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五話

 話が進むよ! やったねぼんぼん

「なんだこれ……身体おっも」


 まだ痛む頭に顔をしかめつつも起き上がり、残された氷山の残骸を見上げる。

 広がる空の青さに、先程までの死闘(?)が嘘であったかのように思えてしまうが、 開いたステータス画面を確認してそれが実際にあった事だと認識する。


【レベル】399


 そこに表示されている、最初に目に留まる項目。

 俺のやってたゲームって最大レベル200なんですよね。

 199も上がってるんですがそれは。

 いや、もうここがゲームでも夢でもないのだし、そういう上限がなくなってるって事で納得は出来るが。

 しかしアビリティの効果で経験値を10倍もらったのは理解出来るけど、これはさすがに、ねぇ?


「ていうかあのコンボで死んだのかよアイツ」


 こちとら女一人を外の世界につれていくために、決死の覚悟で挑んだってのに、蓋を開けて見ればただの瞬殺劇。

 拍子抜けってレベルじゃないぞこれ。

 しかし、それだけこの剣が強くなったんだな、と思うと感傷深くもある。

 お前さん(奪剣)すっかり強くなっちまって……。



【アビリティ獲得】

『天空の覇者』

『龍神の加護』

『生命力極限強化』


 おっとー?

 まだ強くなりますかアナタ。










 さて、ステータスも確認出来たし、新たにアビリティを習得出来た事により、あの龍を完全に倒せたと確信が持てた。

 だが問題は『本当にコレがリュエを縛り付けていた原因なのか?』という事だ。

 この大騒ぎ、恐らくリュエが駆けつけてきてもおかしくはない筈だが、はたしてどうなるのか。


「とりあえず様子を見に行くべきか否か」


 いや、ここで待つか。

 その間にアビリティの効果を確認しておこう。


『天空の覇者』

 【空に属する者全てに対して与えるダメージが5倍、受けるダメージが1/5になる。ただし経験値が習得出来なくなる】


 これはドラゴンに限らず効果を発揮すると見て良いのか。

 経験値が貰えないとは言うが、一年間Lv200の状態で過ごしてきたが、危険な魔物が多いと言われているこの場所ですら苦戦した記憶がない。

 ましてや奪剣をほとんど縛った状態でだ。

 つまりこれはデメリットにはなりえない。



『龍神の加護』

 【精神に起因する全状態異常を完全に無効化する。またあらゆる攻撃に対して耐性を得る】


 これは文句なしに強い。レギュラー入り決定である。

 やっぱりどんなに強くなっても搦め手系の攻撃って恐いからな。

 ゲームで育ちきったキャラ同士が混乱状態で同士討ちした時の惨劇、あれは一種のトラウマである。

 そして曖昧な表現ではあるが『あらゆる攻撃に対して耐性』この一文がなくても十分魅力的だと言うのに、本当素晴らしい。



『生命力極限強化』

 【最大HPが倍加し自動回復を得る。回復量 最大HP3%/1s】


 ……うわぁ。

 えげつねぇ、これは酷い。

 これ完全に『吸生剣』殺しにかかってきてますわ。

 秒間3%回復っておかしいだろ。

 本来自然回復が存在するのはMPだけ、HPが自然回復なんて、補助魔法の効果しかなかったぞ。

 それも、秒間じゃなくて5秒間に2%で、合計回復量にも制限があったし。

 だがこれにはそんな記述はないし、恐らく本当に際限なく回復するのだろう。

 ちなみに、Lvもあがって俺の最大HPは『9022』である。

 ゲーム時代、一番HPの多い『堅牢騎士』が、カンストであるLv200でHP『8000』前後だった事を考えれば、破格の数字である。

 で、それがアビリティで2倍、つまり『18044』だ。

 それの3%、約『540』が毎秒回復するって計算だ。

 ……こいつはやべぇ。

 俺の防御力度外視の見た目重視の装備でも、ラスボス扱いだった『創造神アストラル』の通常攻撃を食らった時のダメージが988。

 ラスボスの与えるダメージの半分以上を毎秒回復て、もう本当泣いて良いぞ神。



 しかしこうして膨大な力を手に入れた所で、何か野望があるわけでもなし、大きな目標があるわけでもなし。

 これがもしゲームで、競い合う他のプレイヤーでもいよう物なら、この力に酔いしれる、なんて事もあったかもしれない。

 ……たぶん酔っても最初の1時間くらいだろうけど。






「これは……カイ君、これはどういう事だ! 何故封印が、あれはどこにいった!?」


 背後からの声に、手に入れた力の事を頭から放り出し、気持ちを切り替えて振り返る。

 そこには、今にも泣き出しそうな、危うい気配を身にまとった彼女の姿。


「わ、わたしが……今まで何の為にここにいたと……世界がまた、ああ、どうすればいい」


 ……あれ?

 これはもしかしなくても勘違いしてるな。


「カイ君……何故こんな……君なのか、君が封印を解いたのか……?」


 幽鬼の如くゆらゆらと、生気を失った表情で歩み寄ってくるリュエ。

 この姿は、ちょっと尋常じゃない。

 そろそろハッキリさせないといけない。


「リュエ、落ち着いて聞いてくれ」

「……なんだい、私はもう、どうしたらいいのか、わからない……」

「アレが、リュエがここから離れられない理由だったのか?」

「そうだよ。ああ……だからあいつを逃がしたのかい……? あはは、ダメなんだよアレは、あはは」

「いや、逃がしてはいないんだけど」


 空を見上げながら、乾いた笑い声を漏らす姿に、ある種の狂気を感じる。

 それほどまでの相手だったのだろうか。

 いや、あの姿、そしてプレッシャーはただの魔物が放つソレではなかった。

 ……い、今更だけどアレ、倒しちゃってよかったんだよな!?

 もしや逆に、ずっと守っていた存在だったとかそういうのじゃないよな!?


「私が、殆ど全ての魔力をアレの封印にまわしていたんだ。そうでもしなければ、私でなければアレを抑える事が出来ないから……」

「そ、そうなのか。けどもう――」

「……私は、どうすればいい。何年も、何十年も、何百年も! 何のために私は――世界が、また見えざる神の手に落ちてしまうと言うのか!?」


 見えざる神……?

 今の彼女はどう見ても正気には見えない、ここで俺が先程の龍を倒したと言っても取り合って貰えないかもしれない。

 何か、彼女の気をひける物はないか。

 ……もしも、彼女がRyueだとしたら、もしも、ここが俺の知るゲームと密接に関わっているとしたら、もしかしたら――


「リュエ、Daria、Syun、この二人の名前に聞き覚えはないか?」


 俺は咄嗟に、一番長く俺と一緒に遊んでいた二人の名前を彼女に告げる。

 俺がRyueを操作し、育成をする間、常に一緒に戦い、手伝いをしてくれていた。

 もしも、もしも彼女に俺がプレイヤーとして彼女を使っていた記憶が、なんらかの形でのこっていたら。


「何を突然……ダリア? シュン?」

「金髪のエルフと、背の低い人間の剣士! おかしな闘い方ばかりする魔導師と、おしゃべりばかりの剣士だ!」

「……知っている、それがどうした? いや、なんで知っているんだカイ君」

「やっぱり……じゃあ俺と同じ名前に心辺りは!?」


 これが、懸念。

 システム上、KaivonとRyueは同時に存在出来ない。

 一人を使えば、残りはサーバーのどこかに眠っている状態だ。

 だが、もしもなんらかの形で知っていたら――


「知っている。解放者カイヴォン。私の友人達が、彼と知り合いだったらしい……ああ、そうだよ。私は創世期から今に至るまで生きているんだ」

「創世期がなんだか、解放者がなんなのか俺はわからない。けれど、俺は今も昔も、名前はカイヴォンだ!」

「……何を言っている。彼は人間ではなかったと伝承に――」


 何かに気が付き、彼女は今の俺の姿を見つめる。

 どういう訳か、俺が一番力を引き出せるのはこの姿だ。

 漆黒の翼、黄金の角、血と闇を思わせる瞳、そして顔半分を覆う白いマスク。


「俺は、何も分からない。けれど、ここにいた龍は俺が倒した」

「……嘘だ」

「ただ、アイツがいなければお前と、リュエと旅が出来ると思ったから」

「アイツは、龍神は人がどうこう出来る相手じゃない。それは“創世記”から生きている私が一番よく――」

「俺をナメるな! 俺はな、世界の終わりの日、神を、七星を滅したカイヴォンだ! あんなトカゲ一匹、俺の相手じゃない!」


 剣を出現させ、ただただ自分を高める言葉を紡ぎ、覇気をみなぎらせる。

 俺の勢いに飲まれたのか、口をつぐみ、まるですがるような目で彼女はこちらを伺う。


「……本当に、倒したのか?」

「証拠がいるか?」


 この世界の魔物は、命を失うと身体を消失させる。

 残される肉や骨、一部の有用な部位も存在するが、このメニュー画面を出す事が出来る人間は、他に人がいない場合、自動的にメニューに保存される。

 凄く不公平な、この力を持っているだけで嫉妬や迫害、利用しようとする人間もいたそうだ。

 そんな彼女の説明を思い出しながら、先程のシステムログを見直し、入手したアイテムを確認する。


『龍神の晶角』

『龍神の晶牙』

『龍神の逆鱗』

『神刀"龍仙"』


 なんか凄いレアそうなの拾ってる。

 しかも明らかに1本、ゲーム時代ならレア度MAXになりそうな武器が。

 んー、これ出しても証拠にならなそうだし、ひと目でわかりそうな角にしておくか。


「ほら、これでどうだ?」


 オブジェクト化する、原寸大の巨大な角。

 まるで水晶のように透き通り、うっすらと青く色づいている。

 凄い素材なんだろうが、個人的にはインテリアとして飾りたい、そんな逸品である。


「っ! じゃ、じゃあ本当に? 私はもう、ここから出られるのか!?」


 その後、崩れ落ちるように膝をつき、泣きだした彼女をあやし、一先ず家へと戻る事となった。








「取り乱してすまない。では、本当に君はあのカイヴォンと言う事でいいのかい?」

「どのカイヴォンかはわからないけどね。正直、俺は何も知らないんだ。最後の日に七星を倒して、世界が終わるのを見届けただけだ」


 先ほど咄嗟に言った事だが、この世界には俺の行動、最終日の行動が神格化して伝わっているらしい。

 その内容はこうだ。




 【この世界の支配者たる神々が、ある時、世界を捨てる事に決めた。

 神々は全てを無に還さんと、使徒である七星のうち、6体を遣わせた。

 だが、一人の剣士が終わりゆく世界をなんとしても神の手から奪い取る事が出来ないかと、七星相手に仲間たちと立ち上がった。

 やがて、七星のウチ6体を打ち倒し、最後の七星である、神そのものの化身と“剣士カイヴォン”は死闘を繰り広げる。

 戦いの末、勝利をおさめたカイヴォンに、神は屈服し、世界を明け渡す。

 世界は神の手から離れ、人の物となった。だが、神は最後の最後で裏切った。

 世界に新たな七星を遣わし、ひっそりと、自分達がいつかまた干渉出来るように楔を打ち込んだ。

 そして、その剣士を自分たちもろとも、次元の間に連れ去ってしまったのであった】


 ……なんか凄い脚色されてるけど、大体あってる。

 というとあれか、あのゲームは実は異世界とリンクしていたとかそういうオチなのか?

 ただそうなると、リュエはやはり俺の作ったリュエと言う事になる。

 その彼女がこれまでどう過ごしてきたのか、それを知りたい。

 俺はどうやらとんでもない未来に来たようだが、彼女はゲームの終わり直後ではないにせよ、俺より遥か前からここで生きているのだから。



「私は気がついたらこの森にいたんだ。初めは私と同じ境遇の人間を探して歩いたのだけどね、私のように“神隷記”の記憶を持った存在を見つける事が出来なかった。だから、元々根無し草だった私は、諦めて自分と同じ種族であるエルフの里で過ごす事にしたんだ。だが――」



 彼女は老いることがなかった。

 長命のエルフとは言え、その異質さを受けれ入れる事は難しかったと言う。

 だが、彼らはリュエにある役目を与える代わりに、里に置くことを許可した。


「私は魔力の回復が常人のソレとは比べ物にならないんだ。だから、その無限の魔力を以ってこの地に眠る龍神を封じ続ける事になった」


 契約で縛られ、この地に留まる事になったリュエ。

 だが、彼らはその約束を破った。

 いや、破ってはいないのだろう。

 リュエはただ『私をこの場所に置いて欲しい』と願っただけだ。

 だから彼らは『リュエをこの地に縛り付けた』そして自分たちは、新たなる安寧の地を求め――


 そこまで聞いて、俺は溢れ出る感情を抑えきれなくなった。

 リュエは、俺の恩人であると同時に……喩えるならそう"娘"だ。

 俺が生み出し、育て、大事にしてきたリュエ。

 それが意思を持ち、この世界で生きている。


 それがどんなに嬉しいか、どんなに心の拠り所となった事か。

 それを、エルフ達は……。


「私が愚かだったんだよ。"置いて欲しい"と言うのは、彼らの仲間として、一緒に暮らしたいという意味だったんだけれどね」

「なぁ、今からエルフ達を滅ぼしに行っても良いか?」

「や、やめてくれ! 別にエルフ全員がそうだったわけじゃない、当時の長や一部の族長の決定で、最後まで私を気にかけ、残ってくれた者達だっていたんだ」


 それを聞きほっとする。

 いやだって俺エルフ好きだし。その結果がリュエだし。

 今のフォローがなければ俺の性癖が一つかわってしまっていたよ。


「だがそれも今日までだ。もう一度言う。リュエ、俺と一緒に世界を見てまわらないか」


 もう、彼女を縛り付ける物は何もない筈だ。

 なら、これから先は俺と一緒に――


「もちろんだ。私をもう、一人にしないでくれ」


 思わず息を飲むような笑顔で、彼女はそう答えたのだった。

 ある意味ここまでプロローグ

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