第十三章
第一三章
「てりゃー! 魔王キーック!」
マオーが素人丸出しの飛び蹴りを勇者に放つ。
しかし、勇者はそれを避けようともせず真正面から受け止め……
「グハッ!」
派手に吹き飛び、壁に激突した。壁に蜘蛛の巣状のヒビが入る。
「見た目はあんなダサい飛び蹴りなのに、なんて威力だ」
正義が少し呆れ気味に呟いた。
「どうしましょう、正義さん。私、今ちょっと楽しいです」
「おおっ。勇者をいじめて楽しいとは。珍しく魔王っぽい発言だな」
「はい! 私がんばります!」
マオーが拳を握りしめてやる気を示す。一方の勇者は、少しよろめきながらも何とか体を起こした。
「クッ! 調子に……乗るな!」
勇者が再びイレイサーでマオーを攻撃。しかし、またもマオーがM・T・フィールドを使ってそれを防ぐ。
「フフン、効きませんよ、そんな攻撃」
「クッ」
「次はこちらの番です。食らえ、○ンパーンチ!」
動揺を見せる勇者にマオーが攻撃。やはり素人丸出しのヘロヘロしたパンチを勇者に繰り出した。
「ゴホッ!」
しかし、見た目はヘロヘロでも威力はすごいらしく、それをモロに食らった勇者はまたも吹き飛び、地に膝をつく。
「な、何故だ。何故我がコックーンがこうも容易く破られる……」
その質問に口を開いたのは正義だった。
「別に不思議じゃないだろ。アンタの力の源である勇者パワーは、厳密に言うと善行によるシーディーの民からの尊敬や賞賛の念なんだろ? こんだけアーカディアが荒されてんのに姿も見せないんじゃ、当然その念は弱まる。対してウチのポンコツ魔王の力の源である魔王パワーは、悪事によって溜まるシーディーの民からの畏怖と嫌悪の念。いきなり魔王軍がやってきて、ガデアンズを押しのけ、アーカディアを占拠すりゃ、当然その念は強まる。つまり今、あんたとウチの大将の力は完全に逆転したんだよ」
「ま、まさか、貴様の策とは……」
「そっ。これが俺の策さ。勇者パワーを低下させて、逆に魔王の力を上げる。どうだい、なかなかやるもんだろ?」
「クッ!」
「それより……こら、マオー。さっきのは、ちびっ子に大人気のパンヒーローの技だろうが」
「え? ダメですか? 私、あのアニメ大好きなんですけど」
「いや、駄目とは言わんが、もうちょっと対象年齢の高いアニメの技にしなさい。その方が盛り上がるから」
「わ、分かりました。では、イレイサーと同じような光線技でいきたいと思います」
「おおっ、それはちょっと見てみたいぞ、マオー」
正義の言葉に頷いたマオーが、左肘を曲げて腕を立て、その肘を、体の前に水平に倒した右腕の手の指先部分に乗せる。そして……
「ジュワ!」
その叫びとともに、マオーの腕から光線が放たれた。
「うあ!」
慌ててコックーンを再展開し防御する勇者。しかし、コックーンはその光線を受け切れずに、勇者に降り注ぐ。
光線を受けた勇者が、大きく吹き飛び地に倒れた。
「見ましたか、正義さん! スーパー魔王光線の威力を!」
「そりゃ○ペシウム光線だろうが! 怒られても知らんぞ! もっと何か違うのにしろ!」
怒られたマオーがガックリと肩を落とす。
「こ、これもダメですか……。仕方ない。では、定番の剣ということで」
立ち上がったマオーが、両手をパンと合わせ、そして離す。
するとそこから、黒く染まった一振りの剣が現れた。
「フフフ。これぞ魔剣……」
そこでマオーが口ごもる。
「魔剣……、どうしよう、名前が思いつかないや。正義さん、何かいい名前ありませんか?」
「……お前、この状況で何をのん気なこと言ってんだ」
「だって~、せっかくだからカッコいい名前の方がいいじゃないですか。ほら、ようやく私の見せ場! 的な感じになってきたし……!」
自分の見せ場がよほど嬉しいのか、興奮してことあるごとに正義に話しかけるマオー。そんな中、さきほどまで倒れていた勇者がよろめきながらも体を起こした。
「おのれ……」
勇者が憎々しげに言い放つ。しかし、マオーはすずしい顔。
「フフン、どうしました~? 手も足も出ないんですか~? あ、そうか~、あなたご自慢のイレイサーもコックーンも私には通用しませんもんね~。どうしますか~、降参しますか~?」
完全に悪役のノリで喋るマオー。正義が内心で「やっと、少し魔王っぽくなってきたな」と思う。
「なるほど。確かに魔王を名乗るだけあって、それなりの力は持っているようだな」
マオーが尊大にふんぞり返る。
「フフフ、そうです。ようやくあなたにも、この大魔王マオーのすごさが分かってきたようですね」
正義が「どの口が言うんだ、このポンコツが。しかも大魔王マオーって語呂悪すぎだろ」という台詞を何とか飲み込んだ。
「しかし、生憎と私もこのまま負けるわけにはいかなくてな」
「へえ、悪あがきですか? でももう、あなたに武器なんて……」
マオーの言葉を無視して、勇者がイレイサーを構える。
「ま~たイレイサーの消去光線ですか~? それは無駄だってさっき教えてあげたのに」
「そうだな、確かに消去光線は、お前には効かない。しかし、イレイサーにはこんな使い方もあるのだよ!」
叫びと共に、勇者が構えていたイレイサーから、刀身だけが凄まじいスピードで放たれた。
しかし、狙ったのはマオーではない。狙いは……
「正義さん!」
勇者の狙いに気づいたマオーが、普段からは想像もできないようなスピードで正義に近づき、突き飛ばす。そして……
イレイサーの刀身が、マオーの背中に深々と突き刺さった。
マオーのおかげで事なきをえた正義が、急いでマオーを抱き起こす。
「マオー、何でお前、M・T・フィールドは……」
「え、えへへ、M・T・フィールドは、その場でしか使えなくて……」
「馬鹿が。魔王のくせに正義の味方みたいなことしやがって。俺のことなんかほっときゃよかったんだ」
「わ、私、ポンコツですから。大事な仲間は見捨てられません」
「…………」
正義が何かを堪えるように、マオーのマスクを強く抱きしめた。
「……勇者ともあろうお方が、随分と汚い真似してくださるじゃないか」
正義がすぐ後ろまで迫っていた勇者に向かって、振り向かずに言い放つ。
「フン。何とでも言うがいい。たとえ汚名を着ようとも、魔王に負ける勇者よりはマシだ」
「……そうかよ」
「ククッ。随分と手こずらせてくれたが、これで終わりだ。結局、未来永劫、魔王が勇者に勝つことなどありえんの……!」
グサッ! 勇者が正義達にイレイサーを振り下ろそうとしたまさにその時、突如、勇者の胸から一本の剣が生えた。
「き、貴様……」
勇者が信じられないといった様子で背後にいる正義を睨みつける。
「油断しすぎだ、勇者さん。ウチの大将、逃げ足だけは速くてね。それが転じて、得意なスキルが空間転移なのさ」
「ひ、卑怯な……」
その言葉に、マオーを抱きかかえながら魔剣ホニャララを持った正義がニヤリと嗤う。
「卑怯? 当然だろ。俺達はな、魔王軍なんだよ」
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