六十三話
(´・ω・`)こ の 温 度 差 で あ る
「んで、結局その前領主、アーカムとか言う奴が刺客を送ってきた訳なんだが」
『彼がですか……そうですね、彼が一人の女性を探し求めているのは私も知っていましたし、ウィングレストの影の顔役の話も聞いていましたが、まさかレイスだったなんて……』
翌日。
朝一番でギルドへと向かい、ギルド間の緊急連絡網用の通信機を借り受け、我らが豚ちゃんことオインクに連絡を取った。
レイスとの出会いから、今に至るまでの出来事を全て報告した所、やはり思う所があるのか、彼女にしては珍しく疲れたような、心底『面倒な事になった』と思っているのが伝わってくる声色になった。
「念のため聞くが、レイスの事や俺がアーカムと敵対する事、全部計算通りとかじゃないだろうな?」
『さすがに、そこまでずる賢い人間になった覚えはありませんよ』
「いやずる賢い人間じゃなくて豚だろ」
『どぼじでぞういうごどいうのぉぉぉぉぉおぉ!』
レイスと知り、さらに付け狙われている事を知った上で、俺にそれを解決させる。
セミフィナルの議会で力を持ち、古い思想の人間たちのまとめ役でもあるアーカムを俺が潰す事により、自分の手を汚さずにオインクは政敵を排除。
ざっとこんな筋書きを考えてみたが、アテが外れたか?
「で、実際どこまで正解だったりする?」
『信用してないですね? 60%くらいしか当たってませんよ!』
「よしわかった。次会ったら百叩きの刑な」
『レイスの事は本当に知らなかったんですよ。ただ、ぼんぼんがそっちに行けば、絶対に彼とかち合うだろうな、とは思っていました』
「……何か理由があるのか?」
『会えば分かります。絶対に、彼とぼんぼんは相容れないでしょうから』
そうか。
レイスの事を知らなかったのは恐らく本当だろうし、百叩きは勘弁してあげよう。
……九十九叩きで。
「じゃあ、もし本格的に敵対する事になったら、バックアップは任せていいのか?」
『そうですね……出来れば周りから切り崩す形が望ましいのですが、その辺りは任せます』
「了解。俺と相容れない理由があるなら、そこから切り崩す事も出来そうなんだろ?」
『それは、ぼんぼん次第ですね』
俺次第、ね。
相容れないとなると、何か俺の『敵』となりうる、明確な理由でもあるのだろうか?
まぁレイスにちょっかい出してる段階で敵なのは確定ではあるけれど。
「んじゃま、今日はここまででいいや。収穫祭とか大きな行事の時にはこっちに来るんだろ?」
『ええ。毎年マテバシィのパンケーキとどんぐり麺を楽しみにしているんですよ』
「イベリコ豚乙」
通信を終え、職員に感謝の言葉を告げて建物を出ようとすると、初日に宿を紹介してくれた男性から待ったをかけられた。
何事かと振り返ると、少し困ったような顔をしながらこう告げてきた。
「先日の魔結晶なのですが、魔導具のコアに加工する為に職人に渡したのですが、そこで普段、魔結晶を売りに来る商人と鉢合わせてしまい、入手先を教えろと言われ、教えなければ今後一切売らないと……」
「オインクに相談しては? 商人がオインク相手に戦えるとは思えませんし」
「さ、さすがに町の問題で総長に相談するのは……」
「じゃあ、あれです。その商人から取引するのを辞めるといいですよ。今後は俺が定期的に売るって形にするんで」
「よ、よいのですか!? それは助かります、あの商人、最近徐々に値段を吊り上げてくるので困っていたのです」
商人として足元見るのは正しいとは思うがね。
ただし長期で取引する相手にそれをするのは逆効果。残念、君の顧客は私が頂いた。
むしろこのまま吊り上げていって、本物の叩き上げ商人の豚ちゃんが出てくるよりは遥かにマシだろう。
いやぁ懐かしい。
ゲーム時代、市場の争いで相手に在庫を抱かせて引退まで追い込んだのは今でも語りぐさだ。
専門業者を一人のユーザーが追い込んで引退させるなんて聞いたことがない。
まぁその業者も早々に撤退したんですよね、あのゲーム。
思えばあの頃から過疎は始まっていたのか……。
とりあえず、これで断続的にお金が入るって形になるのかね?
輸送費とかその辺りは追々決めるとして。
今日は昨日の事もあり、町から余り離れる事はせず、宿の裏山の散策に出かけることにした。
この山も木々が溢れ、まだ夏は遠いにも関わらず、青々とした枝葉をグングン伸ばしている。
季節的に山菜も取れそうだなとワクワクしているのだが、そういえばリュエの家に住んでいた時代の物もまだ、手付かずで残っていた事を思い出す。
折角時間があるのだし、後で下処理でもしておこうか。
「レイス、疲れてないか?」
「大丈夫です。昨日ゆっくり休めましたからね」
「私は大丈夫じゃないからおぶってくれてもいいんだよ?」
「だったらなんで俺の前を歩いてるんですかね?」
勿論、二人も一緒だ。
レイスは山歩きという事で、珍しくロングスカートではなく、パンツスタイルだ。
太もものラインがくっきり見えて非常に宜しいです。出来れば俺の前を歩いてくれるとなお良し。
そして楽しそうに山を登っていく我らがリュエさんは、どういう訳かドレスアーマーを着込んでいる。
何故? どうして?
「今日の私はボディガードだからね。何が出てきても守ってあげるよ」
「そうかそうか。じゃあ山に住み着いた得体のしれない化け物や、非業の死を遂げた子供の亡霊でも出てきたらお願いしようかな」
「……ソウイウ伝承ガ残ッテルンデスカ?」
冗談で言ったつもりが、何故か後ろにいたレイスが急に歩調を早め隣へやって来た。
心なしか声も硬いように聞こえる。
あれか、この手のお話は苦手だったりしますか?
「うんにゃ、そんな話聞いた事もないね。でも前の世界にいた時、そういう場所を巡ったり、そういう話を集めたりしていたよ」
「悪趣味です。そのお話は胸の内に秘めておいて下さい、お願いします」
「む? 面白そうじゃないか、今度聞かせておくれよ」
ううむ、意外なことにリュエは平気で、レイスの方が苦手だったか。
いやはや懐かしい。ダリアやシュンと心霊スポット巡りなんかもよくしていたが、終ぞ不思議体験は出来なかったんだよな。
まぁ、この今の状況が一番不思議なんですけどね。
ビバ不思議、ありがとう不思議。
いつもナオ君が練習場所に使っている広場に到着し、休憩を兼ねて広場に何か生えていないか探してみる。
普段はここまで調べたりはしないのだが、こうして見るとこの広場にも、食べられそうな野草や山菜が沢山ありそうだ。
元々山菜関連の知識はそこそこある方だったのだが、リュエに教えてもらったという事もあり、今ではちょっとした物だと自負している。
さてさて、何か生えていないかね?
「カイくん、ここは木が少ないから、木の多い場所との境目を探すと良いよ。温泉が湧いている影響か、温度も湿度も高めだし、狙い目かもしれない」
「了解。もしかしたら季節外れのキノコ類も採れるかもしれないな」
「わ、わたしも何か……タ、タケノコとかでしょうか?」
「レイス、竹はこの辺りに生えていないし見つからないんじゃないかな?」
お姉さん可愛い。
どれを取ればいいのかわからず、手当たり次第に草を引っこ抜いてはリュエの所へ持って行き、その度にしょんぼりしながら元の場所に植えなおしている。
そして植え直す時に屈むので、魅惑的なラインを堪能出来ます。素晴らしい。
「さて、んじゃ俺も探すかな」
探していると、虫の羽音が聞こえてきたので顔を上げ、上の方を見てみる。
すると、枝に小さなトゲが沢山生え、小さな白い花が沢山咲いている木を見つけた。
アカシヤの木だろう。見れば、ミツバチが花の蜜を集めている。
俺は低い所にある枝から、まだ咲ききっていない花の蕾の房を採る。
「いいかんじだ」
じつはアカシアの花の蕾は、天ぷらにするととても美味しい。
花が咲ききってしまうと、その甘い蜜に誘われ小さな虫が入り込んでしまうので、蕾の状態がベスト。
丁度いい房を見つけては摘み取り、一度に食べきれる分だけをアイテムボックスに収納して満足する。
今日はこんな物でいいか。
「リュ、リュエ……これはどうですか……」
「んー? あ、これは食べられるよ。珍しいね、これってお肉と食べると美味しいんだよ」
「お肉と……もっと採ってきますね」
ようやく当たりを引いたレイスが、嬉しそうに同じものを集めに走りだす。
何を見つけたのが気になり後を付けると、そこには大量の――
「うっそマジでか。これ“ギョウジャニンニク”じゃないか」
俺の故郷では絶滅が危惧されている程の希少な山菜様である。
こんなの高級焼肉店や高級和食店でしか食べた事がないが、それがまるで巨大なカーペットのように辺り一面に生えている。
「レイス、あまり沢山採ったら駄目だからね? 地元の人が食べるかも知れないし、そんなに沢山食べきれないだろう?」
「あ……そうですよね、ついいつもの癖で……お恥ずかしい」
さすがみんなのお母さん。
嬉しそうに両手いっぱいに抱える姿が可愛らしい。
だが、それは仮にも“ニンニク”の名を冠する山菜。油断したな?
臭いです、レイスさん。
「レイス、帰ったら服着替えような」
「…………はい」
涙目である。
(´・ω・`)作者も春には山菜、秋にはキノコ狩りに行くのが大好きです
(´・ω・`)ヒラタケのお味噌汁が食べたい……




