七十五話
(´・ω・`)これから私の事は『大いなる山の神獣(デア ケーニッヒ デス ベルグ)』と呼んでもらおうか。
検証の結果、付与出来るアビリティの法則について少しだけ分かったことがある。
一つ、付与出来るアビリティは装備品の種類により決まっている。
やはり攻撃力に関係する物は、武器になら問題なく付与することが出来た。
先ほど買った謎のネタ魔法剣に無事付与出来た事からこれは確定。
二つ、すでにアビリティが付与されている装備品には付与出来ない。
こちらも同じく武器ということで、リュエの持つ神刀に付与を試そうとしたところ、選べるアビリティが一つも浮かんでこなかった。
元々、[カースギフト]は対象に対して一つしかアビリティを付与出来ないので、おそらく元から付いている物もカウントしているのだろう。
そして最後に三つ。
付与できるアビリティは、対象が高等である程効果の高い物を選ぶことが出来る。
これはレアリティや、使われている素材や製作者の力量、さらに人を対象にした場合は相手のレベルに応じて選べる物が増えていくようだ。
先ほどレイスとリュエに試したところ、やはりレベル差のせいでリュエの方が強いアビリティを付与させる事が出来た。
だが、やはり反動があるらしく、先ほど試しに[生命力極限強化]を付与した所――
「カイ……くん……身体がおかしい……何かが、溢れてきそうだよ」
「すまん、今すぐ解除するから!」
酩酊にも似た状態に陥ってしまい、すぐさま解除する事に。
だが、解除直後にスッキリとした顔になり、まるでぐっすり熟睡した後のようだと喜んでいた。
そして逆に、効果を反転した場合はどうなるのかと、今度は[攻撃力+15%]を反転してレイスに付与してみた。
「レイス、ちょっと俺のこと叩いてみてくれないか?」
「え、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、遠慮せずやってくれ」
「では」
大きく振りかぶり、その手のひらを背中にたたきつけられた。
……レベル差のせいもあるかもしれないが、かるくフェザータッチでもされたかのような感触しかこない。
「じゃあ私も!」
「イテェ!」
目を輝かせたリュエにも何故か叩かれてしまった。
何故殴ったし。
というわけで、検証も済んだので俺は自分の装備にもアビリティを付与する事にした。
『黒色皇帝外套金糸仕上げVer重合鎧合成 byぐ~にゃ♪』
『儀礼用の外套に鎧を組み合わせたアーマーコート』
『性能は低いが、相手に威圧感を与える(気がする)』
【防御力】45
【精神力】45
【素早さ】25
【アビリティ】[HP+10%]
『黒色皇帝外套金糸仕上げVer重合鎧合成 下半身ばーじょん byぐ~にゃ♪』
『儀礼用外套の下半身部分に漆黒のグリーヴのパーツを取り付けたもの』
『防水性に優れ、通気性も問題なく、また氷の上でも滑らない(かも)』
【防御力】10
【精神力】8
【素早さ】5
【アビリティ】[素早さ+5%]
こんな具合になりました。
いくらオーダーメイドとは言え、そんなレアでもない装備なのでこれくらいしか付与する事が出来なかった。
だが侮るなかれ。
普段常用している[生命力極限強化]の回復量や、その効果もあり膨大な数値になったHPを10%もあげるのだから、その効果は見た目よりも遥かに大きい。
さらに[素早さ+5%]なんて、そんなアビリティがついた脚具なんて滅多にお目にかかれない。
そもそも割合上昇なのだから、その効果は自分のステータスが高い程大きくなる。なので、これでも十分に強い。
なお、日常装備である皮装備にはつけられるアビリティが一つもありませんでした。
安物だからね、しょうがないね。
「結局私の装備につけられたのはこのアクセサリーだけじゃないか……」
「いいじゃないか。この間のカフスと今回のペンダント、どっちも良い物だったみたいだし」
「私のお気に入りの剣にも何か欲しかったなぁ……」
なおリュエさんの装備はどれもこれも一級品なので、付与する余地がありませんでした。
アキダルで買ったカフスと、今回買ったペンダントにそれぞれ[MP+5]と[MP+10]と雀の涙程度のアビリティを付与して我慢してもらった。
いやね、MPだけはこのゲームの命とも言える全ての原動力なので、割合で増える物ってすんごいレア扱いなんですよ。
元々リュエはMPが多く、回復速度も速いのだし、これでも十分効果はあると思うのだが。
最大MPが一五増えるだけで、撃てる魔法が下級とはいえ一発増える。これって結構大きかったりします。
「すごいですね、ドレスとカフスとネックレス、この三つだけで今まで私が装備していた物の倍以上の防御性能になりますよ」
「気に入ってもらえて何よりだ。そのネックレスはかなり良い物だったみたいだね」
そしてレイスのカフスには[防御力+5]と、ネックレスには少し高等なアビリティである[クリティカル威力+5%]をつける事が出来た。
このアビリティは遠距離攻撃職には特に恩恵が大きい。
元々魔法以外の遠距離攻撃はクリティカル率が高く設定されており、たかが5%とはいえ、その恩恵は俺より遥かに大きい。
これでどんどん敵を撃ちぬいて下さい。そして世の男性のハートを撃ちぬいて下さい。
というか結局あの店で買ったアクセサリー、結局何も効果ついてなかったんですが。
「というわけで、敵の本拠地に行く前にみんなの装備を強化出来た事だし、今日はゆっくり休むとしようか」
「ではカイさん、真ん中へどうぞ」
「布団と違って三人並ぶと近くて不思議な気分だね。もう少しつめておくれ」
忘れてた。
翌日、我ながら図太い神経をしているのかすっかり熟睡してしまった。
左腕に幸せな柔らかさを感じるも、ゆっくりと布団から抜け出し部屋を後にする。
右腕はどうしたって? 平ら……じゃなくて平和でしたとも。
さて、朝の支度やら何やらあるでしょうしね、ちょっと時間でも潰してきます。
なお彼女たちが目覚めたのはそれから三時間も後の事でした。
君たち寝すぎです。
「世話になった」
「いえいえ! またのおこしをお待ちしております!」
魔車の前で別れを告げ、魔王竜の帰還を待つ。
まだ夕方には早いが、呼べば来ると信じて声を上げる。
…………来てくれるよね? ここで来ないと赤っ恥ってレベルじゃないんですが。
「戻ってこい、竜!」
一応魔力が繋がっている? という感覚がある。
離れた場所に自分の手足があるような、そんなかすかな気配を感じる。
それを意識して呼びかけたのだが、果たしてどうなることやら。
「カイくん! 来たよ、ほら!」
「……あの、カイさん? 私の見間違いでなければ少し大きくなっていませんか、あの子」
太陽を覆い隠すように戻ってくるそのシルエットは、確かに翼が一回り大きくなっているように見えた。
まさかと思い[詳細鑑定]を試してみると……。
【Name】
【種族】 魔王竜
【レベル】 178
何故上がってるし。
降り立ったその姿は、相変わらずどこかの誰かさんを彷彿とさせる姿だった。
が、しかし、翼の大きさだけでなく、身体そのものが一回り大きくなっている。
君自由時間中になにしてたの?
「カイさん、そろそろこの子に名前をつけてはどうでしょう? 呼ぶ時にも名前があった方がいいでしょうし」
「あ、それなら私がもう考えてあるよ! 『漆黒の風 シャドウサーヴァント』くんなんてどうだろう」
「ダメ却下ボツ。何の影響を受けたんだ。もっと一声で呼べるような奴で頼む」
まさかリュエにまで中二病が感染した……だと!?
しかしレイスの言うとおり、そろそろ名前をつけてやらないと可哀想だな。さっきだって『竜』って呼んでたし。
名前か……ペットを飼ったことなんて大昔に一度ハムスターを飼ったきりだし、その時の名前も『はむ子』だったくらいだし、俺のネーミングセンスに期待は――
「あ、リュエとレイスの名前つけたの俺だった」
「唐突な真実に対応出来ない私がいます。そうだったんですか!?」
「私も初耳なんだけど!? 身体を作ったのは知ってたけど……」
「ああいや、うん、それはまず置いといてだな」
そうだそうだ、キャラクターの名前をつけるのと同じように、しっかりと考えれば良い話だ。
思えばリュエとレイスの名前は…………由来、あったっけ? 唐突に頭に浮かんだから、その直感でつけただけだったような。
よし来た、じゃあもう一回降りてこい、俺の直感。このドラゴンにぴったりの名前を頼む!
「……魔王竜……魔王、竜……」
「では、ケーニッヒなんてどうでしょうか? 昔どこかの王様がそう名乗っていたそうですよ?」
「む、その心は」
「魔王……カイさんに似ているので、どうかなーと」
「私は『漆黒の風 ダークネスハリケーン』がいいと思うんだけど」
おい、さっきと名前変わってるぞ。
しかしふむ、かっこいい言語ナンバーワンの呼び声高いドイツ語先生か。
いいんじゃないかな?
「よし決定。今度からお前はケーニッヒだ、いいか?」
(御意)
…………これはどう反応を返せばいいのか。
シンプルに『キャアアアアアアアアアアシャアアアベッタアアアアア」』がいいか、それとも『こいつ、脳内に直接!?』か。
あれですか、名前を付けると繋がりが深くなるとかそういうのですかね。
まぁいいや、意思疎通がしやすくなるならそれにこした事はない。
魔王だっているんだし、喋れる竜がいたっておかしくないね、せやね。
「よし、名前も決まったし出発しようか」
「分かりました。御者は私が――」
「ああ、ちょっと待ってくれレイス。ケーニッヒ、御者は必要か?」
(不要です)
だそうです。
(´・ω・`)はむ子は作者が昔飼ってたハムスターの名前です




