六十話
(´・ω・`)ハッハッハッハ
熱気に満ちた空間の中、全速力で駆けながら周囲を見渡す。
分岐路や行き止まりも見当たらず、これなら大丈夫だろうと改めて後ろを振り返る。
そこには、通路を埋め尽くさんばかりの魔物の群れ、群れ、群れ。
大型のトカゲが、手足の生えた岩が、全身を燃やす人型が一斉に追いかけてくる。
一直線、ゲームで言う所の『トレイン』と呼ばれる状態に持ち込んだ俺は、仲間との合流地点へと全力で駆けていく。
そして、通路の先に仲間の姿を確認し声をかける。
「ナオ君、3秒後に全力で振りぬけ!」
「了解です!」
目的の場所で、彼とすれ違う。
彼は剣を構え、その時を今か今かと待っていた。
剣はすでに眩ばかりの光を纏い、解放の時を待ち望んでいるかのようだ。
最下層を踏破してから今日で二週間、彼は順調に解放者としての実力を高めていた。
今では俺が囮になって、その間に回りこむ、なんて手順もなく、一緒に肩を並べて戦うまでになった。
まぁ今回は変則的な作戦なので俺が囮になったんだけどね。
足を止め、彼へと振り向けば、その光る双剣を万歳の状態で構え、そして追いかけてきた魔物の集団へと――
「"ウェイブモーション"」
強く、軌跡を残しながら振り下ろした。
彼は俺のように波動を飛ばすことは終ぞ叶わなかったが、その分絶大な破壊力を剣に供給し続ける、破壊力特化の技へと昇華させた。
その威力は、恐らく最下層の門番を一撃で瀕死に追いやるほどだろう。
そして俺を追いかけていた大量の魔物は、一瞬で全て、一匹残らず消滅し、その破壊の余韻だけがただ洞窟内に響き渡る。
「お疲れ、ナオ君。凄いじゃないか、俺のウェイブモーションより威力だけ見たら上だぞ」
「ありがとうございます! けど、やっぱり溜め時間が5分もあるのは……」
「いやいや、それはまだ使い始めて一ヶ月も経っていない人間が言うセリフじゃないぞ? もう別物の技だし、自分で好きな名前を付けていい。免許皆伝だ」
「僕の、オリジナルの技……ありがとうございます!」
本日は、俺とナオ君の二人だけ。
現在、火山洞窟の中層、下から4番目の階層を攻略中だった。
そろそろナオ君のレベルも上がり、俺の指導のおかげかどうかはわからないが、順調に実力を付けていたこともあり、攻略の方法を変更する事にした。
意外にもこれを提案したのはスティリアさんで、毎日彼は組み合わせを変えてこのダンジョンへと挑んでいる。
今日は俺とナオ君という、剣士だけの構成での立ち回り、連携の訓練と言う訳だ。
俺が牽制や索敵、さらに魔法による援護を行いつつ、彼の側で戦う。
そして彼は俺の行動に合わせ、臨機応変に敵を倒す。
そんな至近距離での攻撃的な連携にも、彼は必死に食らいついてきていた。
そして、本日の探索を終了する前に、一つ試練を与えるつもりで、今回の作戦を思いついた訳だ。
「本当、たった二週間でこんなに強くなれるなんて……これもカイヴォンさんのお陰です」
「それほどでもある。レベルもだいぶ上がったんじゃないか?」
「はい! おかげさまで今の戦闘で37レベルになりましたよ!」
今倒した敵のレベルは30~40と、彼にとって格上も多く混じっている。
だが、やはり彼のレベルはアテにならず、ゲーム時代で言うところの60かそこらと同等のステーテスを誇っていた。
身体のスペックが、そもそも違うのだろう。
これはいつか同レベルに並ばれたら、俺じゃ敵わないかもしれないな。
ただしアビリティなしで魔王ルックを封印した状態に限る。
『生命力極限強化』先生、マジぱねぇっす。
戦闘のバランスを崩壊させるのは、いつだって火力よりも回復性能なんです。
「さて、じゃあ戻ろうか。今日も待ってるだろうし」
「交代で休日を取るって言ったのはスティリアなのに、いつも洞窟で待ってるんだもん……休んでくれたらいいのに」
「それだけナオ君の事が大事なんだろうさ。ありがたいと思いな」
いいじゃない、過保護なお姉さんなんて。
ちょっと憧れる。
それにお陰様で俺も、明日と明後日は休日だ。
「お疲れ様でしたナオ様。カイヴォン殿もよくぞご無事で」
「只今戻りました。ナオ君今日は大活躍でしたよ。目算で30を超える魔物の群れを、一撃で全て葬るんですから」
「なんと! そんな危険な作戦をたてたのですか!?」
洞窟の入り口では、私服姿の過保護なお姉さん事スティリアさんが、手をこまねいて待っていた。
ナオ君の姿を見るやいなや駆け寄り、抱きしめようとするのを必死に我慢するかのような動きでねぎらいの言葉をかけている。
「違うよスティリア。危険な役はカイヴォンさんが買って出てくれたんだ。僕は安全な状態で攻撃をしただけだよ」
「それならば……しかし無理はなさらないで下さい。ナオ様は我が国の大切なお人、決して代わりが効かない存在なのですから」
代わりの効かない、か。
彼らの話では、解放者を召喚するには、封印された七星のいる大陸に満ちあふれている力を使うのが必須と言われているそうだ。
となると、やはりレン君は俺が龍神を倒す前に召喚された事になる。
封印から漏れる力が召喚の呼び水となり、さらに魔物を活性化させ、大陸の秩序を乱す。
これは確定だ。
そうなると、今回の火山のダンジョン化は何か別に原因があると見て良いだろう。
さてさて、ダンジョンの最後には一体何が待っているのやら。
「さて、じゃあ宿に戻るか、それともどこかに寄って腹ごしらえでもするか」
「時間的に中途半端ですが、もしお腹が空いているのであれば、途中でどこかに寄るのもいいと思います」
「じゃあ、一緒にごはん食べに行きましょうよカイヴォンさん」
俺もすっかりナオ君達に馴染み、今ではスティリアさんも気軽に声をかけてくれるし、ちょっとした言い合いなんかも遠慮なしに出来る間柄になった。
マッケン爺とは『ケン爺』『カイ』と呼び合う程の仲になり、夜には一緒に飲みながら女体の神秘について語り合う程に。
こうした態度の変化は、一緒に過ごした時間だけでなく、彼らがギルドから俺の立場を聞き、出自のしっかりした人間だと判明した事も無関係ではないだろう。
まぁ判明した当初は、ものすごい勢いで頭を下げられもしたが。
一応領主同等の権力者だからね、仕方ないね。
しっかりと説明し、畏まった態度は必要ないと説得したので事なきを得たが。
「こうやってカイヴォンさんとご飯食べるのって初めてですよね」
「そうですね。いつもカイヴォン殿はお連れの方々と出かけてしまいますから……」
「悪いな、さすがに独断で長期依頼を受けたから、多少はサービスしないといけないんだ」
「……綺麗な人達ですよね……凄く強いですし」
「確かに。リュエ殿の剣術は我が国の騎士団長とくらべても遜色がなく、魔導に関してもマッケンジー老に引けをとらない。それにあの面差し、まさに伝承に残る『白銀の周防』そのものです」
「……」
凄いぞリュエ、お前喋らなければ物凄い高評価だぞ。
『白銀の周防』とか、そんな俺の中の何かを刺激する異名まで貰ってしまって。
ちょっとうらやましい。
町を歩きながら、何を食べようか物色する。
やはり田園都市だけはあり、基本的に菜食主義というか、米食主義と言うか、かなり和風な料理が目立つ。
一応パスタのような簡単な洋食を出す店もあるが、やはり圧倒的に和食、日本料理が多く大半を占めている。
ナオ君的には、そろそろガッツリとしたお肉でも食べたいんじゃないだろうか?
「なにか食べたい物はないのかい? 二人は」
「私は美味しいのならば何でも構いません。この町の料理はどこも美味しいので満足しています」
「僕は……唐揚げとか……」
「カラアゲ……? それはナオ様の故郷の料理ですか?」
「う、うん。お肉を油で揚げた料理なんだ。僕の故郷だと、別な呼び方だったんだけど……」
レバー一回転で大ダメージを与えるレッドサイクロンですね、わかります。
そうか、ナオ君は北海道出身だったのか。
言われてみれば、この町は日本的な料理は多いが、唐揚げやとんかつ、焼き肉といった日本の若者向けの料理が少ないように見える。
これはやはりイグゾウさんの好みの問題なのだろうか。
エンドレシアになら、その手の料理もたっぷりあるのだが。
まさかあれはオインクの仕業なのだろうか?
「エンドレシアで食べた事があるし、俺が作ってもいいよ? どうする?」
「え!? あの、カイヴォンさんって料理が出来るんですか……?」
俺は無言で、自分のギルドカードを見せる。
そこには基本的な情報と、特技が書かれている。
特技欄にはしっかり『料理』の文字が。
「さぁ、お兄さんに任せなさい」
「美味しい……凄く美味しいです……」
「おいおい、泣くなよナオ君」
「だって、だってぇ……」
宿へと戻り、なんとか交渉して厨房を使わせてもらい、唐揚げもとい『ザンギ』を作った結果、ナオ君が泣いてしまった。
やはり味覚、懐かしい味と言うのは、感情を大きく揺さぶる物だ。
そうだよな、いきなり多感な時期に異世界に飛ばされ、戦いの日々を過ごしてきたんだ。不安や心配、いろんな物を抱え込んでいたのだろう。
ただでさえ、ここはどこか日本的な町並みだ。そこへ止めを刺すように故郷の味が出てきた事により、完全に涙腺が緩んでしまったと。
まぁ中には強い力を持ち増長しちゃう子もいるんですけどね。誰とは言わないよ誰とは。
ん? 俺の場合は元からこんなんです。
ちなみに、今回はナオ君の故郷風に、しっかりと衣と肉に味がついております。
そして肉以外にも、船の上で分けてもらったタコやイカ、魚肉のバージョンも用意してあります。
あれですよ、鶏肉だと唐揚げと境界が曖昧だけど、魚介だと堂々とザンギを名乗れるんですよ。
ちなみに俺はタコバージョンこそ至高だと思っております。酒が美味い。
「ナオ様……絶対に、強くなって七星を解放しましょう。そうすれば……元の世界にも戻る事が出来ますから」
「……でも、そうなるとマッケンジー爺とも、スティリア共……それも嫌なんだ僕は」
「ナ、ナオ様!」
よし、じゃあ俺は完成品を持って自分の部屋に戻るとしようか。
邪魔しちゃ悪いし。
(´・ω・`)ロシア出身(意味深)




