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一話

 本編開始のお知らせ

 肌寒い。

 寝心地の悪さを感じ、意識が浮上する。

 目を開けるのも億劫で、恐らくこれから目に映るであろう光景を予測する。

 顔にキーボードの後、絶対ついてるよな……。


「は?」


 だが、目に映るのは枯れ葉、そして鼻腔をくすぐる土の香り……腐葉土という奴だろうか。

 何事かと飛び起き、周りを見渡す。

 どこか山の奥を思わせる、薄暗い風景。

 鼻をくすぐるのは山の中特有の土の香りと、ほのかなカビ臭さ。

 肌寒さに思わず身を抱き締めるも、今度はさらに大きな変化に気が付く。


 俺は、部屋着だった。

 シャツにタンパン、夏だからと完全に油断した格好だったはずだ。

 そもそも、今は夏だぞ、なんだこの寒さは。

 というか、この服はなんだ……?


「コートだよな、これ……カイヴォンの」


 恐る恐る、頭を触る。

 指どおりがサラサラと心地良い髪が、前へと流れてくる。

 その色は銀色。

 そして、視界が妙に狭い。

 手をふれると、それがマスクによるものだとわかる。


「カイヴォンのマスク……」


 そして極めつけは、頭上の角。

 顔の造りも、手で触ったかぎりでは俺の物じゃないのがわかった。

 これはつまり――


「どんだけ未練があるんだよ。夢オチ乙」





 夢の中の森を歩く。





 だが次第に、これは本当に夢なのかと不安になってくる。

 そもそも、こんなステージはゲームに存在しない。

 こんな風景を見た覚えなんて最近はない。

 夢に出るはずがないのだ。

 そして、終いにはコイツらだ。


「こういう時遭遇するのって、ゴブリンとかそういうのだろ普通」


 なんの普通かはしらない。だが少なくとも始めて遭遇する相手がこんな――


「ヘビ、こんな寒いのに活動するんじゃない!」


 体長8メートルはありそうな、巨大なヘビだった。


 次の瞬間、尾をすさまじい速度で振るわれる。

 それを脛に浮けてしまい、すっころんでしまう。

 が、以外にも痛みはたいした事が無い。

 だが、目の前には俺を狙う蛇の口が――



「そのまま転がれ!」

「!?」


 その叫びに反応し、咄嗟に転がった俺を褒めてやりたい。

 次の瞬間、俺がねころがっていた地面から氷のトゲが勢い良く飛び出し、蛇の口を貫き、頭を貫通する。


 そのある種のグロ動画にも匹敵する惨状を唖然と見ていた所に、声の主と思われる人物から声がかけられる。


「お前……魔族か? それもかなり上位の」

「あ、いや俺は」

「……何故この程度の相手に。何者だお前は」

「いや、俺は人間で」

「さすがに騙されはしないぞ。自分の姿を見てみろ」


 血塗れの氷のトゲに映る自分の姿を見て、俺ははっきり理解する。

 いや、わかってはいたんだが、こうして見ると……。

 どうみても魔王様です本当に有難う御座いました。


「人間なんだ、本当に。この姿には訳が」

「……この魔力波動は確かに……しかし人間とも違う」

「そ、そうなのか」

「何故、それほどまでの力を持っていながら……」

「力なんて、俺は」


 冷静になり、相手の姿を見る。

 茶色いローブで顔を隠しているが、どうやら女性。

 線の細さからしてまちがいないだろう。

 手には杖と、絵にかいたような魔法使いルックだ。

 恐らく、俺の姿に警戒をしているのだろうが、これはどうすれば……。


 メニュー画面で装備をかえれば……ってそんな物。

 というかこの状況、やっぱり夢じゃなかったのかこれ。

 ああもう、どうすりゃいい。


「……とりあえず、ついてこい。おかしな真似はするんじゃないぞ」

「わ、わかったからそれ、こっちに向けないでくれ」


 杖をこちらに構えつつ、彼女はこちらに注意を払いながら踵を返す。

 俺はその後ろについていくしかなかった。





 メニュー呼び出しを念じて見たり、指で見えないキーボードを操作するように動かして見たりしてもダメだった。

 よくある創作物よろしく、ふわっとウィンドウが浮かんできたりしませんかね?

 だがどうしても諦めきれず、俺はつぶやいてしまった。


「メニュー……出てこいよ……」


 それが幸をなした。

 本当に現れたのだ。

 まるで、ヘッドマウントディスプレイをつけているように、目の前に広がる見慣れたメニュー画面。

 それに思わず驚き、声を上げてしまう。


「なんだ! おかしな真似をするんじゃない!」

「ま、まってくれ! 今ちゃんとするから」


 前を歩いていて彼女が、ビクリとこちらに振り返る。

 なんだか怒っているというより、驚いて大きな声を出してしまったような、そんな顔色。


 項目を操作し、装備欄からアクセサリー系を全て外す。

 “エルダーウィング”“エルドカプリコーン”“ペインズペルソナ”“夜と紅月の魔眼”解除っと。

 いずれも外見に作用するだけのファッションアイテムである。

 なおこの手のアイテムはそこそこ数が用意されていたが、手に入れるのに苦労する為ここまで集める人間はそういなかった。

 というか、その中でもいかにも色物なこれらを揃える人間はいない。

 まぁ、同じ病を患った方々が翼だけ求めている姿は度々目にしていたが。


 まぁともあれ、自分では確認できないが、これでおそらく――


「な!? お前人に化けるのか!」

「ち、ちがう! これはアクセサリーだ! これが本来の姿なんだ」

「……そうなのか? どうやって証明する」

「ほ、ほかのアクセサリーを装備してみせる」


 ネタ装備『鼻目がね』『アフロズラ』『にゃんこリュック』を装備。

 すると、背中に程よい重さとやわらかさ、そして鼻を覆う圧迫感と不透明なメガネを感じ取る。


「ど、どうだ」

「……ぷっ なんだそれは。お前は道化師かなにかだったのか?」

「いや、そんな所、かな」

「まだ変な気配はするが、魔族じゃないのは本当のようだな」


 なんとか誤解は解け、ギャグ装備一式を解除して彼女の後に続く。

 どうも、本来のイケメンです。

 未だココが夢の世界なのでは、と疑うも、森の木々の表面やら風にざわめく枝葉やら、とてもリアルで夢とは思えない。

 だが、前を行く女性に覚えがあるような、そんな違和感が胸にひっかかる。

 森を歩くこと数十分、慣れない山道を歩いたにもかかわらず、疲れを感じない事をいぶかしみながらも、目的地へと到着した。


「ここが私の住処だ。しかし話を聞く限り、ただの人間とは思えないな」

「一応、人間だったと記憶してはいるのですが……」


 ステータス画面の事や、自分が今の姿ではなかった事を説明するも、明確な答えは帰ってこない。

 が、ステータス画面についてはどうやら彼女も表示する事が出来るらしい。

 曰く、出来る人と出来ない人がいるのだとか。

 その辺りの差異はなんなのだろう。自分が使える以上、俺と同じ境遇の人、という線も捨て切れないが、少なくともこうして会話をしていても、彼女がプレイヤーとは思えない。

 まぁ今は自分の事を優先すべきか。



「さて、では改めて君の名前を教えて貰おうか。可能な限り君自身の事を聞かせてくれ」


 彼女の家の外観はログハウスのような、スキー場にあるロッジのようだったが、内装もそのイメージ通りだった。

 木製ながら高い技術力を感じさせるイスに腰掛けながら、彼女は俺にも座るように促す。


「ええとですね、自分は恐らくですが、こことは違う場所、まったく違う世界の人間だと思っています」


 記憶喪失だとか、そんな自分の設定を考えずありのままに話す。

 先程まで自分は魔物や、こんなステータス画面の存在しない世界にいたと。

 そして今の姿が自分ではなく、仮の姿、用意した物だと遠まわしに説明する。


「となると君……貴方は上位世界から仮初の身体を用いて、下位世界に干渉していたと……」

「ええと、まぁそれで間違ってないですね」


 仰々しいがだいたいあってる。

 なんだか神様の一人にでもなったような気がする。

 というかこちらの呼び方が"君"から"貴方"に変わってますが。


「あ、でも神様とかそういうんじゃないですからね? 本当にただ好きに冒険していただけで。それにどうやら、ここがその貴方の言う下位世界とは思えませんし」

「そ、そうなの……ですか? いや神じゃないなら普通に接した方が良いの……か?」


 此方としては、普通に接してもらいたい&出来ればこの世界の事を詳しく聞きたい。

 どちらかと言うと下手に出るべきは自分だ。

 そして――


「あの、そろそろフードを脱いで貰っても良いでしょうか……?」

「あ、そうだったな。今日は寒くてな、すっかり忘れていた。


 実はこの人、フードの左右が微妙に横にでっぱってる。

 これはもしかしてあれか、エルフ耳か。生エルフ耳なのか。

 期待に胸膨らませながら、彼女がフードに手をかけるのを凝視する。


「私は寒がりでな……ふぅ」

「おぉ……」


 形容詞が思いつかないレベルの美人さんでした。

 ゲームのキャラみたいな美人エルフさんがもし目の前にいたら、すぐに形容詞なんて出てこないね、仕方ないね。

 銀と言うより、本当に白くて長い髪に、色素の薄い、淡い青の瞳。

 エルフと言うと金髪に碧眼って印象が強いが、これはこれでアリ、と言うか……。


「なんだ、そんなにこの髪が珍しいのか?」

「いえ、そういうわけじゃないのですが」


 アリと言うか、非常に見覚えがある。

 俺の好みど真ん中と言うか、欲望の赴くまま好きな要素を注ぎ込んだ、カイヴォンとは違う方向の理想のキャラクター。

 俺のセカンドキャラクターである――


「名乗るのが遅れたな。私の名前はリュエ・セミエールだ。君の名を教えてくれないか」


 "Ryue"御本人でした。


 なお話は進まない模様

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