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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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六十八話

(´・ω・`)最近眠っても疲れが取れないの

(´・ω・`)夏バテかもしれないのでちょっとお魚沢山食べます

 一人、脈動する火山の火口を目指して進んで行く。

 本来岩を落とす筈の崖から、俺は翼を広げて飛び降りた。

 ……正直めちゃくちゃ恐かったです。

 しかし熱せられた空気が気流を生み、想像よりも緩やかに滑空し無事に最下層へと辿り着くことが出来た。


「しっかし、まるでどこぞのRPGキャラみたいなポジションだな俺も」


 主人公一行に加わる、圧倒的な強さを持つ一時キャラ。

 ああいうキャラってそのイベントの終盤で死ぬか、もしくは後々仲間になるんだよね。

 それであれよ『あれ、このキャラこんなに弱かったっけ?』とか言われたりする奴。

 もしくは一行の仲間に加わるも、物語中盤で裏切るか、やっぱり主人公を庇って死んじゃうパターン。


 ……どう転んでもバッドエンドルートじゃないですかー! ヤダー!

 よし、現実逃避完了。


「あーあー、溶岩のカサがどんどん増えてっちゃってるよ」


 これ、どうやって抑えたらいいんですかね?

 下手に刺激を与えたら、それこそ一気に噴火してしまいそうだ。

 だったら完全に抑えるのではなく、勢いを殺して周囲への被害を抑える方が良いだろうか?


「氷属性で攻撃したらなんとかなったりしないか? ああ、でも下手するとこの辺りの温泉が枯れてしまうか」


 じゃあやっぱり俺も外に出て待ち構える感じで行きますかね?






「レイスレイス、さすがにそこまで露骨に自慢されると私が不機嫌になる!」

「どうしたんですか、突然」

「おっぱいがすっごい揺れてる。私だってね、多少はあるんだ」

「……私は揺らしていません。これは……地震?」


 カイさんを見送った後、私達は何処かに出かける気にもなれず、宿で待機していました。

 カイさんの強さは、先日の一件で十分に理解出来ました。ですが、それでも心配な物は心配なんです。

 ましてや、こんな地震まで……一体何が起きようとしているのでしょうか……。


「レイス、ちょっと町の裏山の方に行こうか。カイ君の懸念はこの事だったんだよ。たぶん火山噴火だ」

「では、これはその予兆ですか……? それではこの町は!」

「大丈夫、だから私とレイスがここに残ったんだ。この町は、カイくんお気に入りみたいだしね、何がなんでも守ってみせるよ」


 自身満々に言い切る彼女の姿が、とても眩しく見えました。

 私ではまだ、彼の隣には並び立つ事は出来ません。 

 それでも、一歩引いた場所で二人を誰よりも近くで見守ることが出来るのは、きっと私だけだから。

 だからこそ、この頼りになる、けれども少し頼りない姉が無茶をしないよう、私も立ち上がる。

 大丈夫ですよ、カイさん。リュエは私がしっかり見ていますからね。



 宿の裏手から、山道に入らず山を大きく迂回して岩山のトンネルへと差し掛かる。

 すると、すぐに私達は異常を感じ取ることが出来ました。

 気温が、明らかに以前来ていた時よりも上がっていたのです。

 心なしか振動も大きくなり、やはり火山の噴火は回避出来ないのだろうと私も覚悟を決める。


「レイス、岩山のトンネルは崩落するかもしれない、もう一度迂回しよう」

「そうですね、急ぎましょう」


 ようやく火山洞窟の入り口が見え始めた時、その入口の上方、山の斜面を滑り降りるようにナオ君とその仲間の皆さんが現れました。

 そこに、カイヴォンさんの姿が見当たらず、酷い焦燥に駆られ、つい彼らに問い詰めてしまいそうになる。

 ですが、隣にいるリュエが平然と彼らに話しかける姿に、私も既の所で堪えました。


「……カイくんは火山に残ったんだね?」

「リュエさん! レイスさん! カイヴォンさんを、助けてください! 一人で噴火を止めるって山に残ったんです!」

「我々が不甲斐無いばかりに……私からも、どうかお願い致します! カイヴォン殿をどうか!」

「……カイは、収める事が出来るのじゃろう? お主らはカイの仲間、その力を誰よりも知っておるのじゃろう? 頼む、カイならば出来ると、無事に戻ると言ってくれ……!」


 三人の余りに鎮痛な面持ちに、先ほど湧いた感情が勢いを無くす。

 この方達も、カイさんの仲間。平然としていられる訳がない。

 でも、私もまだ、信じきる事が出来ない……。

 カイさんは一人で自然を壊す程の力を持っています。ですが、本物の自然災害に、勝てるのでしょうか……?


「んー、カイくんが噴火を止めるのは無理じゃないかな? だって氷の魔導は使えないし、そもそも下手に止めたら地中で爆発して被害が大きくなるじゃないか」

「え、ええ!?」

「うん? レイスも出来ると思ってたのかい? あっはっは、さすがにそこまでカイくんは万能じゃないよ?」


 ……なんなんでしょう、この余裕は。


「だからたぶん、噴火した後の被害をゼロにするんじゃないかな? それなら簡単だし」

「……あの、それって噴火を止めるより難しいんじゃ……」

「大丈夫大丈夫、君たちもカイくんの力を知ったんだろう? なら、信じてみなよ? 大丈夫、町の方には――」


 瞬間、リュエから凶悪な、恐ろしい程の魔力が流れだし、上がっていたはずの気温が急激に下がりだす。

 そして次の瞬間、リュエが歌うように呪文を紡ぎだす。


「"理を超え、法を超え、陽を超える。我が身に宿りし全てを喰らい、ここに全てを止める永遠の零を創造する"」


 急激に下がった温度が、まるで移動するかのように引いていく。

 震えが収まった私達は、彼女の神々しい、まるで本物の女神のように自然を支配する姿に魅入ってしまう。

 知らない、私が見たリュエの力は、ここまでの物じゃなかった。

 まるで、彼女の物じゃないような、余りにも強大な力に、畏怖を通り越した何か別な感情が呼び起こされる。

 身体に眠る、原初の記憶。それを揺さぶるような魔力の高まりに、意識を持って行かれそうになる。

 今目の前で噴火をしようとしている火山よりも、私には彼女の今行使しようとしている魔導の方が、遥かに恐ろしい物に思えた。


「"クロノス・イーター""アブソリュートゼロ"」


 次の瞬間、彼女は二つの魔導を同時に行使した。

 私は、魔力を利用する戦法を使う手前、魔力の流れや量を感知する事に長けています。

 ですが、今この瞬間、一切の魔力がこの場から失われたのを確かに感じました。


「バカな……王伝魔導じゃと……もう一つのは何なのじゃ……いや、そもそも同時行使じゃと!?」

「空が……消えた? これは氷なんですか……?」


 彼女に魅入っていた私も、彼らの声にようやく我に返り、空を見上げました。

 そこに広がるのは、恐ろしい程透明な、けれども深い青で覆われた景色。

 この辺りを全て覆う氷のドームでした。


「……久々に、本気を出したから疲れてしまったよ……これで、絶対に溶岩は流れ出ない」

「ええと……マグマの温度だと氷は溶けてしまうんじゃないんですか?」

「そうだね。だから私は溶けない氷を作ったんだ。絶対に溶けない、たとえ神であれなんであれ、溶かす事の出来ない時を止めた氷を」

「……それが、今のもう一つの魔導の正体なのじゃな……? お主は一体何者なのじゃ……カイといい、お主といい……」

「うん? 私は田舎者のエルフさ。ちょっと魔導に自信があるね」


 カイさん、もしかしてリュエはカイさんよりもすごい人なんじゃないんですか?

 私の姉さんは、もしかしたら女神様かもしれません……。


「あ、でもカイくんはこの氷を一撃で壊しちゃったんだよ! 凄いよね!」


 前言撤回します。






「さてと、そろそろ俺も外に出ようかね……その前にっと」


 しばらくマグマの上昇を見守っていたが、いよいよその脈動が活発になり、一旦火口から外へ出ようと翼を広げる。

 その前に、刺激を与えずに少しでも勢いを殺せないかと、試せる事は全て試してみようと魔導を発動させる。

 俺の闇魔導は、基本的に他の物質や現象に干渉する物だ。

 ならば、溶岩の熱エネルギーを奪うことも出来るはず。

 マグマは本来、地中深くに溜まったマグマ溜まりと呼ばれる場所の岩盤が耐え切れなくなって噴出する物。

 だったら、そこまで闇を侵食させる事が出来れば、熱エネルギーを奪い多少はその勢いを殺すことも出来るのでは、と思ったのだが。


「……詳しくは分からないけど熱がなくなればマシなんじゃね、的な。大丈夫、困った時は我らがリュエ先生がなんとかしてくれる!」


 龍神閉じ込められるくらいだし、溶岩くらいならなんとかしてくれる!

 大丈夫、俺の白エルフさんは最強なんだ!


「というわけで、闇魔導さんお願いします」


 アビリティを組み換えて、魔力の値を限界まで高めて行使する。

 赤く発熱したマグマの一部が黒に染まり、徐々に侵食していくように広がっていく。

 そのまま見えている部分が全て黒く染まったのを確認して、さらに魔力を込めて地中へと勢力を伸ばす。

 なんだかタールのように見えてきたな。臭いもどことなくそんな臭いがしてきたような気もしてきた。

 だが、順調だと思えてきた試みも、どうやら限界が来たようだ。

 目の前のマグマは黒く染まったにも関わらず、他の岩が徐々ひび割れ、そこから溶岩が染み出してきていた。

 参ったね、ほかにもマグマが噴出している場所があったのか。


「じゃあ今度こそ出るか」


 翼を広げ、もはや原理不明となったフェーンの魔法で上昇気流を生み出す。

 もしかしてこれ、気流操作の魔法なんじゃないか?

 身体が持ち上がる感覚を楽しみながら、ゆっくりと俺は火口を昇り、火山から飛び出す。

 すると、予想外の寒気にくしゃみをしてしまった。


「さっむ! 空が凍ってる? いや、氷のドームに覆われているのか」


 やっぱり我が家のエルフさんは頼りになります。

 よし、じゃあ俺も本気で構成考えてみますか。


[氷帝の加護]

[簒奪者の証(剣)]

[簒奪者の証(闘)]

[生命力極限強化]

[コンバートMP]

[攻撃力変換]

[悪食]

[硬直軽減]

[幸運]

[チャージ]


 ざっとこんな物でどうだろう。

 手数、範囲、持続力、そして対応力を意識した結果がこれだ。

[チャージ]で威力を上げる事も出来るし[硬直軽減]で全体的に手数を増やす。

 さらに魔力を上げて魔法、魔導の威力も底上げする。


「あとは噴火を待つだけか」


 次第に、空中にいるにも関わらず、振動が身体に伝わり始める。

 大気に振動が伝わり、それが全身をわずかに揺らしているのだと気がついた俺は、直ぐ様距離を取り両耳を塞ぐ。

 次の瞬間、まるで見えない大砲でも全身に受けたかのような衝撃を受けた。胸どころか腹の底まで響いてくる轟音に、塞いでいたはずの耳までもが痺れ、一瞬だけ気を失ってしまう。

 なるほど、こういう攻撃は俺でも一瞬食らってしまうのか、と新たな発見をしつつ、火口から噴出した溶岩を見やる。

 溶岩はそのまま薄っすらと霧のかかる氷の天井にぶつかると、直ぐ様変色しながら粘度を増して地面へと落ちていく。

 本来なら飛沫となりあちこちへと飛び散る筈が、氷のお陰である程度の塊になり落下する様に、改めてリュエの魔導の凄さを思い知る。

 だってねぇ? 温度って絶対零度っていう法則があるでしょうよ? それすら無視してマグマの熱に耐えるって。


 それでも、赤熱した塊が木々の生い茂る山へと向かう事は止められない。

 どうやらこの氷のドーム、細かな範囲調整が難しいのか、宿の裏山の一部がドームの内に入ってしまっていた。

 俺は少しでもそちらに向かう飛沫を少なくしようと、ひたすら速度重視の剣技を発動させる。

 ナオ君に教えたウェイブモーション。それを全力で放ち[硬直軽減]の効果も合わさり、まるで対空砲の様に飛来する溶岩を撃墜していく。

[氷帝の加護]により氷属性と化したそれは、またたく間に赤熱した飛沫を冷却し、ただの石つぶてに変貌させる。


「火山側に木も人もいないのは幸いだな。ちょっとした隕石みたいなもんだろこれ」


 ふと火山の斜面を見てみれば、俺に打ち返された溶岩の塊が、小規模なクレーターを作り出していた。

 ……大丈夫、しっかり冷え固まってるし、今度その礫を資源として活用しよう、な!


「溶岩プレートとか作れたりして。……焼き肉食いたい」


 そんな取り留めのない事を考えた時、一際大きな噴火が起こった。

 今まで以上のマグマの量に、氷の天井でも冷え切らなかったマグマが一斉に飛び散る。

 急ぎチャージをしたウェイブモーションを放つも、かなりの量が俺の防衛ラインを抜けていってしまう。

 本来ならもっと強い技を使えば良いのだろうが、万が一氷を破壊しては元もこもない。

 急いで振り向き、抜けていった溶岩に攻撃を加えようとした時、地表から無数の青い光が飛来、全てを例外なく撃ちぬいた。


「リュエはこのドームの維持でまともに魔術すら使えない筈……これはレイスか」


 この膨大な魔導から漏れた魔力を、レイスが再利用しながら魔弓を放ったのだろう。

 彼女の射撃を見たのは初めてだが、少なくとも数十を優に超える飛来する塊を、一瞬で全て撃ちぬく程の腕はあると。

 なんと頼もしい事か。

 さて、じゃあ後はこの火山が落ち着くまで、俺達で耐えしのぐことが出来れば解決だ。

 俺は一人空の上で、火山を見ながらこのマグマを封印する方法を模索するのだった。

(´・ω・`)豚食えって?

(´・ω・`)じゃあ君は人間を食べられるの!?!?!?

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