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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
五章

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四十五話

(´・ω・`)なんとか豚足にならずに済みましたので続きをどうぞ

M(´・ω・`)M

「いやすまなかったな。お、残りの二人も一緒にいるみたいだな、手間が省けた」


 俺が名乗り出ると、その男は邪気を感じさせない笑顔で話しかけてきた。

 そして、どうやら俺だけでなく、リュエとレイスも捜索の対象だったようだ。

 一瞬"アーカム"の刺客だろうかとも思ったが、そんな相手が堂々と現れるはずもないだろうと考えなおす。

 ……予測! ウェルドさんが会いたがってると見た。


「すまないが、黙ってついてきちゃくれねぇか。手荒な事はしたくないんだ」

「ん? 君はウェルドさんの使いじゃないのか?」

「おしいな、その娘のアイド嬢ちゃんの使いだ」


 しかし俺の予測はハズレだった。

 そうか娘さんの方のか、じゃあ付き合う必要はないな。


「なら答えはノーで。ウェルドさんの使いならともかく、あの子の使いじゃあついていく訳にはいかないな」

「なぁ、そこをなんとか頼む。手荒なことはしたくないって言っただろ、な!」


 心底嫌なのか、本当に申し訳無さそうに両手を合わせて頭を下げてくる男性。

 くっ、俺もなんだか申し訳なくなってきた。

 だがしかし、行かない、行かないったら行かない!


「な、なぁ姉さん達も説得しちゃくれないか? 頼む、本当に頼む!」

「え、ええと……カイさん、どうします?」

「カイくんに任せた!」

「じゃあノー!」


 こればっかりは譲れないのである。

 大丈夫、後で俺から会いに行くから! ウェルドさんにだけど。


「こんだけ頼んでもダメか~……じゃあ仕方ねぇ、手荒な真似、させてもらうぜ?」

「……俺に勝負挑む気ですか? 君がそれを選ぶなら、こちらもあらゆる手を尽くさせてもらう!」





 しかしここでまさかの強権発動。

 戦うと思ったか!?

 こういう面倒を避けるための権力、ここで使わないでどうすると言うのか。


 そそくさとカードを取り出し、デデンと目の前にかざす。

 どうやらこの人物、ギルド内の反応からして有名人のようだし、このカードの事を知っていてもおかしくない。

 そして案の定、カードを見た瞬間動きをピタリと止めた。


「で、手荒な真似って?」


 フハハハハ、ビバ権力。

 戦わずして勝つ、これ兵法の極意なり。

 微妙に背後から冷めた視線を感じるが。


「あ~……その、なんだ? 人が悪いぜ旦那……」

「正直俺もこのタイミングは非道いと思う。最初からあの娘さんにコレ見せてやれって話だよな」

「あ~でもお嬢だからな……一回大火傷でもした方が今後の為かもしれねぇ」


 いやなんか、こっちこそすみません。

 そっちも仕事でしょうに。

 なぜか職務に忠実な人間を無碍に出来ないんですよ。

 後で1杯奢るから元気出してくれないかね。



「さっきまでウェルドさんの家にいたんだよ俺達。だけど、あの娘さんがちょっと失礼な事を言うもんで無視して帰っちゃったんだよ」

「あちゃあ……頼むからこの街を滅ぼすなんてしないでくれよ旦那……」

「しないしない。本気でオインクなんて説明したんだよ……」


 結局、彼は俺達を連れて行くという任務を達成する事は不可能だと諦める事となり、一旦屋敷に戻り、ウェルドさんの指示を仰ぐと言い去っていった。



 なんだかんだでいい時間になってしまった事もあり、一度宿に戻って昼食を摂る事にした。

 レイスには悪いが、訓練はこの街を出てからにしようか。



 宿へと戻ると、またハムネズミの少女がカウンターの向こうに隠れていた。

 声をかけると、台に乗り頭だけをピョコンと見せ、こちらの姿を確認して鍵を手渡してくる。


「なになに……『お昼ごはんはどうしますか?』じゃあ三人分お願い出来るかな?」

「カイくん……この子可愛いね、あの耳さわってみてもいいかな……」


 熱に浮かされたような表情で少女の耳を見つめる姿に、つい悪戯心が刺激されてしまう。


「そりゃ」

「ひゃん!」


 勝手に耳に触るとそうなるんです。

 自重しましょう。


「ハムネズミ族はあれ以上成長しない一族ですので、あの姿でももう大人だと思いますよ?」

「む、そうなのかい? じゃあさすがに失礼か……」

「チーチー!」


 それを聞いていた彼女のフリップには『今年で22になりました』とある。

 本当だ、ぱっと見10歳程度にしか見えないのに。





 昼食はハムエッグとハムサラダ、そして四角く切られたハムと野菜がたくさん入ったスープだった。

 絶対に突っ込まないぞ。

 味は全て素朴というか、胃に優しい、家庭的で安心感を与えてくれる物だった。

 これも全部あの子が作っているのだろうか?


「ちょっと厨房見てくる」


 好奇心に負け、食器返却口から中を覗いてみると――


「チーチー!!」

「チーチー?」

「チチーチチー!?」


 なんかいっぱいいた。

 しかもみんな似たような顔だった。

 ……なんだろう、ちょっとほっこりする。



「お帰り。どうだった?」

「ハムネズミ族が沢山いたよ。みんな似た顔だったし家族なのかな」

「ハムネズミ族は親の特徴を色濃く引き継ぐようですよ? たぶん、世界中のハムネズミ族はみんなあの姿だと思います」

「そ、そうなのか」


 不思議生物ハムネズミ。

 見てる分には非常にかわいらしくて面白いんだけどな。




 昼食を摂り終え、一息ついていたら宿に来客が。

 声から察するに、先ほどギルドで会った男性だろう。


「何度もすまねぇ! 今度はウェルドの旦那本人からだ! 夜に屋敷にきてくれとさ」

「そういう事なら了解。悪いね、何度も行ったり来たり」

「気にすんな、俺もギルドに所属してる以上、アンタの事を無碍にはできねぇしな」

「しかし、そういう君も領主やその娘と頻繁に会えたり依頼を受けたり、ただの冒険者じゃないんじゃないか?」

「まぁな。これでも領主の家に雇われてる冒険者だしな」


 ほほう、となるとかなりの実力者なのか。

 実は先ほどギルドで会った時に彼の能力も鑑定済みなのだが、そのレベルは66と、現段階で俺がこの街で見た中ではトップだった。

 ちなみに職業は重戦士と格闘家という、完全なアタッカータイプ。

 外見に偽り無しである。


「んじゃ伝えたからな! ……この後どうすっかな」

「じゃあ少し話を聞かせてくれないか? 例えばウェルドさんの娘さんについてとか」

「ん? ああお嬢の事か……まぁウェルドの旦那の知り合いみてぇだし、話してもバチはあたらねぇよなぁ」


 一瞬迷う素振りを見せるも、しっかりと教えてくれるようだ。


「お嬢は旦那が外に出ている間の街の治安を任されていてな、その影響でちっとばかし苛烈というか、権力になれちまってんだよ」

「ウェルドさんはよく出かけるんだな」

「まぁ視察やらなにやらでな。それに、毎月隣町、つっても結構距離があるが、ウィングレストって所に通ってるってのもある」


 なるほどなるほど。

 プロミスメイデンに通うためですね、わかります。

 ……あ、違う。港町のギルドに行ったついでだったな。


「んで、何年か前だったか、旦那の奥様が病気で急に亡くなってな。そんときゃ確か、そのウィングレストの街に泊まってたらしいんだわ」

「っ!」


 それを聞き、レイスが息を呑む。

 ……まぁ最後まで聞こう。


「つっても、旦那が街に戻ってきたのはそれから二日後。ウィングレストに寄っていようがいまいが間に合わなかったって話だ」

「ウェルドさんがあの街に泊まるのは有名な事なのか?」

「有名だな。贔屓にしてる店があるらしくてな、俺も何度か誘われたんだが、長くこの街を空ける訳にもいかねぇからなぁ」


 なるほどなぁ。

 まぁある程度予測出来る範囲だったが、これは完全に逆恨みじゃないですかね。

 気持ちは分からないでもないが、決めつけで暴言を吐くのは許されませんぜお嬢さん。


「元々潔癖な所があってな、あそこに通う旦那と昔から揉めていたんだが、その一件でより一層厳しくあたるようになってな。この街にあった娼館も全部取り潰しちまったんだ」

「……それはそれは。ウェルドさんは何もしなかったのか?」

「ああ、勿論後でそれを知った旦那が、路頭に迷わないようにそこで働いていた連中をウィングレストの裏の顔役に紹介したりしてたらしい」


 まぁそんな事があったから、より一層娼婦や夜の店で働く人間、そしてあの街で働く人間にいい感情を抱いていないと。

 誇り高くて潔癖なのは結構だが、それを押し付けて自分の見えない場所に追いやるのは違うんじゃないかね。

 それに、この街の男性達はさぞやお困りなんじゃなかろうか。


「そんじゃ俺はぼちぼち行くぜ」

「ああ、話してくれてありがとう。あ、そうだ、君の名前は?」

「ああ、そういや自己紹介してなかったな。俺は"ガルス"だ。一応白銀持ちなんだぜ?」


 なんとまさかの白銀持ち。

 となると、彼はギルドの役員達に認められた実力者という事になる。

 オインクにも認められたって事なんだろうか?

 ……じゃあギルド全体で見ても66レベルというのは上位に位置するのか。


「やっぱり実戦経験も必要か……俺も訓練するべきかね」


 レベルを上げて物理で殴るを地で行くだけでは限界が来るのかね?

 ただ問題は訓練の相手がいないという事。


「さてと、じゃあ夜まで少し……待機だな」

「そう、ですね」

「レイス、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です。ありがとう、リュエ」








 夕方になり、宿を後にし約束を果たしに行く。

 屋敷に到着すると、既に話が通っていた為かすぐにウェルドさんの元へと通された。

 応接室のソファーには彼の娘、アイドも座っていたのだが、俯いたまま顔を上げない。

 まぁ、今はいいか。


「ウェルドさん、ここに俺は必要ですか?」

「……わかりました。では私と別室へ」

「私はレイスと一緒にここに残るね」


 確執があるのはあの二人だ、俺がいるべきじゃないだろう。

 何よりも、次に何かあればもう、俺は判定を下してしまいそうだ。

 出来ればそうならない事を祈ってるよ。

 俺はウェルドさんに続き、女性3人だけを部屋に残し退室した。



「……申し訳ありませんでした」

「謝罪はいりませんよ。後は当人同士の問題ですから」

「しかし……私が説明を怠ったばっかりに」

「……じゃあ俺にも話してくれますか、そちらの事情を」


 執務室へと通され、彼は渋ることなく、レイスとの出会いを一番最初から、自分の生い立ちを含めて語りだした。

 だがそれは、俺の思っていた内容とは大きく異なっていた。


「私は、マザーへの恋心が、次第に憧れ、そして敬愛へと変化していったのを今でも覚えております」


 若し頃、家業を継ぐ事を嫌がり、一人大陸の中央へと勉学を修めに向かったと言う。

 そして、当時のレイスを見た。

 当時も似たようなお店を開いていたようだが、今ほど恵まれた環境でなく、戦いの日々が続いていたと言う。

 領主の息のかかったならず者に店を荒らされ、それでも家族である従業員を守る姿に心打たれたと言う。

 ある時、彼はそんなレイスに初めて声をかけたそうだ。


「あの頃の私は、どうしようもなく青かったのです。今では恥ずかしくて言えませんな」


『いずれ自分がこの大陸をかえてみせる、その時は俺と一緒にこの街から出よう、新しい居場所を作ってみせるから』と、初対面でいきなりぶちまけたそうだ。

 そして、やがて彼は頭角を現し、この大陸に進出してきた新たなギルドの総長、オインクの目にとまった。


 オインクはこの大陸の王政が既に破綻していた事を上げ、新たに調停役としてギルドを使い、かなり強引にだが地方に至るまで監視の目を光らせたそうだ。

 そして、言葉巧みの当時の領主だった貴族達に『この国の行く末を決める人間になりたくないか』と誘いをかけ、力を合わせ王家を廃したそうだ。

 まぁ誘われた貴族はてっきり自分が王になれるものだとばかり思っていたらしく、騙されたと騒ぎ立てたそうだが。

 しかし紆余曲折を経て、その領主達を中心にした議会を設立し、今ではその議員達は民の中から選ばれるまでとなった。

 無論、当時の領主の血縁がまだ多くの議席を占めているそうだが。


 ……あの豚とんでもねぇな、本当の意味で国を落としたのはお前じゃないか。

 あいつは何を考えて動いているのか、結局俺はそれを聞かずじまいだ。

 …………世界征服とか? 全人類豚化計画でもするのか?


「領主になった私は街を造り、後のことは知っての通り。しかし、私はマザーの元に通ううちに、一人の女性と恋に落ちてしまいました」


 通いつめ、その度に相手をしてくれていた一人の女性。

 やがて、互いの心に触れ合った二人は結ばれる。

 ……つまり、ウェルドさんの奥さんはレイスの元娘だったという事だ。

 じゃあ何か、ウェルドさんがあそこに通うのは、妻の実家に挨拶をしにいくような物だったのか。

 という事はアイドは血の繋がりこそないものの、レイスの孫のような存在じゃないか。


 それを知らずに……いや、説明をしなかったウェルドさんにも責任はある。

 だがそれも、アイドの事と亡き妻の事を思っての事だったのかもしれない。


 恐らく、奥さんが生きていた頃から既にアイドの潔癖さが目立っていたのだろう。

 故に言い出すことが出来なかった。自分の娘に軽蔑されたくなかったから。

 そしてレイスの元にいたのは、様々な事情を抱えた娘さん達ばかりだったと言う。

 きっと奥さんも、険しい道を歩んできたのだろう。



「話は分かりました。では全てを娘さんに説明したのですね」

「ええ。随分と落ち込んでしまいましたよ。自分のこれまでの生き方全てを考え直す必要がある程に」

「厳しい事を言いますが、それくらい考えて悩まないと俺が納得しませんから」

「ははは……本当にその通りですな」




 会話が途切れると、彼は戸棚からある物を取り出し、彼と俺の間にあるテーブルへと置いた。


「まだ、時間がかかりますでしょうからな。一手お相手出来ませんかな?」

「俺は殆どやらないので、相手になりませんよ」


 それはチェス盤。

 そういえば、港町でラントさんとも対戦していた。

 俺は残念ながら直感操作の出来るアクションゲーム専門。

 この手のボードゲームはめっぽう弱い。


 親戚のおじさん達に将棋で散々泣かされた記憶が蘇る。

 あいつらは鬼畜だ。子供に大金をちらつかせて弱いものイジメをしてくるんだぜ?

 何が『勝ったら1万円』だ……。


 おっと、つい過去の憎しみが溢れてきてしまった。


「私も弱いですから、丁度良いでしょう」

「そうですか、では」


 若輩者の努めを果たすとしよう。

 人生の先輩が一手ご指南して下さるのなら、ありがたく受けようじゃないか。

 あんまり俺が弱すぎて、申し訳なくもあるが。




「私はね、カイヴォン殿。いつかマザーを連れ出す相手なんて、現れないと思っていたのです」


 一手彼が踏み込む。

 序盤の定石である『手本のように打つ』という型から離れた、大胆な駒運び。


「方便ではないのかと、そう思っていた時期もありました」


 俺は考えるのを放棄し、鏡写しのように指す。

 それでも、次々に俺の駒は奪われる。

 翻弄され、奪われ、どんどん手駒を失って行く。

 本当にあっと言う間。考える時間なんて殆ど無いと思えるくらいの早打ち。

 俺も勝つ事を放棄し、少しでも長く付き合えるように逃げの手を打つ。


「それでも、彼女は変わらなかった。だからこそ私は――」


 コツコツと、彼の独白に相槌を打つように盤から鳴る駒の音。

 次々に奪われる駒、そしてついに俺は逃げ場を失った。


「次でチェックメイトみたいですね」


 気が付くと、序盤中盤はあっという間に過ぎ去り、最終局面。

 セオリーを無視した、終始強気な攻めだった。

 戦略を見極め、強気ながらも心乱さず、最後まで冷静に打ち通す。

 ……なんだ、やっぱり強いじゃないか。


「ウェルドさん、強いじゃないですか」

「強くなんてありませんよ。私はこの後に及んで、まだマザーが去る事を納得出来ない部分があるのです」

「チェスの話、ですよ」

「あ……ははは、思いのほか、私は強かったようですな……」


 本当に、強いよ貴方は。

M(´・ω・`)M チェスは苦手です

(´・ω・`)将棋はもっと苦手です

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