのだが」
「ん? 何だね、凍姫君?」
顔を赤くした凍姫が、プルプルと震えながら叫んだ。
「何故メイド喫茶でスクール水着を着ねばならんのだ!」
そう、凍姫の格好は、メイドらしく白いヘッドドレスにエプロンドレス……ではなく、白いヘッドドレスにスクール水着、その上から白いエプロンを着用というものだった。ちなみに、ポルルンは白いヘッドドレスにブルマー+エプロン。そして、何故かパルルンが、白いヘッドドレスに極限まで丈の短いゴスロリ服+エプロンだった。こちらの二人も、恥ずかしいのか少し頬を赤らめて俯いている。
「馬鹿者。これは当然の配慮だ。昨今のビジネスは、『どこで他との違いを見せつけるか』で決まると言っても過言ではない。ただのメイド喫茶など、すでにはいて捨てるほどあるわ。我々の目指すメイド喫茶は、メイド+ワン。メイド喫茶でありながら、他のコスチュームも味わえるという点で勝負する。よってコスチュームに関する不満は全て却下だ。というか、俺的にはむしろ感謝してほしいくらいだ。本当は、極限まで丈を短くしたミニスカメイド服を着せて、君達のパンチラで客を呼ぶことも考えたんだ。しかし、さすがにそれは可哀想かもと思い、スク水やブルマーにしたわけだ。この慈悲深き大参謀に感謝してもらおう」
そんな正義に、パルルンが涙ながらに口を開く。
「うう、正義さん。なんでボクだけこんなスカートの短いゴスロリ服なんですかぁ? ボクだけ慈悲の心がないんですけどぉ」
正義がニヤリと笑う。
「まあ、ポルルンちゃんもパルルンちゃんも元々メイドのカッコをしていたからな。ちょっと変化を持たせてみた」
「だ、だからって、ゴスロリ服にしなくても……」
「フッ、それにはちゃんと理由があるのさ」
「理由、ですか?」
「その通り。君のコスチュームをゴスロリ服にした理由、それは君が、俺の大好きなライトノベル『俺は友達が皆無』に出てくる、主人公にべったりな妹、鳩子ちゃんにクリソツだからだ!」
正義が全く悪びれずに、むしろどこか誇らしげに言い放った。
「うう、そんな理由でこのカッコなんて、ひどすぎますぅ。これじゃ、ボクだけパンツ見えちゃいますよぅ」
「正義、ちょっと可哀想」
非難するような視線を正義に向けるパルルンとポルルン。しかし、そんな二人を真っ直ぐに見据えて正義が言う。
「二人とも、言うまでもないが、これは全て打倒勇者のためなんだ」
「うう~」
「クッ!」
そう言われ、二人は恨めしそうな視線を向けながらも黙り込む。
「さて、三人とも。これ以上の異論はないようだな。では、これより俺の作ったマニュアルを元に、接客トレーニングに入ってもらう。マニュアルは昨日渡した資料に添付されているから、三人とも、一旦取りに戻ってくれ。では、一時解散」
三人が資料を取りに魔王家へと戻る。そんな中、ただ一人残っていたマオーが正義に尋ねた。
「あの~、正義さん。私は何をすれば……」
「決まっているだろう。お前はキッチン担当だ。間違っても客の前に出るなよ。客が引く」
「うう……了解です」
正義にあっさりとそう言われ、マオーはションボリと魔王家に戻っていった。
五分後、再びマオーパーティーが黒き胎内に集合した。そして、再び正義の前に整列する。
「はい、それじゃ凍姫から」
正義に言われ、マニュアルを手に持った凍姫が、若干震えながら前に出る。
「よ、よ、よく来たな、主。まあゆっくりしていけ」
「カーット!」
すかさず正義から待ったがかかった。
「マニュアルと全然違うだろうが! マニュアル通りにやれ! マニュアル通りに!」
「ふざけるな! 何故、私がこんな台詞を言わねばならん!」
「お前がメイドだからに決まってるだろうが」
「し、しかし、いくらメイドでもこんな恥ずかしい台詞は……」
「打倒勇者のためだ」
「う!」
「たしかお前は、困っているマオーのために魔王軍に入ったんだよな?」
「うう……」
「なんだ。それともお前の義侠心は口先だけのものなのか?」
「うう~! や、やればいいんだろ! やれば!」
凍姫がヤケクソ気味に叫ぶ。それを見て、正義は内心でニヤリと笑った。
「よし。それじゃ最初から。はい、お客さん入りました」
「お、お、お、お帰りなさいませ、ご主人様」
凍姫が強張った顔を無理やり笑みに変えて(傍目には引きつってるようにしか見えない)言った。
それを見た正義が呆れたような表情で首を振る。
「顔面神経痛か、お前は? 笑顔くらい、アイドルの時はできてただろうが」
「あ、あの時は客の顔なんて見てなかったから……」
「フン。まあいい。とりあえずお前は、しばらく鏡の前で一人で接客の練習してろ。次、ポルルンちゃん」
「ん!」
呼ばれてポルルンが前に出る。そして、全く表情を変えずに一言。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
それを見た正義の頬から、汗が一筋流れ落ちる。
「ポ、ポルルンちゃん、できれば笑顔でできないかな?」
「ムリ。女の子にモテない童貞オタクヤローどもに見せてやるほど、ポルルンの笑顔は安くない。パクドナルドのスマイルはゼロ円でも、ポルルンの笑顔は一億円」
「そ、それは随分とお高いな。でも、アイドルの時はできて……なかったな。一人だけ無表情で歌ってたっけ」
「そう。それに、ポルルンに愛想は必要ない。ポルルンはツンデレ担当」
「う~ん。まあ、そういう需要もあるか。次、パルルンちゃん」
「は、はいです」
最後に呼ばれたパルルンが、緊張した面持ちで前に出た。
「お、お帰りなさいませです。ご主人様」
少し噛みながらのオドオドした接客。近くで見ていた凍姫とポルルンが「こりゃダメだな」的な表情を浮かべている。
しかし、それとは対照的に正義は目の幅涙を流していた。
「ごーーかく!」
鼻水まで流しながら正義が叫ぶ。
「素晴らしい。最高だよ、パルルンちゃん。一〇〇点だ!」
「ほ、ほんとですかぁ!」
正義の反応が予想外だったのか、パルルンが驚きの声を上げた。
「ああ。あの小動物系というか、守ってあげたくなるというか、思わずギュッと抱きしめたくなるような接客。非の打ち所がないキュンキュン接客だ。完璧です」
「え、えへへ。どうもですぅ」
褒められたパルルンは、満更でもないのか、はにかむような笑みを浮かべる。
「ところでパルルンちゃん。今の接客はもちろん一〇〇点なんだが、別バージョンとして『お帰り、あんちゃん♡』というのをやってみてくれないか。できれば博多弁っぽい感じで」
「え! は、はいです。コホン。……お、お帰り、あんちゃん♡」
それを聞いた正義が、ダバダバと滝のような涙を流す。
「て、天使だ。天使が舞い降りた。俺は今、猛烈に感動している」
「あ、あの~……」
そんな感動に浸る正義に声をかける人物が一人。マオーだった。
「私は何をすれば……」
マオーの言葉に、正義がいきなり真顔に戻って答えた。
「お前はメニューの練習と材料の仕入れでもしてろ。ああ、なるべく経費は節約の方向でな。どうせ味の分かる奴なんていないだろうから、野菜なんかは多少質が悪くても安いのでいいや。食器なんかは一〇〇円均一で買って来い」
「……はい」
事務的に言い放つ正義の言葉を聞いて、マオーはとぼとぼと歩きながら黒き胎内を出て行った。
そして一週間後、ついにメイド喫茶、その名も『メイド喫茶ウルティマ』はオープンを迎えた。場所はアーカディア中央公園付近の一軒屋。そして、そこをアイドル作戦時の資金を使ってリフォーム。けして広くはないが、白を基調とした店内は、清潔感と爽やかさをコンセプトにしている。
メイドが三人しかいないため、座席数も多くはないが、行き届いたサービスを提供するにはこれが限界だった。
オープンを一時間後に控え、店内にはマオーパーティーが全員集まっている。凍姫、ポルルン、パルルンがメイド担当。マオーがキッチン。正義がマネージャー兼雑用といった配置だった。
この一週間の猛特訓で、メイドの三人は何とかそれなりの接客ができるようになっていた。まあ、仮にヘマをしたとしても、よほどのことがない限り、ドジっ子属性で済むだろうと正義は楽観している。
「さて諸君、いよいよメイド喫茶ウルティマがオープンとなったわけだが、まずはこれを見てくれ」
神妙な面持ちをした正義が、そっと閉められていたカーテンを開けると、そこには、まだ開店一時間前にも関わらず、すでに長蛇の列ができていた。
「な、何だ、これは!」
「すごい人」
「うわ、ずっと先まで人が並んでますぅ!」
凍姫、ポルルン、パルルンが驚きに目を丸くしている。
「フフフ、この日のためにビラを配りまくって告知したからな」
正義が誇らしげに胸を張る。
「し、しかし、まさかビラ配りだけでこんなに集まるとは……」
若干、戸惑いの声を上げる凍姫に、正義が笑みで答えた。
「それにはちゃんと理由がある。実は、新しく作ったメイド喫茶ウルティマのホームページに君達のことを載せたのだ。活動休止したはずのアイドル、フェアリーオブダークネスがここで働くことを」
「「「なっ!」」」
「効果は抜群だった。おかげでオープン初日からこの長蛇の列。いや~、我ながら自分の才能に惚れ惚れするな。ハッハッハ」
「「「「…………」」」」
一人高笑いする正義に、他の四人は無言。
「というわけで、待っているお客様の期待を裏切らない接客を各自に期待する。では、メイド喫茶ウルティマ、オープンだ!」
そう言って、正義はゆっくりとドアを開いた。
「まったく、目の回るような忙しさだな」
客の食べ終わった食器を食洗器にかけながら正義がこぼす。
メイド喫茶ウルティマは、初日から満員御礼の客入りで、客足が途切れる気配がない。元々の素材の良さに加え、メイドが突如活動を休止した元アイドルというのも人気に拍車をかけているようだった。
「そうですよね。もう一人くらいホールに人手が欲しいですよね」
正義の言葉に、マオーが返す。マオーの言うことももっともで、店舗として借りた店のホールは、三人で回すには少々広すぎた。普通のファミレスならば食事を届け、あとは放っておいてもいいが、メイド喫茶の客はあくまでもメイドとの触れ合いを望んでいるのだ。故に、なかなか自分についたメイドを放したがらないし、また無理やり放してリピーターになってもらえないのも困る。ある程度、接客の経験を積んだメイドなら上手く立ち回るのだろうが、今ホールに出ている三人は、この手の接客に関して素人同然。そこまでは望めるべくもなかった。
よって、もう一人くらいメイドがいてくれれば助かるのだが……
「そうだ! マオー、真央ちゃんにヘルプを頼めないかな?」
「え? 真央ちゃんですか?」
「うむ。あのルックスなら即戦力は間違いなしだ」
「そんな、テレちゃいますよ」
マオーが恥ずかしそうに体をくねらせた。
「何故、お前が照れる?」
「は! いえ、その……こっちの話です」
「まあいい。で、真央ちゃんは無理か?」
「いえ、どうしてもというなら呼べますけど。でも、真央ちゃん連れてくる間、キッチンが人手不足になっちゃうかも……」
「キッチンぐらい、俺一人で何とでもなる。どうせここには、味の分かる奴なんて一人もいやしない。いるのは凍姫やパルルンちゃんを見て喜ぶオタクどもだけよ。料理なんぞ、最低限食えるものであればいい」
「そ、そうですか? それじゃあ……」
そう言って、エプロンを外して空間転移しようとしたマオーを正義が制した。
「いや、ちょっと待て。やっぱりやめておこう」
「え! 何でですか?」
正義の言葉がよほど意外だったのか、マオーが少し飛び上がって驚いた。
「その、なんと言うか……真央ちゃんのメイド服姿を他の野郎どもに見られるのは……なんか嫌だ」
「は? すいません。ちょっとよく聞こえなかったんですけど」
「だから、真央ちゃんのメイド姿を他の奴らに見られるのが嫌なんだよ!」
羞恥からかヤケクソ気味に叫ぶ正義に、マオーがまたも体をくねらせる。
「そ、そんなテレちゃいますよ」
「だから、何故お前が照れる? もういい。真央ちゃんの件はなしだ。お前はさっさとキッチンに戻れ」
「フフ、はーい♪」
照れ隠しのように大声で言う正義。そんな正義を横目に、マオーは小さく鼻歌を歌いながらキッチンへと戻っていった。
「いやー諸君、お疲れさん。今日の売り上げも上々だ。この調子でいけば、アーカディアナンバー1のメイド喫茶になることも夢じゃないぞ」
閉店後、掃除を終えて一息吐いていたマオー達に正義がホクホク顔で声をかけた。
「当然」
「うむ。こういう経験も悪くないものだな」
「お客様が喜んでくれるの嬉しいですぅ」
ポルルン、凍姫、パルルンの三人が、疲れの中にも充実感を見える表情で言葉を口にする。
「これだけ頑張れば、きっといっぱい魔王パワーも溜まってますよね?」
「うむ。打倒勇者を達成する日も近いな」
「ご主人様、どれくらいパワー溜まった?」
三人が期待に満ちた眼差しでマオーを見つめる。そんな三人にマオーはあっさりと言い放った。
「ゼロだよ」
「「「はっ?」」」
その言葉に三人が揃って間の抜けた声を上げる。
「だって私、今回もノータッチだもん。私が提案したのは魔王喫茶であって、メイド喫茶を提案したのは正義さんでしょ。しかもそれをプロデュースしたのも正義さんだから、当然、魔王パワーは溜まってないよ」
マオーの言葉を聞いた三人が、怨嗟という言葉が生温く感じるような視線で正義を睨みつける。
「参謀、まさか今回のことも最初から全て知っていたのではあるまいな?」
「当然知っていた」
三人を代表して質問した凍姫に、正義が全く悪びれもせずに答える。
「最初に言ったはずだ。これは全て打倒勇者のためだと。魔王パワーを溜めるためだとは一言も言っていない」
「「「…………」」」
「まあ、そう怒るな。結果的に今回も資金調達のための作戦だったわけだが、今回の作戦で得た資金の使い道はちゃんと考えてある」
「ほう。使い道は結構だが、それならそれで、お前が横からアドバイスしてマオーが仕切ればよかったのではないか?」
「チッチッチッ。前にも言っただろ? こいつに仕切らせると、あんまりボッタクッたら客がかわいそうだとか言い出しかねないんだよ。だから、今回も俺が仕切ったわけだ。心配するな。今回はちゃんと先のことまで考えてある」
「……ほう。一応聞いておこうか」
「ズバリ、賄賂だ」
「「「「…………」」」」
無言の中にマオーも加わった。
「実は、今回の作戦で得た資金をガデアンズにばら撒き、こちらに寝返らせようと思ってな」
「「「「…………」」」」
「結構な名案だろ? そうすれば、こちらは被害を受けないし、向こうで勝手に潰しあってくれるって寸法だ。どうだ? 今回はちゃんと色々考えて、この作戦を立案したんだから『ご主人様カッコいい。ご褒美に精一杯ご奉仕いたしますニャン♡』とか言って、そのカッコで奉仕してくれても構わんよ。ハッハッハ」
一人で得意になって高笑いを浮かべる正義に、ポルルンが無言で近づいた。
「なるほど。正義の言うことももっとも」
「おっ、どうしたのポルルンちゃん? 俺の味方をしてくれるなんて珍しいね」
「確かにお金があれば色々できる。だから、ポルルンもお金を稼ぐ良い方法を考えた」
「おおっ、ぜひ聞かせておくれ」
「人身売買」
「…………」
正義が笑顔のまま凍りつく。
「ポルルンの知り合いのマッドサイエンティストが、外道という生物の生命力について調べてみたいと言ってる。外道っていう、人の皮を被った欲望の塊を拷問して、どれくらいしぶとくあがくのか見てみたいって。ポルルンの周りにそういう生物がいないか聞かれてたんだけど、ちょうど一人いいのがいた」
「…………」
正義の体から、汗がドバッと噴き出す。
「そのマッドサイエンティスト、外道っていう生物を連れてきたらいっぱいお金くれるって。どう、みんな?」
「素晴らしいアイデアだ。ちょうどゴミの処分にもなるしな」
「えと……いいと思います」
「ポルルンちゃん、許可します」
凍姫、パルルン、マオーの同意を得たポルルンが、無表情でコクリと頷く。
「分かった。では、これより捕獲にはいる。凍姫、ちょっと手伝う」
「承知」
顔を能面と化したポルルンと凍姫が、ゆっくりと正義ににじり寄った。
「待て! 待ってくれ、ポルルンちゃん! 何故、俺に近づいてくるんだ? 俺は善良な一市民で……」
「ごめんなさい。ポルルン、外道の言葉、分かんない」
「ギャ~~~!」
その日、アーカディア屈指のメイド喫茶『メイド喫茶ウルティマ』では、一人の男の叫び声がいつまでも鳴り響いた。
その翌日、今やアーカディアトップクラスのメイド喫茶となったメイド喫茶ウルティマのホームページには次のようなコメントが更新されていた。
『諸事情により、しばらくの間、閉店させていただきます』
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その者は静かに立ち上がった。もうすぐだ。再び歓喜の瞬間がやってくる。極上の時間がやってくる。何度味わっても飽きることのない至福の時間がやってくる。
その者は静かに歩き出した。始めた当初は確かにあった罪悪感も疑問も今は跡形もない。まるで、最初からそんな物は自分の中に存在しなかったかのようだ。
自分は、この世界の唯一絶対にして、中心にして、神と同義の存在。故に、よくよく考えれば、罪悪感や疑問といった物に苛まれる必要はないのだ。
何故なら、これは全て、夢なのだから。
そしてその者、夢希真央は、またいつものように指示を出した。
己の欲望を満たすための指示を……。
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ポンタローの作品を読んでいただき感謝です~
最新話はポンタローのブログからよろしくです~
ではでは~