七十一話
(´・ω・`)待たせたな!(TPPのあのひと
「よーし、それじゃあそろそろ行くぞー」
「ま、待ってくれカイくん、もう少し、もう少しで終わるから」
「まさか『女神小神殿』がリュエのバッグに繋がっていたなんて……」
現在、ギルドにて町を出る旨を伝え、次の町へと向かうための魔車を手配中だ。
この町ではもともとネコグルマと呼ばれる台車が盛んに作られており、その影響もあってか馬車や魔車の製作も盛んだそうな。
で、案の定リュエが乗るものだからと、とびっきり性能の良い物を用意してもらえる事になった。
そして待っている間、リュエが町の皆さんから貰った野菜やら米やらお酒やら、肉やら魚やら保存食やら、これでもかと持たされた食料を神殿を介して自宅の倉庫へと転送中だ。
ちなみに『女神小神殿』があの小さな神殿の正式名称だそうです。
曰く『この世界のどこかにいる救済の女神への供物を捧げる神聖な場所』だとかなんとか。
……ただの食料庫なんだよなぁ。
「ちなみに、レイスも使ったことがあったり?」
「もちろんですよ。冒険者をやめた後も、日々娘たちの安全を願い、料理や食材、そのほかにも手芸品などを……」
「ふむ……もしかしてラタトゥイユとかお供えしたり?」
「あ、はい。実は得意料理なんですよ。娘たちにもよく教えていたんです」
たぶんそれ食ったの俺だ。とても美味しかったです。
……じゃあ出来立ての料理をお供えすれば、いつでも取り出して食べられるということか。これは良いことを聞いた。
じゃあこの間の作りすぎたチキン南蛮も――ってあれは全部、目の前にいるお姉さんが食べてしまったんでしたね。
あんまり嬉しそうに食べるもんだから、つい止められなかったんですよね。
「ふう、おまたせ二人とも。まだ魔車は用意されていないみたいだし、少し酒場で時間を潰そうか?」
「そうですね。もう外から来た方たちもいませんし、落ち着いて休憩出来ると思いますよ」
「そうするか」
酒場と言っても、もともと待ち合わせやパーティーを組むための待合室の意味合いもあるこの店は、軽食から軽いつまみ、アルコール以外の飲み物まで幅広く取り扱っている。
そのため、冒険者だけでなく農家の皆さんや、ご近所の方々が休憩する憩いの場でもあった。
知らないぞ、座っていていきなり冒険者のパーティーに誘われても。
三七歳専業主婦、二四歳学生、五三歳農家のドリームパーティーが結成されても知らないぞ?
「随分人が少なくなってしまったね。やっぱりナオ君達が旅立ったからかな」
「だろうな。もともとこの町の依頼なんて、農家の手伝いや護衛、裏山や火山の採取くらいだし」
「……私達が向こう数年分の資源を採取した所為もあるんですよね、きっと」
「さすがにやりすぎです」
もっとも、仕事がなくなったなんて事はなく、今は冷え固まった溶岩の採取が盛んだとか。
いやぁ、溶岩プレートが特産品になるといいですね、是非ともそれでフライパンでも作ってくれ。
そんなこんなで時間を潰していると、酒場の店員がギルドから連絡が入った旨を知らせてくる。
恐らく魔車の用意が出来たのだろうと、早速向かう事に。
「お待たせしましたカイヴォン様。こちらが用意させて頂いた魔車でございます」
「おー、変な装飾も無いしいいね」
ギルドの前、そこにはちょっと大きな魔車の客車部分だけが鎮座していた。
綺麗に磨かれた木製の、ツヤツヤと自然な光沢を湛えたシンプルながらも上品なその姿に、少しだけ尻込みしてしまう。
気分は新品の車を購入したての若者だ。
……さすがに靴を脱いで乗車とかはないよね?
「これは……随分と丁寧な仕上げですね。材質と緩衝の機構を聞いても?」
「もちろんです。木材は貴重な硬質カンバ材と高級家具にも使われるクルミ材の組み合わせ、そこに錬金術により柔軟性を付与した物を使っております」
「素晴らしいですね。では、緩衝にはその木材を?」
「いえ、さらに――」
レイスお姉さんが何やら突っ込んだ情報を聞き出そうとギルドの従業員と会話を繰り広げております。
お兄さん、こういうの詳しくないんです。
しかしレイスは以前の店で働いていた手前、こういう一流の品については目利きができるのだろう。
何か不備があるかもしれないし、ここは彼女にまかせてしまおうか。
いやぁでもよかった。リュエが女神様なんて呼ばれているから、もしかしたら『純白に黄金の装飾』なんてお伽話や神話に出てきそうな物が出てくるかもと思っていたところだ。
「カイくん、これを牽引する魔物はなんだろうね? これかなり重いんじゃないかな?」
「言われてみれば車輪回りがかなり重厚だな。速度も期待できそうだけど、何が引くんだろう」
恐らくベアリングと思われるパーツや、板バネだけでなく恐らくショックを吸収するのであろう丸い金属の筒まで取り付けられている。
しかしそうなると当然重量も増えるし、そこに人間が三人追加、間違いなく馬では無理だし、その辺の魔物でも無理そうだ。
「分かりました。とても良い物を用意して頂き、誠に感謝致します」
「いえいえ! それでは、目玉となる魔物をお披露目したいと思います! 専門調教師により従順に、そして野生の力をそのままに、この巨大な魔車を牽引する心臓!」
「随分と大げさな紹介だけど、あの檻にでも入っているのかね」
「なんだろう、あれじゃあ馬くらいしか入らなそうだけど」
その勿体ぶった口上に乗せられるように、ワクワクとしながら幕で覆われた檻へ近づくリュエとレイス。
そして俺は、念のため[詳細鑑定]をセットし剣を背負う。
「火山噴火により逃げ出した天然の幼竜! まだ幼い故に従順に仕上げる事が出来ました! 幼生体とはいえその力はそんじょそこらの――」
【Name】
【種族】 ドラゴン
【レベル】 39
すみません口上が長いので幕の下から見えた足で鑑定してしまいました。
名前はないが、種族を見るにドラゴンのようだ。
レベルも39と、あの火山にいた中ではかなり高い方に見える。
というか、こんな短期間で調教なんて出来るのかね?
「世にも珍しい黒曜竜の幼生体です! 見てください、この美しい鱗、そしてまだ小さいながら、まるで絹のような輝きを持つ皮膜!」
「白くない……カイくんの魔術みたいな色だね」
「可愛いですね、本当に牽けるんですか?」
現れたのは、本当に俺の魔術のように黒い輝きを放つ鱗に覆われた、そして漆黒の、まるで黒アゲハのような布を思わせる質感の翼を持つ見事な竜だった。
なんだろう、こいつ絶対ただの魔物じゃないだろ。むしろコイツに親がいて、それが火山の真の主だって言われても納得してしまいそうなくらいの風格がある。
……いないよね?
「餌と言いますか、必要なのは膨大な魔力。ですが、女神様やカイヴォン様ならば問題ないと思い、こちらを選ばせて頂きました」
「なるほど。じゃあ今すぐ出発出来るんだな?」
「もちろんでございます! 契約者はカイヴォン様でよろしいでしょうか?」
「俺で、いいよね?」
「私は問題ないよ」
「同じく問題ありません」
と言うわけで、書類にサインをし、さらにこの竜と契約を交わすために少量の血を分け与える事に。
が、ここで問題発生。
「血が出るような傷を負えない不具合」
「……強すぎるのも考え物だね。どうしよっか? 鼻血でも出してみようか」
「それです! カイさん、ちょっと宿に戻りましょうか!」
何する気なんですかね?
嫌な予感がするので、思い切って奪命剣で手の甲を切りつけてみる。
すると一瞬だけ血が滲み、すぐに[生命力極限強化]によって傷が癒えてしまう。
だが、しっかりと出た分の血は手の甲に残り、それを職員に渡す。
やっぱり精神力補正は万能です。
Vシネマで小指を切り落とすシーンですらビビってしまう俺がこんな事まで出来てしまうなんて。
「……すさまじいですな……ではこれをこいつの首に打ち込んでやれば」
薬品と混ぜあわせ、小さな注射器に込めた後、慣れた手つきで鱗の隙間に突き刺した。
一瞬だけ竜がピクリと動いたと思ったが、次の瞬間唐突にのたうち暴れ始めてしまった。
「大丈夫なのか、あれ」
「……大丈夫なはずです。稀に強力な力の持ち主の血によって、身体に負担がかかると聞きます」
強力な力で済ませられるんですかね俺の血って。
大丈夫? 頭パーンとかしない? いきなり死んじゃったりしない?
「リュエ、念のため回復魔法を頼む」
「そ、そうだね。……可哀想に」
「俺を見るな俺を! 俺は悪くない!」
「……カイさん血ですか。……血を分ける、ですか」
レイス怖い怖い怖い。
少しすると、ようやく竜も落ち着きを取り戻し、すくっと四肢を伸ばし立ち上がった。
羽を広げると、檻をベコっと凹ませ、そのまま破壊してしまう。
そうかそうか、君は成長期なのか。すごいね、寝る子は育つもんね。
「んなわけあるかい」
「……馬鹿な……成体になっただと!?」
【Name】
【種族】 魔王竜
【レベル】 169
やだ、この子種族変わってる。
そしてレベルがフェニックスに迫る勢いなんですが。
そういえば君さっきまで角はえてなかったよね。なんで生えてるの?
しかもどこかで見たことのある、黄金のヤギ角みたいなの。
つぶらな瞳も、どっかの誰かさんみたいに漆黒に真紅の虹彩ですね。
あれですか、ペットは飼い主に似るって?
限度があらーな!
「……魔車、ありがとうございました」
「あ、はい……なんだかすみません、こんな事になるなんて想定外でして」
「いえいえ、こっちも檻壊してしまって」
とりあえずお金握らせとけばチャラだってばっちゃんが言ってた。
(´・ω・`)前回の登場人物紹介にまたイラストを頂いたので掲載しておきました
(´・ω・`)そして久しぶりにオンラインゲームをしたら知らないクエストがありました




