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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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六十七話

(´・ω・`)タイトル変更しました なんだか長くなりましたがこれに決定

 その広間は、まるで焼けただれたように岩肌がなまめかしい光沢を放っていた。

 恐らく高温の炎により、岩に含まれていたガラス質が溶け出して固まったのだろう。

 そして、見上げると太陽光が目に刺さり、思わず顔をしかめてしまう。

 だが、そんな太陽を覆い尽くす大きな影が現れた。


 迂闊だった、まずは鑑定だろうに。

 すぐ様[幸運]を[詳細鑑定]に変更し、そのシルエットを再び視界に捉える。

 すると――


【Name】  アッシュフェニックス

【種族】  妖魔

【レベル】 133


 ケン爺の予想を、最悪な方向で裏切る相手。

 いや、場所的にはマッチしているが。

 しかし、あいつに氷属性は効きそうにない。

 ドラゴン対策のアビリティ構成だったが[氷帝の加護]を外す事にした。


「ば、ばかな……幻獣種じゃと!? 何故こんな場所におる!」

「撤退を! 我らで敵う相手ではありません!」

「……いや、どうやら逃がす気はないようだ。岩戸が閉じている」


 上に気を取られている隙に閉じてしまった戸。

 恐らく破壊することも出来るだろう。

 だがしかし、奴はもうすでにこちらに狙いを定めている。

 シルエットがどんどん大きくなり、その全貌をはっきりと捉える事が出来る高度で奴は滞空した。


 物語に出てくるような不死鳥。

 それを薄汚く灰にまみれさせたような姿の、神々しさと邪悪さを混在させたような出で立ちの巨大な怪鳥。

 目算での大きさは、両翼を広げた状態で20メートルはありそうだった。

 灰と火の粉を撒き散らせながら、ゆっくりと羽ばたく悠然とした姿に、強者としての余裕すら感じられる。


「そん……な……」

「……スティリア嬢、ナオ殿の前へ」

「マッケンジー殿、何を」

「この高さならば、まだやれるかもしれぬ」

「……岩の操作でもするのか、ケン爺」


 未だこちらの様子を伺う相手に先手を打つべく、彼は杖を構えて呪文を詠唱する。


「"大地の精霊、岩窟の王よ、今一度我が呼び声に応え、彼の者を母なる懐へ招き入れよ!"」


 張りのある、力強い呪文が響き渡ると同時に、広間の壁の一部が蠢きだす。


「"ラーヴァ・プルトガリオ!"」


 魔導の完成と同時に、蠢く岩が一斉に赤熱し、灰の不死鳥を捕らえようと触手のように伸びていく。

 しかしダメだ、あれは土属性だけじゃない、場所の影響か炎属性も付与されている、同じ炎の相手には捕縛効果が薄くなる!


「間に合えよ!」


 俺も闇魔導を行使し、ケン爺の魔導に闇属性を付与する。

 漆黒に染まりいく触手が見事相手の翼に絡みつき、そのはばたきを阻害した。

 地面に墜落するまではいかなかったが、その高度はすでにこちらの攻撃の射程圏内だ。


「最初で最後のチャンスかもしれぬ! カイ、行くのじゃ!」

「了解した! ナオ君、今だけで良い、死ぬ気で戦え! 何があっても止めるな、攻撃を溜めろ!」

「……わかりました! 今から5分程、なんとか地面に縫い付けておいて下さい!」


 翼を暴れさせ、戒めを振り解こうとしている不死鳥へと跳びかかり、大きく剣を振り下ろして自由になっている方の翼に攻撃を与える。

 その一撃を受け、ついに地に落ちた灰の不死鳥が、今度は自身の身体を発火させる。

 唐突な熱風が顔に当たり思わず顔を背ける。

 見れば、ケン爺が大きく弾き飛ばされ、魔導の戒めを解いてしまった。


「ケン爺、無事か!」

「儂の事は良い! そやつを逃がすな!」

「わかっている!」


 今度は俺が闇魔導を使い、足を地面に縫い付ける。

 必死に羽ばたくも、片翼ではバランスを崩すだけにとどまり、諦めて口から炎を吹き出す。

 迫る炎にこちらも闇の魔導を放出、相手の炎を侵食して熱を奪い取る。

 それでも息苦しさを感じるが、相手から目を離さない。


「カイヴォン殿! ご無事ですか!」

「問題ない! ナオ君はどうだ!」

「私が全て防ぎ切りました! ですが、持ってあと一撃です」


 その報告を聞き、彼女に向かって回復薬を放り投げる。

 彼女のスキル[治癒能力強化]によって、今投げた小さな錠剤でもある程度持ちこたえてくれる。


「助かります! ナオ様、用意が出来たら合図を下さい、射線を外れます」

「もう、少し! カイヴォンさん達のお陰で少しだけそいつの能力が見えました! そいつの弱点は口の中みたいです! 最後の瞬間、誘導出来ますか!?」

「今の攻撃、見てたな!? 炎を吐く瞬間にぶち込め!」


 止めを彼に託す。

 ラストアタックは当然、経験値が多く手に入るのだから。

 そして、ラストアタックを得られない俺はアビリティを取得出来ない。

 まぁ、それもちゃんと考えてある。


 両翼の付け根を、長い尾羽根を、鋭い鉤爪を切り裂く。

 骨をへし折る感触が手に伝わり、それが着実に相手の攻撃手段を奪っている事を物語っている。

 そして残された攻撃手段である炎を当てようと、首を必死に動かしながらチャンスを狙っている。

 俺は身体を動かし、狙いを定められないように時間を稼ぐ。

 そして、ついに背後から眩い輝きが溢れ出す。


「スティリア避けて! カイヴォンさん、今です!」

「じゃあ行くぞ!」


 ナオ君へと向けて誘導し、動きを止める。

 そして、同時にはき出される炎を、大きくジャンプして回避した。

 一瞬、ナオ君を再び庇おうとスティリアさんが動きかけるが、ようやく動けるようになったケン爺が止めに入る。

 そして彼は、その大量の炎に飲み込まれたのであった。


「……案外食らわないな。炎に強い鎧だったのか」


 転ばぬ先の杖は、俺だけじゃなかったと。

 恐らく予めここが火山のダンジョンだからと、炎に強い装備を手に入れていたのかもしれない。

 ナオ君が受けるはずだったダメージを肩代わりし、俺のHPが激しく増減を繰り返す。

 やがて、俺のHPの減少が収まり、その時が来る。


 このままでも押し切れそうだが、俺も準備をする。

 いや本当、やっぱりアビリティ欲しいんですよ。

 選ぶ技は[追月]俺の得意なコンボの要だ。

 彼の技を見極め、俺も同時にあてる。

 これにより、互いの威力が増幅、さらに同時ヒットならば、ラストアタック判定は彼にも加わり、俺もアビリティを取得出来る。


「ウェイブモーション!」

「追月!」


 彼の光刃が炎をはき切った口へと突き進む。

 そして俺の横薙ぎの波動が、同じタイミングで彼の攻撃の着弾地点へと向かう。

 そして、轟音と閃光に辺りが包まれた。

 灰煙が巻き上がり、視界を塞ぐ。


「……やったのかの?」

「倒せた……のですか?」


 やめて、それフラグだから!

 が、今回に限ってはその心配はいらない。

 何故ならば、しっかり俺の脳内にはアナウンスが響き渡っているのだから。


『アビリティ取得』

[再起]

[日に一度だけHPが0になった時にHPを1回復する]


 ……やったぜ。

 俺の持っているアビリティとの相性も素晴らしい、最高のアビリティを手に入れることが出来た。

 そして、どうやらナオ君も力を手に入れたようだった。

 頭を抑えながら、長いポニーテールを振り乱し地面を転がりまわる。


 わかる、わかるぞナオ君。

 急激なレベルアップの反動による頭痛は俺も経験がある。

 ああ、念のため[サクリファイス]は解除しておくか。

 万が一、今頭を抑えている時に不意打ちを食らったら大変だろうし。

 まぁ、すぐ側でスティリアさんが介抱している以上、その心配はなさそうだが。


「ところで、何故扉が開かないんかのう?」

「そうですね……ナオ様も一度、町で休息が必要でしょうし」


 さて、じゃあそろそろ俺も動くとしようか。


「皆ちょーっと岩戸から離れてくれないか? 一応破壊する事は可能だろうし」

「ひょほ!? 相変わらず無茶苦茶じゃな、カイ」

「無茶苦茶でも構いません、お願いします」

「はいよー」


 剣を構え、もはや削岩機のような扱いになった技[剛波烈斬]を放つ。

 期待通りの結果を残したその技を、もはや諦めたような目で見るスティリアさん。

 そのタイミングでナオ君がふらふらと立ち上がり、はっとしたように俺に問う。


「アッシュフェニックスはどうなりましたか!?」

「無事討伐完了。だから倒れたんだろう?」

「あ、そっか……僕が止めを……あの炎を耐え切って」

「よくあの炎から逃げずに立ち向かったな。俺のおまじない、しっかり効果が発動したろ?」

「はい!」


 そして俺は一人広間に残り、彼らが無事に外へ出たのを確認して告げる。


「一応、先に続く道もないし、あの階層主がこのダンジョンの主だったんだと思うんだけど、やっぱりアイツ不死鳥なだけはあるよ」

「そうですね……僕も正直、あの姿を見た時は……」


 灰の不死鳥。

 ナオ君はまだ気がついていない。






 そして、唯一気がついたのは、魔力の流れに敏感なケン爺だった。


「カイ! 急いで逃げるのじゃ!」

「ど、どうしたんです?」


 伝承では、不死鳥は灰の中から蘇る。

 俺が今手に入れたアビリティから考えても、間違いないだろう。

 灰にまみれた不死鳥が、今度こそ本来の姿で蘇る。


「カイヴォンさん後ろです! そいつ、復活してます!」


 灰の骸が崩れ始め、その中から赤い炎を纏った翼が現れる。

 まるで、身体にこびりついた乾いた泥が剥がれ落ちるように、奴はその姿を現した。

 うん、知ってた。

 名前からして、嫌な予感はしていたんだ。


【Name】  フェニックス

【種族】  妖魔

【レベル】 188


 その能力は、はっきり言ってゲーム時代でもお目にかかれないレベルだった。

 ならばこそ、本当に決断の時が来たのだろう。

 こいつからは恐らく逃げられないし、彼らではどう逆立ちしても勝つ事は出来ない。

 そして俺も、この姿のまま瞬殺する事が出来ない程の強さだ。

 彼らがここにいては、恐らくすぐに攻撃に巻き込まれて全滅してしまう。

 だからこそ、俺は彼らにあの姿を見せる。


「なぁナオ君、俺は良い先輩だったかい?」

「何言ってるんですか! 早く逃げて下さい!」

「やっぱり、実際に冒険して、触れ合わないと人となりは分からないよな? どう思った?」


 背後で不死鳥が産声を上げた。

 先ほどまでとは違う、まるで畏怖させるような煌めく炎が、チリチリと背中を焦がす。

 それでも俺はナオ君に問う。


「誰かに言われたからとか、前評判とか、役目とか使命とか、そんな物よりも実際に自分の目で見て感じたことの方が大事だと、俺は思うんだ」

「……カイヴォンさんは、まるで兄みたいでした! 僕は一人っ子だけど、それでも……だから、早くこっちへ!」

「なぁナオ君。君は七星の解放の他に――」





「神から何か別な使命も受けたんじゃないか?」


 意識を切り替える。

 アビリティの構成もがらりと変え、剣も本来の姿を取り戻す。

 さぁ、この姿を見て君はどう反応する。

 俺と過ごした数週間は、君の正義感をどこまで鈍らせる事が出来る?


「そう、例えば……魔王を殺せと言われなかったか?」

「なっ! カイヴォン殿が魔族!?」

「魔王……じゃと……? ファストリアの伝説の!?」


 え、それはちょっと知らないです。


 俺がこう思ったのには理由がある。

 エンドレシアで出会ったレン君は、恐らく龍神が倒される前に召喚された存在だ。

 それは『召喚には七星が封じられている際に発生する力が必要』と言う話から間違いない。

 では、ナオ君はどうか?


 ナオ君は半年ほど前、秋辺りにこの世界に来たと言う。

 そしてそれは――俺が龍神を倒した時期とほぼ一致する。


 もしも見えざる神が召喚に関与しているとしたら。

 もしも見えざる神が召喚された人間に使命を持たせたとしたら。

 もし彼が龍神の死んだ後に召喚されたのなら、神が彼にコンタクトを取ろうと動いても不思議ではない。

 そしてその内容はきっと『自分たちの邪魔をする存在の排除』。だろう。


 だからこそ俺は『誰よりもナオ君を警戒した』

 それ故に彼に触れ、多くを共に過ごし、絆を深めてきた。

 少しでも彼の心が俺に傾くように。

 神の使命よりも『親切なお兄さん』を選ぶように。

 ……俺の親切心は、警戒の裏返しでもあるんだよ。


「そんな……誰にも言っていないのに……」

「やっぱり、か。ナオ君、君はどちらを信じる? 今はまだ決めなくていい。だけど、自分で考えてくれ」

「事情はわかりませんが、今は逃げて下さい! 先ほどから地面が揺れ始めてきています!」


 言われてみれば、フェニックスの咆哮や身動きだけでなく、広間全体が揺れている。

 これは本当に嫌な予感があたってしまうか?


「まぁ、とりあえず今は逃げな。たぶんここ、噴火するんじゃないかな」

「……だったら、逃げて下さいよ!」


 背後の熱が、いよいよ無視できる物ではなくなった。

 フェニックスは先程の雪辱を晴らそうと、標的を俺に定めたようだ。

 ……だけどなぁ、今は俺が話してる最中だろうが。

 この姿の俺に喧嘩売っちゃいけません。


「うるせぇ、黙ってろ」


 背後を振り返らずに、剣を一閃。

 自分の為だけの構成に組み替えた剣の、ただの一振りで背後が静まり返る。

 同時に、再び脳裏に流れるアナウンス。

 だが、今はそれを無視して話し続ける。


「ナオ君。これから先、旅の途中できっといろんな出会い、誘いもあると思う。だけど、自分で見た事を第一に信じるんだ。あ、勿論仲間の意見も聞いてね?」

「……はい」

「よし、じゃあそうだな。ちょっと火山の噴火抑えてくるから――」


 背後で大きな物音がし振り返ると、広間中央の床から大きな岩がせり出してきて、天然の螺旋階段が出来ていた。

 先ほどとは違い、今度こそ完全にフェニックスを討伐した事による影響だろうか。

 階段は吹き抜けの先、外へと続いている。恐らくそこから山の斜面を下って行くのだろう。

 考えてみれば、今ナオ君達がいるのは火口側、そっちに逃げたらむしろ危険だ。


「どうやらこっちが正解みたいだ。階段を登ってくれ、俺はちょっと火口の様子を見てくるから」

「……戻ってきて下さい、絶対に。まだちょっと頭が混乱してるんです……」

「大丈夫、ちょっと火口の様子を見てくるだけさ、なぁに心配はいらん」

「そ、そういう言い方はやめたほうがいいと思います……」


 フラグは自分で適当に立てると折れるってばっちゃんが言ってた。

 素人の突貫工事で出来た建築物なんて簡単に壊れるって事ですね、わかります。


「まさか、お主の魔法の数々が闇の物じゃったとはのう……長生きはしてみるものじゃ」

「貴方は、本物なのですか……? でしたらあの絵は……」

「積もる話は全部終わったらでお願いします。さぁ行った行った! あとナオ君は終わったらまた作って貰いたい料理一つ考えておいて!」

「じゃ、じゃあチキン南蛮でお願いします! タルタルソースたっぷりの! 絶対、絶対に戻ってきて下さい!」


 どうやら、俺の姑息な企みは、実ったようだ。

 それとも、案外胃袋を掴んだのが大きかったのかね。

 根回しは基本、懐柔も基本だ基本。


 ……だけどナオ君、これだけは言わせてくれ。





 揚げ物食い過ぎだ。

(´・ω・`)活動報告にも載せておきますね

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