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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
六章

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五十四話

(´・ω・`)ぎ、ぎりぎり間に合った……(23:40)

 翌日。

 本日もやって参りました火山洞窟。

 だが、最初の広間に差し掛かると、そのあまりの姿に一同が声を無くす。


 見るも無残に壁が叩き壊され、間欠泉は大きな氷柱に覆われている。

 硫黄の一欠片も残っておらず、心なしか大気中の魔力量も少なくなっているように感じた。

 ……うちの姫さん二人ですね、わかります。


「これは……入り口で聞いた採掘者の仕業でしょうか?」

「これはなんじゃ……魔法……いや魔導? 間欠泉の奥の奥まで凍りつかんとこうはならんぞい……」

「ええと……僕の鑑定だとこの部屋の魔力濃度がとても低くなっているそうです」

「一体何者なのでしょう、その採掘者と言うのは……」


 根こそぎこの洞窟の資源を奪い尽くすつもりですか貴女達。


 そして、恐ろしいことに道中の分岐路、罠のある方へと続く道が凍りついていた。

 恐らく、罠を凍らせて強引に向かっていったのだろう。

 一応この先も道が続いているため、引き返してくる事はないだろうが、本当に何をしているんだあの二人は。

 しかし彼女達が順路を外れたお陰で、ようやく魔物が俺たちの前へと現れた。


「ようやく今日の獲物が現れたのう……」

「では作戦通り、今日はカイヴォン殿とナオ様で前衛を務めてもらいますね」

「了解。俺が初撃で動きを鈍らせるから、止めはまかせた」


 現れたのはトカゲ型の魔物と、狸を大きくして二足歩行にした姿の魔物二匹。

 酒瓶を持たせて傘をかぶせたくなるような姿の相手だ。

 つまり、信楽焼そっくりって事だ。

 普通にホラーである。


 接近と同時に剣を振りぬき、右足を切り飛ばす。

 攻撃力が抑えられているとはいえ、この大きさの剣だ、この程度は問題ない。

 すぐさま悲鳴を上げ倒れる魔物を尻目に、二匹目へと向かい剣術を発動。


 片手剣術である『ウェイブモーション』を使い、狸の魔物と一緒にトカゲを攻撃する。

 貫通する波動の軌道を調整し、今度は狸の両足とトカゲの尾を同時に切り飛ばし、全ての敵意が完全に此方へと向いたのを確認して大きく飛び退る。


「3匹共弱体化成功! ナオ君、後は任せた!」

「は、はい!!」


 彼も彼で、いつのまにか敵を挟んで俺の反対側へと回り込み、体勢の崩れた魔物を一刀の元に斬り伏せる。

 だいぶ攻撃に迷いがなくなり、一撃で相手の命を刈り取るその姿に、やはり彼も高ステータスの恩恵をしっかりその身に受けているのだなと実感する。

 やっぱ精神力の補正が一番重要なんじゃないかね、これ。

 普通、食肉の加工で生きた"豚"等を解体する現場を見るだけで一般人は気分を害すると言うのに、弱冠17歳である彼がこんな事を顔色一つ変えずに出来てしまうのだから。



「カイヴォン殿……貴方は何者なのですか? 先ほどの動き、斥候や魔術師の物ではない」

「ふむ、本職はやはり剣士なのかの? 随分多芸な剣士もおったものじゃのう」

「褒めても出るのは美味しい飲み物だけですよ。はい、これリンゴジュース」


 一人奮闘するナオ君を眺めながら、アイテムボックスをカモフラージュする為のリュックからビンを取り出す。

 いやね、ここ暑いし水分補給は大事なんですよ。

 ほーら、キンキンに冷えてやがりますよ、どうかね1杯。


「ほほう! これは気が利くのう!」

「な、誤魔化さないで頂きたい! ……私も頂きます」


 ククク……口ではそんな事言って、身体は正直だな?

 是非貴女には『くっ、寄越せ』と言って貰いたかった。

 お約束ですよお約束。


「倒せましたよ! カイさん、今の技はなんですか!? 剣からこう、何かがビュンって!」

「お疲れ様ナオ君。そうだなぁ、そのうち使えるようになるんじゃないかい? 今度教えてあげようか」

「ほ、本当ですか!?」


 なんとも、反応がいちいち可愛い子である。

 しかし、こんな子が解放者で、恐らく七星を遣わせた連中の手先なのか。

 ……いつか、敵対する事になってしまうんだろうか?

 まぁその時はその時、ここはゲームじゃないんだ、定められたストーリーなんてありはしない。


「あ、みなさん何飲んでるんですか!? 僕が戦ってる間に……」

「あ、いやナオ様、これはですね……」

「カイ殿に貰ったのじゃよ。カイ殿、ナオ殿にも一つ頂けませんかの?」

「あ、すまないこれもう無いんだ」


 かいヴぉんの わるだくみ!


「え……わ、わかりました」

「あ、あの! 宜しければ私のをどうぞナオ様!」


 ほら見たことか。

 間接キス狙いですね、わかります。

 だがしかし――


「あ、やっぱりもう一本あったよ。はい、ナオ君」

「あ! 有難うございます! うわぁ嬉しいなぁ」

「……よかったですねナオ様」


 上げて落とすのは基本。


「お主も相当に性悪じゃのう……」

「そんな持ち上げないで下さいよ」

「持ち上げておらんわい!」


 持ち上げて落とされたでござる。



 さて、そうやって俺とナオ君の二人を先に立たせる布陣で進み、昨日引き返した場所までやって来た。

 この先の大広間に、恐らく最初の門番がいる筈だ。

 すでに内部の様子は手に取るように分かっている。

 後はどう攻めるかだが――


「調べた限り敵の反応はない。けど中央に空いた穴が怪しいと睨んでいるんだけど、どうかな?」

「そうですね。そうなると考えられるのは、溶岩、または高熱の源泉に潜めるタイプの魔物……リザード種かゴーレム種でしょう」

「ふむ……そうなると儂の魔法、いや魔導でも動きを鈍らせるのが精一杯じゃな」

「私の法術でも恐らく、この場所では余り有効な攻撃は出来ませんね。ナオ様に弱点を調べていただく間、私が引きつけましょう」

「わ、わかりました。じゃあその間……カイヴォンさんには僕の護りをお願い出来ませんか?」


 あ、そういえば氷魔法まだ見せていなかったっけ?

 さっき俺キンキンに冷えたジュース渡したじゃないか、そこから推理するんだ。

 というわけでネタばらし。


「はい手品しまーす。なんと何も無い所から――」

「カイヴォン殿、今は真面目に作戦を!」

「なんと大きな氷の塊が出てきました。……これで多少は作戦の幅が広がらないか?」

「な、なんと……お主今、無詠唱で氷を出したな……? それもこんな場所で」


 とここで、いよいよマッケン爺の目つきが鋭く変わる。

 ……ちょっとだけ、威圧されてしまった。さすがにあの称号の数は伊達ではないか。


「何分多芸な物でね。氷と炎は"魔法"まで習得しているよ」

「斥候能力に二種属性魔法……そしてあの剣術ですか。どうやら本当に、ナオ様の目に狂いはなかったようですね」

「ええと……とにかくカイヴォンさんは強いって事ですよね。じゃあ改めて作戦を練り直しましょうか!」





 作戦はシンプルだ。

 俺が氷魔法を使える以上、攻撃の要は俺。

 そしてナオ君は俺に気を取られている相手の弱点を探る事になった。


 一応俺も『詳細鑑定』を持っているが、弱点なんて物は見ることが出来ない。

 あくまで相手の能力を見るだけだ。

 これが彼だけの力なのか、はたまた解放者全員に共通した能力なのかはわからない。

 だが非常に強力な力なのは間違いない。

 俺の能力も見られたりしていたんだろうか? それで俺を選んだ……?



「じゃあ行きましょう!」

「了解」




 広間の温度は一際高く、入った瞬間からジリジリと肌を焼くような熱気に、汗が次から次へと噴き出してくる。

 これは早々に片付けないと、こちらが先にやられてしまう。

 俺は大丈夫だが、他の3人は相当辛い筈だ。


「おびき出してみるか"アブソリュートゼロ"」


 空いている穴には幸いにして、溶岩ではなく高温のお湯が湧きだしていた。

 これならば俺の魔法でも十分に通用する筈だ。

 バスケットボール程の大きさに纏められた、絶対零度まで下げられた魔法をお湯へと叩きこむ。

 もし駄目だった場合は穴を崩すような魔法を打つつもりだったのだが。


「もうすぐ出てくる! 全員戦闘準備!」


 湯の中の影を捉え、相手の能力が俺の目に映る。


【Name】  タイラント・ドラバーン

【種族】  ドラゴン

【レベル】 55


 詳細なステータスはともかく、このレベルは相当高い。

 他の魔物のレベルは10~15と低かったのだが、ここにきて急激に相手の能力が跳ね上がった。

 ナオ君でも15レベルの相手を倒すことは出来ていたが、さすがにここまでの差で戦うのは無理だと俺は判断した。


 そして、どうやらナオ君達も同じ判断を下したようだ。


「馬鹿な! 竜種だと!? この威圧感……幼生体ではない」

「ナオ殿、すまぬが想像以上の相手のようじゃ、可能な限り離れるのじゃ」

「……そう、ですね。僕の力では能力を見ることも出来ません……」


 なるほど、彼は自分より著しく格上の相手の能力を見る事が出来ないのか。

 そうか、なら俺の能力を見られた訳じゃないと。

 ……本当、どうして俺を選んだのだろうか?


「この戦闘でナオ君の経験を積ませるのは諦める、それでいいんですね?」

「そうじゃの……正直場所が悪い、わしらでも手こずる相手じゃろう」

「カイヴォン殿、貴方ももしもの時はナオ様をつれて――」



 アビリティ組み換え完了。

 久々にセットしたのは『滅龍剣』と『氷帝の加護』

 あの最後の日“ダスタードラゴン”を狩るために使い、そして“龍神”を葬る時に使った思い出深いアビリティ。

 悪いね、個人的にドラゴン相手に容赦はしない事にしているんだ。


 既に攻撃力を下げるアビリティは外してある。

 故に、全力ではないが、決して手加減とは言い難い一撃を俺は放つ。



「“天断(降魔)”」


 相手の頭上へと大きく振りぬく。

 久々に感じる、全身から何かが抜けていく感覚と、腕の筋肉と骨がきしむ音。

 放たれた衝撃は停滞し、そしてもう一度俺が剣を振り下ろすと同時に――


「そのまま沈め」


 巨大な一撃となり、相手へと降りかかった。

(´・ω・`)月曜日と火曜日は家を留守にするので、予約投稿が間に合わない場合は更新がありません


(´・ω・`)ごめんね?

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