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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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七十話

(´・ω・`)お待たせしました、ちょっぴり長い六章のエピローグです

 火山噴火から三日経ったある日、再び俺とリュエの二人で火口の底へとやって来た。

 気温は当然他の場所よりは高いが、それでも数日前までの猛烈な、肌をジリジリと焦がすような暑さは感じない。

 そして溶岩の湧く底を覗けば、そのかさが大分減り、表面も静かに脈動するのみだった。


「うん、これならもう大丈夫なんじゃないかな?」

「やっぱり無理やり噴火させられたからなのかね?」

「だと思うよ。本来起きない自然現象を無理やり起こしたんだ、暫くは山の活気も衰えちゃうかもね」


 なるほど。

 温泉の温度や出量の心配もあるが、新たな噴火の心配はもうないと見ていいのか。

 俺はそれを確認し、火山を後にしたのだった。


 街へと戻り、リュエには先に宿に戻ってもらい俺はギルドへと報告に。

 今回の経過調査はギルドからの正式な依頼で、依頼主はなんとオインクだ。

 どうやらこの街はかつての解放者『イグゾウ・ヨシダ』さんの子孫にあたる人物が大切にしている場所だそうで、ギルドを通して保護、発展を後押ししているのだとか。

 その子孫である『イル・ヨシダ』さんがこの大陸の議員の一人であり、オインクと懇意にしているそうだ。

 俺は通信の魔導具を通して直接オインクに報告をする。


「リュエの見立てでも再噴火の心配はないそうだ。だがダンジョン化といい、この強制的な噴火といい、偶然ではないように思える」

『それなのですが、ぼんぼんに少しお知らせしておきたい事があります。マインズバレーの一件、覚えていますか?』

「ああ、勿論覚えている。あの廃鉱山の調査はどうだった?」

『結果だけ言いますと、浄化を行われた廃鉱山、そして魔物の氾濫が起きた廃鉱山共にダンジョン化の傾向が見られました』

「……そうか」

『あまり驚かないんですね? もしかして予想していましたか?』

「いや。だけどちょっと気になる事があってな。今回の件とマインズバレーの件、大きな共通点があるんだけど、わかるか?」


 マインズバレーの氾濫も、ダンジョン化の影響だったと言う。

 そうなると、俺とリュエによる浄化はそれを未然に食い止めたという事になる。

 ダンジョンクリアと判定される鍵は、そのダンジョンの主を撃破する事。そして今回は『フェニックス』がその主だった。

 そして、俺が廃鉱山で倒した……いや、破壊したのは――主になる前の核のような存在だったのかもしれないな。それも極めて人工的な。


『共通点、ですか? ……どちらもぼんぼんが居合わせた、でしょうか?』

「惜しい、けど良い線いってる。俺がいたのはたぶん偶然だと思うぞ、本来の狙いを考えると俺は邪魔でしかないしな」

『本来の狙い……ですか?』

「さて、俺は今回どうしてこの町に長く滞在したでしょう?」

『……なるほど、解放者ですね。マインズバレーではレン、そして今回はナオ君が居合わせたと』

「そういう事だ。たぶん何者かが解放者を育てるためにダンジョン化を推し進めてると見て間違いない」


 そしてその過程で、多くの犠牲を強いている。

 マインズバレーでは魔物の群れが、そして今回は溶岩が。

 恐らく俺達がいなければ、決して少なくない犠牲が出ていた。

 そこまでして彼らを育て、強くしようとしているのは何故なのか。

 一体何者がそれを行っているのか、それはまだわからない。

 例えば、今回の火山なんて人の手でどうこう出来るものとは思えないし、何よりもナオ君一行は事前にこの大陸にダンジョンがあると知った上で訪れている。

 だが、確実に俺の知らない何かが裏で動いている。

 それだけは確かだ。


『……私も、警戒をした方が良いでしょうか?』

「そうだな。とりあえず氷霧の森周辺の警戒だけはしておいてくれ。まぁあそこはもう七星も倒してしまっているが」

『あ、それででしょうか? 最近氷霧の森周辺の魔物の動きが鈍くなっているそうですよ。治安面も安定しているそうです』

「へぇ、まるで七星を解放した土地みたいだな」


 やっぱり七星が黒幕だったんじゃないかね?

 完全な妄想だが、解放されると同時に魔物を支配下に置くとかそんな感じで。

 そして逆に討伐していなくなると、封印していた時同様、漏れ出ていた力のような物が無くなって、魔物が凶暴化しなくなるとか。

 やっぱり解放するんじゃなくて倒したほうが良さ気なんだよなぁ。


『……間違ってもセミフィナルの七星の討伐なんてしないで下さいね……?』

「したいんだけど、やっぱりマズいか?」

『マズいですね。信仰の対象ですし、現に毎年豊作を約束する光を大陸にふりまいていますし』

「まぁ、俺も大陸の住人全てに恨まれるのは面倒だし、表立って騒ぎ立てたりはしないさ」

『つまり……裏で動くと?』

「敵対するようなら」


 基本的に敵対しなければこっちから手出しはしません。

 けどまぁ、後々敵対するのが確定するのなら、その時はまぁ、多少はね?


「ああ、一応マインズバレーとこのアキダルに過去訪れた人間の調査はしておいてくれ。何か仕込みをしていたかもしれないし」

『そうですね、既にマインズバレーでは調査を行っていますし、そちらにも人をやります』

「了解。んじゃ今回はこの辺でいいか」

『あ、最後に一つだけ。レイスの件、こちらでも調べがつきました。彼女の足取りを辿れば、やはり過去から今に至るまで彼女を追っていたのはアーカムで間違いないようです』

「そうか、報告してありがとうな。山で山菜採りしたから今度おすそ分けしてやるよ」

『ドングリ! ドングリはあるの!?』

「この時期に採れる訳ないだろ」

『そんなー』


 よし、報告終わり。

 それじゃあそろそろ宿に戻るとするかね。


 あの日以来、一部の温泉施設が休業中の札を出すようになってしまった。

 一時的な噴火とは言え、急激な水温上昇に伴い、破裂や水漏れ、そしてお湯の量が一瞬だけ爆発的に増えた為施設内が水浸しになってしまった所もあったとか。

 だがそれも今日になれば落ち着きを取り戻し、営業を再開した場所も見受けられる。

 俺達の泊まる宿も昨日には問題なく入浴出来るようになり、水温も上水道の構造を変えることにより従来通りの温度を維持できている。

 概ね問題なく、無事解決したと言っていいだろう。

 だがあえて問題を一つ上げるとしたら――


「なんだ、またリュエは引っ張られていったのか」

「あ、おかえりなさいカイさん。そうなんです、宿で待っていた皆さんがリュエが戻るや否や『女神様においがだの野菜食ってもらうんだ』と……」

「大人気だな……本当」


 リュエ株が天井知らずで上がり続けている事だろうか。

 連日彼女は農家の皆さんに連れられ、各ご家庭で採れた野菜をご馳走になっている。

 お裾分けなんかも貰ってくるので美味しいといえば美味しいのだが、あのリュエがだんだんと疲れてきているくらいだ。

 そういえばあの子、前に畑で農家の皆さんとご飯食べてたりしてたもんね、その所為で取っ付き易いんだろうか。

 だが、今日は夕方までには戻ってきてもらわないと困る。

 今日はこの町最後の『ぼんぼんクッキング』を行う予定なのだから、是非とも彼女にも参加してもらわないと。

 そしてそれは、ナオ君との約束を果たすことも意味している。


「今日は外食は控えるように言ってありますから、もうすぐ帰ってくると思いますよ。セッティングの方は私がしておきましたので、裏へと来て頂けますか?」

「いや、もう少しここで待ってるよ。ナオ君達は今どこに?」


 ナオ君達とは、今日でお別れだ。

 彼らはこのまま俺がこの大陸で最初に降り立った港町『エンディア』へと向かい、そこで船に乗り、この大陸の外周を回ってから反対側の港町へと向かうそうだ。

 その後『サーディス大陸』を迂回して直接『セカンダリア大陸』へ向かう船に乗り帰国する予定だとか。

 夏や秋にこの大陸で祭が行われるのだし、見ていけばいいとも思ったのだが、やはりいち早く大陸に戻り、自分の力が通用するか試したいのだろう。

 ……彼が七星を解放するのなら、それも良いだろう。

 だがその七星も、やはり俺の敵となるのなら、その時は――


「ナオ君達は裏山で訓練中ですよ。やはり急激な成長で身体の動きに自分が対応出来ないそうです」

「そういえば、レイスが組手の相手をしてくれたとか言ってたな」

「ええ。やはり能力はあるみたいですけれど、経験不足ですね。それに、どうしても私を攻撃する時に躊躇してしまうようで」

「そりゃ仕方ない。美人に手を上げるのは難しいからな。ナオ君は優しいから特に」

「……」


 無言で手を握らないでください、ときめきます。

 最近褒められると露骨に照れ隠しをするようになりましたね貴女。

 最初の頃の余裕はどこに行ったし。


「おーい! カイくーん、レイスー! 新鮮な食材のお届けだよー!」


 とそこへ、我らが英雄、女神様が戻ってきた。

 小脇に農家の皆さんから頂いた食材をたっぷり持って、嬉しそうに。

 よし、じゃあ始めようか。ナオ君の成長を祝した、そして新たな門出を祝うぼんぼんクッキングを。




「と言うわけでやって参りました。第三回(仮)ぼんぼんクッキングのお時間です」

「ぼんぼんクッキングですか……?」


 宿の裏にはすでに野外キッチンとも言える調理機材一式がセッティング済みでございます。

 これらはリュエのバッグから取り出した後、俺やレイス、リュエのアイテムボックスにしまってあるキャンピングセットの一部だ。

 やっぱり一番の反則はアイテムボックスだと思うんです。これなら最悪宿を取らなくても十分に生活出来るんじゃないですかね。


「本日はナオ君のリクエストであるチキン南蛮と、山菜料理を作りたいと思います」

「ちなみに食材の提供は私と、この町の農家の皆さんだよ」

「アシスタントを務めさせて頂くのは、私レイスです」


 あの寂しかったぼんぼんクッキングも、今では美人アシスタントにボケ担当のリュエと、すっかり豪華なメンツとなっております。

 ナオ君、ケン爺、スティリアさんは席に着き、呆気にとられた顔をしている。

 そういえば、食べたことはあっても俺が作る所を見るのは初めてだったか。

 ……そういえば、スティリアさんのスキルに料理があったような。

 ……ちょっと緊張してしまう。


「それじゃあ、先に山菜の方からとりかかろうか」


 まぁ、気楽に作りましょ。

 俺はすでに下ごしらえを済ませ保存しておいた山菜を取り出し、レイスに渡す。

 シダ科の植物である『コゴミ』と呼ばれる、先端がゼンマイのようにクルクルと巻かれた植物だ。

 ちなみに、本当に『ゼンマイ』と言う山菜もあります。機械部品のゼンマイは実はこの山菜が語源だったりします。


「レイス、一応下処理してあるけど、根本のクキが硬い場所があったらそこから折ってくれないかい?」

「分かりました。その後はどうします?」

「コゴミはアクが少ないからね。塩ゆでにしてくれないかな」

「了解です」


 ううむ、安心して任せられる相手がいると、本当に料理の手間が段違いだ。

 すぐそこで目を輝かせながら『私は? 私は?』と訴えかけてくる誰かさんとは大違いだ。

 しかしさすがに不憫なので、簡単な仕事を任せる事にした。


「リュエ、お湯を沸かしておいてくれ。後オリーブオイルと塩の用意を」

「それだけでいいのかい? じゃあ任された」


 ……本当、楽しいよここは。

 ナオ君、君はこの世界に来て、最初どんな気持ちだった?

 どんな出会いがあった? どう思った?

 この世界は、確かに日本よりも厳しい世界だ。

 俺はこの力のせいでその実感があまり湧かない。けれども、君は違う筈だ。

 それでも今、もし楽しいと思ってくれるなら。

 神の指示に抗い、俺の敵とならないでくれるなら。その時は再び力を貸そうじゃないか。


「私も何かお手伝いをした方がいいのではないでしょうか……」

「今日は任せてくれって言うておったしいいんでないかの? スティリアもたまにはこうやってゆっくりするとよい」

「そうだよ。カイヴォンさん、凄く楽しそうだし、僕達もあんな風になれたらいいね」

「ナオ様……そうですね。でしたら今度、一緒に作りましょうか」

「もちろん!」




 俺は他の山菜もレイスに渡し、今度は今回のメイン食材に取り掛かる。

 リュエの倉庫から取り出した、明らかに鶏肉と呼ぶには大きすぎる肉塊だ。

 彼女にこの肉の正体を尋ねた所『美味しくて大きい鶏肉だよ』としか返ってこなかったが、美味しいならばそれでよし。

 巨大なもも肉をまな板に置き、毎度おなじみ闇魔術で小さなナイフを作り出し、下処理に取り掛かる。

 白い筋や、脂肪、ほかにも血合いとなっている部分を取り除いていく。

 皮目の方は抜け切れていない羽毛を丁寧に引っこ抜く。

 ……太くね、この羽毛。絶対鶏じゃないだろ、鳥類の魔物か何かの肉じゃないのかこれ。

 もしやと思い、この肉をこっそり一度自分のアイテムボックスに収納して説明文を読んでみる。


『狂乱神霊鳥インサニティフェニックスのモモ肉』


 なんかすごい肉だった。

 何そのかっこいい名前、俺が倒したフェニックスさんが霞んで見えるんですがそれは。

 よし、黙っておこう。

 とりあえず下処理を終えたので、漬け汁にある程度の大きさに切り分けて漬け込む事にする。

 醤油、みりん、ニンニクに酒、そして隠し味に山椒の粉を入れた漬け汁を巨大なバッドに流し込み、切り分けた肉を並べていく。

 おかしいな、切り分けたのに一つ一つの大きさが手のひら二枚分くらいあるんだけど。

 厚さも相応なので、鶏肉を観音開きと言う方法で切り開いて厚さを無くす。

 するとなんと言うことでしょう、厚さがなくなった代わりに面積が俺の顔を覆い隠してしまう程の大きさに。


「うわあ! あんな大きなお肉で作るなんて贅沢だなー」

「そうですね、ナオ様。食べ過ぎには注意して下さいね?」

「大丈夫だよ、僕今まで沢山食べて体重が増えた事ないから」

「…………それはそれは……羨ましいお話ですね」


 スティリアさんの貴重な憤怒シーン。

 ナオ君にダダ甘な彼女にしては珍しい声のトーンだ。

 しかし、世の女性は体重維持に多大な努力をすると言う。

 けどうちの姫さん二人も結構よく食べるけど、そんな気配がないんですよね。

 やっぱり創世期の人間は特別製なのだろうか?


「凄く立派ですね……こんなに大きいなんて」

「レイスもお肉好きだもんね。私も楽しみだよ」

「あ、山菜の塩ゆで終わったのか。じゃあその一部の水分を切って皿に並べておいてくれないか」


 気が付くと、二人が側にきて肉を眺めていた。

 リュエさんや、君このお肉がなんなのか知ってて今まで食べていたんですか?

 というかこんな凄そうな肉、誰が送ってきたし。

 ともかく、肉を漬け込んでいる間に他の事をしてしまうか。

 俺は皿に並べたコゴミに、オリーブオイルをふりかけて軽く塩をふる。

 これだけで、中々美味い。ちょっとした前菜になる。

 茹で上がったこごみは、淡い抹茶ミルクのような色から、少しだけ色濃く変色している。

 人工物のようにくるくると巻かれた姿は、ちょっとした飾りのようで盛り付けにも活躍してくれるニクい奴だ。

 試しに一つ味見してみると、コリコリとした食感とトロりとした食感の混在する非常にクセになる歯ごたえ。

 本当これ、うまいんだよなぁ。


「リュエ、ナオ君達に運んでおいてくれ」

「代わりに私にも一口要求する」

「ほい」


 餌を待つ雛鳥のような姿に笑いを堪えつつ放り込むと、美味しそうに咀嚼しはじめる。

 うまかろううまかろう。


 そんなこんなで料理は続き、出来上がった数々がナオ君たちの前に揃っていく。

 コゴミのオリーブオイル掛け、コゴミのゴマ和え、ギョウジャニンニクの天ぷらに酢味噌和え。

 そして毎度おなじみオサレ料理の定番パスタ先生を使ったギョウジャニンニクのアーリオオーリオです。

 なんと統一感のない構成、本当に作りたい、食べたい物だけを自由に作ってしまった。

 で、本日のメインチキン南蛮先生もまもなく完成だ。


「カイくん、これ楽しい。もっと潰す物はないかい?」

「ゆでたまごクラッシャーさんはその辺りで手を止めて下さい。タルタルソースに使うからある程度形が残る程度で良いんだ」

「むむ、じゃあ次はどうしようか?」

「これ、さっき刻んだ玉ねぎを水でさらしておいたから、これの水分を切って玉子にまぜておくれ」

「あ、例のカイくんの白いドロドロの出番だね? あれ好きなんだよね」


 だからマヨネーズだって言ってるでしょうお嬢さん。

 ついでにパセリも刻み、さらにリュエの倉庫から取り出したピクルスを刻む。

 それら全てをリュエに渡し、マヨネーズに入れて混ぜあわせてもらう。

 とここで、いよいよナオ君の落ち着きがなくなってきた。


「すごい、タルタルソースがボウルいっぱいだよスティリア! いいなぁ、早く食べたいよ」

「ナオ様はあのソースが好きなのですね? ……後で作り方を教わらなければ」

「ほっほっほ。胃袋を掴むの基本じゃからのう。ううむ、この山菜の和え物、わしはもうこれだけで酒が飲めそうじゃ……」


 ハッハッハ。ナオ君の摂取カロリーが天元突破しそうだ。

 本当、君いつか溜め込んだカロリーが爆発して豚さんになっちゃうぞ?

 やがて、鶏肉も揚げ終わり、軽く油を切ってから最後の仕上げにとりかかる。

 チキン南蛮はもちろん、アジの南蛮漬け同様甘酸っぱいタレをまとわせるのが主流だ。

 だが、最近ではとろみを付けたタレを上からかけ、一緒にタルタルソースをかけた物をスーパーで見かけるようになった。

 俺もその方式が好きなのだが、今回はせっかく揚げたてなので、熱々のうちにつけダレに軽くくぐらせるオリジナルに習った方式を取る。

 つけダレには今回、柑橘系の果汁とアギダルで生産されている醸造酢を使わせて頂きました。

 さすが米どころのお酢、非常に美味しいです。

 醤油、果汁、酢に加えて少量の生姜の絞り汁に砂糖、刻んだギョウジャニンニクを入れたタレに揚げたての巨大カラアゲを潜らせる。


「後は切り分けて刻んだレタスの上に乗せて、リュエが混ぜたソースをかけたら完成だ」

「わ、私が仕上げでいいのかい? 責任重大じゃないか!」

「リュエ、かけるだけですから大丈夫ですよ?」

「そ、そうだよね。任された」




 そうして完成した明らかに六人じゃ食べきれない料理を囲み、一同が感嘆の声を上げる。

 大きな東屋を借り、木製の大テーブルに並べられた料理の数々。

 リュエ大先生の力で作られた冷たいシャーベットに、よく冷やされた酒の数々。

 未成年にはしっかりジュースも用意しております。まぁここは日本じゃないのだし、飲んでもいいとは思うんですけどね?

 そしてナオ君とレイスがチキン南蛮に視線を釘付けにされている。

 ……レイス、俺はもう何も言わないぞ。


「それじゃあ無事料理も完成したので、少しばかり挨拶をば」

「お願いしますカイヴォンさん」

「予定より少し早かったけど、無事にダンジョンを踏破したお祝いと、新たな旅に出るナオ君達の為、未熟ながら腕を振るわせて頂きました。今回はこの町で採れた食材もふんだんに使った料理ですので、自分たちが戦い、そして守った町の事を思って食べて頂けると幸いです」


 実際、ダンジョンの踏破が遅れたら資源枯渇や、下手をしたら火山の噴火に対処出来なかったかもしれない。

 そう思えば、今目の前に並ぶ料理の数々は、ナオ君を含めたみんなが戦った結果勝ち取る事が出来た物と言える。

 さぁ、じゃあ面倒な挨拶はこの辺りにして食べようじゃないか。


「それでは、いただきます」

『いただきます』


 食べ始めたみんなの顔は、本当に眩しいくらい輝いていた。

 頬が膨れるくらい肉を詰め込んだナオ君がスティリアにたしなめられ、それを見ながらケン爺が盃を傾ける。

 ナオ君の様子を見て急に恥ずかしくなったのか、チビチビとチキンを食べ始めたレイスと、自分が作ったソースを嬉しそうに食べるリュエ。

 辺りを夕日が染め始め、山から程よく冷え始めた風が吹き下ろす。

 美味しそうに食べるみんなを眺めながら、俺もまた一献。

 相変わらず美味しい『絆』を喉に流しこみながら、もう一つの『絆』を味わっていた。

 そうして、ゆっくりと夜が訪れる。




 一夜明け、宿の前ではすっかりと旅支度を済ませた一行がこちらに向き直っている。

 ナオ君に至っては涙を目に浮かべ、今にもこちらに抱きついてきそうな気配を漂わせている。

 それ以上いけない、どうしてもしたいと言うのなら、どうにかして女の子にでもなってくださいませんか。


「カイヴォンさん、本当にお世話になりました! 僕は確かに別な使命を受けていましたけど、そんな物は関係ありません! 僕は僕がしたいように、信じる物を信じて進みます!」

「カイヴォン殿、私は深い事情は聞きません。私の知る伝承も、恐らく貴方自身には関係のない物でしょう。私もまた、自分の目で見たものを信じたいと思います」


 だからその伝承ってなんなんですか、結局聞いても教えてくれませんでしたよね? けど妙に顔が赤くなっていたので、ちょっとこっちも聞き辛いです。


「ワシも魔導の達人ともてはやされておったが、今回の事でまだまだ未熟者じゃと痛感したわい。これからも精進しよう。カイ、もし儂らの大陸に来たら、その時はワシの秘蔵の酒をご馳走するでの、また美味い料理を頼むぞい」

「ははは、それは楽しみだ。絶対に行くから待っててくれ」


 本当、ちょっとした好奇心から始まった冒険だったが、想像よりも遥かに楽しい、充実した日々を過ごすことが出来た。

 これから先、またちょっと俺はやらかす事になるだろうし、その前の充電期間としては贅沢すぎるくらいの楽しい日々だった。

 だからこそ、俺は用意しておいたプレゼントを彼らに渡す。

 俺が調整した指輪だ。


「デザインはバラバラだけど、俺からの選別だ。特別な効果はないけど、記念に貰ってくれ」

「あ、この間調整していた指輪ですね!」

「ああ。たぶんみんなの指にぴったりハマる筈だぞ」


 俺は三つの指輪を、三人の指に通していく。

 大丈夫、左手の薬指なんかじゃありませんよ。だから恥ずかしがらず手を出して下さいスティリアさん。

 それぞれ人差し指に、指輪を差し込んでいく。

 木と金色の金属を組み合わせたシンプルなデザインの物に、オールシルバーの少しかっこいいデザインの物。

 そして黒く磨かれた、木製とは思えない艶やかな輝きを放つ物。

 それぞれ三人の指に順番にはめて行く。


「あ、カイさんの指輪と僕のは同じデザインですね」

「んな! ……私にも同じデザインはありませんか……?」

「残念、これしかなかったんだ。大丈夫……いつかナオ君に贈ってもらいな、お揃いの指輪を」


 最後の部分だけを小声で囁くと、信じられないくらい顔を赤く染めた彼女が大急ぎで離れていった。

 なんと可愛らしい。


「ほほう、これは中々……ワシは元々森に住んでおったからのう、こういう木製の指輪は大歓迎じゃ。ありがたく頂くぞ」

「ああ、大事にしてくれ。じゃあ三人共、元気でな」

「はい! カイヴォンさん、もしセカンダリア大陸に来たら『王都ガルデウス』を目指して下さい。僕達の拠点がそこなんです」

「私の所属する国の首都となります。セカンダリア大陸は現在も、近隣諸国との小競り合いが続いておりますので、どうかお気をつけて下さい」

「んむ。幸いにして港を押さえているのはワシらの陣営じゃが、油断は禁物じゃよ」

「なら、俺が行くまでに平和にしておいてくれ。がんばれナオ君!」

「はい!」


 そうして、彼らは旅立って行った。

 俺達が通ってきた街道を歩きながら、ゆっくりと。

 それを見送りながら俺もまた、次に向かう街へと思いを馳せるのだった。











「なぁなぁ、この間お前が倒した鳥の肉どこやった? あれ食いたいんだけど」

「王族連中がまた『魔女の祭壇』に供えにいったらしい」

「マジでか。毎度毎度もったいねぇ……あれめっちゃ美味いらしいぞ?」

「あれくらいまた狩ってくるからいいだろ。しかし『魔女の祭壇』……ね。どんな魔女なのやら」

「知らね。まぁ連中が怖がってるくらいだし、気持ち的にお供えしておきたいんじゃね」


 とある国の王城で、小柄な男女が語り合う。

 彼らと一行が出会うのは、まだ暫く先。

(´・ω・`)また少し更新が開くと思います(予防線)

(´・ω・`)らんらんチャレ期間中もチャレほとんどしないで頑張ったの

(´・ω・`)褒めて?

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