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三十八話

(´・ω・`)頑張ってでかして予約投稿したよ

(´・ω・`)褒めて?

 早朝、まだ一般人は眠りの中にいるが、商売人は既に動き始めている。

 そんな早朝特有の慌ただしさの中、俺は街の中を進んでいく。

 目的地の大体の場所はわかっている。


「レイスさん、普段は護衛をつけないらしいからな」


 一先ずの目的地である会館。先日の会合が行われたその場所へと向かい、門番にギルドカードを見せ入館の許しを得る。

 この館の管理はギルドの管轄。故に俺も入ることが可能だ。

 そして鍵を受け取り、会合の行われた部屋へと向かう。


 薄暗い部屋の中、唯一自然光の入る窓へと向かい、カーテンを開けて外を伺う。

 そして、その視線の先にある建物を確認する。


「やっぱりな」




 あの時、タキヤと呼ばれた男がしきりにこちらに気を向けていたが、あれはレイスさんへではなく、どちらかと言うと俺へと向けられていたように思えた。

 いや、もっと言うならばそのさらに後ろ、この窓だ。

 そして窓の先には、この会館と同じくらいの高さの建物が一つと、そのさらに後ろ、物見櫓のような塔が一つ。

 俺はレイスさんの座っていた席に座り、窓を見る。

 すると、その位置からは物見櫓の上部、人が立つ場所を確認出来なかった。


「じゃあ、あの建物がなんなのか調べてみるかね」


 剣のアビリティを付け替えて、背中に背負って館を後にした。



 結果から言うと、あの建物は資材置き場だった。

 誰が管理しているのかと問えば、やはりタキヤの息のかかった商人だった。

 さすがにここで強権を振りかざして立ち入るのは得策ではないだろうが、念のためここ数日の人の出入りの調査をギルドの方にお願いしておく事にする。


 おそらく狙撃か、それに準ずる敵対行動。

 だが彼女を廃するのは街全体を敵に回すと同義。

 ならばただの警告か……だがそうなると、俺を撃っても同じくらい効果はあった筈だ。

 彼女への警告として、護衛を狙撃。うん、十二分に効果を発揮する筈。

 しかしそれもなかったとなると――


「俺を知っていたか?」


 あの姿の俺と今の俺を結びつけるのはそう難しくはない。

 目と仮面の所為で印象がだいぶかわってしまうが、それでも背格好と髪型は同じ。

 顔を合わせた回数がそれなりにあれば、すぐに見抜くことが出来る。

 だが俺はこの街に来てあの姿になったのは昨日の一回のみ。

 そうすると、事前に俺のあの姿を知っている人物に限られてくる。


「連絡が行っている筈のこの街のギルドの人間かね?」


 オインクさんや、君の組織の末端はどうなっているのかね?

 事と次第によっちゃ出荷は免れませんよ?











「何故あの時撃たなかった? いや、結果的に無駄だった可能性もあるが、確実に警告にはなった筈だ」

「お、俺には撃てませんでした……彼はその……規格外だ」

「そんな事、あの場にいた私も重々承知している。だが、さすがにあの距離だぞ? 致命傷を負わすことが出来ずとも、十分に――」


 なるほどなるほど、ギルドから人を雇ったのか。

 じゃあギルド長が黒だと決まった訳ではないと。

 しかし俺がいなかったら彼女へ向けて狙撃を行っていた事になる。

 この街の人間がそれを行うとは思えない。




 あ、どうも、現在タキヤの事務所へと忍び込んでおります。

 剣のアビリティ構成はこんな感じになっております。


『以心伝心』

『五感強化』

『ソナー』

『気配察知』

『アビリティ効果2倍』


 忍び込む事自体はアビリティのおかげでそう難しくはなかった。

 というかただの事務所だしここ。

 荒事やら抗争やら起きているわけでもなし、そこまで厳重な警備はされていなかった。

 そして今回も大活躍してくれている『五感強化』と『以心伝心』。

 いつも盗聴のような事に使っているが、これは聴覚ではなく五感強化だ。

 もう一度言う『五』感強化だ。

 数字がしっかり入っているんですよ。


 いや驚いたね、人間の感覚って5つだと思っていたら、まだあるみたいです。

 俗にいう第六感。

 それに近い感覚すら強化されているのを感じる。

 今こうして話を聞いているだけで、会話の裏の思惑すらうっすらと分かってきてしまう。

 これもある意味禁じ手じゃないかね?

 というかこんな屁理屈が通ってしまうのが問題だ。



「俺の街のギルドにも伝わっているんだ……あの人に逆らってはいけないと」

「……それほどまでなのか?」

(全ギルドに通達される程の使い手か……そうなると私の仕事はここまでになるな)


 仕事ねぇ……誰かさらにバックについていると見た。

 外部からの参入者と良い、今回の事と良い、街の外に何者かがいると。

 ……まぁきっとこの街にちょっかいかけてきてる前領主とかその辺りなんじゃないんですかね。

 まぉその辺りの事情は今晩にでもレイスさんに聞いてみるしかないか。


「じゃあお暇しますかね」


 少しだけ置き土産として書き置きを残しておく。

 ゲーム時代に使っていたメール機能だが、どういう訳かこの世界では手紙と言う形でしか残すことが出来ず、相手に送信してくれるという機能もなくなっている。

 いや、送信を選ぶ事は出来るのだが、ただ消えて終わりだ。誰かに届くなんて事はないだろう。

 現に一度オインクに送ってみたことがあるが、ついぞ返事は返ってこなかった。

 というわけで大人しく実体化した手紙をそっと扉の隙間に差し込んでから、事務所を後にする。


 しかしメールか……シュンとダリアに送る事が出来たら話は早いんだけどなぁ。

 念のため受信ボタンを押してもメールリストの更新もされないというこの悲しみ。

 まぁそもそも送信してくる人間がいないんですけど。

 あれか、赤外線通信みたいに相手が近くにいないと出来ないとかそういうのか?






 一度宿に戻ると、リュエが食堂で遅めの朝食を摂っていた。

 そういえば俺も食べていなかったなと思い、相席して同じものを注文する。


「カイくんどこに行ってたんだい?」

「ああ、朝早くにちょっと散歩をしに」


 運ばれてきた焼きたてのトーストと、チーズの香りのするポタージュ。

 パンを少しちぎってつけながら食べ始めると、リュエも真似をし始める。


「悪いとは思うが、今日はレイスさん直々に呼ばれているんだ。たぶんだけど、今日で色々分かると思う」

「そっか。ねぇカイくん、私はね、君に救われた」


 何気ない風に彼女は、口にポタージュをつけながら語りだす。


「毎晩うなされて、そして君がいつかいなくなるという恐怖に苛まれて一年間過ごしてきた。それは、一人で数百年過ごすよりもずっと辛かったんだ」

「……気が付かなくて悪かった」

「謝って欲しい訳じゃないよ、私だって隠していたんだし。それに、結果として私は救われた。呪縛から解き放たれたんだ」

「どういたしまして。……改まってどうしたんだよ急に」


 少し、いつもと雰囲気の違う彼女、俺も少しだけ身構える。


「レイスさんはね、たぶん私と似ているんだと思うんだ。なんだろう、よくわからないんだけどさ、初めて会った時、なんだか懐かしいような、凄く温かい物を感じたんだ」

「リュエも?」

「という事はカイくんもかい? 実はね、カイくんを初めて会った時も似たような感じがしたんだ。初めて会った気がしないというか、なんとも言えない感覚が」


 それは、俺も感じていた。

 あの時、ローブ姿で顔も見えなかったのにも関わらず、何故か知っているような気がしたのを覚えている。

 ……そうか、俺がレイスさんに会って感じたものはそれなのか。


「でもね、彼女は何かに縛り付けられているとは思えないんだ」

「それは確かに。だが実際彼女は、この大陸から外に出ようとはしないらしい」

「それはたぶん――」


 彼女は一呼吸置いてから、きっぱりと言う。





「誰かを待っているんだよ。きっと自分でも分からない、けれども自分を変えてくれるかもしれない誰かを」








 夕刻。

 俺は一人彼女の待つ館へと向かう。

 色街を進んでいても、今日ばかりは誰も俺に声をかけようとはしない。

 それほどまでに、俺は今張り詰めている。

 そして、悩んでいる。


 おそらく間違いない、彼女は俺の知るレイスだ。

 あの鑑定の力を持つメガネは懐に入れてあるが、それは最終手段。

 どうか彼女の口から、全てを聞かせてもらいたい。




「こんばんは。本日はレイスさんに呼ばれて来たのですが、まだ営業時間には早いでしょうか?」

「あ……カイヴォンさん。マザーは奥の私室でお待ちしております……あの……」


 また営業前の薄暗い玄関で出迎えたのは、あのエルフの娘さんだった。

 いつもとどこか様子の違う、真剣な顔色で俺に告げる。


「私は、エルフです。だから誰よりも長い間、マザーの側にいました。だからこそ、分かることがあるんです」


 エルフは長命だ。たとえ創世期の人間でなくても、数百年は生きながらえる事が出来る。


「マザーは、ずっと奥におられます。屋敷ではなく、心の奥に。かつて彼女を手に入れようとした男は大勢いらっしゃいました。ですが、誰もその奥底まで光で照らしだす事は出来ませんでした」

「……そうでしたか」

「カイヴォンさん、どうかマザーをお願い致します」


 そう最後に言い残し、彼女は下がる。

 恐らく、この場所まで辿り着いたのは過去に俺以外にもいたのだろう。

 だが、それでも彼女を連れ出す事が出来た人間はいなかった。


 気合を入れなおし、彼女に見送られながら、俺は屋敷の最深部へと足を進めるのだった。

(   ´・ω・`   ) 引き伸ばし豚

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