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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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七十八話

(´・ω・`)もう秋です。作中ではまだ初夏ですが、そろそろきのこ狩りにいきたいです。

 徹底抗戦するって言ったじゃないですかー!


「すべてカイヴォン様のご命令通りにさせて頂きます。この度は我らギルドの力及ばず、カイヴォン様のお手を煩わせる形になってしまい、なんと申し開きをしたら良いか……」


 そういえば、ギルドの職員の殆どがヒューマンだったんですよね。

 そして長もその例に漏れず、さらに他のヒューマン同様に低姿勢である。

 聞けば、ギルド側が注意をしようにも、冒険者達が言うことを聞いてくれないという事もしばしばあるとか。

 もちろん他の地方から来た魔族でない冒険者もいるが、郷に入らば郷に従えを実践しているのか、魔族の冒険者に食って掛かる者も少なく、表立ってギルドの指示ばかり聞くのも難しいのだろう。

 恐らく、中にはこの街の異常な『気風』に染まってしまう者もいるはずだ。


 もちろん外部から来た冒険者の中にはそんな気風を物ともしない猛者もいたが、さらにその上の実力者がこれまた魔族だったため、それも抑えこまれてしまっていたそうだ。

 だが、最近その勢力図が徐々に乱れ始めているらしい。

 そのきっかけは、オインクの政策の一つである『各支部に白銀持ちかそれに準ずる実力者を配する』によってここに所属していた、上位魔族のパーティーの消息が掴めなくなった事が起因している。

 まぁ元々アーカムの息のかかった連中だったそうだが、そのパーティーが半月ほど前、領主の密命を受けた後、その姿を見なくなったとかなんとか。

 ……あれだ、きっと一人を残して亡くなったんだろう。具体的に言うとアキダルの近くの街道で。

 つまり、今この街の冒険者は、トップの魔族を失っている状態。

 これにより、外部から来た冒険者達の勢力が増してきており、硬直状態が続いているそうだ。


「では私は好きにさせて貰う。それと、領主のアーカムはこの件に口出しはしてこないのか?」

「オインク様の手前、アーカム様がギルドに過剰な干渉をする事はありませんが……カイヴォン様はアーカム様と仲が宜しいので?」

「何故そう思った」

「いえ、親しげに名を呼んでおりましたし、その……お姿が……」

「……さてな」


 へー! ふーん!

 ともあれ、これで俺は自由に動けるようになったと。




 ギルド長の部屋から出た俺は、その足で掲示板へと向かう。

 その中の雑用のような依頼ばかりを選び、全て受注する。

 受付も驚いていたが、問題ないと伝え無事に依頼を受けた所で、背後から何者かの声がかかる。


「アンタ、さっき言ったの本当か? この街の魔族連中がおかしいと思ってはいたが、本当に取り締まってくれるのか?」

「君は?」

「すまねぇ、俺は旅の途中でここに立ち寄ったモンなんだが、どうもこの街の居心地が悪くてよ、近々出ていこうと思ってたんだ」


 声をかけてきたのは、筋骨隆々の、若干厳つい顔の壮年の男性だった。

 タンクトップの上からジャケットを着ただけの上半身に、作業ズボンのようなものを履いたその姿は、旅人と言うよりも腰を据えた職人のように見えた。


「いちおう俺も冒険者なんだが、どうもここはおかしい。魔族は元々職人気質だってのに、この街の連中は自分たちが支配者だと言わんばかりだ。……まぁアンタも別な意味で支配者みたいに見えるけどよ」

「それは褒め言葉として受け取っておこう。そうだな、私もこの街は異常だと思う。この在り方を変えるべき時が来たと、私は思う」

「……もし、本気で動くってんなら、俺も手伝うぜ。俺の名前は『ゴトー』だ、何かあったら声かけてくれ」

「分かった。今はまだ体制が整っていないが、何れ手を借りる事になるだろう」

「へへ、期待してるぜカイヴォンさんよ」


 手を上げながら去る姿が、ちょっとかっこいいと思ってしまった。

 俺もあんなかっこいいオッサンになりたいものだ。

 生憎俺はまだオッサンじゃないからね、仕方ないね。お兄さんもいつか渋いオッサンになるんです。

 いつかな、いつか。




 やって参りました街の外れ。

 もはやお約束と言って良いこの区画、貧民街と呼ばれる場所へとたどり着きました

 こういった場所は大きな街には付き物だが、正式名称はヒューマン保護区画。

 何かと高圧的な魔族から守るため、一箇所に集めて協力しあいましょうというのがここのコンセプトだそうな。

 そして、実際パっと見は貧民街の名に相応しい様相だが、人々の表情は想像していたそれとは違い、楽しそうに動き回っている。

 これが、この街の賢いところであり、狡猾なところでもあるのだろう。

 限られた場所とはいえ、自由に自分たちで協力し合える場所があるというだけで、ある程度の不満は解消されてしまう。

 ましてや、これが当たり前なのだと長年すりこまれているため、疑問にすら思わない。

 多くの仲間に囲まれているからこそ、少しくらいの理不尽はへっちゃらだと思っているのだろう。

 ……少しくらいの理不尽、そう思ってすらいないのかもしれないが。

 で、そんな場所に場違いな魔王ルックで現れた俺だが、案の定俺の姿を見つけるや否や、驚愕に染め上げられる住人の顔。

 悲しそうな顔や、恐がられるという事はないが、やはりぎこちなくなってしまう一同に、精神的ダメージを受けてしまう。

 ダイジョウブ、コワクナイ、コワクナイヨ。


「すまない、ギルドで依頼を受けたのだが、この区画の代表者はどちらにおられるだろうか?」

「だ、だだだだだだだ、だいひょ……代表ですか!?」


 一番近くにいた若い女性に声をかけると、まるでマシンガンの銃声の物まねでもしているかのような返答をされてしまう。

 やめてくれ、その銃撃は俺に効く、やめてくれ、主に精神に効くから。

 そんなトリガーハッピーな女性に続き区画の深部へと進んで行くと、こちらを不安そうに見つめる視線を感じるも、どうやらそれは俺ではなく、前を行く女性を心配するもののようだった。

 大丈夫、本当に何もしないから! いや仕事はするけども。


「こちらが区画長の住居です」

「案内、感謝する。……そう不安そうな顔をしないでくれ、私はここの代表が出した依頼を受けに来た冒険者に過ぎない、これから君たちの元で働く事になる者だ、どうかよろしく頼む」


 あんまりにも不安そうなその姿に、こちらから声をかけてしまう。

 きっと、この区画長と呼ばれる人間はそれほどまでにここの住人達に慕われているのだろう。


「依頼……ですか?」

「ああ、そうだ。では私は行かせてもらうよ」


 あー、この目の所為ですかね? いくら微笑んでも効果がないのは。

 アビリティで[ニコポ]とかありませんかね? いやポまでいかなくていいから、ニコっと返してもらいたい。

 さしずめニコニk……っとまずは挨拶をせねば。


「すまない、ギルドから依頼を受けた者なのだが!」

「おー! やっと来てくれたか! いやぁ中々外部の冒険者が訪れてくれなくて……ヒェッ」


 ですよね。

 現れたのは、少々痩せ型のひょろりとした中年の男性だった。

 おそらくこの街の冒険者はここの依頼をあまり受けないため、外部の人間が受けてくれるのを待っていたのだろう。

 で、そこに現れたのが魔族の親玉にしか見えない俺。

 そりゃこうなりますわな。


「大丈夫か?」

「も、申し訳ありません魔族様。何かの手違いでございましょう、我々が出した依頼はほとんどが雑用、貴方様のお手煩わす――」

「いや、しっかりと確認済みだ。屋根の修理に家の補修、力仕事全般に食料の調達だろう? しっかりと働かせてもらうぞ」


 区画長さんの口が、拳でも飲み込みそうなくらい開かれてしまいましたとさ。




「いいぞ、板を立ててくれ」

「は、はい!」


 魔王が屋根にいる風景。あるある。

 魔王がねじり鉢巻。あるある。仮面は邪魔なので外しております。

 ……そんな風景ある訳ないだろ! しかし今ここにその夢のような光景が広がっております。


「屋根の材質自体はかなり頑丈だな……釘を打っても問題なさそうだ」


 力加減が難しいが、これでも手先は器用な方なので、今のところ問題なく作業が進んでおります。

 今回は手始めに、区画長の家の屋根の修理をさせてもらっています。

 木製の屋根なので、適当に板で塞いだ後に、何やらタールのような薬品を塗って完成だとか。

 しかし、これが中々に難しく、常人ではこの高さまで板を運ぶことが出来ないそうだ。

 そりゃあこんだけ大きな穴じゃあ、相応に大きな板が必要ですからね。


「ほ、本当に一人で大丈夫ですか?」

「冒険者の名は伊達ではないさ。そら、手を離していいぞみんな」


 その板を運んできたのは八人の男性。

 これもう屋根の補修というより、新しい屋根を作ってると言った方がしっくりくるんじゃないですかね?

 俺は屋根の下で立てられた板の上部を掴み、一気に持ち上げる。

 持っている親指が板を貫通してしまったが、大丈夫大丈夫。

 無事に屋根の上へとやってきた大きな板を、大穴を塞ぐようにして設置し、周囲を釘で留めていく。

 最後に薬品を塗りつけて完成だ。


「出来たぞ! さぁ、次は誰の家だ?」




「まさか魔族様が俺たちの家を直して下さるなんて……」

「すごいわ、台所の床が新品……これ、魔族様が用意して下さった素材らしいわよ」


 無事、六軒の屋根と、四軒の住宅の補修を済ませましたとさ。

 途中で木材が足りなくなったので、アイテムボックスに入っていた岩盤やら木材を加工させて頂きました。

 アキダルで結構沢山買っておいたんですよ、いつか何か作れないかなと。

 なお作るのは俺ではなくレイスである。やっぱり手芸が得意なんだそうです。


「今日はこのあたりでいいだろうか? 明日は街の外へ食料の調達の予定だが」

「もちろんでございます! 本当に助かりましたカイヴォン殿!」

「当然の事をしただけだ。では、また明日」


 魔族様をカイヴォン様へ、そしてようやく様を殿にする事にも成功しました。

 少しずつ、少しずつ周りに馴染んでいくこの感覚が、なんとも心地良い。

 そうして、俺は気持ち良く仕事を終え、宿へと戻るのであった。

 ――ただし、その前に寄る所があります。




 辿り着いたのは、大衆居酒屋と呼べる活気に溢れた一軒の店。

 ここは外部の冒険者や、一部の気取らない魔族、そしてある程度生活に余裕のあるヒューマンの住人が利用する店だ。

 レイスは今、ここでウェイトレスとして働いている。

 これはもちろんギルドを通してのものだが、恐らく店側も今日の区画長のような反応をした事だろう。

 想像してみよう、ファーストフード店へ行ったら、レジに芸能人クラスの美女、それも大御所のようなオーラを纏った人物がいる様子を。

 まさに今のレイスはそんな感じ、場違い感が凄い。

 が、すでに彼女は客や同僚の信頼を得ているのか、楽しそうに周りと談笑し、キビキビと料理を運び、キラキラと輝きを周囲に振り撒いている。

 男性人の恍惚とした表情に、同僚の女性たちのうっとりとした表情。お兄さん、鼻高々です。

 そうして、今日もレイスが無事に働いているのを確認し、俺はひっそりと見つかる前に店を後にするのであった。

(´・ω・`)ここからトリュフの匂いがする……

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