五十話
(´・ω・`)祝 50話
さて、どうでもいい物も含めていらない魔導具を壊すこと早数刻。
既にリュエとレイスは依頼を受けにギルドへと向かい、俺は一人宿の裏山でいらないアクセサリーや素材を破壊していた。
破壊する際、既に持っているアビリティと効果が被っている物は壊さないようにして、逆に変わり種に狙いを定めている。
そしてついに本命、長らくアイテムボックスの肥やしになっていた『アレ』にとりかかる。
「恐らく大本命。間違いなく強化されると見た」
目の前にそびえるのは、巨大な青い水晶にも見える『龍神の晶角』
俺がこの世界で最初に死を覚悟した、最強の敵の身体の一部だ。
なお実際には瞬殺だった模様。
牙や鱗もあったが、どうせなら一番大きくて丈夫そうなこいつを選んでみたわけだが、こうして目の前にすると壊してしまうのがもったいなく思えてくる。
綺麗に両断するんじゃ駄目だろうか?
早速アビリティを構成しなおし、使用する技を考える。
綺麗に両断するなら、大剣や長剣ではなく片手剣、及び片手半剣の技を使うべきだろう。
ゲーム時代、割と序盤から使用出来る剣は『片手剣』『長剣』『大剣』だったのだが『片手半剣』というカテゴリも存在している。
『片手剣』の技と『長剣』の技を少しずつ使うことが出来るそれは、俺の奪剣とは違い安易に入手する事も出来、戦力の幅もそれなり、何よりも奪剣と違いちゃんと攻撃力を持っていた為かなりの人気を博していた。
だが、片手半剣の人口が多かった理由は他にある。
あのゲームには『侍』のような和風な職業は存在していなかったのだが、しっかりと『刀』が存在していた。
そして『刀』は固有カテゴリではなく『片手半剣』カテゴリに多く存在していた。
まぁ見た目が刀の大剣、長剣、片手剣も勿論あったのだが。
つまり何が言いたいのかというと、刀向けの技が『片手半剣』には多く用意されていたという訳だ。
勿論『奪剣』でも片手半剣の技は使用可能。故に俺の片手半剣の熟練度も最大だ。
「懐かしいな、俺もこの剣拾うまでは片手半剣使いだったし」
アビリティを攻撃力ではなくクリティカルに特化させ、剣を腰溜めに構える。
少々剣が長いせいで不格好だが、いけない事はない。
深呼吸をし、集中して目標をさだめる。
木々のざわめき風の音、小鳥の囀りすら聞こえなくなるまでに神経を研ぎ澄ます。
「"瞬華流麗"」
片手半剣最終奥義の一つ。
クリティカル時に与えるダメージが5倍、そして破壊可能部位に当たれば確実に分断出来るという居合い斬り。
溜め時間が長く、攻撃範囲もいまいち、そしてクリティカルが出ないとちょっと強い程度の威力しかないというピーキーな性能だ。
さぁ、そんな技を俺のクリティカル特化構成の奪剣で使えばどうなるか。
奪剣を片手で大きく振りぬく。
手応えは一瞬、ほんの一瞬だけ手のひらに伝わった衝撃だけ。
澄んだ音色なんて物は響かず、ただ結果だけが残される。
目の前には、何の変化もみられない巨大な角。
だが――
『アビリティ習得』
『晶化』
『外見を変化させる事が出来る。また、稀に倒した相手の魔力を結晶化して入手する事が出来る』
無事にアビリティを習得。
そして武器のステータスも更新されていた。
【攻撃力】711 闇属性 → 988 闇属性 神属性
【魔力】 667 → 1245
うっほ、神属性追加て。
神属性はたしか全ての耐性を無視して、その上相手の防御力を半分にした状態でダメージ計算が行われる反則属性だった筈。
リュエの使う『神刀"龍仙"』と、アビリティ『簒奪者の証(神)』でしか見たことのない貴重な属性だ。
それをアビリティにセットしていない状態で使えるだと……なんてズルくさい。
そして神様よ、とうとう君のアビリティの存在価値すらなくなったぞ。
「ということはリュエは反則だって事だな。おのれリュエ」
そして、アビリティの説明だが魔力を結晶化とはどういう事だろうか?
魔石的な何かだろうか? ゲーム時代にはそんなアイテムは存在していなかったが、確かイベント用のキーアイテムでそんな物があったようななかったような。
駄目だ、よく覚えていない。
そんな事よりも外見を変化させるとはなんぞや?
試しに『気配察知』を外して代わりにセットしてみる。
すると、今の今まで赤黒い、葉脈のような筋を浮かべドス黒いオーラを纏っていた剣が、美しい透明度の高い黒曜石のような姿に変わる。
葉脈のような模様も、透明になる事により不気味さが薄れ、吹き出していたオーラも消え去った。
いやぁ、いかにも魔剣って感じの見た目も好きだが、これもこれでかなりおしゃれじゃないか。
いやむしろ、魔王ルック以外の普段の姿でこの剣を使うと、凄く浮いている感じがしていた分、こっちの方が良い。
「これアリだな。魔力結晶ってのも気になるし、悪食と一緒にこれも少し使ってみるか」
勿論、幸運をセットし、結晶化の確率が上がるのを期待する。
あ、勿論角は綺麗に上下に切り分けられていました。
凄いね、切断痕が透明なのに目視出来ないなんて。
時刻はすでに昼を回り、リュエとレイスに遅れて俺もギルドへとやって来た。
本日も屋内は閑古鳥が鳴いております。冒険者どこいったし。
そんな事よりも、依頼用の掲示板が見当たらない。
もしや本当はここギルドじゃなかったりするんですか?
「すみません、依頼の掲示板ってどこにあるんでしょう?」
「あ、申し訳ありません! 昨日説明するのを忘れていました。ここアキダルのギルドでは、英雄イグゾウ氏の強い希望があり、昔から他のギルドとは少し違うシステムになっているのです」
「へぇ、よく総長が許可してくれましたね」
「なんでも『それはそれでロマンがあるので許可します』だそうで」
ふむ、アナログな掲示板張り出しシステムを押し通したオインクを納得させるとは、一体どんなシステムなのか。
「ギルドの裏手に、大きな酒場があるんです。そこで依頼を受けるか、席について誰かに誘ってもらうのを待つというシステムになっているんです」
なん……だと……!
イグゾウさん、貴方ドラ○エ世代か!
確かに仲間は酒場でパーティーに入れる。これこそRPGの元祖、王道と言っても過言じゃない。
確かにこれはオインクも納得しそうだ。
これは中々面白そうだ、ならちょっと俺も主人公に誘われるのを待つ一般男性冒険者Aとなってやろうじゃありませんか。
受付に礼を言い、わくわくとしながらすぐ様裏の酒場へと向かうのだった。
辿り着いた酒場は、まさに冒険者の酒場と言うに相応しい外観。
ソルトバーグの総合ギルドのようなウェスタン風ではなく、もっと取っ付き易いような、そんな雰囲気。
中へと入ると、冒険者ギルドの人の少なさとは打って変わって、人、人、人の山。
大量に設けられたテーブル席には、老若男女、様々な外見の人達が座り、楽しそうだが、どこかそわそわしたように過ごしている。
……誘われるの待っているんですか? 自分からは声をかけられない、そんなシャイな人が多いんですかここは。
だが、みんながそわそわしていたのはそんな県(?)民性ではなかったようだ。
辺りのひそひそ話を『五感強化』が見事に拾ってくれる。
「今日は解放者様、来るのかね……?」
「お、おれ誘われたらどうしよう」
「馬鹿言え、そんな皮装備でお声がかかるもんかい」
「わ、私どうしよう……お化粧もしてないし」
「解放者様にはもう綺麗な騎士様がいるし、女はどうだろう?」
「フッ、奴の目が節穴でないのなら、自ずと俺が選ばれるだろう。この煉獄の覇者ボルシュ――」
「お前この間ギルド入ったばかりだろ、何言ってんだ」
「ちくわ大「ぼ、ぼくが選ばれたらどうしよう……お母さん喜んでくれるかな」
「へっ、おめぇみてぇなガキが選ばれるくらいなら、この俺様が――」
なるほど、解放者一行が新たな仲間をここでスカウトする予定なのか。
となると、彼らは態々仲間を求めてこの大陸まで? いやいや、さすがにそれはないだろう。
恐らくこの大陸に何か用事があり、その助力を求めていると見た方が良いか。
何せこの大陸は他の大陸に比べて魔物が少なく、危険度も限りなく低い。
そんな場所で態々仲間を探すとは思えない。
「ま、俺もとりあえず座って様子見でもしようかね」
どうしてこうなった。
「僕はこの人が良いと思うんです。昨日少し話しましたが、悪い人じゃなさそうでしたし」
「駄目です。彼は見たところ剣士、私達が今必要としているのは盗賊や探索者の技を修めた者です」
「ほっほう、確かにこの御仁は真面目で堅物なのはわしが保証しよう。わしのロマンを邪魔立てするくらいじゃしな!」
ナズェミデルンディス!
目の前で繰り広げられている、解放者の青年と真面目そうな女騎士、そして相変わらず本能に忠実な老人という三人組の口論。
そう、解放者御一行である。
なんと彼ら、あろう事か俺を仲間にスカウトしようとしているのだ。
君達冷静になれ、今仲間にしようとしているのはある意味ラスボス、魔王だぞ、いや人間だけど。
勇者ポジションである君達の仲間に迎え入れるには余りに……自分で言ってて悲しくなるからもう止めよ。
「確かにわしの見立てじゃと、この中では頭ひとつ飛び抜けているように見えるがの……じゃがやはりおなごをじゃな……」
「"マッケンジー"老は少し口を閉じて下さい。いいですか、この先の"レーヴァ火山洞窟"は狭い上にダンジョン化が進んでいると聞きます。罠の危険性もありますし、何よりも狭い場所で剣士が3人というのは、余りに非効率的です」
「だ、だけど僕はどちらかというとシーフ……軽戦士に近いし、丁度良いんじゃないかな?」
「何を言うのです! "ナオ"様は立派な解放者、シーフではありません! 私はナオ様が少しでも安全に成長出来るようにですね――」
なるほど、話が見えてきた。
恐らく彼はどこぞの解放者とは違い、余り強い状態でこの世界にやってきた訳じゃないと見た。
なので、遠路はるばる難易度の低い、比較的安全なこの大陸に修行に訪れた訳だ。
そして、今から行く火山洞窟とやらはダンジョンと化しているので、探索に便利な能力を持った仲間を探していたと。
ふむ……ちょっと面白そうだな。
「すまない、このスカウトを受けたとして、期限はどれくらいになるんだ?」
「申し訳ない、失礼だが貴方に決めた訳ではないので、今しばらく待ってくれないだろうか?」
にべもなく、事務的に対応する騎士の女性。
女教師というかやり手のキャリアウーマンのような雰囲気を持つ、少々キツそうな印象を受ける金髪美女。
これで髪の毛をアップにしたら完全に女教師だが、残念ながらセミロングシャギーでした。
「あの、最低でも火山洞窟を踏破するまでなんですけど……二ヶ月くらいの契約です」
「なるほど、では契約金はどれ程で?」
「ほほう、お主も"スティリア"の太ももに釣られたんかの? やはり男は皆そうじゃ、紳士ぶっていても欲望には勝てぬのじゃ」
爺さん、そこまで行くと逆に尊敬する。
だが、実際二ヶ月程度ならば俺がほどよく手を貸せば一ヶ月くらいまで短縮出来るかもしれない。
どのみちこの街には暫く滞在するつもりだし、七星を解放しようとする人間や国の動向を知るいい機会だ。
俺がもしかしたら領主に狙われるかもしれないが、まぁ解放者の仲間ならばその程度の相手に遅れは取らないだろう。
そうと決まればちょっとこっちから売り込んでみるか。
「一応、俺は魔法を修めている。探索や罠の察知も可能だ」
「本当ですか!? スティリア、やっぱりこの人にしようよ!」
「……それは本当ですか? でしたら少しテストをしてみても?」
「ああ、構わないぞ」
慌てて背負った剣のアビリティを確認する。
しっかりと『五感強化』『気配察知』がセットしてある事を確認し、彼女のテストに備える。
「今から私が小銭を落とします。それが何ルクスなのか音だけで判断してみて下さい」
「ちょ、スティリア! そんなの無理だよ!」
「いえ、熟練の探索者や盗賊ならば、この距離程度で外したりはしません。私が求めるのは、最低でもこれくらい出来る人間ですので」
「分かった。じゃあ俺は後ろを向いておく。何なら目隠ししてくれても良い。ナオ君だったかな? ちょっと目を塞いでくれないか」
「わかりました!」
何を思ったのか、自分の目を塞ぐ青年。
……天然か、天然なのか!?
「俺の目だ俺の。ほら、少ししゃがむから」
「……すみませんでした。では失礼して」
後ろをむき少し屈むと、恐る恐る手がまわされる。
白い、豆が出来た手のひら。
恐らく今まで剣なんて振ったこともないどころか、スポーツすら余りしていなかったのだろう。
視界を奪われ、そして神経を耳に集中させる。
「ううむ、やはりおなごが……」
まだ言うか。
(´・ω・`)キリもいいし今度人物と登場したアビリティの説明をしたいと思います




