七十七話
(´・ω・`)ホワイトアスパラガスの美味しい食べ方はソテーとポタージュだと思います。
翌日。
無駄に豪華なベッドなだけはあり、ぐっすりと熟睡してしまった俺は、急ぎ時間を確認する。
時刻は早朝五時、さすがにまだ昨日の子も来ていないだろうとホッと一息付き、念のため窓を開け確認すると――
「……マジでか」
宿の入り口の脇、そこには毛布に包まっている何者かの姿が。
迂闊だった、時間を指定しておくべきだったか。
急ぎ準備を整え、今日もしっかり魔王スタイルで急ぎ宿の外へ向かう。
気温は多少寒いが、それは俺だからそう感じるのであって、小さな子供ではこの程度の気温でも堪えるだろう。
ましてや、もっと前からここにいたかもしれないのだから。
あれですか、まさか深夜を回ったらもう明日とか言いませんよね?
「少年、すまなかったな。時間を指定しておくべきだった」
「あ! おはようございます魔族様」
「カイヴォン、だ」
「申し訳ありませんカイヴォン様」
様付けはこの際目を瞑り、ひとまずこの少年を宿へと案内する。
さすがに寒さに震えているまま連れて歩くわけにもいかないでしょうよ。
宿へと入ると、少年は借りてきた猫どころか紛争地帯に紛れ込んだ小学生のごとくビクビクとしながら後に続く。
……自分で例えておいてなんだが、そんな状況ってあるんですかね? 少なくとも俺は知らない。
とにかく、別に取って食うんじゃないんだからそこまで挙動不審にならなくてもいいじゃないか。
「店主、朝食の用意を二人分頼む。この少年は私の客だ、くれぐれも失礼のないように頼む」
「かしこまりましたカイヴォン様」
我ながらすっかり演技がうまくなってしまってまぁ。
あんまりにもしっくりきすぎて自分でも段々こっちの方がいいような気さえしてくる。
「あの、僕なんかにそんな」
「気にしなくて良い。食べたら一緒にギルドへ向かうとしよう。君に依頼代行を頼んだ者にも礼をしたいからな」
礼(意味深)は大事です。
ギルド側は黙認しているのだろうか?
まさかギルド内部までアーカムの勢力が牛耳っているとでも言うのか?
いくらなんでも、そこまでオインクがやられっぱなしとも思えない。せめてギルド内だけでも種族格差がないと思いたい。
だが、働き口がほとんど無いという少年の言葉を聞くに、まともに機能しているかすら危うい気もする。
……なかなか骨が折れそうだな。
「さぁ、では頂くとしよう」
「すごい……僕も食べていいんですか?」
少しして、テーブルに運ばれてきたのは真っ白な野菜をソテーした物と、焼きたてのパンだった。
これって明らかにコース料理のオードブルですよね、朝からフルコースを食べろと申すか。
少年は目を輝かせ、なれない手つきでナイフとフォークを使い野菜を食べる。
瞬間、表情がこれまでにないくらい輝き、一口、また一口と食べ進める。
前菜だからね、量は少ないんですよ。別にこれで朝食は終わりってわけじゃないんだからそこまで細切れにして食べなくていいんですよ?
少年がそれに気がついたのは、二品目が運ばれてきてからだった。
「ありがとうございました……ありがとうございました……」
食事を終えると、テーブルの向こうで少年がボロボロと泣き出してしまいました。
ちょっとご飯食べて泣くとか止めてくれませんか、俺まで泣きそうになるだろ。
個人的辛い状況ランキングの第二位に『食べたくても食べられない』がランクインしてる身としては、思わず自己投影しちゃうんですよ。
ちなみに一位は『家族が苦しんでいる』がランクインしております。
平常時はあんまり情も湧かないしそこまで構ったりしないけど、何かあると手のひら返したように心配しちゃう薄情者ですので。
「お母さんにも、妹にも食べさせてあげたいなぁ……」
はい入った、今俺にとどめ入ったよ。
こりゃなんとしても街の状況を変えねばならんですたい。
少年を引き連れ、ギルドへと向かう。
この街は全体的に、貴族然とした建造物に溢れているが、ギルドだけあからさまに格式の低い、早い話がショボい外観をしている。
ここが他の街ならばなんの問題もないが、今の状態は例えるなら縞瑪瑙をルビーやサファイヤ、ダイヤモンドの中に放り込んだような感じだ。
これもアーカムの影響なのかね?
「少年、先に入ってくれ。私が一緒では相手も近寄りがたいだろう」
「わかりました、ではお先に失礼しますね」
少年が扉をくぐるのを確認し、少し経ってから後に続く。
彼はすでにギルドの待合所の方へと向かい、件の冒険者の姿を探しているようだ。
俺も周囲の視線を感じながらも、不自然じゃないようにそちらへと足を運ぶ。
すると、ちょうと少年も相手を見つけたのか、話し声が聞こえてきた。
「ちょっとー、アンタ丸一日かかるとか聞いてないんですけど?」
「まさか一晩中探して見つからなかったって言わないでしょうね? もしそうならどうなるか、わかってるよね?」
……数世代前の遺物、そんな言葉がよぎる外見をした二人の女性の姿。
金髪に褐色の肌、派手目な化粧と、もう完全にアレにしか見えない。山の中で包丁研いで人間を待ち構えてるアレです。
件の姉さん達は日本にいた時ですら希少種だったんですが、まさかこちらに移住していたんですかね?
しかしよくみると、メイクじゃなくて元々まつ毛が白く、そう見えるだけの様子。
よく見ればこめかみから小さな突起が飛び出しているし、こういう種族なのだろう。
「遅れてしまって申し訳ありませんでした! 無事、見つける事が出来ましたのでどうぞ!」
「は? アンタ何言って……うっそマジ?」
「どうして……ちょっとアンタこれどっから採ってきたの? 近くに取れる場所でもあったの? 教えなさいよ」
「わ、うわ!」
少年が包みからゼオ・フラウの束を取り出すと、二人はそれが予想外だったのか驚愕に表情を歪め、すぐさま彼へと迫り追求する。
……最初から失敗するような依頼の代行をさせたのかね、この子らは。
「ええと、街から離れた森の奥で……」
「嘘つきなさい! それは本来の生息地、アンタみたいなヒューマンのガキが採りにいける場所じゃない」
「アンタさー? アタシらにパチこいてると痛い目見るよ? 何、金がほしいの? 教えてくれたら考えてもいいけど」
よしよし、そろそろ助け舟を出すとしようか。
せっかくあんな怖い思いをして(主に俺が)手に入れた薬草を、あんな連中に渡してなるものかい。
本来なら代行なんて行為は禁止されているのだし、少年が連中に渡さなければいけない理由なんて無い。
そして、ギルドが黙認していると言うのなら、俺だって好きにやらせてもらう。
「何の騒ぎだ、見苦しい」
「うっさいわね! ちょっとだま――」
振り向いた二人が、一瞬で浅黒い肌を蒼白に変える。すごいな、まるでオセロじゃないか。
表現上じゃなくて本当に肌の色が変わるとか、ちょっと驚きなんですが。
「申し訳ありませーん! ちょっとこの子供が、私達に隠しごとするのでぇ、問い詰めていたんですー」
「もう、ダメじゃない坊や。上位魔族様のご迷惑になるでしょう? ほらぁ、早く教えて?」
急に媚びるような態度を取る姿に、ムカムカとした物がこみ上げてくるが、彼女たちもまた被害者なのだと飲み込み――
「黙れ下女。その少年は私と共に薬草を見つけた仲間。そのおこぼれを少年の好意で授けようとしているのを貴様らは……本来ならば許されぬ行為だという自覚はないのか!」
飲み込む訳ないじゃん? 敵か味方の二択だって言ってるでしょう。
内心言い過ぎた感もあるが、こうなってしまったら言うだけ言ってしまえ。
少々声量を大きくした為、すぐ様ギルドの係員が飛んでくる。
そして洗いざらいぶちまける。
「聞け! この二人の下女は、採取依頼すらまともに達成も出来ず、外部の少年を使い潰すという真似をした。本来ならば許されない代行という行為を、私は許しはしない! ギルド側はなんとする!?」
「も、申し訳ありません、ただちにこの二人には罰として今回の報酬を支払わないと――」
「手ぬるい! 今この場にいる全ての者に告げる! 今後一切の代行、不正行為はこの私が許さない! 私はギルドランクSSのカイヴォン、全ての権限は私に譲渡して貰う!」
恥ずかしすぎて全力で胸をかきむしってゴロゴロのた打ち回りたい。
穴があったら入ってバリケートで塞いでしまいたい。
黒歴史確定、今後夜に思い出す度に枕に顔を埋めて足をバタバタする羽目になる事間違いなし。
いいんだいいんだ、これは俺じゃないんだ、どっかの魔王が勝手に言ってるんだ。
そんな現実逃避も虚しく、職員が俺のカードを読み、事実を確認している。
「確かにこれはオインク様から許しを得た物……親国エンドレシアの王からも認められた証です。すぐにギルド長にその旨を伝えて参ります」
「任せた。今後、不正を行ったものは直ちにギルドから除名されると思え。また、子供に辛く当たる者、無闇に人に危害を加える者も容赦なく罰が下されると思え」
一時騒然としていたが、皆声を大にして文句を言うことも出来ず、黙り込んでいる。
そりゃそうだ。本来許されていない行為を、改めて禁止にすると言われたところで、反発する理由なんてない。
反発しようものなら、自分が不正をしていると周囲に自白しているようなものだ。
ただし、これは街の入り口で冒険者に声をかける子供達から仕事を奪うのと同義でもある。
こちらもなんとかしないといけないだろうな。
……普通に子供達を連れて採取地に行って薬草を摘ませたら良いんじゃないか? そしてそれをギルドに直接売る。
そうだ、本来ならそうやってお小遣いを稼ぐやり方だってある。アキダルなんてその良い例だ。
あの町の酒場で座っているのは、何もギルドの人間だけじゃない。
そんな彼らを誘い、近くに山菜やら薬草やらを採りに行き、ギルドで換金してちょっとしたお小遣いを得る。
これは本来何の問題もない、ただの内職のような物で、実際に見かけた光景だ。
日本にいた頃も、山菜採り上級者のおばちゃん達が、道の駅などのお店で買い取って貰う姿を見たことがある。
そんな些細なやりとりすら、街が禁じているのか? いやそんな筈はない。そんな取り決めを大々的に実地しては、さすがに他の領主に見咎められるはずだ。
これも、ヒューマンや魔族が自主的に行っている暗黙のルールの所為なのだろう。
俺が率先して動く分には、誰も表立って文句を言うことは出来まい。
「権力をゲスに持たせるとこうなるっていい例だな」
なおゲスはアーカムではなく今回は俺のことである。
いいじゃん? 子供たちが森で取った薬草をギルドに売るって。
採取依頼を受けていた冒険者は、今度は子供の護衛として依頼を受ければ良い話だ。
そして護衛の依頼はギルドの方で出せば良い。これによりギルドは働きたがっている多くの子供たちの手を借り、薬草等の安定供給を得られる。
そしてこれが続く限り護衛依頼が成り立つので、冒険者の仕事が減る事もない。そもそも、採取依頼の報酬なんて大人が得る収入にしては額が少なすぎる。
少なくとも俺がこの街にいる間は、俺がギルドにそうさせればいい話だ。
本来『非常時にギルドに所属する全ての人間に対する命令権』と言うのが俺のギルドカードの持つ効力だ。
そして、今のこの歪な状況は十分に『非常時』と言って差し支えない。
恐らくこの後、ギルド長に呼ばれて交渉する事になるだろうが、一切譲るつもりはない。
徹底抗戦してあげようじゃありませんか。
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(´・ω・`) ) =3 ブッ
u--u´-u´
(´・ω・`)あさっぱらからガス
(´・ω・`)友達のイラストがPSO2で優秀賞とったの! うれしいうれしい
(´・ω・`)作者のキャラも写ってます




