五十五話
(´・ω・`)かき氷食べたい
「本当にこっちの道で良いんですか? もう臭いだけでハズレだと思うのですが」
「大丈夫、さっきみたいに凍らせてしまえば良いんだよ。それに、こういう場所の方が再生術で硫黄が沢山採れるんだろう?」
「それはそうなんですけど……じゃあお願いします」
こんな無茶を押し通せる彼女の力に、自分の見ていた世界がいかに狭かったのかを思い知らされる。
一緒に戦い始めてすでに3時間、私はここにくるまでの事を脳裏に思い描いていました。
私はリュエと一緒に、宿代を稼ぐための採取依頼を受けました。
少々素材本来の売却額とギルドの報酬の差が激しかったので、少しだけお話したのは昨日の事です。
私が冒険者として活動していたのはもう30年以上も前の話でしたが、一連の流れは変わりませんでした。
ですが、この街では酒場で依頼を受け、人を集めるのが通例のようでしたが、これが中々に大変です。
私は、自分が異性に好まれる容姿だと重々承知しています。長年それを武器に働いていた身ですし、それなりの自負も誇りも勿論あります。
しかし、リュエはそうではありません。
案の定彼女は無防備に、同じ依頼を受けさせてくれないかと近寄る男性の笑顔に騙されそうになっていました。
最初は私の身を案じてカイさんは私をリュエと組ませたのだと思いました。
しかし、どうにも彼女を一人にする方が私には危険に思えてなりません。
本当に、私より先に生まれたのでしょうか……。
「レイス、どうして駄目だったんだい? 彼らはこの街に通って長いと言っていたし、情報も持っていたかもしれないのに」
「彼らの笑顔は親切心から来る物ではありませんでしたよ? 身なりも他の冒険者よりも悪く、どこか装備品もちぐはぐでしたし」
「ふむ……確かにランクは低そうだったね。うん、じゃあ二人で行こうか。……どうやら私達を狙っている人間は他にもいるみたいだし」
前言撤回。
リュエは私が思っている以上に強かだったようです。
言われてみれば、私達に声をかけようとする男性の視線の中に、色欲以外の何かを孕んだ物がありました。
さては私の事を試しましたね?
「今この街にはカイくんが一緒にいる解放者がいるからね。高名な彼らを狙った人間が紛れ込んでいてもおかしくない」
「そうですね……カイさんは大丈夫でしょうか……」
「うーん、レイスはカイくんが戦っている所を見たことないからわからないかもしれないけど……」
そう、私はリュエとカイさんが戦う姿をまだ見たことがありませんでした。
二人がとても強いと言う事は知っています。ですがそれがどの程度の物なのか、この時私はまだ、微塵も知らなかったのです。
「カイくんは、たぶん世界で一番強いと思うよ」
「よし終了。これで一応最下層は踏破って事でいいのかね」
少々オーバーキルだったかもしれないが、何事もなく討伐に成功。
今使った『天断(降魔)』は、龍神を倒した時に使った『天断(極)』の一つ下のランクに位置する大剣の上級技。
剣気を対象の頭上に置いてから、もう一度剣を振る事により当てることが出来る変わった技だ。
本来、設置して相手を誘いこむのが正解なのだが、今のようにすぐに発動する事も可能だ。
この技のメリットは、剣気が停滞している時間が長ければ長いほど威力が増していくという点にある。
まぁ、すぐに発動しても相当な威力を発揮してくれるので、今回はすぐに発動したわけだが。
後ろを振り向けば、珍しくスティリアさんがポカーンと口を開け、普段の凛々しい表情を完全に崩してこちらを見つめていた。
そしてナオ君は、まるで日曜の朝にTVの前に座っている子供のような顔でこちらを見ている。
はっはっは、そうさ、お兄さんは変身だって出来るぞぉ。
「お主……今のは王家由来の剣術の筈、何故使う事が出来る」
「王家由来? そっちの大陸とこっちの大陸は勝手が違うんじゃないんですか? ほら、たとえばそっちの隣にあるファストリア大陸なんかは、人外魔境だって聞くけど」
「た、たしかにのう……しかしあの大陸は今、人が立ち入れるような状況ではない……ましてや外に出ることなど……」
はぐらかしてみると、思いもよらぬ情報が手に入る。
ファストリアは恐らく、俺達がゲーム時代にすごしていた大陸だろう。
しかしそこが今、人の出入りが出来ない状況にあると。
言葉からして、昔は人の出入りもあったようだし、これもセカンダリア大陸にいった時にでも調べてみるか。
「まぁ、一応俺についてはギルドに問い合わせてみて下さい。一応、身元の保証はしてくれますから」
とりあえず、面倒な事はギルド、および便利な万能豚に任せるとしよう。
「天断……まさか他国の者がその技を使うとは……」
「この技を使える人間が他にもいるのですか? 一応、結構珍しい技だとは自覚していますが」
今度は顔面硬直から解放されたスティリアさんが信じられないといった表情をしながら、絞りだすようにしてそんなことを口にする。
技のチョイス間違ったか。
「私達の国の騎士団、それも王に認められた最強の剣士だけが、王直々に伝授させて貰える秘技中の秘技です。それが何故……過去に漏らした者が……」
ふむ、もしやその王様は創世記、いやむしろリュエやレイスと同じで、誰かのサブキャラクターか何かなのではないだろうか?
もしくは、そういう人物から伝授してもらったか。
「その王様って、何百年も長生きしていたりします?」
「いえ、初代国王は長命だったと伝えられていますが、その後は人間族の平均的な寿命だったと」
「なるほど」
ふむ、ちょっとよくわからないな。
リュエやレイスは歳をとることが無いが、不死身ではない。
ではその初代国王は事故か何かで亡くなったと言う事なのだろうか?
まぁ今は気にしないでおこう。
「とりあえず、俺が特別強いって事で納得しておいて下さいな。こうして無事最下層も突破出来ましたし」
「そ、そうですよ! カイヴォンさん有難うございました! 僕もいつか、あんな風に強い敵を……!」
「まずは基本からな。じゃあこの後はどうしようか」
一応今日の目標は最下層の踏破だ。
恐らく先行していたリュエとレイス、そして俺の所為であっという間に終わってしまったわけだが。
何せここまで魔物と戦った回数なんて片手で数えるくらいだし、今の最下層の門番に至っては俺が倒してしまった。
入り口の係員も、まさか一時間たらずで戻ってくるとは思っていないだろう。
「では、二階層目の様子を少し探り、一度戦ってから今日は引き返すことにしましょうか」
結局、次の階層で現れる魔物も代わり映えがなく、レベルだけが15~20と上がっているだけのようだった。
ナオ君も最下層での戦闘でレベルが上がっており、この階層でも問題なく戦えることがわかったので、この日はこれで引き返す事にした。
「じゃあ今日は疲れただろうし帰りも俺が先頭を行こう」
「あ、僕も行きます!」
「あ、じゃあ私も……いえ、狭いですね」
「ほっほ、元気じゃのう」
しょんぼりするスティリアさん、可愛いですな。
やはりナオ君のように素直でかわいい系の男の子は、年上のお姉さまには受けが宜しいのでしょうか?
ちょっとだけ羨ましいぞ。
俺も素直で良い子だが、やはり若さが足りないのか。
うむ、若さだけは認めよう、俺はもう男の子ではないからな……。
「カイヴォンさんってこの大陸の人なんですか?」
二人で先頭を歩いていると、唐突にナオ君が俺へと訪ねてきた。
そういえば、自分の事って余り人に話したことがなかったな。
「いや、俺はエンドレシア大陸の出身だよ」
「ええ!? そっか……だからあんなに強いんですね……」
何故それで納得してしまうのか、そしてその驚きは何なのか。
ファストリア程じゃないにしろ、あそこも人外魔境扱いだったりするのかね?
……ああでも、確かに魔物の氾濫やら、野生の狼の魔物とか普通にいたし危険ではあるのかな?
「僕はその……解放者っていうのはどういう存在か知っていますか?」
「エンドレシアの解放者と面識があるからね。知っているよ」
「あ、僕以外の人ともう会ったんですね。 じゃあええと、僕が召喚されたセカンダリア大陸なんですけど、七星という封印された存在がいて、それを解放するのが僕の役目なんですけど、そこに近づく為には凄く強力な魔物がいるダンジョンを踏破しなくちゃいけなくて……僕は弱いから、こうして他の大陸に修行にきているんです」
「セカンダリア大陸の魔物はダンジョンの外でも強いのか? ダンジョン以外で修行という訳には?」
七星が封じられている大陸の魔物は総じて強いと言われているそうだが、俺にはよくわからない。
エンドレシアにいた頃に『詳細鑑定』を持っていなかったのが悔やまれる。
だが、正直手応えがまったくなかったような。
「強い、ですね……僕の力で相手の能力を読み取れるんですけど、さっきのドラゴンなんて、強すぎてレベルしか分かりませんでした。同じようにセカンダリアの魔物も、レベルと名前くらいしか分からなくて……」
「よく大陸が崩壊しないな、それ。あんなのがあちこちにいたら生活なんて出来ないじゃないか」
散歩にいったらドラゴンに食われた? そんなのセカンダリアじゃ日常茶飯事だぜ! HAHAHAHA!
なんだって? うちのワイフがワイバーンを狩った? これじゃあ俺の買ってきた殺竜剤が無駄になっちまった! HAHAHAHA!
こんなノリなの? ナオ君もそのうちマッチョでタフなガイになっちゃうの?
「勿論、あんなドラゴンじゃないですよ? 狼とか熊とかがたまに森の奥で見つかるくらいで、普段は猪とか鷹がよくいたりするんです」
「なるほど。要するに外見はよくある姿だけど、強さが他とは違うと」
「そうなんです。エンドレシアはさらに強いって聞いていたので、やっぱりそこから来た人は皆カイヴォンさんみたいに強いんだろうなーって」
「いやぁ、俺みたいな奴なんてそうそう――」
そう言いかけた口を閉じ、急いで後ろへと振り返りジェスチャーで静かにするように指示する。
ソナーのマップ更新を行うと、前方にケイブバッドの亜種の大群が待ち構えている。
妙なざわめきを感じたと思ったらこれか……一体何処から湧いて出たのやら。
「かなり数がいるみたいだし、ここはマッケン爺さんの魔法で一気に叩くべきですか?」
「いや、儂の範囲魔法で殺傷能力があるのは土属性のみじゃ……この規模で行っては、洞窟が崩落しかねん」
「では、カイヴォン殿の氷魔法で一気に凍らせると言うのはどうでしょうか?」
「いや、さすがにこの数を一気には無理だ」
しょうがない、ゴリ押しするしかないか。
幸いにして、あいつらの強さは大したことがない。
もう一度確認すると、大量の光点がこちらへと向かって移動してきていた。
だが――
「ああ、そういえば二人がいたか」
待ち受けるしか無い状況にも関わらず、唐突に落ち着きを取り戻した俺の姿に、後ろに控える3人が怪訝そうな声を上げる。
いやね、ソナーの反応が一気に消えたんですよ。
今この洞窟には、あの二人がいるんでしたね、すっかり忘れてた。
「ナオ様お下がり下さい! さらに何者かの足音が近づいてきます!」
「リょ、了解!」
「ああ、大丈夫大丈夫」
俺は一人、心なしか気温の下がった洞窟を進んでいく。
そして、見慣れた二人が姿を現した。
「ケイブバッド達は温度が低くなると動きが鈍るからね。今回は氷漬けはやめてみたんだ」
「節約にもなりますし、何よりも滑って転ぶこともありませんからね」
「う……悪かったよ。今度から氷漬けは禁止だね」
少し不機嫌そうなレイスと、申し訳無さそうに謝っているリュエ。
なんだ、もうすっかりお互いの遠慮もなくなってるじゃないか。
「お疲れ、二人共」
俺がそう声をかけると、二人よりも先にナオ君達が反応する。
「お、お知り合いですか?」
「ああ、俺の旅の仲間さ」
「では、お二人が私達よりも先に入った採掘者……」
ありゃ? 反応を見るに、スティリアさんは二人を知らないようだ。
リュエ達と温泉で一緒にならなかったのか?
ああ、さてはマッケン爺が温泉から出るのを待ってから入ったんだな?
きっとあの爺さんは常習犯なんだろう。
「カイさん! カイさん達も今お戻りですか?」
「ああそうだよ。でもレイス、こっちは順路だぞ? 帰りは向こう」
「実は先ほど、大量の魔物がこちらへと向かっていったので、何かあるのではと追いかけてきたのですが、どうやらカイさん達に反応したんですね」
ふむ、今までこんなに沢山の魔物が現れるなんて事はなかったのだが、これはどうした物なのか。
門番を倒した影響で、魔物の統率が崩れて気が立っていたのか?
「おかげで面倒な事にならずに済みました。有難うございます、お二人共」
「……いえ、どういたしまして」
事情を聞いたスティリアさんが歩み出て、レイスに深くお辞儀をする。
すると、少しだけレイスの表情が硬くなった。
大丈夫、彼女はナオ君一筋だから。
そして俺は……レイスとリュエ二筋だから!
やきもちを焼くなんて、可愛いところがあるではないか。
リュエに対してはそんな様子を見せないのにこれはどういう事なのか。
あれですか『リュエは妹だからいいの、けど他所の子を甘やかしちゃ駄目なの!』
そんな親を独占する子供のような心境なのか。
「そ、その声は先日の女湯に居た女性じゃな!? まさか……まさかこれほどの破壊力を持つ美女が隣におったとは!!!!!」
気持ちは分かるが爺さん自重しろ。
あと一瞬リュエを見て少しだけ哀れんだだろ。俺知らないからな。
こうして、俺達は合流して火山洞窟を後にしたのであった。
帰りはリュエクーラーの力で快適でしたとさ。
(´・ω・`)白蜜に生の果物を入れてミキサーにかけるの
(´・ω・`)それをカキ氷にかけて頂きたい




