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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
第七章

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七十六話

(´・ω・`)お待たせしました

「どうしよう……まだ見つからないよ……」


 真っ暗な森の中、僕はお仕事に必要な薬草を集めていた。

 少しでもお金を溜めて、家族に喜んでもらう為に。

 アーカム様お屋敷で働いている姉さんは、滅多に家に戻ってこない。

 たまに送られてくるお金は、僕と母さんの長屋の家賃でほとんどなくなってしまう。

 だから今日も僕は、魔族様の依頼を手伝わせて貰っていた。

 まだギルドに登録出来ない僕が出来る、唯一の方法がこれしかなかったから……。


「イタっ」


 暗くてよく見えなくて、手のひらも草で何度も切ってしまって、まだ寒い夜の空気が手にしみてヒリヒリと痛む。

 僕はつい、自分の今を考えて、なんだか悔しくなって、零れそうな涙を堪らえようと夜空を見上げた。

 見えるはずの月が、誰かに覆い隠される。


「……少年、こんな夜に何をしている?」


 背後の月の光を受けて、綺麗な銀髪を光らせる。

 まるで物語から出てきたような魔族様と、僕は出会った。






 真っ暗森からこんばんは。

 いつも皆様の暮らしのそばに魔王様、ぼんぼんです。

 ついにやって参りましたアーカムの治める土地の首都『アルヴィース』

 大陸の中央からやや北部にある、大都市でございます。

 いやはや、本来ならもう一週間は掛かるはずなんですけどね、我が家のケーニッヒ君が張り切って下さったのですよ。

 ついに魔車を牽いた状態でも空を飛べるようになったおかげで、三日でついてしまったわけです。


 現在、俺は個人行動で依頼を受けております。その内容は『ゼオ・フラウ一五本の採取』という、本来ならば俺が受けるべきじゃない、下級の依頼。

 そんな薬草を探しに森を彷徨っていた所、蹲っている少年を見つけたわけです。

 これは幸先の良いスタートですな。

 何の幸先が良いって? 後でな、後で。

 ……さて、暗所恐怖症をごまかすテンションはこの辺りでやめておくかね。

 一人で夜の森とか何の罰ゲームだよ。俺は誰かと一緒ならともかく、一人で暗い所、それも事前情報無しな場所はNGなんですよ!


「随分と怪我をしているな、少年。少し待っていろ」


 俺はアビリティに[回復効果範囲化]をセットし、少年を仲間と認識して治癒を施す。

 みるみるうちに傷が癒え、月明かりのせいで暗いと思われた表情も、こころなしか明るくなったように見えた。

 この調子で周囲も明るくなってくれませんかね。


「あ、あの! 申し訳ありません魔族様! お金も、お支払いできる物もなにもなくて、あの、僕」

「必要ない。夜に子供が一人で泣いている、それを放っておく大人が何処にいる。事情を話してみろ、何か力になれるかもしれん」


 そして話し相手が出来たことでこっちの余裕も生まれる、まさにウィンウィンな関係です。


「実は――」


 要約すると、お金欲しさに冒険者の依頼の代行をしていたと。

 その詳細を聞けばどう考えても違法行為であり、さらにあからさまなピンはねまでされている始末。

 ギルドってこういう行為禁止してるはずなんですけどね?

 少年は身体の弱い母親と小さな妹、そしてほとんど家に戻る事が出来ない姉の代わりに家族の面倒を見て、さらにここまでしてお金を稼いでいると言う。

 聞けばまだ年齢は十一歳、こんな危険な事をしなくてもちょっとしたお店のお手伝い程度ならありそうなものなのだが、ここで大事なのは彼が『ヒューマン』だと言うことだ。

 結論から言うと、この街でヒューマンの仕事は殆ど無い。大人になり、その肉体を使った力仕事くらいしか仕事を選ぶ事が出来ないと言う。

 しかし、給与はしっかりと支払われ、強制労働と言うわけでもないので表向きは何の問題もない。ただ職選択の自由がないだけだ。

 街を出るなり冒険者になるという道もあるんじゃないかと思うが、もしかしたらそれすら難しいのかもしれない。


「まだ小さいから働く場所がない、か」

「はい。ですが魔族様のご好意で、こうしてギルドのお仕事を手伝わせてもらっているんです」

「……明らかに報酬を下げられている事に、不満はないのか?」

「? どうしてですか?」


 そして、それが当たり前だと認識している。

 彼の流した涙は、純粋に仕事の辛さと夜の森に対して恐怖の涙であり、己の境遇を呪っての、理不尽さへの悔しさから流したものではなかったのだった。

 ……さすがにここまでくると、異常だぜ、オインク。何故何もしない?

 それほどまでに、アーカムは強大な相手なのか? お前ですら倒せない相手なのか? いや、そうじゃないのか。

 ……まったく、豚を縛るのはタコ糸だけで十分だろ。立場に縛られるなんて豚にあるまじき姿だぞ?


「探している薬草はゼオ・フラウか?」

「はい……お昼から探しているのに、一本も見つからなくて」

「そんなに見つけにくい物なのか……私もそれを探している、一緒に探すとしようか」


 昼から探して見つからないなら、もうこの界隈にはないんじゃないか?

 俺は少年を連れて、さらに森深くへと足を運ぶのだった。




「結局、街からだいぶ離れてしまったな。どう考えても子供一人でこられる場所じゃないだろう」

「そう、ですね……何も知らないで探してしまって、お仕事をくれた魔族様にも迷惑をかけてしまって……」


 結局その薬草は、森の奥深くが群生地だったようで、ようやく俺も少年も依頼の品を手に入れることが出来た。

 深い森の奥で、月光を浴びて青白く輝くゼオ・フラウの姿は幻想的で美しくはあったが、女子供をここに連れて行こうとは思わない程度には険しい道のりだった。

 なお彼が付いてこれたのは、最初に[回復効果範囲化]の対象にして[生命力極限強化]の恩恵を受けていたからに他ならない。


「……仕事をくれたと言うが、それはどういう状況だったんだ?」

「僕はいつも、街の入り口で外に向かう冒険者の方々に声をかけているんです。そしたら、親切な魔族の方が僕に仕事をくれて」


 親切ねぇ? 本当に善意だったのかすら疑わしいんですがそれは。

 長い間こんな生活を続けて心のあり方が変わっていったのは、何もヒューマンだけじゃないんじゃないか?

 昔、何かの実験で看守役と囚人役に別れた学生が、時間が経つにつれて人格にまで影響が出たという話を聞いたことがある。

 たしかスタンフォード監獄実験だったかね? それに近い状況がこの街、ひいてはこの地方で起きているのではないだろうか?


「まぁ、もう遅いし報告は明日にして家に戻ると良い。明日、ギルドの裏にある『エルドラド』という宿で待ち合わせをしよう」

「あの……でも見つけたのは魔族様ですし、僕なんて……」

「カイヴォンだ。魔族様などとつまらない呼び方、私は認めんよ。貴重な話を聞かせてもらった礼だ。明日、待っているから必ず来るように」


 街まで少年を送り届け、俺も一人、無駄に豪華な宿へと戻るのだった。

 部屋には俺一人、ここにはリュエもレイスもいない。

 それを、久しぶりに寂しいと感じてしまう。……だが、先の事を考えるとこの一時の寂しさも良いスパイスになると自分に言い聞かせ耐える。

 無駄に大きなベッドに横になり天井を見つめながら、俺は今朝この街にたどり着いた時の事を思い出すのであった。






「カイぐ~ん……きもちわ……ウッ」

「しょ、正直私もこれは……うぅ」

「飛行機と大差ないと思ったんだけどなぁ」


 眼下に巨大な都市が見えてきた頃、俺達は魔車を地上へと軟着陸させた。

 流石に街の側に着陸させるわけにもいかないので、そこから陸路で都市へと向かう。

 だが、それでも我が家のケーニッヒは目立つのか、他の馬車や魔車に乗った人間が一様に驚きの声を上げ、自然と左右に避けてくれる。

 中にはこちらへと声を掛け、ケーニッヒを譲れと高圧的な態度を取る魔族もいたが、俺が顔を出した瞬間転げ落ちるようにして額を地面にこすりつける始末。

 ここまで影響が大きいとなると、別な意味でも面倒な事になりそうだ。


「ところで、レイスも背中と頭に羽根があるけど、やっぱりあんな反応されたり?」

「いえ、私も一応上位魔族なのですが、角持ちや大きな羽、翼を持つ方程ではありませんよ。中堅より上、そんな感じでしょうか?」

「そういえばカイくん、昔沢山の魔族の女の子に囲まれてたよね。角付きの子とか、大きな翼の生えた子とか」

「そ、そんな……やはり角つきが良いのでしょうか……?」

「いや、正直そういう序列とか格付けがわからないんだけど。そもそも俺が好きだからレイスはその姿なんだし。それに俺は魔族じゃないからね? 角やら翼で人を好きにはならないよ」


 一応レイスにも説明してあるんだけどね?

 ただリュエ曰く、俺は普通の人間でもないらしいし、この姿になるとステータスでも種族が『人間(?)』と表示されるので、微妙なラインである。


「この辺りの年配の魔族の方ならば、もしかしたら昔の私を知っている可能性もありますので、街で私が自由に動いていれば領主からコンタクトが来る筈です」

「本当にさっきの作戦で行くのか? 正直、もしもの事があると思うだけで俺が暴走しそうなんですが」

「大丈夫、その為の私じゃないか! 私が先に領主の館に潜入してみせるよ!」


 レイスは、アーカムの権威を落とし、なおかつ俺が最も効果的に住人の前に登場する為のシナリオを考えた。

 それは、自分を囮にするような、危うい物。

 しかし彼女は『これで最後にするために、息の根を止めるつもりで最大の一撃を与える』と覚悟を決めていた。

 ならばと、俺も覚悟を決めてそのシナリオの沿うように動く事を決める。

 その作戦とは『あえて領主の元に自ら入り込み、大きな催しを開かせる』という物だった。

 それはつまり……事と次第によっては、男がやってみたいシチュエーションベストスリーに入るであろうアレを体験出来るかもしれないという事だ。

 ただそれでも、一時とはいえ領主に彼女を手渡すのが我慢できず、俺はつい、レイスに過剰な加護を与えてしまう。

 まずは[サクリファイス]を彼女に使い、さらにリュエのバッグの中からレアリティの高い腕輪を見つけ、そこに[カースギフト]により[逃走成功率+50%]を付与して渡す。

 これならどんなダメージからも彼女を守り、そして逃げる時もかなりの恩恵を授かる事が出来る筈だ。


「じゃあ、レイスは街へ行き次第、一人で仕事を受ける。リュエは最短で領主の館へと向かい、なんとかして入り込んで後から来るであろうレイスのバックアップをする。オーケー?」

「恐らく初日から、という事はないでしょうから、実際に私が連れて行かれるまでタイムラグがある筈です。それまでにリュエが館に入ることが出来ればそのまま、もしもは入れ込めなかった場合は私の付き人という形で一緒に来てもらいますね」

「大丈夫。大きな館……というかお城みたいだし、一人くらいメイドさんが増えてもばれないと思うよ」

「メイド服は出来れば持って帰ってきて下さいお願いします」


 田舎では実際にお目にかかることが出来ないメイドさん。

 メイド喫茶すらない場所に住んでいた人間の悲しみ。


 まぁ、なんだかんだ言ってリュエの諜報能力とコミュニケーション能力の高さは俺もよく知っているし、信頼している。

 レイスも俺が加護を与えた以上『ありとあらゆる怪我を負うこと、ダメージを受ける事』はない。

 安心といえば安心だが、それでもモヤモヤしてしまう。

 なんだろう、まるで彼女が俺抜きで二泊三日の旅行へ行くような、そんな不安。

 いや、そんな経験した事ないんですけどね?

 今回に限ってはその旅行に黒服のSPが三人くらい同行してるような状況なんですけどね?

 それでも不安な物は不安なんです!


「じゃあ俺はそうだな……住人に名前と顔と恩、後はいろんな物を売っていようかね」

「カイさん、ある意味今回の作戦は私の願望も含まれています。ですので、最高の状況になるよう、精一杯努力するつもりです」

「ああ、じゃあ俺も最高のシチュエーションになるように全力を尽くすさ」

「じゃあ私も……今回ばかりは本気で行くとしようか。作戦に口を出すつもりはないけど、私が我慢出来ない状況に陥った時は、万難を排し、全てを終わらせる覚悟で当たらせてもらうよ」


 リュエもまた、まるで初めて出会った時のような、鋭い、研ぎ澄まされた氷の刃のような雰囲気を纏い、覚悟を決める。

 こうなった彼女はもう、いつものようなおちゃらけた、ちょっぴり抜けたがっかりエルフさんではなくなってしまう。

 気合十分、じゃあ作戦開始だ。


「リュエ」

「なんだい、カイくん」

「だから頭の角はいらないって言ってるだろ」

「…………かっこ良く決めたのに」


 カブト虫ヘッドで『万難を排し(キリッ』はさすがに笑う。

(´・ω・`)経験値アップ期間と更新が遅れた事には何の関連性もない、いいね?

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