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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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八十九話

(´・ω・`)秒読み開始やで

 案内されて辿り着いたのは、ヒューマン保護区から遠く離れた、アーカムの屋敷のふもと。

 高級飲食店が軒を連ねる通りだった。

 その中の一軒、美しい白い木材で作られたその店へと、イェンさんは準備中の札を無視してずんずんと突き進み扉を開いた。


「……申し訳ありません、ただいま準備中でして――イェン殿でしたか」

「邪魔するよクロイツ。アンタんとこの若い連中、今集まってるのかい?」

「この時間に閉店しているという事は、そういう事です。今日は彼女も来ていますからね、よければ――後ろの方は?」


 突然の来訪にも取り乱さず、白い布巾でワイングラスを磨いていたマスターが静かにこちらへ視線を向ける。

 瞬間、ゾクリと心地良い殺気を感じ、ここが本当に敵対者、レジスタンスのような地下組織なのだと確信する。


「アンタも調べはついているんじゃないのかい? 今この街に変革をもたらそうとしてる人さ」

「……なんとも、参りましたな。イェン殿がここに連れてきたと言うのなら、そういう事なのでしょうな」

「近々、私はアーカムを失脚させる。そのために君たちにも是非、会っておきたいと思ったのだ。突然の来訪、深く謝罪する」


 すでに俺はいつもどおり魔王ルックとなっています。

 その状態で俺は、このマスター、魔族ではない男性のエルフへと頭を下げる。

 それがこの街においては、何よりもの説得になる。


「……これは、そういう流れという事なのかもしれませんな……すぐに彼女をお呼びします」


 そう告げたマスターは店の奥へと消えていった。

 俺は、どういう事なのかという疑問を込めてイェンさんへと視線を向ける。


「あの写真に、エルフが二人写っていただろう。そのうちの一人がここのリーダーをしてるんだよ。ただ……ちょっと事情が込み入っていてね、いざって時は彼女はアーカムに付くことになると思っとくれ」

「それは一体どういう……」


 その疑問が解消される前に、マスターが一人の女性を伴い戻ってくる。

 鮮やかな金髪の、翡翠のような瞳のエルフの女性。

 エルフ全体の特徴なのか、華奢な身体ながらも、スラリと伸びた手足が美しく、スーパーモデルと言っても通用する程の高身長。

 そんな人がこちらの姿を目にした瞬間、動きをピタりと止めてしまった。


「なるほど……どうりで最近諜報員が情報を出したがらないはずです。はじめましてカイヴォン様。アーカムの屋敷にて家令を努めております、イクスと申します」

「アーカムの家令……獅子身中の虫という訳か」

「そうなります。ですが、私は表立ってアーカムと敵対する事が出来ません。ですので、こうして」


 彼女もまた、レイスの娘の一人という訳か。

 だが彼女はエルフなだけはあり、見た目はリュエより少し上に見える程度。

 そんな彼女が長い間あの屋敷にいる。それは、恐らく想像を絶する苦労と苦痛、そして内心の葛藤があった事だろう。

 だがそれでも、今ここにいる彼女の瞳には轟々と、決意の炎が燃え盛っているように見えた。

 それはきっと、自分が入り込んでいた屋敷へと敬愛するレイスが現れたからなのかもしれない。


「イェン、貴女に教えておかなければいけない事があります。母さまが、今アーカムの屋敷に滞在しています」

「知っているよ。そして、この人は母さんに頼まれてこの街に連れてきた張本人さ。なるほど、アンタが今日ここにいるって事は、そっちもそっちで動くつもりだったって事なんだね?」

「カイヴォン様が……これで、大きな懸念が一つ取り除かれました。カイヴォン様、決起の日はすでに察していらっしゃると思いますが、母さまとの婚約をアーカムが発表する日となっております」


 どうやら既に保護区での俺の発言が彼女の耳にも届いていたのか、彼女たちもまた俺と同じタイミングで動くつもりだと言う。

 だが、それで懸念が一つ消えるとはどういう事なのか。

 彼女たちの力だけではどうにもならない、そんな問題があると言うのだろうか?

 だが、もしかしたら彼女たちが立ち上がると決意したのは、案外俺の発言があったからなのかもしれない。

 そしてもし俺をも利用しようとしていたのなら、それはそれで頼もしい。

 使えるものはなんでも使う。

 相手を利用するくらいの気概のある人間の方が、一緒に仕事をする相棒としては頼もしいからね。

 ただし裏切りと蹴落としはNG。その時は倍返しである。


「懸念とは? 決行にあたって何か問題でもあるのなら、こちらに教えてもらえると助かる」

「アーカムの戦力です。現状、あの屋敷の敷地内には魔力を使用する際に制限を与える結界がはられております。決行の瞬間、それを停止させる必要があるのです。ですが、長時間止めるとなると、術者を無力化させる必要があります」

「つまり、その術者を私に倒せと?」


 なるほど、確かにアーカム本人以外にも、厄介な相手は数多くいるだろう。

 だが、相手が術者ならば、リュエの力でどうにか出来るはず。それに、仮にその術者と俺が闘う事になったとしても、俺ならば――

 そう考えを巡らせた時、予想外の言葉がイェンさんの口から飛び出した。


「……つまり、カイヴォン様にアンタを止めろって言いたいわけだね?」

「それはどういう意味だ、イェン殿」

「それは私の口から。現在、私はアーカムに命を握られる契約をしています。命令をされれば、決して逆らえない傀儡と化すでしょう。私はこれでも、かつては母さまと共に冒険者として腕を磨いてきました。並大抵の相手では、そう後れを取ることはないというのが、最大の懸念でした。ですがカイヴォン様ならば、私をもたやすく葬る事が出来ましょう」


 ううむ……どうしてこうも人の神経逆撫でする事ばっかりするんですかねアーカムさんや。

 たしかにレイスと共に戦っていた相手ならば、その辺りの冒険者程度では太刀打ち出来ないだろう。

 俺は[詳細鑑定]を使い、彼女の能力を確認した。


【Name】  イクス

【種族】  エルフ

【職業】  魔導師(36) 魔法師(50)

【レベル】 123

【称号】  堕ちた光翼

      永劫を仰ぐ者


 表示された能力は、これまで見てきた中で二番目に強力なものだった。それ即ち、リュエに継ぐ強さと言うこと。

 そのレベルはアキダルでレベルを上げたレイスをも上回る程であり、職業構成もサブに魔法師を入れるという、徹底した魔術、魔法、魔導特化型。

 ゲーム時代、魔術系職の特化構成の鉄板だった組み合わせだ。

 確かに、これならば下手な相手では近寄ることも出来ず、完全に封殺されてしまうだろう。

 戦い方次第では、リュエですら苦戦を強いられるレベルだ。


「……レイスの娘を手にかける事は出来ない。一瞬、屋敷に入る事が出来ればそれで良い。その後はいくらでも傀儡となり襲ってきても構わない。それくらい、アーカムを相手にしながらでも軽く流してやろう」

「ありがとうございます……申し訳ありません、そろそろ時間なので、屋敷に戻らなければいけません。私が自由に移動出来る範囲が、丁度この店までですので……」

「それも契約の内なのか。その契約はどうすれば破る事が出来る? アーカムに解除させるしか手段はないのか?」

「私の魂を捧げる契約ですので、差し出したものを返されないかぎりは……例え、アーカムが命を落としても、その所在がわからなければ……」

「そうか……わかった、全てが済んだら私も協力しよう」

「わかりました。では、決行は四日後、発表のために一部の魔族が屋敷へと招待されますので、その時に……」


 最後に一礼してイクスさんは店を後にした。

 淡々と作戦を説明していたが、内心はどうだったのか。

 近くに大切な母がいるのにも関わらず、その母を苦しめる相手の側に立たなければならない。

 そして、ようやく助ける算段がついたのにもかかわらず、最後には敵として操られる事を決定づけられる。

 そんな辛い思いが、辛い出来事が待ち受けている屋敷へと戻らなければならない彼女は、どんな気持ちなのだろうか……。

 残されたイェンさんは、そんな彼女の背中を見送りながら、ぽつりと零す。


「あの子はね、この街に残ったんだ。昔、領主がとうとうしびれを切らしてね。

 私兵を使って母さまがいない時を見計らって店を襲撃したんだ。恐らくアタシ達を人質にしようとしたんだろうね」


 そして彼女は、かつて何が起こったのが、何が彼女達をばらばらにしたのかを語りだす。


「戦う術を持たなかったアタシらはみんなこの街から逃げた。けれども、戦う事が出来たからこそ、イクスは最後まであの店を守ろうとしたのさ。その間に私たちは逃げ切れたんだけどね」

「……レイスは店に戻らなかったのか?」

「それは分からない。あの後私たちも生きるのに必死だったからね。けど、アーカムがイクスを使って交渉をしなかったようだし、戻らなかったのかもしれないね……」


 レイスが子供たちの安否を確認もせずに逃げ出すとは思えない。

 となると、もしかしてそのタイミングでこの大陸の革命が起きたのか……?

 しかしそうなるとマズいかもしれない。少なくともレイスは、イクスさんに対して大きな負い目を感じている可能性が高い。

 ……人質にでもされたら、彼女ならきっと――

 結局どこまでいっても俺が心配するのは身内だけ。イクスさん本人よりも、レイスやリュエを優先してしまう自分を嫌悪してしまう。


「その後、各地を転々としたアタシらだけど、それでも追手は追いかけてきたんだ。だからある日、大陸の外に逃げる事にしたんだよ。

 その後はエンドレシアで暮らしていたけど、ようやく大人になった頃、あの店がどうなったか気になっちまってね、

 こうして戻って住み続けている訳さ。幸いにして、アーカムが表立って兵を動かす事も出来なくなっていたしね」


 恐らくその頃にはオインクが王家を廃した事により、ある種の均衡が生まれたからだろう。

 そしてその均衡はきっと、今も続いている。

 この大陸の上層部は一見すると民主主義が成立しはじめているように見える。

 だが内部ではまだ、アーカムのような人間が多く残り、今もオインクのやり方とぶつかり合っているのだろう。

 ……豚ちゃんもそろそろ、こちらへと向かい始めているかもしれない。

 恐らくすでに彼女の脳内では、俺がアーカムを倒し、そこから旧体制の復活を臨む領主の一派を食い殺す策も立てている頃。

 利用されているようで癪ではあるが、事後処理を全て引き受けてくれるならそれもいいだろう。

 やはり、アーカム早急にここで終わらせないといけない。


「マスター。彼女はまたここに来るのか?」

「ええ、恐らく今日の事を構成員に説明する事になるでしょう。カイヴォン様はどうか、来る日までに力を蓄えて頂きたく」

「分かった。イェン殿、私は先に失礼させてもらう。どこに目があるかわからないのでな」

「あいよ。まったく、そこまで堂に入ってると、魔族だとかそうじゃないだとか関係なく思えちまうよ」


 彼女には素を見せていたが、それでもどうやらこの演技はそれっぽく見えるらしい。

 それが嬉しいやら悲しいやら、少しばかり複雑ですよこっちは。

 何よりも、こっちは内心焦ってるんですよ。演技でもしないと表にそれが出てきてしまう。




 その翌日だった。

 ギルトへと向かった俺は、掲示板に押しかけている沢山の冒険者の姿に、何か起こったのだろうと察し確認へ向かう。

 掲示板に群がっていた人垣が左右に分かれ、目に飛び込んできたのは領主からの発表。

 それ即ち、レイスとの婚約を大々的に発表するための場を用意するので、屋敷の敷地へと『誰でも立ち入る事が出来るようにする』というお触れ。

 大胆なのか、それともこちらを誘う罠なのか。

 訪れた住人全てを人質にでもする算段なのかと考えを巡らせる。

 だが、あの屋敷の具体的な戦力を知らない俺では、奴の考えを読むことが出来ない。

 故に、俺は再び『彼女』の元へと向かう事にした。

(´・ω・`)なおアーカム氏の股間は誰かを襲う余裕がなくなっている模様

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