四十二話
(´・ω・`)第五章、はじまりはじまり
すっかり風も暖かくなり、夜の寒さも大分和らいだ今日のこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は今、なんとも言えない疎外感を感じております。
「レイス、今日は少し寒いから一緒の布団で寝ようか」
「いいですよ、どうぞ」
二人、テントの中。
俺、テントの外。
絶賛火の番の最中である。
なんと、あろうことか"ウィング・レスト"で旅に必要な道具の買い足しを忘れてしまったのだ。
魔物避けの結界を張るのに必要な魔石一式を切らしていたことをすっかり忘れていた。
そもそも、この旅で長い距離を徒歩で移動するなんて殆どなかったのが買い忘れの原因だ。
馬車と船の移動ばかりだったからなぁ。
「そもそもリブラリー行きの馬車がないのが問題だよな……折角街道が整備されているのに馬車の絶対数が少なすぎるんだよ」
動力船があるくらいだし、機関車のような物を街と街の間に通す事が出来ないのだろうか?
まぁ線路への魔物の侵入の問題もありそうだが、なんとかならない物か。
「ふふ、レイスは温かいな……」
「リュエの髪はさらさらですね、羨ましいです」
「羨ましいって言うんなら、私はこれが一番羨ましいよ」
「きゃっ」
……一人の夜は身にしみるぜ!
翌朝、テントから朝早く出てきたリュエに交代を告げられ、俺は消えかけた焚き火の側で仮眠を取らせてもらう事にした。
出発は昼前くらいを目安にして、それまで4時間ほど眠らせてもらおうか……。
「そろそろ起きると思うよ?」
「そうですか? じゃあちょっとだけ……」
誰かが身体をゆさぶる。
その刺激に意識を覚醒させていく。
瞼の向こうから感じる明るさに、すっかり日が昇った事を感じながら目を開く。
が、飛び込んできたのは太陽ではなく、ワインレッドの瞳だった。
「おはよう、レイス。起こしてくれたのか」
近い、近いっすよお姉さん。
「はい、おはようございます。随分気持ちよさそうだったので寝顔を眺めていました」
「恥ずかしいのでそういう事はやめて下さいお願いします。目が覚めて目の前に美人さんがいると心臓に悪いんです」
「ふふ、そうですか。じゃあ次からは後ろから起こしますね」
カウンターにも動じず、余裕の笑みを浮かべる姿に少しだけ敗北感。
さすがどこぞの初なエルフとは違いますな。
「そろそろ出発ですけど、その前に……」
身支度を整え、テントを折りたたんでアイテムボックスに収納した所で、レイスが焚き火跡へと向かい手をかざす。
「"我が身を糧に新たなる姿を与えよ"」
簡単な詠唱と共に、燃えカスが光を帯びて一箇所に集まっていく。
すると、黒い固形物がそこに残された。
「それは? 今のが再生師の技なのか?」
俺の知る物とは違う、本当の意味のゴミから何かを生み出すその術。
俄然興味が湧いてしまう。
「そうですよ。今のは燃えカスから小さな炭の塊を再生したんです。道中の燃料の節約にと……」
「凄いじゃないかレイス! 私もそんな魔術は知らないよ! 再生術っていうのかな? あとでもう一度見せておくれよ」
なんと便利な。
この世界では限りなく万能近い、かなり自由に効果を変化させられる魔法。
だがこの術の万能性はそれすら凌駕する。これはもう一種の"錬金術"と呼べるのでは?
……う、うらやましいぞ再生術。
整備された道なので、思いのほか足への負担もなく、また俺の剣のアビリティの効果で全員疲労を感じることなく歩き続ける。
最初は旅に慣れていないレイスを気遣ったりもしたのだが、彼女は想像以上にたくましく、弱音を吐くどころか率先して野営の準備や、俺達への話題の提供と終始楽しそうに過ごしている。
特にリュエの懐き方が想像以上で、今では寝る時もご飯を食べる時もレイスにべったりだ。
お兄さん、ちょっぴりジェラシー。
そしてそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、レイスはよく火の番をしている俺へと差し入れの紅茶を持ってきてくれる。
簡単な魔術なら彼女も使えるそうだ。
とまぁ、俺達3人の関係は良好だ。
ただ、一つだけ困ったことがあるとすれば、リュエが火の番をしている時だろうか。
「カイさん、もう少しそっちに行ってもいいですか」
「ああ、大丈夫」
大丈夫じゃありません。
この人普段は余裕にあふれているのに、こういう場面になると急にこう、切羽詰まったというか、少し熱にうかされたように迫ってくる。
これにはさすがにまいってしまう。いつ俺の理性が崩壊してしまうか。
早いところ結界用の魔石を買って、間にリュエを挟まないと大変なことになりそうだ。
……それもそれで色々とマズい気もするが。
「く、くすぐったい」
「ふふ、ごめんなさい」
するり背中に潜り込む、少しだけ熱くなった彼女の手のひらの感触に思わず変な声が。
やめてください色々と大変なことになってしまいます。
そうこうしているうちに、背骨にそって指を這わせ、その感触を楽しむように上下に往復させてくる。
思わず背中を反らしてしまう。
「うひ、本当にくすぐったいからストップストップ」
「……可愛いですね」
こんな悪戯をよくされております。
なおリュエにもしている模様。
同性ならいいだろう、しかし異性にそれはイカンです。
そんなこんなで徒歩の旅も今日で4日目。
そろそろ身体を拭くだけでは満足出来なくなってきたため、ちょっとばかし魔法を駆使しております。
「カイくん、こんな感じでどう?」
「おお、なんというファンタジーな光景」
草原の真ん中に現れた、まるでガラスのように透明な氷のバスタブ。
そこに俺の闇魔法を加え、じわりじわりと侵食して行く。
「ぐぬぬ、負けるかー!」
「なんで邪魔するんだ、いいからさっさと侵食されろ」
抵抗が激しすぎて魔導まで使うハメになってるんですが。
やがて、黒曜石のような光沢のバスタブが完成した。
俺の黒い氷は、便宜上そう呼んでいるだけで氷とは違う物質のように感じる。
冷たくもないし、溶けもしない。
従って、炎でも溶け出さない。
「んじゃ下から火で温めてやれば――」
「水はまかせろカイくん」
浴槽に注がれた水が、最大火力の魔法で一気に沸騰し、そこにさらに氷を入れて温度を調整。
テントをばらして囲いを作れば立派な露天風呂の完成である。
「凄いですね、闇魔法と言うのは。カイさん、これって私にも出来るでしょうか?」
「たぶん、出来るんじゃないか? 魔族なら俺よりは適正あるだろうし」
「あ、そういえばカイさんはヒューマンでしたね」
「あとちゃっかり一番風呂貰うつもりだった君に驚き」
既にバスタオル一丁である。
これはやばい、もっとタオル上げて上げて、こぼれるこぼれる。
「一緒に入ってもいいんですよ?」
「悪いなレイス! あのバスタブ一人用なんだ!」
「ど、どうしてそんな変な声で?」
気にしないでください。
通じないのはわかっていましたから。
さて、レイス、リュエが先に堪能した湯船へとやってまいりました。
なぜだろう、俺の中の熱いパトスがこのお湯を使うのがもったいないと訴えております。
俺、今なら再生師になれそうです(意味深)
「まぁ入るんですけどね」
服を脱ぎ捨て、艶かしい光沢を放つ湯船へと入る。
最後だし、かけ湯はいらないだろう。
時刻はもう夕方を過ぎ、一番星を探せば見つかりそうな空。
ふと水面を見ると、浴槽とこの空の所為か、漆黒に染まっている。
その揺らめきに光の粒を見つけ、空を見上げる。
「お、あったあった。月は隠れてるのか……まぁいいや」
月見酒と洒落込もうと思ったが、一番星を眺めながらってのも乙なもんだ。
小規模な闇魔術で黒いお猪口を作り出し、アイテムボックスに入れておいた酒を取り出す。
湯船につかりながらの飲酒って結構危険だって聞いたことがあるが、これくらいならいいだろう。
「……ああ、うまいな」
注いだのは『絆』と銘打たれた日本酒。
それを飲みながら、やはり思い出すのはかつての仲間達。
今こうして、新たな仲間と共に旅をしているが、いずれみんなで集まって盃を交わすことが出来ると良いな。
気が付くと酒に映りこむ光の粒が増えていた。それを一息に飲み干し、しばし余韻を楽しむのだった。
「いいのかいレイス、さすがにマズイと思うんだ。カイくん結構真面目さんなんだよ」
「ですが、やはり背中を流すのは一種のマナーだと思うのですが」
「そういうものなのかい?」
風呂からあがると、囲いの向こうからそんな会話が聞こえてきた。
そして覗きこむと、先ほど着替え終えた筈の二人が再びバスタオル一枚で立っていた。
寒くないのか君達。こちとら上がって速攻服を着たというのに。
「ああ……間に合いませんでしたか」
「レイス、余り気を使わなくていいんだぞ? 普段通りで良い」
「いえ、これはなんと言いますか、私の夢といいますか……」
「レイスの夢は奥さんみたいな事をする事らしいよ。今までずっと母親役だったからね」
なるほど、実に素晴らしい夢でございますな。
じゃあ寝てる時に悪戯してくるのも、夫婦のスキンシップを意識していたのですか。
そう思うと突然気恥ずかしくなってくる。
羨ましいか、シュン、ダリア。俺だけ先にリア充してるぞ。
……いや、既に二人ともこの世界で結婚している可能性もあるか。
嫌だなぁ……久々に再会した友人が家庭を持ってるとか。
一気に精神が老けこんでしまうんだよなぁ。
「とにかく、二人共服着よう、な!」
「「はーい」」
レイスさん、貴女少しリュエに毒されてませんか?
(´・ω・`)だし汁(意味深




