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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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八十一話

(´・ω・`)ガバガバだよこれじゃあ!

 何かの音が聞こえる。

 何かを叩くような、小さな音。

 次第に大きくなっていくそれは、ついには私の眠りを明確に妨害するまでの騒音となった。

 ……あ!


「申し訳ありません、少々お待ちください」


 急ぎ硬いベッドから飛び起きた私は、自分に回復魔術を使い眠気を覚まし、自分の姿を確認して急いで服を着る。

 寝苦しいと脱いでしまうこの癖はなんとかならないのかな?

 いっその事最初から脱いで寝たら……ダメだ、最近はレイスと一緒だし、そんな恥ずかしい事は出来ない。

 ともかく、急いで私服を着込んだ私は、気を引き締めて扉へ向かう。

 ……あれ、ここって外から鍵がかかってたと思ったけど、内側からも開けられるのかな?


「すみません、鍵の開け方が分からないのですが、どうすれば良いでしょうか?」

「手首のバングルをかざして下さい。懲罰用の施錠でなければそれで外せる筈です」


 なるほど、バングルで鍵の効果を変えることが出来るんだ。

 きっと上位権限を持つ人なら内側からは開けられなくする術式を使う事も出来て、それで管理すると。

 もしかして時限式だったり、遠隔操作まで出来たりするのだろうか? 興味は尽きない。

 ……そういえば昨日バングルの術式をいじったからうまく動かないかもしれない。

 私は咄嗟に、術式を解体した時の事を思い出し、それを模倣して魔術を使う。

 すると、ガチャリとロックが外れる音がした。

 ……これって、マスターキーになったりするんじゃないかな?


「お待たせして申し訳ありません。今日からお世話になります、ユエと申します」


 扉の先には、イクスさんではなく、ヒューマンの女の子、年の頃は一八、一九くらいの素朴な感じの子。

 彼女は一礼する私を見るなりポカンと口を開けた後、ようやく反応を返してくれた。


「今日からユエさんの教育係を努めさせて頂きます『ローリエ』です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、ローリエさん」


 彼女に連れられて、私は一つ下の階へとやってきた。

 ここは他の階と違い、大きなホールのようになっていて、そこに試着室のような場所と、大きなウォークインクローゼットが用意されていた。

 ローリエちゃんが言うには、私が居た階は物置や一時的な寝床が集中しているらしく、今日からは別な階に部屋が用意されるそうだ。

 私は、クローゼットの中に大量にぶら下がっているメイド服に圧倒される。凄い、こんなに沢山服がある……全部同じだけど。


「自分のサイズは分かりますか? 奥に行くほど背の高い人向けの物で、右に行くほどスタイルの良い人向けの物になっています」

「わかりました」


 私は真っ先に右の一番奥へと向かいメイド服を手に取る。

 そして絶望した。

 仕方なく私は少し前へと出て、自分の背の高さに合うものを見つけて試着室へと向かう。

 そこで私は、二度目の絶望を味わう事になった。


「あの、宜しければ私が見繕いますが」

「問題ありません、少々お待ち下さい」


 ……その後、一番左の列で私は自分のサイズに合うメイド服を見つけることが出来た。

 きっと誰かが間違えて戻したんだよ……。


「では次に基本的な作法なのですが、ユエさんは既に言葉使いも含めて問題はないようですので、お仕事について説明したいと思います。本館へ移動しますのでついて来てください」


 彼女は門番に何か紙を見せ、門を開けてもらう。通行証か何かかな?

 敷地内には小さな林に草原、綺麗に色分けされた花畑と、隅々まで手が入れられ、誰が見えても美しいと答えるような庭園が広がっている。

 そんな庭園の隅を通り館の背面へと回ると、小さな扉が現れた。


「ここが私たちのような家政婦、料理人、警備の人間が使う通用口です。間違っても表の玄関は使わないで下さいね」

「わかりました。あそこは一定以上の身分の使用人でなければ使えないのですね?」

「ええと、そうだと思います。あの、どうしてそう思われたのですか?」

「先日、イクス様があちらを使用しておりましたので」

「なるほど……」


 私の仕事は、初めのうちは掃除だけらしい。

 何が出来るかと聞かれたときに、掃除と簡単な料理くらいなら、と答えたところ、料理は基本的に料理人の人たちが作るので、厨房へは滅多に入る事はないみたい。

 ……潰すだけなら誰にも負けないのに。ゆで卵とかゆで卵とかゆで卵とか。

 ただ、賄いは自分たちで作るらしくて、その際は余った材料を貰い、使用人寮、つまりあの塔の中にあるキッチンで作る事になると言う。


「では、朝の掃除は毎朝五時から始め、七時には終わりますので、本日は午後の掃除から一緒にやっていきましょう」

「……分かりました」


 五時……どうしよう、ここは地獄だ。






 働き始めて今日で三日。

 最初のうちはトイレや普段使われていない部屋の掃除ばかりだったけれど、今日からは廊下やそこに飾られている調度品、すなわち人の目に触れる機会の多い場所の掃除に回される事になった。

 そしてそれは、まだ見ぬアーカムをこの目で確認する機会が来るという事を意味していた。


「あうっふっ……この目覚ましヒールはいい考えだと思ったんだけどなぁ、もう少し改良しないと」


 そして私は、この地獄のような早起き、掃除の始まる時間に間に合うよう四時に起きるように、と言われ編み出した魔術で今日も目を覚ます。

 気持ち良く目が覚めるようにいろいろ調整していたら、なんだかとんでもない気持ちよさで強制的に目が覚める恐ろしい魔術になってしまった。

 調整次第で凄い魔術、いや魔法にまで化けると思うけれども、今は一先ずその考えを置いておこう。

 身支度を整え、今日も私の戦場へと向かうのだった。


「おはようございます、本日よりこちらのお掃除のお手伝いをさせて頂く事になりましたユエと申します。未熟者ですので、至らない点や指示などが御座いましたら、どうぞご遠慮なく申しつけ下さい」

「はじめましてユエさん。この屋敷のメイド長を務めます『ローズ』です。奉公三日目にして表へと来ただけはありますね」

「いえ、私などまだまだ未熟者です。少しでも使えるようにと様々な経験をさせて頂いているだけでしょう」

「ふふ、行き過ぎた謙遜はいらぬ争いの原因になりますよ。では、今日は私が付きます、他の皆さんはいつも通りお願いしますね」


 館の廊下には、既に一八名のメイドさんが待ち構えていたので、自分に気合を入れるためにも力を入れて挨拶をした所、代表と思しきメイドさんに褒められてしまった。

 彼女、ローズさんは魔族のようで、レイスに良く似た蝙蝠の羽を頭の両サイドから生やしている。

 ……あと、胸も大きかった。知ってるよ、どうせその服はクローゼットの右奥にあったんだろう。


「ユエさん、先ほどは言いませんでしたが、この班に配属された人間は皆、共通点があります」

「……私が見た限りでは、皆さんとてもお綺麗な方でしたね、もちろんローズ様も」


 私がそういうと、まるで言われ慣れているのか、それとも当然だと思っているのか特に照れも謙遜もせず、そのまま彼女は続けた。


「お気づきでしたら話は早いのですが、そういう事です。もしアーカム様にお声を頂いたら、必ずお受けするように」

「……わかりました」

「それと、失礼ですがユエさんは経験はありますか? もしないようでしたら、お手伝い出来る事もあるのですが」


 ……なんと答えたら正解なのかわからない!

 経験なんてあるわけがないじゃないか、何を言ってるんだこの人は。

 私は結婚もしていないし、恋人だって……まだじゃないし。違う『いない』だ『じゃない』じゃない。

 それに手伝うって何を手伝うんだろう、訳が分からない、頭が痛くなってきたよ。


「……ご想像にお任せします」

「わかりました。ですが、くれぐれも反抗や抵抗はなさいませんように……過去に何人ものメイドが『処分』されてしまいましたから」


 ……もう殺しちゃった方良いんじゃないかな。

 犯人が分からなければそれでいいと思うんだよね。

 そして私は今日、仕事中についに対面する事になった。

 私たちの敵、レイスを苦しめる元凶、そして、もう一人の魔王であるアーカムと。






「本日も無事に営業が終わりました。では、今日の分のお給金です」


 深夜二時、店主さんから今日の分のお給料を頂き、私は今の職場である酒場を後にしました。

 街に到着し、私はすぐにカイさんと別れて一人、このお店のウェイトレスとして働いています。

 今日で街に着いて五日、先に私たちから別れたリュエは、無事に屋敷へと潜入出来たのでしょうか?

 もしも一週間経ってまだ無理だったのなら、ギルドを介して私に連絡が来る手はずになっているのですが……。


「それにしても、意外とこちらも遅かったみたいですね」


 そして帰り道、今日になってついに、私の後を付ける何者かの気配を感じました。

 あまりグレードの低い宿では、それこそ私を自分の欲望のために付け狙う輩が現れるかも知れないと思い、街の奥まった、富裕層向けの宿場通りの宿を選びました。

 ここならば領主の館にも近く、付け狙う相手も限られると思っていましたが、ようやく釣れたようです。

 恐らく今日は下見と確認。本格的に行動に移るのはもう少し後になるはずです。

 アーカムも、私が力尽くでどうにか出来る相手ではないとわかっているはず。

 昔もゴロツキを使い私を拉致しようとしましたが、その度に返り討ちにしてきましたからね。

 今の時代はあの時よりも冒険者の能力も下がっていますし、恐らく一番の手駒である方達も、カイさんの手によって葬られました。

 以前、不意打ちを受けた事もありましたが、あの時もカイさんが防いでくれましたね。あれはこちらの現在の戦力を図る目的だったのでしょうか?

 ともあれ大丈夫、恐がる必要なんてありません。ですがそれでも、私の手は自然と首にかかるネックレスへと伸び、そして手首についた腕輪を撫でる。

 カイさんが私にくれたお守り。絶対に守ると私に特別な術をかけ、そして腕輪にも特別な力を与え、渡してくれました。

 そのおかげで、私は震えることなく、宿へと戻る事が出来たのでした。

(´・ω・`)りゅえは ふかいかなしみに つつまれた

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