四十八話
(´・ω・`)のんびり回が続きます
(´・ω・`)動きがあるのは次章の模様
「おお、かやぶき屋根」
「へぇ、エルフの村を思い出すよ」
「凄いですね、あれって植物なんですよね?」
到着したのは街の最深部、山を背景にした大きなかやぶき屋根の建物だった。
恐らく二階建の、横幅も広く、渡り廊下が山のほうへと向かって伸びている本格的な温泉宿。
となるとあの山のおかげで温泉が湧いているのか。
「さあ入ろうか」
屋内も木の風合いが生かされた内装で、さらには大きな囲炉裏があった。
囲いがしてあるから恐らく使う事は出来ないだろうが、いい雰囲気を出している。
照明はオレンジ色の白熱球にも似た魔導具が使われており、宿のコンセプトにもマッチしている。
さて、内装に見とれていないで受付に行かねば。
「ではお部屋は一つで構いませんか?」
「ええ、それでお願いします」
今回は温泉宿と言う事もあり、大部屋を一つにした。
さすがにここでばらばらの部屋と言うのは味気ない。
寝る時は間にリュエを挟めば問題ないだろう。
あれ? なんかリュエの扱いおかしくね?
「一緒の部屋は初めてですね。よろしくお願いします」
「何を宜しくなんですかね」
「レイスは凄いぞ。寝ぼけて私の事を抱きまくらにするからな」
「……寝ぼけていません」
じゃあ意図的に抱きしめているんですかそうですか。
やっぱりリュエバリアーは必要だな。
「大浴場は夕方6時から深夜2時まで解放していますので、自由にご利用下さい。それと、食事はお部屋にお持ちすれば宜しいでしょうか?」
「他にはどこで食べられるんですか?」
「大広間で他のお客様と一緒にか、別料金になりますが山の方にある離れのお部屋で景色を楽しみながら頂くことが出来ますよ」
「あ、じゃあ離れの方でお願いします」
「かしこまりました」
これは本気で食事に期待が持てそうだ。
残念ながら山を一望出来る部屋は他のお客に使われてしまっていたのだが、こっちはこっちで景色が良さそうだ。
こんな風に風景の事まで考慮して食事を提供してくれる宿なんて、泊まったことないぞ俺。
今からもう期待で胸いっぱいである。
さながら修学旅行の夜のような、そんな感じ。
部屋へと案内されていると、例の景色の良い部屋から人の話声が聞こえてきた。
かなり大きな声量で、ちょっと雰囲気が損なわれる。
どうやら口論をしているようだが。
「申し訳ありません、後ほど注意しておきますので……」
「どんなお客さんなんですか?」
「それが……お客様はギルドからのご紹介でしたよね? でしたら内密にして頂けるなら」
ここにきてカードが効力を発揮した。
一応、俺達の扱いはギルドの上役、かなりの高待遇だ。
勿論今回の宿泊費も割り引いてもらっている。
一応これまでにない高級宿と言う事もあり、一先ず3泊で契約したのだが、折角だし延長してもいいかもしれない。
「実は"セカンダリア大陸"の解放者の御一行様が宿泊なさっているのです」
「へぇ」
なるほど、セカンダリア大陸の解放者だったのか。
じゃあレン君ではないし、懸念事項は一つ減ったな。
しかし二つ隣の大陸からわざわざこっちまで、何をしに来たのだろうか?
大陸の大きさは、おおよそだが一つにつきオーストラリア大陸と同程度だと聞いている。
それを横断して、さらに海を越えて渡ってくるとなると、相当な長旅の筈だ。
俺は幸い、エンドレシア大陸の中央からやや北側、本格的な山脈の手前に現れたためそこまで長い旅路にはならなかったのだが。
通された部屋はしっかりと畳のしかれた、土足厳禁の和室だった
よかった、これでもしフローリングだったら一気にテンションが下がる所だった。
俺も早速グリーヴを脱ぎ、部屋へと上がる。
すると足の裏に、懐かしい硬さと柔らかさの混在する独特の感触が伝わってくる。
そしてイグサの香りと、キレイに掃除された畳独特の光沢。
絵に描いたような日本の伝統的な家屋を思わせる部屋だ。
「いい香りがしますね。これも植物なんですか?」
「そうみたいだね。本当、種類と雰囲気は違うけど、エルフの村もこんな風に植物で出来た家だったんだ」
「リュエの家もログハウスだったしな。懐かしい」
「リュエの家にも、いつか行ってみたいですね」
「じゃ、じゃあもし旅が終わったら……3人で私の家で暮らそう」
旅の終わりか。
何を目標にして、何を終点とすればいいか決まっていないが、それもいいかもしれない。
……本当、全部終わったらあのログハウスで3人で暮らすのも、悪くない。
「私が外で魔物を狩って、カイくんが料理をするんだ。レイスはきっと器用だから、いろんな物を作ったりしてさ」
「ストップ、そこまで。それ以上言うとなんかフラグっぽい」
「フラグ、ですか?」
「ゲン担ぎみたいな物だよ」
俺知ってる。そういう幸せなほのぼのとした未来を語ると、絶対に離脱者が現れたりして夢が叶わなくなるんだよ。
だからそれ以上いけない!
「私も、この旅が終わったら――」
「それ以上いけない!」
レイス、君もか。
窓から夕日が差してきた頃、時間を確認すると6時を回っていた。
ならばと、俺はおもむろに立ち上がる。
「よし、温泉に行くぞ」
既に部屋に用意されていた浴衣に着替えた俺は、隣の寝室で着替えている二人を今か今かと待っている。
すると、ふすまが開けられ二人の姿が露わになる。
「うっわ浴衣美人」
「ストレートな感想ありがとう。似合ってるみたいだね」
「有難うございます。カイさんもよくお似合いですよ」
宿泊用の物なので、紺色の無地と色気はないものの、二人が着るとそんな物関係なしに美しく見える。
そして、こと和装に関してはレイスよりもリュエの方に軍配があがる。
着物とかって余り着崩れない体型の人間の方が似合うんですよ。
レイスはもう、ね?
胸に多めに生地を持って行かれたせいで、丈が短くなってしまっている。
いや、これはこれで良い物ではあるのだが。
「じゃあ行こうか」
「申し訳ありません、混浴は事前予約が必要でして……貸し切りと言う事になりますので、離れ同様、別料金となっております」
「わかりました、では明日の夜に予約しても?」
「かしこまりました。時間は今日と同じ時刻で問題ありませんか?」
温泉の受付へとやって来たのだが、ここで悲しいお知らせ。
やっぱり混浴は他のお客の兼ね合いもあり、予約の上で貸し切りにしないとダメなようだ。
じゃあ今回は諦めて別々に入るとしよう。
で、なんで俺以上に悔しそうな顔してるんですかレイスさん。
「明日の6時……明日の6時ですね……明日の6時に混浴……」
「レイス、顔が恐いよ」
……姉さん事件です。分別のある大人の筈の女性が目を血走らせています。
魔眼って自力で開眼出来る物なんだね、俺初めて知ったよ。
脱衣所で服を脱ぎ、タオルを巻いて浴場へと向かう。
本来ならば隠しもせずに突貫と行きたいところだが、脱衣カゴに既に他の人の服が入っていた為、マナーとして腰にまいて行く。
一番風呂の栄誉は奪われてしまったようだが、知らない人間と浴場で裸の付き合いというのも旅の醍醐味である。
突き合いじゃないぞ、付き合いだ。
「おー、結構広いな」
浴場へ入ると、目の前には岩場を切り出して作ったような露天風呂が広がっていた。
さらには東屋のような屋根つきの風呂に、竹の上水道を流れる打たせ湯まである。
……どうしよう、もう俺この旅館から出たくない。
早速かけ湯をしてから、一番大きな露天風呂へと浸かる。
水深はそれほど深くなく、胸元が水面から出てしまうが、温泉の温度が高めな事もあり、夜の寒気と合わさり丁度良いあんばいだ。
それに、浴槽の淵が斜め切りだされているため、そこに寝転ぶようにすれば全身浸かることも可能なようだ。
「あー、生き返る」
空は紅に染まり、視界のすみではうっすらと闇色に染まりつつある。
草原での露天風呂もなかなか風情があったが、やはり温泉は別格だ。
お湯には若干の炭酸が含まれているのか、しゅわしゅわと肌に刺激を感じる。
それがなんとも心地よく、このまま眠ってしまいそうだ。
すると、打たせ湯と流れる湯の水音の他に、人の話し声が聞こえてきた。
「ダメですよ覗きなんて……他のお客さんに迷惑です」
「ほっほ、だいじょうぶじゃて。他の宿泊客がいないのは確認済み、それにその言い草じゃと、他の客がいなければ覗いてもいいと言ってるような物じゃぞ?」
「ち、ちがいます! さっきも混浴するかどうかで大げんかしたのに……」
なるほど、先客は彼らか。
そして他に宿泊客がいないとなると、どうやら彼らがセカンダリアの解放者一行か。
髪の長い、ポニーテールにした青年と、白髪を刈り込んだ老人の二人組。
そして会話から察するに『覗きたくなるような』女性がいると。
もう一度いう『覗きたくなるような』女性だ。
だがしかし、覗かせる訳にはいかない。
何せうちの姫さん二人も今まさに隣にいるのだから。
「失礼ご老人。そっちには私の連れが入浴中だ。老体とはいえ男の目にふれさせるわけにはいかない」
「ひょほ!? 他に人がおったのか!」
「ほ、ほら! すみません、すぐにやめさせますので!」
振り向いた青年は、随分と華奢な体つきで、髪型の所為もあり一瞬女の子にも見えた。
勿論腰にしかタオルを巻いていないので、男女の判別はすぐ可能なのだが。
髪の色も瞳の色も黒。おそらく彼が解放者なのだろう。
というか、イグゾウ氏と良いレン君と良い、召喚されるのは日本人限定なのだろうか?
「ふむ。お若いの、君はその連れのありのままの姿を見てみたいとは思わんのかね?」
「思うにきまっているでしょう? しかし他人に見せるのは我慢ならない」
「ふむ……では先に君が覗き、そしてわしらの仲間がどこらにいるかだけ教えるというのはどうじゃろう? そうすればわしらも目当ての相手だけを――」
エロ根性たくましいお爺さんである。
俺もあんな風に……はなりたくないな。
けれども嫌いじゃない、嫌いじゃないぞお爺さん。
今回ばかりは許すことは出来ないが……。
爺さん、アンタとは別な形で出会いたかった。
「生憎、わざわざ覗く必要すらないので。大人しくしてくれないのなら、この事を宿に報告しますよ?」
「ぐぬう! やはり顔か! 顔がよければ女子は進んで裸を晒すというのか!!」
違います、貞操観念が欠如しているお馬鹿さんがいるんです。
「ええと……すみません本当に……ほら、湯冷めしちゃいますし入りましょう」
中々愉快な仲間じゃないか解放者君。
「ありゃ、石鹸ないのか」
身体を洗っていると、垢すり用の繊維質なタオルはあったのだが、石鹸が見当たらない。
だが石鹸置きはあるし、補充し忘れだろうか?
そうだ、ちょっと憧れていたシュチエーションがあったな。
俺はおもむろに立ち上がると、男女の浴場を仕切っている背の高い竹柵へと近づいていく。
その様子を、何故か先ほどの老人がニヤりと笑いながら見つめてくる。
いやいや、覗くわけじゃないぞ。
「リュエー、レイスー! いるかー?」
「あ、カイくんの声だ。なーにー?」
「こっち石鹸がないんだ、よかったら投げてくれー」
「あ! わ、私が、私が投げます! カイさーん、いきますよー」
すると、竹柵の向こうからポーンと石鹸が一つ飛んできた。
それをうまい具合にキャッチすると――
「あ、ズルい私も投げる」
「あ、リュエ、それを投げちゃ――」
もう一つ勢い良く石鹸が飛んできた。
何故に!?
「す、すみません、それがないと私達が洗えないので一つ返してくださーい」
「あいよー、投げるぞー」
「あ、そっか。悪かったよレイ――痛い!」
石鹸を相手の浴場へシュート。
別にエキサイティングはしない!
そしてリュエごめん、まさか当たるとは思わなかった。
(´・ω・`)石鹸で髪の毛洗うとキシキシするよね
 




