五十六話
(´・ω・`)温泉入りたい……お風呂あがりにバニラアイスが食べたい……
火山洞窟から無事に戻ってきた俺たちは、町へ戻ると、そこでリュエとレイスと別れる事になった。
二人はギルドから依頼を受けていたが、俺たちはとくに依頼も受けず、ただ踏破を目指してダンジョンへと挑んでいたからだ。
勿論、魔物を倒して入手した品もたくさんあるのだし、後で納品系の依頼を受ける事を勧めるつもりだ。
しかしまぁ、彼らがギルドに向かわないのは、恐らく俺の所為もある。
大方俺の素性を探りに行きたいが、本人の前では気が咎めるとか、そんな所だろう。
丁度今回の探索で一区切りが付いたことだし、こっちから助け舟を出すとしようか。
「皆、ちょっと提案いいかな?」
「どうしたんですか? カイヴォンさん」
「今日で最下層を突破出来た事だし、明日と明後日は英気を養う意味も込めて休みにしないか?」
「なるほど、確かに門番は他の魔物と違い、再び現れる事もありませんし、私は賛成です」
「ふむ……たしかにそうじゃな。ナオ殿も一度ここまでの戦いを振り返る時間も必要じゃろうし、カイ殿にはかなり無理をさせてしまったからの……」
概ね好意的な反応に、俺も内心助かる。
こんな風に連続で長時間あんな場所に行く事に、地味に気疲れしていた。
体力的には問題ないのだが、周りを気にして足並みを揃えると言うのが、想像以上に堪えていたからだ。
勿論この先似たような場面に遭遇する事もあるかもしれないのだし、早めにこういう経験が出来たのは幸いだ。
まぁ早い話が『リフレッシュ休暇よこせ』って話なんですけどね。
ああ嫌な単語思い出した。どこの世界にリフレッシュ休暇の最中にまで仕事の電話してくる会社があるってんだ……。
「じゃあ明日明後日は休暇と言う事で、今日はここで解散でいいかな?」
「あれ、一緒に宿に戻らないんですか?」
「ああ、ちょっと連れの所に」
ついでに『魔結晶』の買い取りも可能なのか聞いてみるとしよう。
「あれ? カイくん宿に戻ったんじゃなかったのかい?」
「ああ、俺もギルドに用事があるんだ。そうだ、レイス、リュエ」
「どうしましたか?」
ギルドは相も変わらず閑古鳥が鳴いております。
恐らく依頼の達成以外でここを訪れる人が殆どいないのだろう。
もう酒場をギルド内に増設してしまった方が良いんじゃないだろうか。
「明日と明後日は自由にして良い事になったんだ。もし二人も依頼が終わったなら一緒にのんびり――」
言うや否や、急いで受付へと走りだすレイス。
ロングスカートで走らないで、なんだか危なっかしいから!
「すみません、先ほどの依頼は全てキャンセルでお願いします。代わりに日付をずらした物――ええ、では今の依頼の報酬から遅れた分を差し引く形で――」
キリっとした表情のレイスが、受付の娘さんに何やら交渉をしかけております。
あの娘さん、確か初日に対応してもらった子だったな、なんだかレイスの剣幕に怯えているんですが。
やめてあげて、美人に迫られるのって結構恐いんですよ。
「凄いんだよレイス。あの子の上司にかけあって報酬の底上げをしてくれたんだ」
「それは……まぁ供給が途絶えた素材だろうし、多少はね?」
お兄さんそういうの好きですよ、人の足元を見るのは基本です。
実際、あの火山洞窟に探索に訪れているのは、ナオ君一行とリュエとレイスだけだ。
実は酒場にいた時に周りの人達の能力も確認していたのだが、その平均レベルは20そこそこ。
最下層で戦うだけなら問題ないが、あの環境で連戦、さらに探索となると心もとないレベルだ。
恐らく、これまでのんびりと平和に暮らしていた為、そこまで冒険者が育っていなかったのだろう。
一応オインクの政策の一つとして、各街に一人、白銀持ちか、それに準ずる力の持ち主を配置しているらしいのだが。
「おっと、じゃあ俺も自分の用事を済ませてくるよ」
速報『俺氏、盛大にやらかした』
はいどうも、この度またギルドを騒がせたカイヴォンです。
参ったね『魔結晶』って名前からして、魔石的な何かの上位互換だと思って軽い気持ちで持っていったのだが、とんでもございません。
どうやらこれ、現実世界で言うところのレアメタル、それも電子部品の半導体の材料になるような超貴重資源だったそうです。
思い出したよ、ゲーム時代の『魔石』ってイベントクエストのキーアイテムで、新しい道具の開発に必要な品だったんだ。
その道具が発展したのがこの世界の『魔導具』であり、その中枢を担う貴重な品が『魔結晶』だって訳だ。
試しに一つだけ見せたのだが、これが大正解。
ちょっと大きな氷砂糖程度の大きさなのだが、それ一つでギルドが大騒ぎになってしまいましたとさ。
「よかった……これで町の水路が枯れずに済みます! 近頃サーディス大陸からの輸入が滞っておりまして、相場がその……」
「本来の相場の……そうですね、3割増しくらいでお願いします」
「そ、そこをなんとか……なんとがならねすが?(なんとかなりませんか?)」
「ならね。そだごどいっでもおいも商売だもの(そんな事言っても俺も商売ですから)」
方言で情に訴えようとしたのだろうが、残念だったな。
その手の商法についてはもう慣れっこなんだ、田舎民舐めんな。
足元を見るのは基本です基本。
「わかりました……ではこの量ですと……52万ルクスでお願いします」
「わかりました、商談成立です」
相場なんて知らないが、少しは額を引き出せたならそれでよし。
後から知ったのだが、あの小さな塊一つで街中の魔導具の部品を交換する目処が立ち、さらに数年は供給に困ることもなくなるそうな。
だが、アイテムボックスにまだ20個以上入っているなんて言えない。
ましてや、門番を倒した時に特大の結晶を手に入れていたなんて。
さすが最凶の七星の部位から手に入れたアビリティ、反則的な効果である。
「カイさん、私達も明日と明後日は自由になりましたよ」
「よーし、んじゃ温泉にでも入ってさっぱりしたら、ゆっくり予定を決めようか」
「でしたら、私達の宿以外でも日帰りで温泉のみを利用出来る施設がありますので、ご案内しますよ」
「そういえばレイス、調べていたね。じゃあカイくん、行こうか」
俺同様、無事に交渉を終えたレイスを先頭に、何故か別な温泉へと連れて行かれるのであった。
「知ってた」
「どうしたんだいカイくん? あ、お酒が無くなってる、注いであげるよ」
レイスに連れて来られたのは、小さな浴場を貸し切りに出来る温泉施設でした。
薄々察していたよ、あんなに足取り軽く先導するなんて、きっと理由があるんだろうなって。
まだ混浴がしたりないのですか貴女。
奇遇だな、俺もだ!
「少し小さいですが、ここからですとタン・ボーが一望出来るんですよ。凄いですよね、温泉がこんな高い場所まで汲み上げられているんですから」
「屋上にこんな庭園があるのは確かに驚きだよ。それに景色も良い」
宿の屋上に、ちょっとした日本庭園のような浴場が広がり、さらに町の外、田んぼを一望出来るという好立地。
日も傾き始め、もう少しすれば青色を湛えた水面が、朱色に染まる事だろう。
貸し切り時間はかなり長めにとったのだし、このままこの水面が移り行く様を眺めるのも良いだろう。
湯あたりには気をつけなければいけないが。
しっかし本当、良い場所見つけてきましたね。
そして良い場所が当たっています。
「仕事終わりに温泉で汗を流す。いい物ですね」
「そうだね、とくにあの火山は暑いし、気持ちよさも一入だよ」
「リュエは魔法で涼んでいたじゃない」
なんだろうな。
こうして仕事の疲れを誰かと共有し、一緒に癒してのんびり過ごすなんて、元居た世界じゃ数えるくらいしか経験がない。
それも男同士で愚痴を交えながら、色気も何も無い状況での癒やし(笑)なんですけどね。
だがそれもそれで、気安い感じがして楽しくはあるのだが。
ふと、隣でチビチビとお酒を呑むリュエの姿と、嬉しそうに田んぼを眺めるレイスを見ていると、言い様のない、不思議な気持ちが込み上げてくる。
唐突に、今こうやって過ごすこの瞬間が、かけがえのない、本当に奇跡のような一時に感じてくる。
幸せの定義なんて知らないが、たぶん、少なくとも俺にとっての幸せは――
「カイさん、改めてお仕事お疲れ様でした」
「お疲れ様、カイくん」
沈み始めた陽の光を浴び、赤く染まった二人が振り返る。
「ああ、二人もお疲れ様」
きっと、ここにある。
(´・ω・`)なんとか間に合いました。
(´・ω・`)明日の更新はありません、ご了承下さい。
(´・ω・`)また、プロローグの前に頂いたイラストを掲載させて頂きました。
(´・ω・`)そしてなんと、私の作品をレビューして下さった方がいます。
(´・ω・`)この場をお借りしてお礼申し上げます。




