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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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五十九話

(´・ω・`)昨日のURLためした人いる? 面白いよねあれ

 休日二日目。

 昨日とは違い一人早く起きた俺は、一つ気になることを確かめるために裏山へと向かった。


 早朝の宿の廊下は、木造にもかかわらずどこか冷たいような、しんと静まり返り独特の様相を呈していた。

 人気のない木造の廊下というだけで、様々な先入観やイメージで薄ら寒いものを感じてしまう。


 とそこへ丁度、ナオ君達の部屋の襖が開き、彼が現れる。


「あ、おはようございますカイヴォンさん。今日も裏山へ?」

「ああ、今日は君に少し剣術のコツでも教えようと思って」

「ほ、本当ですか!? 剣からこう、ビュンって奴ですか?」


 身振り手振りで『ウェイブモーション』を真似る姿が、まるで子供のようで微笑ましい。

 よく小学生の頃、下校途中で傘を振り回した物だ。

 ここで何の技を試したかで世代が別れるんですよ。

 俺? 俺は牙○零式です。



 道すがら、俺は彼に尋ねた。

 一体いつ頃、この世界へとやって来たのかと。


「ええと、確か半年くらい前でしたね。僕の喚ばれた国はここからだいぶ南だったので、かなり暑かったのを覚えています」

「となると10月かそこらか……」

「けどどうしてそんな事を?」

「いや、ちょっと気になってね」


 レン君はどれくらい前なのだろうか? かなり早い段階でBランクに上がったと言っていたし、彼もまたナオ君と同じタイミングだったのだろうか?

 これも一度、オインクに聞いてみた方がいいかもしれない。




「よし、じゃあ今日はそうだな……よっと」

「わ、なんですかその魔術? 黒曜石ですか?」

「似たような物だよ」


 俺は闇魔術で小振りの片手剣を作り出し、軽く振ってみる。

 魔術の所為か重量が足りない気もするが、問題なさそうだ。

 こうして、俺は少しだけ彼に片手剣の剣術を伝授して行くのだった。



「ううん……法術なら僕も少しは使えるんですけど、これは難しいですね」

「剣から放出するように意識するのと、剣を振る時に自分の中の魔力が引っぱり出されるみたいな意識でやるのが大事かな」

「引っぱり出される……やってみます」


 俺はいつも、剣の刃に細かい穴が空いていて、それを振ると勢いで俺の魔力が飛び出すようなイメージで技を使っていた。

 誰しもこのイメージで使っているとは思わないが、これが一番しっくりきた。


「手を振ると、血が先端に集まるだろ? そういう感じでやってみるんだ」

「こ、こうですか?」


 ぶんぶんぶんぶん。

 どこぞのネギ姫のような勢いで剣を振り回す姿がなんとも微笑ましい。

 すると、うっすらとだが彼の剣の先端が輝き始めていた。


「ナオ君、剣の先が光ってるよ。最初の一歩は踏み出せたんじゃないか?」

「うわ! 本当だ! ありがとうございます!」


 言えない、その姿がペンライトを振り回すコンサート会場の観客そっくりだとは。



 彼はカンを掴むまで続けると言っていたので、俺は自分の目的も済んだので宿へ戻る事に。

 このままもう一眠りといきたかったのだが、今日は他にもやる事が出来たので、早めに着替えて出かける準備をしよう。

 さて、じゃあ今日はレイスを押入れの住人にしてくれようか。



「……これはさすがに目の毒だ、放置だ放置」


 宿へと戻ると、レイスが俺の布団で眠り、さらにリュエを抱き寄せて幸せそうな顔をしている。

 寝言で人の名前を呼びながらリュエに頬ずりする姿は、もう色々と限界がきそうです。

 なんと可愛い、そしてなんとうらやまけしからん。

 リュエさんが彼女の胸に完全に顔を埋めてジタバタ手足を動かしている。





「おはよう、二人共」

「あれ……カイさんどうして起きて……ここにカイさんがいたはずです」

「残念それはリュエさんだ。ほら、リュエもそろそろ起きな」

「す、すごく恐い夢を見た……誰かが私の顔にパン生地を押し付けてくるんだ……息が出来なくて、それで死にそうになるんだ……」

「そうか、パン生地のような感触なのか」


 心のテキストに保存。レイスの胸はパン生地のよう、っと。



 今日の朝食は外で摂る事にし、身支度を整え外へと向かう。

 昨日パスタを食べたせいで、妙に洋食が食べたい。

 あの宿は基本的に和食しか出さないので、こうして外に出た訳だ。


「今日の予定は何か決まっているのかい?」

「今日はちょっとアクセサリー屋でも巡る事にするよ」

「アクセサリーですか? カイさんも興味があるんですか?」

「いんや、二人に日頃の感謝を込めて贈ろうかと」


 サプライズなんて真似、残念ながらお兄さんには出来ません。

 一緒に選んでキャッキャするのが憧れなんです。

 そもそも、リュエはともかくレイスの好みが分からないので、下手な物を贈れない。

 ……きっと今まで沢山贈り物を受け取ってきたのだろう、凄くプレッシャーだ。

 だがそこは『一緒に探す』と言う付加価値でカバーだ。




 朝食は昨日とかぶってしまうが、パスタを出す店を選んだ。

 そこで朝食を済ませ、工芸品や民芸品を扱う店を教えてもらう。


 まだ昼前だが、紹介された店は観光客であふれていた。

 殆どが冒険者なので、背中に武器を背負っていたり、厳つい鎧を着込んでいたりと、お土産屋とは思えない雰囲気だったが。


「やっぱり指輪が王道か、それとも首飾りか……」

「カイくん、私は前に髪飾りを貰ったから、今度はそれ以外がいいな」

「あら? それはカイさんの贈り物だったんですか。随分と良い物のようですね」

「そうなのか? それこそ土産屋のような店で買った奴なんだけど」

「なるほど、もしかしたらどこか別なお店から流れてきた掘り出し物だったのかもしれませんね」


 俺の目利きも捨てた物じゃなかったらしい。

 いい仕事してます、俺。


 店のラインナップを見ると、やはり木工品が目立つのだが、火山洞窟の影響なのか、鉱石や鉄を使った物も多く取り扱っていた。

 中には、木と石を合わせたブレスレットや、まるで石の様に美しくカッティング、研磨された木目美しい品々が並んでいる。

 猫目石だと思って手を取ったら、実は木製でその軽さに驚く、なんて事もしばしば。

 普通に見ているだけで面白い。


「カイさん、それは指輪ですか?」

「ああ、これはナオ君達に渡す物だよ。契約が終わったら記念に渡そうと思って」

「いい考えだと思うよ。やっぱり出会いは大事にしないといけないからね」


 しかし指輪となると、サイズが合うか不安だ。

 まぁ指に指定があるわけじゃないので、10本のうちどれかにははまってくれるだろう。


「カイくん、私はこれに決めたよ。買ってくれないかい?」

「イヤーカフスか。リュエの耳なら沢山つけられそうだ」

「耳が長いからね、良い具合に髪から出るから目立つし、いいかなって」


 あの耳の感触を忘れられない。

 ひんやりとしていて、ふにふにと柔らかく、ちょっと押すとコリっとした軟骨の感触が伝わってくる魅惑のエルフ耳。

 ピアス等で穴を空けるのは勿体無いが、カフスならば傷つける事もないし問題ないだろう。


「あ、奇遇ですね? 私もカフスです。頭の羽に付けるつもりなんですけど」


 とそこへ、同じくカフスを持ったレイスが現れた。

 頭上の羽が、珍しく嬉しそうにピコピコと羽ばたいている。

 というか、そんな風に動かせるのか……。



「リュエが銀色で、レイスが赤銅か。よし、じゃあ買ってくる」

「カイさんは何か買わないんですか? 折角ですしカフス、買いません?」

「うーん、耳にアクセサリーか……」


 俺の頭が古いのか、どうも躊躇してしまう。

 ネックレスなら問題ないのだが。


「あ、でも指輪もいいですよね。宜しければ私が選びましょうか?」

「いや、今回はやめておくよ。皆に贈る分だけでいい」


 指はまだ早い! 今度な、今度!



 少し早いが、アクセサリーを購入した後、宿へと戻る事にした。

 二人も明日に備えて準備が必要だからと、とくに不満の声も上がらなかった。

 が、やはり二人に申し訳ないので、まだまだ契約は続くのだし、これからも一段落つく度に休日を貰って、今日みたいに過ごすようにしよう。



 宿へと戻ると、俺は早速今回購入した指輪を取り出し、少しだけ手を加える。


 ゲーム時代、生産職でなくても専用アイテムを使えば、ある程度のカスタマイズは可能だった。

 だがまったく新しい物や、特殊なエフェクトを付けたりするとなると、さすがに生産職の人間でなければ実行する事が出来なかったが。

 今回俺が行うのは、せいぜい表面を磨いてツヤを出す事と、削ってサイズを調整するくらいだ。


「なんか楽しくなってきたぞ、これ」


 宿の裏手、東屋を占領して一人黙々と指輪を磨く。

 なんとも地味な光景だが、中々に楽しく、ちょっとした瞑想のような、このまま何年も行っていたら悟りでも開けるんじゃないかと思えてきた。

 そんな中、余り人が訪れない筈のこの場所へ、一人の人物が現れる。


「あれ? カイヴォンさん何しているんですか?」

「お、ナオ君じゃないか。まさか、山から?」

「はい、だいぶコツをつかめてきましたよ! 遠くまでは飛びませんけど、少しだけ剣のリーチが伸びるくらいにはなりました」


 なんと、俺のあんな説明だけでゲーム時代の技を習得しつつあるとは。

 やはり解放者として喚ばれた以上、秘めた才能でもあったのだろうか?


「ちょっと今日アクセサリーを買ってさ、サイズの調整をしてたんだよ」

「へぇ、器用なんですね? 随分沢山買ったみたいですけど」

「練習用とかその他色々な。あ、そうだ」



 俺はそんな指輪の中から、一つ取り出して彼に手渡す。


「それ、ぱっと見でどの指に入るようにみえる? ちょっと入れてみてくれ」

「ぱっと見で、ですか?」

「結構難しいんだよ指輪の調整って。目算と実際の指とじゃぜんぜん違う」

「むむ、じゃあ一発でハマったらどうします?」


 少しだけ挑戦的な笑みを浮かべ、そんな提案をしてくる。

 まるで、兄に構ってもらいたい弟のようだ。

 俺に弟はいないが、もしいたらこんな感じなのだろうか?

 一応妹はいたのだが。


「そうだな……じゃあそのポニーテールに合うカフスでも買ってあげよう」

「か、髪飾りですか……」


 しまった、弟だってのに、まるで妹のような扱いをしてしまった。

 君、第二次性徴過ぎたんだよね? なんでそんなに綺麗な顔と髪してるの、なんでそんなになで肩なの。


「ほら、じゃあ試してみな」

「よし、じゃあ」


 彼は思いの外頭が硬いのか、馬鹿正直に一番口径に近そうな人差し指へと指輪をはめようとする。

 いやぁ、はまりさえすれば良いんだから、小指にでもいれてしまえばいいのに。


「お? ぴったりだ。んじゃ約束通りカフスでも買ってやろう」

「せ、せめてバングルとか腕輪でお願いします……」

「え、何? 君シルバー巻いたりするの?」


 もしかして二重人格だったりします?

 ゲームが凄く得意だとか、そんなもう一人のナオ君でもいるの?





「じゃあ今日はこの辺にしておくか」


 無事に本日の目的も達成したので、アクセサリー類を片付ける。

 あとでレイスとリュエにもカフスをつけてあげないと。

 実はレイスの羽にも、ちょっと興味があったんですよ。

 是非とも触らせてもらいたい。そして反応を見せてもらいたい。

 

「じゃあ僕も部屋に戻りますね! 明日からまたよろしくお願いします!」

「ああ、実戦でいきなり技を試さないようにな? ゆっくりとやっていけばいいさ」

「はい!」


 元気よく、髪をなびかせながら走り去る元気いっぱい姿。

 ううむ、あれが若さなのか。

(´・ω・`)昔指輪をおみやげに買ったら、どの指にもあわないという事態が

(´・ω・`)深い悲しみに包まれた

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