第四章
第四章
正義がシーディーに来てから一週間が過ぎた。ちなみにその間、成果はゼロ。
一応、正義があれこれと悪事を考えるものの、その全てをマオーは拒否か失敗。しかも、肉屋での一件以来、スラムの人間は、マオーが悪事を働く=正義がマオーに無理やり悪事を働かせる、と解釈しているらしく、制裁が全て正義に来るのだ。そして、その度に正義の体には新しい傷が増えていくのだった。
「はあ~~~」
魔王家の居間にあるオコタ。そこに入ってぬくぬくしていた正義がこれ見よがしにため息を吐いた。
「ど、どうしたんですか、正義さん?」
「モチベーションが上がらねえ」
「何ですか、急に?」
「だってさあ、レベル一億の勇者様倒すためにこんなにも尽力しているにも関わらず、なんの見返りもないんだもん」
「「「「…………」」」」
「何て言うかさぁ、こんだけたくさん作戦を考えてるにも関わらず、成果はゼロ。しかも、その理由がウチの大将がヘタレなせいなんだもんなぁ」
「「「…………」」」」
「しかも、ただ成果がゼロなだけならまだしも、何かする度に俺がスラムの連中からボコられるってんじゃ割りが合わないでしょ、どう考えても」
「「「「…………」」」」
「そりゃさ、金くれとは言いませんよ。こんな貧乏魔王軍に給料よこせなんて言うほど僕は鬼じゃありません。でもさ、見返りというか一生懸命働いたご褒美に、なんか欲しいわけですよ、僕は」
「「「「…………」」」」
「え~と、つまり何が言いたいんですか?」
声に呆れを込めながらマオーが尋ねる。
「これから毎晩、パルルンちゃんと一緒に寝ズブッ」
正義の額に凍姫の刀が突き刺さる。
額からピュウーっと盛大に血を噴き出して正義が倒れた。
「まったく、お前という奴は」
「正義さん、不潔です」
「最低」
「あの、えと、その……」
倒れた正義を冷ややかに見下ろす、凍姫、マオー、ポルルン、パルルンから四者四様の反応が返る。しかし、それに負けじと正義が言った。
「でもさあ、何か潤いが欲しいんだよぉ。明日への活力が欲しいんだよぉ。その方が絶対、仕事への集中力も上がるって。目の前に同人誌ぶら下げられたら、運動不足のオタクだって必死に走りますって」
「じ、自分で言ってて恥ずかしくないんですか?」
「いや、まったく」
「……。しょうがない。がんばったら、この今はトンと見なくなった五円チョコあげる」
「自分は食べ物には釣られません」
「分かった。そこまで言うなら、今度剣の稽古を……」
「いや、そこまで言ってないし。それは罰ゲームだろうが」
「えと、えと、えと……」
「ああ、パルルンちゃん。困った顔も可愛いなあ。君が毎晩、僕にご奉仕してくれるなら、僕は毎日敏腕ビジネスマンの如くバリバリはたらゴキ(ポルルンの拳が顔面にめり込んだ音)!」
その後も言い合いは続き、やがて収拾がつかなくなり始めた頃、マオーがため息を一つ吐いて口を開いた。
「分かりました。五歳児並の我が儘をほざく、卵焼きは甘くないと怒り出しそうな正義さんのために、嫌々ながら私がご褒美を用意します」
「なんか言葉に棘があるぞ」
「いらないんですか?」
「いる!」
きっぱりと言い切る正義に、マオーは再びため息一つ。
「で、何をくれるんだ?」
「……今度、女の子紹介します」
次の日、アーカディア中央公園のベンチに、歳相応のお洒落をした正義が座っていた。今朝、待ち合わせということで、マオーに連れてきてもらったのだ。だから、当然帰りもマオーの空間転移魔法(?)ポンコツで帰る。
そんな正義の顔には、珍しく緊張の色が窺える。
(マオーの奴、どんな子連れてくる気なんだか)
マオーの話では、日頃頑張っている正義のために、アーカディア在住の、マオーの、友人の、女の子を紹介してくれるとのこと。それは彼女いない歴=実年齢の正義にとっては願ってもないご褒美だった。
アーカディア在住の、女の子というのも正義にとっては助かった。どういうわけか、スラムの方には若い女子がいない(ポルルン、パルルン、凍姫は除く)。というか、あくまでも正義の知る範囲ではあるが、スラムで出会った人間の年齢層はかなり高い。平均して三十代前半~五十代前半。若くても二十代後半といったところか。故に正義は、スラムにおいて自分と同年代の人間に会ったことがなかった。
逆にアーカディアで出会った人間の年齢層は低い。もっとも、大して長く観察したわけではないが。しかし、あくまでも正義の見た中では、平均年齢は十代~二十代だった。まあ、そんなに長くここにいるわけではないので、はっきりと断言はできない。
そして、今回マオーに紹介してもらう女の子はアーカディア在住。故に少し期待が持てる。
だが、問題もあった。そう、容姿だ。正義はこう見えても結構面食いである。少なくとも正義採点で七五点以下の女は……
「お、お待たせしました」
一人考えに耽っていた正義の耳に、快活な声が響く。それを聞いた正義が、声の方に顔を向け……
「…………」
そして、向けた瞬間、硬直した。
そこに立っていたのは、モデル顔負けのスレンダーな肢体に、透き通るような流れる金髪。あどけなさを残す整った人形のような顔立ちに、人なつっこそうな真ん丸い緑色の瞳をした、正義の理想を全て体現したかのような美少女だった。
「こんにちは。あの、魔王さんの友達の夢希真央です。真央って呼んでください。今日はよろしくお願いします」
そう言って、柔らかい笑みを浮かべてペコリと頭を下げる。大人っぽい容姿とは裏腹なその子供っぽい仕草も、正義には好印象だった。
「いや、その、なんと言うか……。し、司連正義です。せ、正義と呼んでください」
正義は緊張していた。かつてないほど緊張していた。パルルンを初めて見た時さえ、ここまで緊張しなかった。正直なところ、正義はそこまで過度の期待はしていなかったのだ。なにせあのマオーの紹介である。最悪、あの肉屋のおばちゃんが来る可能性すら考えていた。
しかし、蓋を開けてみればこの結果。上物を通り越して特上ときた。もちろん嬉しい。しかし、あまりにも予想外の出来事故に、正義は脳内でパニックに陥っていた。
生まれてこのかた、女子と付き合ったことなど一度もない正義である。無論、女子との会話や接し方などは、ギャルゲー、エロゲー、インターネットを駆使して綿密に調べ上げていたが、やはり恋愛シュミレーションと実戦とでは勝手が違っていた。
「あの、どうかしました? 汗、かいてますけど」
「いや、その、ちょっと緊張しちゃって。君があんまり可愛いもんだから」
「やだ、そんなことないです」
その少し恥らうような仕草。正義の胸がまた高鳴る。
「私、全然可愛くなんてないですから」
正義が全力で首を振った。
「そんなことないって。君が可愛くなかったら、この世に可愛い子なんて一人もいなくなっちゃうよ」
「でも私、友達の男の子からは、いつも可愛くないって言われてるし」
「きっとそいつの目が腐ってるんだよ。もしくは○専だね。そいつはきっと死んだ方がいい人種だから気にしなくていいよ」
「じゃ、死んでください」
「……えっ?」
一瞬、場の空気が固まる。
「あ、あのゴメン。俺、ちょっとテンパってんのかな。よく聞こえなかった。もう一回言ってくれる?」
「クス。少し歩きませんかって言ったんです」
「そ、そっか。うん、そうしよう」
悪戯っぽい笑みを浮かべる真央に、正義は安堵の息を漏らして歩き出した。
歩き始めて約五分が経過。この間全く会話なし。正義と真央は、互いに無言のままただ黙々と公園を歩いていた。
実のところ、正義はまだテンパっていた。正義は決して口下手な方ではない。しかし、相手が美少女かつ、絶対ものにしたい相手だった場合、勝手が違ってくる。するべき話題を選べないのだ。
話題がないわけでない。しかし、自分がある話題を出した時、真央がそれに興味を示さなければ、いきなり気まずい雰囲気に突入する可能性がある。
故に正義は、慎重に一発目の話題を考えていた。
無言のまま一〇分が経過。さすがに真央が少し退屈そうな顔を見せ始める。
(まずいな。とにかく何か話題を……)
「ま、真央ちゃんて何してる人?」
言ってから、正義はしまったと思った。どもりながら一発目の話題がこれ。「合コンか!」と思わず内心で自分にツッコム。しかし、一度言ってしまった発言は取り消せないわけで。正義が盗み見るようにして真央に目を向けると、真央は少し目をパチクリさせた後……
「えと、学生です」
と答えた。「そりゃそうか」と正義は内心で頷く。
「そっかー。あれ? 今いくつだっけ?」
「い、今一七です」
「おお、俺と同じじゃん」
「そ、そうなんですか。奇遇ですね。あ、あの正義さんは何をしてらっしゃるんですか?」
「ん? フツーの学生だよ」
「そ、そうなんだ。あの魔王さんとはどういったご関係で……」
「俺はね、実は魔王軍のさんぼ……」
そこで、魔王軍の参謀と言おうとした正義の言葉が止まる。
(さすがに魔王軍の参謀はないよな。男子ならともかく、女子に対しては。どう考えても、引かれる可能性の方が高い。とすると……)
「お、俺は、マオーのトレーナー(?)なんだ」
「トレーナーですか……?」
「うん。実は君の友達のマオーに、強くしてくれって頼まれてさ。あいつのトレーナーみたいなことしてるんだよ」
「へー、すごいんですね。誰かに何かを教えられる人って、私、尊敬しちゃいます」
「い、いや~。それほどでも~」
思わぬ賞賛に正義が照れる。
「で、魔王さんはどうですか? 才能ありそうですか?」
「いや、それがぜんぜ……」
そこでまたも正義の言葉が止まった。
(どうする? 「いや、それが全然なんだよ。全く、欠片も才能がないんだ。これは一度生まれ変わって、大魔王○ーン辺りに才能を分けてもらって、来世でやり直すしかないね」と言いたいが、マオーと真央ちゃんが知り合いな以上、どう考えてもマオーを貶して真央ちゃんがいい顔をするとは思えん。となると……)
「……うん。まあ……がんばってるよ」
「そ、そうですか……」
正義の言葉に、真央が小さく笑顔を見せた。
(フウ。どうやら、俺の答えは間違ってなかったらしい)
正義が内心で安堵した。そしてそこで、少し気になっていたことについて聞いてみる。
「ところでさ、真央ちゃんとマオーって、どこで知り合ったの?」
「ふえ?」
正義の言葉によほど驚いたのか、真央はその場で小さく飛び上がった。
「いや、まさかマオーにこんな可愛い子の知り合いがいるとは思わなかったからさ。どうやって知り合ったのかなって」
「え~と、そうですね~……」
真央がそのまま少し黙り込み、思案顔になる。
「え~とですね~、そうだ! 実はナンパされて困ってたところを魔王さんに助けてもらったんです」
「マ、マジで?」
若干、疑惑の声を上げる正義に、真央は大きく頷いた。
「私が五人組のチャラそうな人にナンパされて困ってたところに、魔王さんが颯爽と登場して、あっという間にその五人組を追っ払ってくれたんです。あの時の魔王さん、とってもかっこよかったな~」
「…………」
その言葉を聞いた正義は、急激に目頭が熱くなってきた。
あのポンコツ魔王にそんな甲斐性があるわけがない。ゴキブリ一匹でキャーキャー言っているような奴である。大方、ポンコツでも使って逃げたのだろう。にも関わらず、マオーの男を立てて嘘を吐くとは。
(な、なんて、いい子なんだ)
正義の真央への好感度が、またも一段階アップした。
「そ、そっか。でさ、話は変わるけど、これからどこ行こっか?」
「そ、そうですね。正義さんにお任せします」
「了解。何か希望とかある?」
「いえ、実は私、男の人とデートするの初めてでよく分からないんです。すみません」
「マ、マジで!」
「は、はい……」
正義が心の中で渾身のガッツポーズ。こんな美少女の初デートの相手がこの自分。正義は天にも昇る気持ちになった。
しかし、そんな思いはおくびにも出さず、行き先を考える仕草を取る。
「う~ん。そうだな~」
そして、正義がシンキングタイムに突入。そんな正義の頭に真っ先に浮かんだのがカラオケだった。
実はこの正義、歌には少なからず自信があった。
しかし、問題が一つだけ。それは……
(俺、アニソンしか歌えないんだよな)
そう、アニメソングなら、最新ヒットチャートから装甲騎兵○トムズのオープニングテーマまでなんでもこいの正義だったが、その自慢のアニメソングを真央に披露した場合……
(オタクだと思われるよな。やっぱり)
それだけは死んでも避けたい正義。となると、やはりカラオケは選択肢から除外。次に思い浮かんだのが、ボーリング、ダーツ、バッティングセンター辺り。もしくは……
「ゲ、ゲーセンとかどうかな?」
「ゲーセンって、ゲームセンターですか?」
「うん。嫌かな?」
「私、行ってみたいです!」
「え! ホントに?」
思わぬ真央の食いつきに、正義が若干たじろいだ。
「はい。私、ゲームセンターって行ったことないから、ぜひ行ってみたいです」
「そ、そう。そんじゃゲーセンに行こう」
予想外の真央の雰囲気に押されるようにして、正義はゲームセンターへと足を向けた。
そして、一五分後、二人はアーカディア内にある大型アミューズメントパークへと来ていた。四階建ての広い建物内には、定番のUFOキャッチャーにプリクラ、音ゲーにアーケードゲームなどが所狭しと並んでいる。
着いて早々に、まずは鉄板の、リズムに合わせて太鼓を叩く『腹太鼓の鉄人』でもしようとした正義。しかし、声をかけようと振り向いた先に、食い入るように一台のUFOキャッチャーを見つめる真央を発見した。正義も近づいてその台を覗いてみると、そこには不細工な猫のぬいぐるみがいくつも置かれている。
「それ、欲しいの?」
「えと、えと……はい」
正義の問いに、消え入りそうな声で真央が答える。
「ほんとにそれでいいの? 他にもぬいぐるみはたくさんあるのに、何もそんな……」
不細工なのを、と続けようとした正義だったが、あまりにも熱心に見つめる真央の前にそれは言えなかった。
「あの、これがいいんです。これ、今アーカディアで人気のブサネコ『ブーチャ』っていうんです。前から欲しかったんですけど、私、こういうのしたことないから……」
「よし、俺に任せとけ」
そう言うと、正義は服の袖をまくって、二〇〇円を投入。慎重にクレーンを操作する。
(フッ。普通なら台に一〇〇円玉を積み上げて、苦労した末にようやくゲットってな筋書きが一般的な流れなんだろうが……)
正義が次々と視点を動かして、クレーンを微調整する。
(ココだ!)
そして、クレーンが降下。降下したクレーンは、限界高度まで下がった後、ゆっくりと再び上昇する。すると、そのアームにはしっかりとぬいぐるみのタグが引っかかっていた。
「わ! すごい! すごい!」
真央が飛び上がって手を叩く。クレーンはそのままぬいぐるみを取り出し口まで運び、ポトリと落とした。
「はい、どうぞ」
正義があくまでもドヤ顔を抑えたまま、爽やかな笑顔で真央にぬいぐるみを手渡す。
本当は、ドヤ顔でふんぞり返りたいところだが、こういう場面ではクールに徹することこそが高ポイントであることを正義は知っていた。
「あ、ありがとうございます」
真央が幸せそうな表情を浮かべて、ぬいぐるみを抱きかかえる。
「お上手なんですね」
「いや、たまたまだよ。上手く取れてよかった」
「あの、これ、本当にいただいてもいいんですか?」
「もちろん。初デートの記念にどうぞ」
「はい! どうもです!」
真央が嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。
それを見ていた正義の顔も自然と綻んでいた。
ゲームセンターを出た二人は、その後、近くにあったカフェで軽くお茶をして、ウインドウショッピングへと突入。楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去るものらしく、いつの間にかかなりの時間が過ぎていた。
「それじゃ、次はどこ行こっか?」
「そうですね~、あっ!」
考え込んでいた真央が、ふと自分の時計に目を移してハッとなった。そして、申し訳なさそうな表情を浮かべて口を開く。
「正義さん、ごめんなさい。私、そろそろ……」
それを聞いた正義が、近くにあった時計で時間を確認。現在、午後六時。
「あっ! ひょっとして、もう帰る時間?」
「……はい。うち、けっこう門限厳しくって……」
「そっか……」
正義の心に、一抹の寂しさが漂う。しかし、それを全く感じさせない声で正義は言った。
「じゃ、今日はお開きにしようか。家まで送るよ」
「え!」
正義の言葉を聞いた真央が、ギョッとした顔になった。
「だ、大丈夫です。うち、ココからすぐ近くだし、アーカディアにはガデアンズもいますから」
手をパタパタとさせて、しどろもどろな口調で説明する真央。それを見た正義は、会った初日にいきなり家まで知られたくはないのだろうと、自分の発言を少し反省した。
「そう。じゃ、今日はここでバイバイかな」
「はい……」
正義の言葉を、真央が残念そうに肯定する。
「今日はすごく楽しかった。ありがとう、真央ちゃん」
「いえ、そんな。こちらこそ……」
少し重苦しい空気の中、正義がなけなしの勇気を振り絞って口を開いた。
「あ、あのさ……、また、会えるかな?」
「え?」
真央が驚いた表情で正義を見つめる。
「そ、その……、もしよかったら、またデートしようよ」
正義が喉をカラカラにして、何とか声を絞り出す。真央が口を開くまでの時間が、とほうもなく長く感じた。そして……
「はい。喜んで」
真央が笑顔でそう答える。それを聞いた瞬間、正義は内心でガッツポーズした。
「よかった。それじゃ、今日はこれで。またね、真央ちゃん」
「はい。また今度です」
そして、正義は内心でスキップしたい衝動を必死に堪えて、マオーとの待ち合わせ場所に向かった。
▲▲▲
「もう出てきてもいいよ~」
正義が完全に見えなくなったのを確認して、真央が言った。
その言葉に反応するかのように、木の陰から三人の人物が姿を現す。ポルルン、パルルン、凍姫であった。
「上手くいった?」
「うん、バッチリ!」
「鼻の下が伸びていたな」
「はい!」
「えへへ、大成功ですね、ご主人様」
「うん!」
それぞれの言葉に真央が笑顔で答える。
「聞きました? 私のこと可愛いって言ってましたよ」
「バッチリ。いつもとはまるで態度が違う」
「だよね~。私もビックリしちゃった」
「つまりあいつは、女の容姿で態度を変えているということだ。男の風上にも置けんな」
「いつもそのカッコでいればいいんじゃないですか、ご主人様?」
パルルンの言葉に、真央が僅かに表情を翳らせた。
「うん。でも、この顔だと……ね」
真央の表情を見たパルルンが、慌てて何かを思い出したかのように頭を下げる。
「……ごめんなさい」
「ううん、大丈夫。気にしないで」
真央は笑顔に戻って首を振った。
「あっ! 正義さんからメールだ。そろそろ迎えに行かなきゃ。じゃ、先にみんなを送るね」
「はい!」
パルルンが元気よく答えた。
「あれ、そういえば……」
「どうした?」
いきなり立ち止まった真央に、凍姫が尋ねる。
「なんか今日、ちょっとだけ魔王パワーが上がったような気がします」
そう言って、真央はクスリと笑った。
▲▲▲
真央との一時を終えた正義は、ニコニコ顔で魔王家へと帰ってきた。
そして、無言でマオーに近づき、いきなり抱きつく。
いきなり抱きつかれたマオーは、しどろもどろになって手をバタつかせた。
「せ、正義さん? ど、どうしたんですか、急に? セ、セクハラですよ」
正義はマオーの言葉を無視して、バッと体を離し、次にマオーの手をギュッと握りしめる。
その顔は涙に濡れていた。
「ありがとう」
「へっ?」
「俺はついに見つけたんだ。運命の人を」
「はい?」
「お前が紹介してくれた真央ちゃん。彼女こそ俺の運命の人だ。俺は一生、彼女を愛することをここに誓う」
「いや、誓うって言われても。あのですね正義さん、私は別に付き合うことを前提に彼女を紹介したわけでは……」
「うっし、やる気出てきた。これからバリバリ働くぞー!」
困惑気味のマオーの声を無視して、正義は意気揚々とその場を去っていった。
ポンタローの作品を読んでいただき感謝です~
最新話はポンタローのブログからよろしくです~
ではでは~