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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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八十四話

(´・ω・`)ビクンビクン

 夕食の時間まで『午後の掃除を手伝うため』と告げ、アーカムの元を一時的に離れた私は、屋敷の中を自由に散策していた。

 他のメイドさんに見つかっても、アーカムの命令だと言うだけ詮索もされず、こうして好きかってに歩きまわることが出来る。

 ほら、私が今日からアーカム付きのメイドだってみんな知ってるからね、誰も疑わないんだ。


「次は~よし、こっちの部屋に行ってみようかな」


 私の手にはめられたバングルは、もはやただのアクセサリーと化している。

 私は何の制約もなく、そして魔術式の施錠も全て無視して自由に扉を開ける。

 先ほどから私がしている事は、どうせカイくんがアーカムの全てを奪うのなら、私も何か大事な物を奪ってやろうというちょっとした嫌がらせ。

 この屋敷は無駄に部屋が多く、使われてもいないのに一部屋一部屋にとても豪華な家具が設置されている。

 ちょっと泥棒みたいだけど、私はそれらを全て調べて歩く。

 ……あれ、泥棒みたいじゃなくて、紛れも無い泥棒じゃないかなこれ。


「あ、新しい服がいっぱい入ってる……私のサイズには合いそうにないけど」


 どういうわけか次に私が訪れた部屋は、他の部屋に比べて一際広く、豪華な内装をしていた。

 そしてタンスの中には女性物の衣類がびっしりと。


「これ、全部レイスくらいのスタイルじゃないと合わないんじゃないかな……あ」


 そうか、ここはレイスをいつか迎えるための部屋なのか。

 ふむ、そうなるとレイスが一時とはいえ住むかもしれない場所だし、下手な事は出来ないかな?

 そうだ、一応ベッドにだけ魔術を仕組んでおこうかな。


「レイスもたまにお寝坊さんだからね、目覚ましヒールを仕込んでおこう」


 ついでに、人を察知して知らせてくれる魔術も。

 私は魔術を解析、研究は出来ても、こんな風に物品に術式を刻む魔導具の制作は本来専門外だ。

 レイスは逆にものづくりが得意だし、今度協力して何か作ってみようかな?


「これで、もしもの時も安心かな」


 保険完了。

 たぶん必要ないだろうけど、追い打ちは基本だってカイくんも言っていたからね。




 館の散策を粗方終えた私は、本来の業務に戻るために先に食堂へとやって来た。

 朝とは違い、テーブルの上には燭台や花瓶が置かれ、前に行った高級なレストランのようにしっかりとセットされている。

 知ってる、あのナイフとフォークは内側から使うんだろう? たしかそうだったはずだ。

 そしてそのナイフとフォークは、アーカムの分しか置かれていない。

 もう、朝の二人はこの館からいなくなってしまったんだね。

 少しだけ哀れに思いながら、私は所定の位置に着く。

 すると、程なくしてアーカムが現れた。


「ふむ、いささかテーブルが寂しいが、それももうすぐ終わる。ユエと言ったな、近々私の妻となる者がこの屋敷へと来る事になる。お前には彼女の身の回りの世話を命じる」

「かしこまりました」


 レイスの事だよね。

 うん、願ったり叶ったりだ。

 その後、何故かアーカムはナイフとフォークを外側から使い、朝と違い残さず全て食べてしまった。

 凄いね、あんな大きなお肉、私は食べたことがないよ。今度カイくんに大きなステーキを作って貰おうかな……。


「ククッ卑しいやつだ。そんな熱を込めた視線を送るな。安心しろ、たっぷり可愛がったやろう」

「左様ですか」


 何言ってるんだコイツ。私が見ていたのはカートに残された切り分けられる前のローストビーフなんだけど。

 いいなぁ……あれ、おもいっきり厚く切り分けて、ガブーっとかぶりついてみたいなぁ……。

 よくレイスは幸せそうにお肉を食べるけど、アレを見ると私もその気持が分かる気がするよ。

 今回のことが終わったら、レイスの慰安も込めて大きなお肉を用意してもらいたいなぁ。


 夕食を終え、アーカムは一人自分のプライベートスペースである屋敷の一角へと向かった。

 どうやら寝室やお風呂はそちらにあるらしく、てっきり私もそこに呼ばれてしまうのでは? と警戒したのだけど、私は先に寝室で待っていろと言われてしまう。

 …………時間的にそろそろじゃないかな? よかったね、そこがお風呂場で。

 一人アーカムの寝室の金庫や戸棚、鍵付きの引き出しを全て魔術で解錠して物色しながら、私は自分の魔術の発動を察知した。

 次の瞬間、館のどこからか雄叫びが聞こえたような気がした。


「……今宵は止めだ、部屋に戻れ」

「かしこまりました」


 一時間くらいしてから、どこかヤツれた、そして血走り気味な瞳をしたアーカムが戻ってきた。

 なんだろう、飢えた狼のようにも、怯えた羊にも見える目をしているけど。

 そうだ、これから毎日やったら、良いダメージになるんじゃないかな?

 私は去り際に、先ほどよりも強めに目覚ましヒールをかけたのだった。


 私は寮に戻らず、夜の館の散策を始める事に。

 日中は他の使用人が居て調べられなかった部屋も、今ならば大丈夫だろうと、隅々まで調べて歩く。

 食堂や台所、他にも怪しげな地下への入り口も見つけそこを探索していると、何か物音が聞こえてきた。

 地下室の正体はワインセラーで、数えきれない程のワインがまるで蜂の巣のように棚に収まっていた。

 魔術で生み出した光を頼りに、その薄暗い中を調べていると、どうやら物音の正体がセラーの奥、小さな扉の先から聞こえてきている事に気がついた。

 小さな、子供ですら少し頭を下げないとくぐれないその扉。

 なんだろうと思い近寄ると、中から人の声が聞こえてくるじゃないか。


「チーチー! チーチー?」

「めんどくしぇーはむ! はむは偉いから働かなくてもいいはむ」

「チッチッ! チチー!!」

「やなこった! はむはちょっとここに寄っただけはむ、絶対はたらかねーはむ!」

「チー……チッチッ?」

「はむは安住の地を求めるさすらいのハムネズミはむ。お前たちとは一味ちがうはむ」


 ……疲れてるのかな……最近朝早かったから。

 そういえば、この屋敷の料理を作っているのもハムネズミ族なんだよね。一度キッチンに掃除道具を運びに行ったら、沢山働いていたっけ。

 でも、この人の言葉を話しているのはなんだろう?

 もう少し聞いてみようと近づくと、地上へと向かう通路から人の足音がバタバタと響いてきた。

 何か起きたのかと、私は好奇心を押し殺してその場を後にする。


「ここも安住の地じゃないはむなぁー。はむの楽園はどこにあるはむ……」




 気が付かれないように一階へと戻り、足音が向かった先へと向かう。

 たぶん、さっきの足音はアーカムのプライベート区画に向かったはずだけど、よほど緊急じゃないとあそこへは誰も近づかないはず。

 私が廊下掃除をしていた時も、その区画だけはローズさんしか入ることが出来なかった。

 あ、じゃあ今は私が掃除しなきゃいけないんじゃないのかな……いいや、アーカムの屋敷だし。

 寝室の前へと着くと、何やら慌ただしい声が中から漏れてくる。


「クイーンはこの街を出ると宣言しました。恐らく昨夜の件を察知したのやもしれません」

「ふむ、馬車を用意しろ。今すぐ向かい釘を刺して置かなければなるまい」

「かしこまりました、すぐにでも!」

「ククク、どこまでも私を焦らすのが上手な女だ……。素直に我の元へ下れば良いものを、いじらしいではないか」


 こちらへと向かう気配を感じ、すぐさま物陰に隠れてやり過ごす。

 クイーン? 街を出る? 何の話だろう?

 けれど、アイツが喜ぶという事は、きっと私にとっては嬉しくない事に違いない。

 何事もなければいいのだけど……。


「ククク……ぐぅ!? う、ぬ、おおおおおおお」


 あ、目覚ましヒール発動した。


 フラフラと幽鬼のごとく立ち去るアーカムを見送りながら、私は再び寝室へと忍びこむ。

 さっきは金庫の中から高価そうな指輪やら何やらアクセサリーを盗み出し、それで満足したけれど、もしかしたらまだ何か隠されているかもしれない。

 私も、一番大切な物は寝室に隠していたし、考えてみればあからさまに目立つ金庫なんて囮にしか思えない。

 たぶん、他にも何かあるんじゃないのかな?


「ベッドの下とかはさすがにないかな……カイくんなら隅々まで調べられそうなのに」


 カイくんがたまに使う、剣を地面に突き刺す技。

 私は魔力の察知、探知が得意だから、あの技を使われると全身がビリビリと痺れるような、マッサージでもされているかのような感覚に襲われる。

 実は結構気持ちいいんだよね。

 ともかく、私も真似して魔力を放出してみる。

 波紋のようにゆっくりと放出されたそれは、ベッドやテーブル、壁にかけられた絵画や天井の照明に当たり、波長を乱しながら私にその存在を知らせてくれる。

 同じように二度、三度と放出を繰り返し、読み取る情報を取捨選択し、やがて――


「……見つけた。ベッドに仕掛けがあるんだ」


 ベッドの波長の一部が狂っている。

 それは枕側の足の一部で、そこを重点的に調べると、パーツの継ぎ目ではない、明らかに不自然な隙間が見つかった。

 爪を立ててその隙間に差し込むと、パカっとその部分が外れ、そこには何やら白い石が隠されていた。

 なんだろう、うっすらと光沢があって、真珠のようにも見えるけれども。

 私はそれがなんだか分からず、一度アイテムパックにしまい込む。


『契約の魂珠』

『魂縛の契約の証』

『契約相手が所有する限り、本来の魂珠の持ち主は逆らう事が出来ない』

『持ち主の魔力の高さにに応じて、大きさと輝きが増す』


 私はそれが何なのか、直ちに理解した。

 もう一度取り出したそれは、私の手で握ると指に隙間が出来てしまうくらいには大きく、乳白色で美しく輝いていた。

 これがどんな魔術、魔法の契約なのかはわからないけど、きっとこの持ち主はかなりの使い手に違いないと確信する。

 ……これ、アーカムが誰かを従わせるための物なのかな? これも一応私が預かっておこう。


「うん、中々の収穫じゃないか。じゃあ今日はこれで勘弁してあげるよ」


 さぁ、明日はどうやっていじめてやろうか。

(´・ω・`)枯れる(何が)

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