四十六話
(´・ω・`)ぼんぼんの素敵なイラストを頂きました
(´・ω・`)後ほど活動報告にのせておきたいと思います
ウェルドさんの独白を聞き、俺が思ったことは二つ。
この人は本当にレイスを心の底から思っていたという事。
そして、同じくらい自分の娘と、今は亡き妻を思っている事。
だからこそ、そんな彼だからこそ、その娘であるアイドを信じてみようと思う事が出来た。
自分のこれまでの言動が、母を苦しめていたかもしれない事。
自分の歪んだ正義感が、父と母の思いを否定していた事。
それを突きつけられてすぐに立ち直れる程人間は強くない。
そう、人間は強くない、とても弱くて浅ましく、残酷な事を平気で行う生き物だ。
そんな事、元の世界で生きた俺が一番よく知っている。
物理的な危険が少ない分、この世界よりもしがらみが多く、心に傷を負う機会に満ちあふれている世界。
だからこそ生まれた、心を癒してくれる様々な娯楽。
この世界の娯楽は、元いた世界より少ないだろう。
だがそれでも、レイスやウェルドさんの亡き妻のような人は、この世界の心を癒やす数少ない癒し手だ。
その辺りを、彼女はまだ分かっていない。
だが、きっと分かろうとしてくれている筈。
ならば俺は、ただ彼女たちを待つのみだ。
人は弱いが、一人じゃなければその限りではない。
数なんて決まっていない、だが誰かがいれば、決して弱くはない、弱いままではいられない。
「ウェルドさん、もう一局お願いします」
「ええ、幾らでも打ちましょう」
「それで、結局そっちはどうなったんだ?」
「聞いてくれカイくん、レイスは実はおばあちゃんだったんだ!」
「リュエ!」
屋敷の帰り道、夜道で興奮したようにリュエがそう告げると、珍しく声を荒らげたレイスに頬を引っ張られる。
そうか、そっちも全て聞かされたのか。いや、レイスは知っていたのだろう。
知らなかったのは彼女だけ、か。
尚リュエは部外者なので、はなっから勘定には入っていません。
「その辺りの話は俺も聞いた。そうか、じゃあアイドは全てを受け入れた訳だな」
「はい。これから彼女は少しずつ変わって行くと思います。私も彼女に、一度私の店を訪れて見るように勧めてみました」
「ああ、それは良い。レイスももう、大丈夫なんだな?」
「そうですね……ずっと、心につかえていた物が、ようやくなくなったように思えます。カイさん、改めて有難うございました」
「俺はなにもしてないんですけどね」
基本的に気分で動いてるだけなので。
そしてリュエ、さっきから何を考えているんだ。
「結局、彼女はまだ子供だった。そして親が子供の成長を見極める事が出来なかったという話だったんだよね」
彼女はそう、ぽつりと零す。
そうだ、確かにその通りだ。
人間は弱いと言ったが、彼の娘は、想像していたよりもずっと強かったようだ。
そして、ウェルドさんは彼女を見誤り、これまで真実を隠してきた。
ただそれだけの話だ。
なんでこの人はこう、たまに核心を突くんだろうね。
「リュエ、私はおばあちゃんじゃありません、それだけは覚えておいて下さい」
「分かったよ。ふふ、レイスもようやく、そんな顔をしてくれるようになったね」
「確かに。それくらい肩の力を抜いて良いんだよ」
本当、この人にも敵わない。
翌日。
朝早くに街を出る事にした。
ウェルドさんが馬車ではなく魔車を手配してくれたので、次の街までは快適に過ごせそうだ。
この街になんの貢献もしていない気もするが、まぁ領主一家のわだかまりを取り除いたって事で許して貰おう。
まぁいろいろあったが、とりあえず一安心って所だな。
魔車の御者はレイスが務めてくれる事になったし、暫く落ち着いて三人で旅が続けられる。
じゃあそろそろ、俺も話すべきだろうな。
御者席は広く取られ、三人で並んで座る。
平坦な道をあまり速度を出さずに進み、両脇の農地を眺めながら、ようやく俺は切り出した。
「さて、そろそろ俺もいろいろ話さなきゃいけない事が溜まってきたわけだが、少しいいか?」
「はい? どうしたんですか?」
「うん? もしかして、ウィングレストで言っていた事かい?」
リュエは覚えているようだ。
なぜ俺、リュエ、レイスの間に不思議な親しみを感じるのか。
何故懐かしいと感じてしまうのか、その謎についていずれ話すと言った事を。
時間も丁度良いだろうと、一先ず街道の脇、小高い丘へと魔車を留め、休憩をとりつつ話し始める。
まず、レイスに俺達が感じた不思議な懐かしさの事を教え、同時に俺が現実世界、リュエ風に言うなら上位世界出身だと言う事を伝える。
「ええと……つまり、神様が自分用の肉体を作ってそれを動かしていて……その身体から出られなくなって元の世界に戻れなくなってしまったという事でしょうか?」
「神様というより、そういう世界に住んでいる一般人。そして戻れないというか、そもそも戻ろうとか思ってすらいないって事だけ訂正しとく」
「なんだか突然過ぎて……でも、普通に人間として生きているんですよね? 何も問題なんてないんですよね?」
唐突に、ズズいと顔を寄せ念を押すように確認を取ってくる。
大丈夫、大丈夫ですとも。問題なさすぎて今まさに問題が起きてしまいそうです。
「とりあえず落ち着くんだレイス。さぁ、じゃあカイくん、いよいよ教えてくれないかな」
「ああ、てっとり早く言うと、俺は身体を他にも作っていたんだ」
説明としては、これで大体あっているだろう。
全く正しいとは言い切れないが、このくらいの嘘は許してくれ。
俺としては限りなく真実に近い嘘だ。
「なんだって! じゃあカイくんはいっぱいいるのか!」
「え、それは……じゃあその、宜しければ一人、いえ二人程……」
レイス、二人ほどどうするんですか。
「そうじゃない。まったく違う姿の身体を作っていたんだ。だが、結局それは使わなかったんだ」
大人しく聞き入る二人。
その二人の姿を見ていると、なんとも不思議な気持ちになる。
まるで娘のような、兄妹のような、家族のような。
俺は結婚もしていないし子供もいない。だからこの感覚が何に類似している物なのかよくわからない。
……妹はいたが。
「その身体には、しっかりと命が宿っていたんだ。俺との繋がりはある、けれども一人の人間として、自分の意思で生きていた」
そう、生きていたんだ。
自分の足で立ち、自分の意思で歩み、そして人生を過ごしていたんだ。
ここまで話して、ようやく俺が何を言おうとしているのか、二人は気がついたようだ。
「え……まさかそれが、私なのかい……?」
「私も、ですか?」
「そうだ。二人共、アイテムボックスとは別に、もう一つアイテムをしまえるボックスがあるだろう?」
「ああ、私はもう引き出せなくて、封印の為の場所として使っているよ」
「あ……ではまさか」
レイスはリュエの発言を聞いて、気がついたのだろう。
自分の元に届けられるその場所が、俺達3人の繋がりを示す物なのだと。
「そう。リュエに剣や鎧を与えたのも、レイスに服やアクセサリーを与えたのも俺。リュエはまさか自分もだなんて思わなかっただろう?」
「そ、そんな……じゃあ私に貢いでいたファンはカイくんだったのかい……?」
「おい」
貢ぐって、ファンって。
「だから、こうしてこの世界にやってきて、こんなに早く二人と再会出来たのは、ある種の運命だと思っている」
「確かに、そうだね……」
「リュエに聞きました。カイさんと出会った時の事、そして神隷期の伝説の事も」
「そっか」
「ですが――」
レイスは再び、力強く声をあげ、真っ直ぐ俺を見つめる。
そしてリュエもまた、自信たっぷりな表情で俺を見る。
「私はきっと、そんな繋がりがなくても貴方に惹かれていたと思います」
「右に同じく。あの一年は、最初のきっかけなんてあってもなくても関係ないくらい、楽しくて幸せな、かけがえのない宝物だって断言できるよ」
「……なんで君達はお兄さんを泣かせるような事を言うの」
勿論、これで関係がこじれるなんて思っていなかった。
それでも、やっぱり不安な物は不安な訳で。
俺だけが知っているのが、なんとも座りが悪くて。
あれだ、味方にはどこまでも味方でいてほしい。
全てを知ってほしいんだ。
多少表現をぼかしてるのは目を瞑るとして。
「あの、一つ質問があるのですけれど」
「ん?」
「私とリュエさん、どちらが先に生まれたんですか?」
……これは中々良い質問だ。
「実は俺が最後に生まれたんだよ、お姉ちゃん!」
「ええ!? じゃあ今度から、カイさんの事はカイくんって……私の事は姉さんと……?」
「カイくん、私にもそれを言ってくれないかな? ほら、お姉ちゃんって」
こうかは ばつぐんだ!
「嘘に決まってるだろ。俺が最初でリュエが二番、最後に生まれたのがレイスだ」
「…………」
「…………」
「兄のお茶目な冗談だ、笑って許して?」
その後、暫く口をきいてもらえませんでした。
レイスに御者の仕方を教えてもらい、簡単な命令を覚えて速度を維持出来るようになった俺は、一人御者席でこれからの事を考える。
現状、俺の身内と言ってもいい、最大の仲間を俺は手に入れた。
ならば、それを絶対に手放さないようにするのはどうすればいいか。
……圧倒的な力を見せつけ、不可侵を誓わせるのは難しい事じゃないだろう。
だがそれでは、生き難い。
他者との繋がりを、関係を制限して生きるのは、この自由で広大な世界で生きるには余りに勿体無い。
ならどうするか。
「やっぱり敵対した奴限定で黙らせて行くしかないよな……」
まぁ、現状維持できままな旅を続けるとしましょうか。
(´・ω・`)ぼんぼんを一人見つけたら30人はいると思え




