八十七話
(´・ω・`)お待たせしました
「完成だ、皆よくやってくれた」
「わぁ! カイヴォン様、すごいですね!」
「皆が手伝ってくれたお陰だ。よく働いてくれたな」
料理終了。
現在、器に取り分けられたパスタに似た平たい麺と、キノコがたっぷり入った洋風炊き込みご飯がテーブルに並べられている。
大鍋にはキノコたっぷりのパスタソースも用意してあります。
さらに大皿に盛られたキノコと玉ねぎのバター炒めに、なぞの魔物肉と肉厚なキノコの串焼きが山積みに。
……やばい、先に食べ始めたい。
「後は採取に出かけた子供たちと冒険者さんが戻ってくるのを待つだけですな」
「区画長、出稼ぎに行っている娘を忘れているぞ。今日はもともとそのためだったのだろう?」
「ははは……そうでしたな。あまりに美味しそうで失念してしまいました」
子供たちもよく手伝ってくれたし、ゴトーがすばらしい手際で俺の仕事を引き受けてくれた上に、不器用ながらも魔族の娘さんたちも手伝ってくれたお陰で、およそ五○人分は優にあるであろう料理を作ったにも関わらず、疲労感はそれほどじゃない。
まぁ俺はもともとこの程度の量を作ったくらいじゃそこまで疲れないんですけどね。
しかし、娘さん達も子供たちも、そして手伝ってくれた住人方も疲労感よりも満足感のほうが勝っている表情だ。
あ、そうだ。
「すまないが、少し席を外す」
みんなから離れ、俺は余ったキノコから一つ、目をつけていたものを拝借した。
一人人気のない場所で魔術を使い、可能な限り弱火で軽く塩を振ってじっくりと乾燥させるように焼いていく、
これは『ハツタケ』と呼ばれるキノコで、こうしてこんがり焼いたものを――
「熱燗に入れてキノコ酒にするのが最高なんですよね」
いやぁ、実は日本酒が残り少なくてね? さすがに分けてあげられんのです。
すまんねみんな、これは俺一人分しかないんです!
キノコを入れた酒が、じんわりとうっすら黄金に染まっていく。
キノコの色素とうまみが溶け出している証拠だ。
俺はそれを軽く一口流し込む。
「……染みるなぁ……」
誰だ、俺のこと親父くさいって言ったの! 俺もそう思う!
さすがに演技をするのに疲れた俺は、ほんの一時の休憩ということで、少しだけリラックスして表情を緩める。
だが、人知れず一息ついていた俺に向けられた何者かの視線に気が付き、咄嗟にそちらを少し強めに睨んでしまう。
その先には、頭から角を生やした、壮年をやや過ぎた魔族の女性の姿が。
他の魔族なら、俺がこんな風に睨むと平伏してしまうのだが、その女性はただ、こちらを値踏みするかのようにじっと見つめている。
……何者だ?
だが、そんな俺の疑問を他所に、その女性はゆっくりと保護区の奥へと姿を消していってしまった。
「ここに住んでいるのか……?」
追い駆けたい衝動に駆られるが、自分の目的を思い出し、みんなが集う広場へと戻る事にした。
広場には、すでに見慣れないヒューマンの娘さんが数名、他のみんなとテーブルを囲みながら、やや緊張した面持ちで魔族の冒険者と食事を楽しんでいた。
一同は俺が戻ってきたことに気がついたのか、先に食べ始めた事を謝罪しようと一斉に立ち上がる。
だがそれを手で制しながら、ゆっくりと周りに言い聞かせるように語りかける。
「構わない。子供たちの護衛、ご苦労だったな。今日は住人の皆さんと私からの日頃の感謝を込めた宴の席、どうかそのまま楽しんでくれ」
「はい! ありがとうございます!」
「とても美味しいです! カイヴォン様!」
「私の夫になって下さい! カイヴォン様」
「俺の嫁になって下さい! 魔王様!」
おい誰だ今の。
ややあって、ようやく奉公に出ていた娘さん達の緊張もほぐれ、彼女たちの弟や妹、両親からの話もあってか、現状がどうなっているのか分かってくれたらしい。
中には、もう奉公をやめてこっちに戻ってきたら良いと勧める親の姿まで。
うん、それでいいと思います。どんどん辞めてアーカムさん家を寂れさせましょう。
そして、話は俺へと向く。
「カイヴォン様。私たちの保護区を助けてくださり、ありがとうございました」
「ああ、どういたしまして。そうだ、お礼ついでに屋敷の様子を教えてもらえないか? 少々気になる事があってな」
「お屋敷の、ですか?」
娘さん達の代表として、ケージュの姉だと言うローリエと名乗る娘さんから、最近の屋敷の話を聞く事になった。
どうやら周りの魔族も興味があるらしく、やや緊張しながら彼女は語りだした。
「ええと……本当は屋敷の中の事は話しちゃいけないんですけど……お家騒動、でしょうか? 跡取りになるかもしれない方々が屋敷を追われて、一人の魔族の女性がお屋敷にやって来たんです。ただその……その方は少し変わった方で、アーカム様の言うことを聞かず、私たちのようなメイドにも親切にして下さって……」
少し恥ずかしそうに、彼女は屋敷における夜のお勤めについても細々と語りだした。
やはり、お手つきとなるメイドは多く、今この場にもその話を聞き、何人かの人間が魔族、ヒューマン共に少しだけ表情を暗くした。
だが、そんな事情すら最近は変わってきていると言う。
「ある時を境に、アーカム様がメイドに声をかける事がなくなったんです。どうやら、その魔族の女性……奥方様候補であるレイス様という方と、何かあったらしく……」
「……その何かと言うのは?」
大丈夫[サクリファイス]は何も示さない。
「わかりません……ですがある晩、私がレイス様のお部屋の番を、同僚のメイドと務めていた時の事です。深夜にアーカム様がやって来たのですが、その後すぐに凄い叫び声がして……私は怖くて入れなかったのですが、同僚が急いで中へと踏み込んで、少しすると全身を痙攣させたアーカム様を引きずって出てきたんです」
「引きずる……どうやらメイドにも嫌われているようだな、奴は」
「嫌われているといいますか、恐れ多くて……その同僚が特別動じないといいますか、少し変わった方なので」
あれですか、もしかしてそのメイドさんってエルフで髪が長かったりするんですかね。
……さては何か仕掛けたな?
[サクリファイス]すら発動しないとなると、恐らくそういった接触が起きる前に何か防衛が発動していると見た。
さすがですリュエ先生。
「そうか、それはなんとも滑稽な話だな。女を一人ものにも出来ず、求心力も失いつつあるか……やはりそうだな、奴に領主の荷は重すぎたようだ」
やや声量を上げ、俺はそう宣言して立ち上がる。
それに反応するのは、周りにいた魔族の冒険者一同。
皆『ついにこの時がきたか!』とでも言いたげな表情で立ち上がる。
なにみんな、期待してたの? しょうがないなぁ、期待に応えようじゃありませんか。
少し恥ずかしいが、俺は声高らかに宣言する。
「これより、私はアーカムを失墜させる。だが、今は機を待て! いずれ、それに相応しい舞台が整うだろう。ローリエ嬢、そのような舞台に心当たりはないか?」
突然の盛り上がりにあたふたとしている彼女に声をかけると、ようやく事情を飲み込めたのか、キリリと表情を引き締めながらそれを教えてくれた。
それは、ある意味既成事実を作り、レイスを取り込もうと言う、予想通りのものだった。
そしてそれは同時に、レイスが思い描く通りのシナリオ。
「近々発表されるはずでしたが、来週、アーカム様のお屋敷の庭で、婚約を発表するそうです。でもまさかこんな物語みたいな事が本当に……」
「物語のように行くかはわからないがね。しかし一筋縄では行かないだろう。まだ奴に賛同する魔族も多く、警備も厳重だ。昨今の我々の動きにも感づいているはず。おそらく警戒されているだろう」
ただ、俺にはどうも腑に落ちない点がある。
こんな独裁政権のようなやり方が長年続いていて、一切の反乱分子が生まれないなんて事はありえないのだ。
どこかに、地下組織や反アーカムを掲げる人間がいないと、あまりにも不自然だ。
だが、その不満が真っ先に爆発するであろう、ここヒューマン保護区でもそんな動きは見当たらない。
……だとすると、ヒューマン以外、か?
「あれー? ばあちゃんがいないよー」
「ほんとだー! さっきまで一緒に作ってたのに」
そんな内心の疑問、そして熱を滾らせた大人たちの決起を他所に、子供たちがごはんをよそいながら周りをキョロキョロと見渡していた。
何事かと子供たちの話を聞くと――
「あのねー、私たちにカゴの編み方とか、首飾りの作り方を教えてくれたおばーちゃんがいなくなっちゃったの」
「いっつも私たちのお家の一番奥にいるんだけどねー! さっきまでここにいたの!」
なるほど、今はひっそりと暮らしている年配の魔族の方々か。
そういえば、彼らはヒューマンを見下したりも、かといって他の魔族をたしなめるでもなく、不干渉を貫いていた。
それが最近、子供たちに手芸を教えながら、徐々に周りに溶け込み始めている。
……そういえば、さっきも見かけたな。
「すまないが、そこに案内してくれないか?」
俺は、確かな予感を胸に、その老婆の住まう場所へと向かうのだった。
保護区の最深部、区画長の家の脇から続く細い路地裏。
恐らく位置的に、ここから奥に進めば保護区の外に出る事になるのだろう。
その道を子供たちの後につづいて進むと、魔導具の配線やら、煙突やら、恐らく表の街に住む住人の生活を支えているであろうライフラインの配線が飛び出し、次第に頭を下げたりしないと通れない、一種の障害物競走のコースのような道へと様変わりする。
そしてようやくたどり着いたその場所は、四方を街壁、建物の壁、瓦礫の山に囲まれた、完全に孤立した空間だった。
なるほど、ここは保護区の外だが、ここに来るには保護区の最深部からじゃないと無理って事なのか。
しかし、まるでこの場所を覆い隠すような、孤立させるような街の発展の仕方に疑問も残る。
そして、このある種の閉鎖空間に、まるで取り残されたようにポツンと立つ、小さな建物の前までやって来た。
「おばーちゃーん! ごはんもってきたよー! たべよー!」
「他のおじいちゃんもおばあちゃんのぶんもあるよー!」
そして、ゆっくりとその扉が開いていく――
(´・ω・`)新しい作者の名前が決まりましたので、近いうちに変更します




