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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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五十七話

(´・ω・`)おまたせしました みなさんも急激な気温変化に気をつけてください

『休日』なんと甘美な響きだろうか。

 この世界での俺は基本、冒険者として好きに過ごしているわけだが、今日のように契約相手から認められた『休日』と言うのはただの休みとは一味違う。

 何の負い目も感じず、何の義務感や焦燥感にも駆られず、ただただ自由な権利を得て休む事が出来るのだ。


「つまり、もう少し眠らせて欲しい」

「駄目です! 休日だからこそ早く起きて、より長く休みを謳歌するべきです」

「まぁそれもそうか……よし、じゃあ起きる! 本当にあと五分したら起きる!」

「いーまーすーぐーでーすー!」


 珍しく押しの強いレイスに、ついに最後の砦である布団を剥がされ、さらに枕まで奪われてしまった。

 仕方ない、休みを一緒に過ごそうと提案したのは俺だ、なら多少の早起きは――


 窓の方を見る。

 障子が妙に暗い。

 近づいて開け放つと、まだ薄暗く、肌寒い寒気が急激に体温を奪っていく。

 ……メニューを開き、時間を確認。

 よしわかった。レイス、君は俺が思っていたよりも子供だったようだ。


 現在の時刻は早朝4時。遠足当日の小学生低学年ですらまだ夢の中にいるレベルである。


「……レイス、何か言う事は」

「おはようございます」


 違う、そうじゃない。





 結局目が覚めてしまい、身支度を整えて布団を片付ける。

 リュエはどうしたって? 全然起きないから布団ごと押入れにしまっておいたよ。

 気分は某国民的ネコ型ロボットだ。


「しかし朝食までまだ時間があるし、どうするか」

「でしたら少し裏山を見てみませんか?」

「ああ、今ならもれなく訓練中の解放者くんを見られるかもしれないし、行ってみるか」


 真面目そうな彼の事だ、きっと休みであろうと訓練している筈だ。




 まだ肌寒い、うっすらと朝霧がかかった草木生い茂る早朝の山。

 こういう時間に山へ来ると、自分がちょっと気取った健康志向の人間のように思えてくる。

 今流行の意識高い系のような、山ガールならぬ山『ボーイ』のような。ボーイな、ボーイ。


「気持ちが良いですね。凄く気分が爽やかになります」

「そうだね。お、やってるやってる」


 先日と同じ、小さな広場にて今日もナオ君が訓練に勤しんでいる。

 そして今日はなんとスティリアさんまで一緒だ。

 邪魔してはいけないかと思い、道を逸れようと思ったのだが――


「あ! カイヴォンさんおはようございます!」

「お、おう。ナオ君、スティリアさんもおはようございます」


 一瞬、あからさまにガッカリしたような顔をしたスティリアさんが此方へ振り向く。

 なんと正直な。


「おはようございますカイヴォン殿。早朝の散歩ですか?」

「ええ、彼女が早く目を覚ましてしまったようなので」

「先日はどうも。改めまして自己紹介をさせて頂きます。私はレイス・レスト、冒険者としてカイヴォンさんと共に旅をしている者です」


 彼女の挨拶に、我が家のお姉さんが何やら気合を入れて自己紹介をしだす。

 背筋を伸ばし、軽く顎を引き、しっかりとした口調で堂々と。

 その気合の入りようは、あたかも今この場でトークバトルでも繰り広げようと言わんばかりである。

 ただの挨拶だぞ、ただの。


 これにはさすがのスティリアさんもたじろぐ。俺だってたじろぐ。

 そしてすぐ側でそのプレッシャーを受けたナオ君に至っては……どうやら気がついていないようです。


「昨日はしっかり挨拶が出来ませんでした。僕はナオと言います。カイヴォンさんには剣を教えてもらったり、たくさん助けてもらっています」

「そうだったんですか。カイさんがもし意地悪をしたら、私に言って下さいね? ふふ」

「カイヴォンさんはそんな事しませんから大丈夫ですよ。あの、レイスさんはカイヴォンさんの恋人なんですか?」


 もはやそんなレベルを超越した家族も同然の相手である。

 だがしかし、そんな事を言ってはうちのお姉さんが黙っていない。

 レイスは何も答えず、ただナオ君の頭を撫でてこちらに戻ってきた。


「凄く良い子ですね、彼」

「君も大概良い性格してるよね」




 再び訓練を始めたナオ君だが、今日は木剣を使い、スティリアさんと打ち合いをしている。

 彼女は本来盾を使うスタイルの筈だが、今は木剣1本のみ。

 対するナオ君は2本の木剣を巧みに使い分け果敢に挑んでいる。


「そういえば、私の訓練も結局出来ていませんでしたね」

「そういえばそうだった。武器を持ってきたらよかったか」

「え? でしたらすぐに取り出し――」

「ストップ。余りメニューの事は知られたくない」

「わかりました。ではそうですね……軽い組手でもしましょうか?」


 何故乗り気なのか、彼女は少し俺から離れて軽く身構える。

 君後衛でしょ、なんでそんなにさまになってるの。


「いや、いいのか? 俺一応『拳闘士』でもあるんだけど」

「勿論手加減して下さいね。私はずっと一人で戦っていたので、ある程度接近戦も出来るんですよ」


 なるほど、ゲームではないのだし、別に職業がなくたって戦えるのは道理だ。

 しかしそうか……なら腕につける防具か、何か効果を秘めたアクセサリーを渡すのもありかもしれない。

 俺だって、完全な趣味装備であるあの魔王一式のうち、両腕だけはちょっとした逸品だ。


『渇望と絶望の両腕』は、防御力よりも拳闘士として戦う時に補正を与える事を優先した効果を持つ。

 相手のHPだけでなく、MPにまでダメージを与えられるようにする効果と、さらに相手に『呪い』を蓄積させていく効果を持つ。


『呪い』はMPの自動回復の速度を著しく低下させ、さらに行動を起こす度にHPを微量にだが消費するようになるといういやらしい状態異常だ。

 殴って相手のMPが尽きたタイミングで『呪い』が発動しようものなら、もう完全に詰みだ。

 まぁ殆ど剣でしか戦わないのだし、出番は皆無なのだが。


 そんな防御度外視の装備にもかかわらず、あの魔王ルックの要である『黒色皇帝外套金糸仕上げVer重合鎧合成』の上下セットより防御力が高いと言うのだから、いかに俺が紙装甲だったのかわかるだろう。


 さてさて、今はそんな永遠の二番手のような存在感の装備の話でなく、この妙に乗り気なお姉さんの相手だ。


「では、軽く打ち合う感じでいきますね」

「了解、いつでも」






「フッ!」


 スリットが入っているとはいえ、ロングスカートにも関わらず彼女は大きな歩幅で一気に距離を詰めてくる。

 そのスカートがクセモノで、彼女の足捌きが見えず、さらにはその布の動きに気をとられてしまう。

 そしてチラチラを見え隠れする御御足! 卑怯だろ!


「誰かに師事した事でもあるのか?」

「いえ! 見よう見まねです」


 まるで鞭のようにしなる腕が、指先まで流れるように動き、こちらの身体に触れようとする。

 何故かその滑らかに動く腕が、一瞬だけ鞭ではなく蛇のように俺には見えた。


「カイさん、どうぞ打ち込んできて下さい」

「……そいつは中々難しい」


 味方に攻撃は出来ないんですよシステム上。

『ぼんぼんシステム』は敵には徹底的に攻撃出来ますが、味方にはとことん甘く出来ているのです。

 しかし、これがもし攻撃でなく、スキンシップだとしたら……?

 よし、ちょっとやる気出てきた。パパ鯖折り狙っちゃうぞー!


 彼女の腕を掻い潜り、大きく前に出てその身体を捕まえようとする。

 レスリングのタックルのような動きだが、彼女を地面に転がすわけにもいかず、途中で上体を起こし抱きしめるようにする。

 だが、そんな俺の広げた腕に彼女の腕がからみつく。


「……さすがに私の力ではどうこう出来ませんね」

「本来なら関節を極めるのか、これ」


 腕を絡ませあい、抱きしめるのを途中でやめたような形で硬直してしまう。

 レイスはこの動きを見よう見まねで会得したのか?

 まるで柳のように腕をしならせ、唐突に蛇のようにからませて動きをとめる。

 レベルのお陰でなんともないが、常人なら肘の間接を完全に壊されるんじゃないか、これ。

 サブミッション系女子! そういうのもあるのか!



 しかし、本来弓で戦う彼女が何故こんな戦い方をするのか。

 その疑問を彼女に投げかける。


「昔は乱暴なお客様も多かったんです。これでも男性相手にも戦えていたんですよ?」

「なるほど。けど弓をしまって戦うのは本末転倒じゃないか?」

「いえ、これはあくまで組手用の戦い方ですよ。他にもナイフで戦ったりも出来ます」


 レイスさん、何気に接近戦とか結構覚えていらっしゃるんですか。

 さすが低レベルから叩き上げでAランクまで上り詰めただけはある。

 そこまで聞いて、ようやくお互い構えを解く。

 若干名残惜しそうに絡ませた腕を解く表情がたまりません。




 気がつけばナオ君達の訓練も終え、休憩がてらこちらの様子を見ていたようだ。

 いやお恥ずかしい、結局社交ダンスのようなポーズを披露しただけでしたな。


「踏み込みが見えないなんて……」

「気がついたら腕がからまってた……」


 マジですか。

 ステータス補正って凄いな。








「気がついたら私は闇の中にいたんだ。狭くて、だけどどこか居心地の良い、そんな場所に……」


 彼女の突然の独白。

 少しだけ名残惜しいような、だけど僅かな恐怖を孕んだ表情で、そう切り出す。






「そうか、そんなに押入れが気に入ったなら今度からそこな」


 というわけで戻ってきた自室では、リュエがようやく目を覚ましていましたとさ。

 まぁ押入れが居心地良かったり、妙にワクワクする気持ちはわからないでもない。

 誰しも幼い頃、秘密基地と称して懐中電灯を持ち込んだりした事があるだろう。

 だが君は長い年月を生きた偉大なエルフさんです、そこのところを忘れないで頂きたい。


「い、いやだよ! どうして私も起こしてくれなかったんだい? ヒドイじゃないか二人して」

「私もカイさんも起こしたんですよ? だけどいくら揺すっても枕を取っても身体を触っても叩いても鼻をつまんでも起きなかったんです」


 やだこのお姉さん恐い。


「まぁ起きた時間が起きた時間だからな。普通はまだ寝てる“普通”は」

「うっ……ごめんなさい」

「ええと……まだ6時じゃないか。二人ともいったい何時に起きたんだか……」





 朝食を摂り終え、今日の予定を考えながら適当に町を散策する事にした。

 まだ温泉施設と火山洞窟、そしてギルドと酒場しか利用していないのだし、観光がてら丁度いいだろう。


 町には小さな水路がはりめぐられているのだが、これ一つ一つが一般家庭にまで続いているようだ。

 浄水の魔導具も完備されており、常に綺麗で美しい水が町中を流れている。

 夏場に訪れたら、さぞや心地よいだろう。

 あれだ、スイカなんて冷やしちゃったりするんだろ。飲み物とか。


「水のせせらぎが心地良いですね。夜なんてぐっすり眠れそうです」

「そうだね。私もこの音を聞いていると心が安らぐよ」


 そう言いながらリュエは水路に手を伸ばし、その流れを受けて気持ちよさそうな声を上げる。

 ならば俺はこう言わざるを得ない。


「お魚とれた!?」

「うん? さすがに水路に魚はいないんじゃないかな?」

「ふふ、子供みたいな事を言うなんて、おかしなカイさん」


 やっぱり通じないよなぁ。

 さて、じゃあ本格的に休日を満喫しましょうか。

(´・ω・`)となりのボボボン


(´・ω・`)もうそろそろいいだろうと作者名とユーザー名を同じにしました

(´・ω・`)これで簡単に作者ページに飛べるよ、やったねリュエちゃん

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