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暇人、魔王の姿で異世界へ ~時々チートなぶらり旅~  作者: 藍敦
五章

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四十三話

(´・ω・`)おにくおにくぅー

 五日目の夕方、ようやく辿り着いたこの地方の首都"リブラリー"

 街を守る外壁から大通りまで、使われているのは赤茶色のレンガ。

 それが夕日と重なり、より一層黄昏を演出していた。


「私、ここに来るのは随分と久しぶりなんですよ。ウェルドさんは元々、レンガ職人の家の生まれだったそうなんです」

「へぇ、そういえばレイスの屋敷の壁もレンガだったけど、もしかして?」

「ええ。補修の際に援助してもらったんです」

「カイくん、このレンガは普通のレンガじゃないみたいだね。たぶん魔石が練りこまれてる。本来レンガは欠けたりしやすい物だと思うけど、随分長い間使われてるみたいだよこれ」


 言われてみれば、欠けたり割れたりしている箇所が見当たらない。

 それに、隙間から雑草が生えるなんて事もなく、美しい外観を残したまま、年月を感じさせる風合いを見せている。


「今日はとりあえず宿を取って、明日ウェルドさんの所にいこうか」

「ブッくん、どんな顔するだろうね?」

「……そう、ですよね。彼にもキチンと説明しないと、ですね」


 レイスもやはり、彼には長い間世話になった事もあり、後ろめたさもあるのだろう。

 俺も彼になら、一発くらいぶん殴られても構わない。

 ……ちょっとアビリティにダメージ反射ってなかったか見ておくか。


 冒険者ギルドへと先に向かい、宿の紹介をしてもらう。

 レイスもどうやらこの街の宿事情には詳しくないらしく、大人しく専門家に聞くことにした。

 ここはウィング・レストとは逆に、冒険者と言うよりは学者、魔術師のような姿の人が目立つ。

 街ごとのこういう些細な違いを見つけるのもまた旅の醍醐味である。


 受付でカードを見せると、もはやお約束の反応の後、宿への紹介状を頂き教えられた場所へと向かう。

 依頼にも興味はあるが、今日はもう良いだろう。

 しっかし、本当どんな説明したんだろうなオインク。

 畏まられるというよりは、恐怖されてる様に見えるんだが。


 段々と日の暮れてきた通りを進むと、木造二階建の、なんとも温かみのある赤い三角屋根の建物が見えてきた。

 あそこがこの街での俺達の拠点となるそうだ。

 ギルドにはいつ出発するかは決めていないと言ってあるので、宿泊数が前後しても問題ないそうだ。

 支払いは俺の口座から引き落とし。その際にギルド側がある程度負担してくれるという寸法だ。

 まぁその分、俺もこの街のギルドに貢献しないといけないのだが。



「すみませーん、ギルドからの紹介なんですけどー」

「チーチー!」


 宿の受付へと声をかけると、謎の奇声が聞こえてきた。

 受付の向こう側を覗きこんでみると、背の低い女の子がこちらを見上げていた。

 ……なんだこの子。


「チーチー!」


 台に上がり、受付から頭が見えるようになると、再び奇声? 鳴き声をあげながらフリップボードを取り出した。


「なになに……『ギルドからの紹介の方は紹介状を提出して下さい』とな」

「カイくん、この可愛いいきものはなんだい?」

「いや、俺にもわからない。とりあえず紹介状です」


 くりくりとした黒い瞳と、長い茶髪。

 あちこち髪の毛が外に跳ねてしまっているが、やんちゃそうな印象で不思議と似合っている。

 そして何よりも……頭上に丸みを帯びた三角の小さな耳が。

 獣耳だと……この世界にはゲームにいなかった種族がまだいると言うのか。


「ハムネズミ族ですよ? ご存じないのですか?」

「……この際名前には突っ込まないぞ。ハムネズミ族ってなんだい?」

「建物に住み着く種族で、ご飯と寝床を用意すると、なんでもお家のお手伝いをしてくれるんです。ただ凄く珍しくて、奴隷として捕まえられてしまう事が多いんです」

「奴隷……私は余り好きじゃないな、その言葉は」

「チーチー?」


 不思議そうに首をかしげる少女。

 なにこれ可愛い。

 服装も黄色いエプロンドレスで、まるで人形のようだ。


「ん?『手続きが終わったので202 203 204号室をお使い下さい』了解、ありがとう」


 差し出された鍵を受け取ると、少女はフリップを後ろの棚へと戻し、再び受付の向こう側へと隠れてしまった。

 働き者なのだろうが、話せないなら受付には向いていないんじゃないか?




 さて、何気に個室を3つと中々贅沢な契約になってしまったわけだが、ここで問題が一つ。

 珍しい事に、レイスがリュエか俺と同じ部屋に出来ないかと提案してきたのだ。

 彼女が我儘というか、こういう提案をしてくるとは思っていなかったのだが、リュエとなら別に問題ないだろう。

 じゃあ部屋が一つ余ってしまったし、鍵を返しにいくとしよう。

 有無をいわさず部屋を3つ借りさせる手腕、あのハムネズミ族というのは、存外接客向きだったのか?


「すみませーん、部屋が一つ余ったのでお返ししたいのですが」

「チーチー?」


 再び現れた少女に鍵を渡し、ギルドの請求の時に気をつけてねと念を押すと、了解してくれたのかまた「チー」と一鳴きして姿を消した。

 ううむ、謎の存在だ。



 部屋にはベッドが一つと大きなクローゼット、そして机一式にチェストと、ある程度家具が揃っていた。

 窓からは通りが見えるし、他の宿や飲食店から離れている為騒音の問題もなさそうだ。

 装備を解除してベッドへと寝転んでみると、思ったよりも弾力があり、程よく身体を押し返してくる。


「やっと落ち着いて眠れるなー」


 ここ数日、自分の煩悩と衝動を抑える戦いが続いていたし、ようやくこれで一安心だ。

 テントをもう一張買っておくべきかねー。

 そんな事を考えていると、控えめなノックの音が響いてきた。


「カイさん、まだ眠っていませんよね? 夕食のご相談が」

「今行くよ」


 いかんいかん、すっかり寝るモードだった。





 レイスとリュエは旅装束から着替えて、最近は徐々に気温が上がってきている事もあり、すっかり春めいた格好をしていた。

 俺? 俺はいつも通りまっくろくろすけですとも。

 男なら黒に染まれってばっちゃんが言ってたんだよ。


「はーい、それでは『第一回夕食は何を食べに行こうか会議』をはじめまーす」

「一回? 私といつもしていたじゃないか」

「二人の場合会議とは言いません。では新メンバーのレイス、何か提案をどうぞ」


 唐突なボケに対応しきれないのか、あたふたとしている姿に、ようやく最近の意趣返しが出来たと満足。

 根が真面目なお姉さんだからね、仕方ないね。


「ええと……お、お肉!」


 咄嗟に思いついたのか、勢い良く挙手しながら、たわわなお肉を揺らしての発言に、変な笑いがこみ上げてくる。

 挙手はしなくていいと冷たく指摘したらどうなってしまうのだろうか。

 あ、ダメだ、この人もう恥ずかしさで涙目だ。

 さすがに『お肉!』は恥ずかしかったか。


「はい、たわわなお肉をお持ちのレイスさんからお肉の提案頂きました。じゃあ次は肉のないリュエ」

「ふむ……お肉となると、どういう料理が良いかな……まだ少し寒いし、煮込み料理が食べたいなぁ」

「なるほど。じゃあシチューとかそういうのか。んじゃその方向でぶらついてみるか」


 さり気ないセクハラは基本。

 そういう訳でフロントで再びハムネズミの少女に鍵を預けて、宿を後にするのだった。


「チーチー」


 手ふってる、可愛い。





 やって参りました、ちょっと高そうなレストラン。

 外のメニューに『本日のおすすめ ラピットラビットのシチュー』と書いてあったのここに決めました。

 ちなみに"ラピットラビット"はゲーム時代にも存在した由緒正しい雑魚モンスターです。

 ドロップアイテムは毛玉か肉という、まさに序盤のお小遣い稼ぎの為だけにいる相手だ。

 それが高級レストランで使われるとは、なんとも出世したね、君。



「まぁ! ラピットラビットを倒せる冒険者がこの街にいたのかしら!」

「ほほう、これは珍しい、楽しみだねハニー」


 あれれー? おかしいぞー?



 案内された席で、早速3人でシチューを注文する。

 驚いたことにこのメニュー、値段が書いていない。

 値段なしのメニューなんて見るの、何年ぶりだよ……。

 が、この事に驚いているのは俺だけの様子。

 リュエはたぶん意味を分かっていないのだろうが、レイスはこう、凄くしっくり来る。

 あれですか、この程度の店は経験済みなんですかね。

 ……そういえばレイスの店も料金表とかないし、かなりの高級店でしたね。


「ご一緒にお飲み物はいかがでしょうか?」

「そうですね、ではこのワインをお願い致します」


 悔しいが様になっている。

 


「美味しいですね、とても」

「ラビットのお肉は久しぶりだよ、余り倉庫に入ってこないし」


 運ばれてきたのはクリームシチューのような物だった。

 とろみを抑えてはいるが、味そのものはとても濃厚で、肉自体がほんのり甘みがある。

 いやはや、冗談抜きで美味しいな、癖も少ないし、何より弾力があるのに柔らかい。

 まるでやわらかなカマボコのような食感だ。


「……なぁ、今更だけどラピットラビットって貴重なのか?」

「どうだろう? レイスは知っているかい?」

「そうですね、この大陸では春から秋にかけて活動するそうですが、見つけるのが難しい上、攻撃を当てるのも困難だと聞きます」


 確かに、動きは早い方だった。

 しかしそんなに貴重なのか。やはり大陸が違えば魔物の強さ、分布も大きく異なるようだ。

 そもそも、まだこの大陸に入ってから魔物と遭遇していない。

 やはり七星解放による恩恵なのだろうか。


「ごちそうさまでした」


 食事を終え、会計をしようとすると、レイスがはっとしたように耳打ちをしてくる。


「す、すみません、いつもの癖でワインまで……あの、大丈夫ですか?」

「心配ご無用。貧乏人がレイスの店に通える訳がないだろう?」


 取り出しましたはブラックカード。

 結構お金を使ってしまったが、それでもまだまだ余裕があります。

 それに、少し前に口座を確認したところ、マインズバレーでの大氾濫、そして廃鉱山の浄化の報酬もたっぷり振り込まれておりました。

 なお首都ラークでの一件は、俺が犯人を生きたまま捕縛したにも関わらず殺害したという事で報酬は減額されたそうだ。

 ……殺しても良い依頼だったんだし、別に良いじゃないかと思ったのは俺の心だけに秘めておこう。



「ダーリン、あの人凄いわね、ブラックカード」

「はっはっは、僕だって同じブラックカードさぁ!」

「素敵!」



 なんだ……あの絵に書いたような○カップルは……。

(´・ω・`)ハニーマスタードかな?(すっとぼけ)

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