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四百三話

(´・ω・`)もうすぐこのながかった物語も、終わりを迎えます。

「今聞くのもどうかと思うのですが……この内部を、遥か頂上まで歩いていくとなると……かなりの長丁場になってしまうのではないでしょうか?」


 洞から大樹の中に入り込み、スロープ状になった道や階段の様になっている根をつたい、少しずつ内部を進んでいると、後方にいたレイスが一同に声を掛けてきた。

 雲の上まで続くこの道だ。確かに歩いて進むと大変なのは分かり切っている。


「大丈夫、途中で確か、上にグーンって進める仕掛けがあったはずだよ」

「そうなの? リュエっち、私ここ入るの初めてなのよね。ここ景色も良くないし、態々連れてってもらったことないもん」

「ええ、神隷期と同じなら、途中で樹液が通う大きな道に出ます。そこを昇る気泡を利用して上に進む事が出来たはずです」

「今考えると、中々無茶な移動方法ではあるがな。懐かしいか? カイヴォン」


 ゲーム時代。俺が最後に挑んだのがこの場所だ。

 天界エリアに一人赴き、そしてそこで待ち受ける『神』を冠するボスと戦った。

 まぁもっとも、攻略法が確立されていたあの時は、ほぼノーダメージで完封出来てしまった訳だが。


「懐かしい、かな。ただ、あの時と違って大樹の中に敵がいない。なんだか少し拍子抜けだ」

「そういえば……ここに来るまで雑魚一匹現れていないな」


 そうなのだ。ここに来るまで、激戦に次ぐ激戦を予想していたのだが、蓋を開けてみれば本当にただの遠足。

 不思議な緑の灯りに照らされた。どこか優しい自然の中をただ上るだけときた。


「当たり前じゃないの? だってこれ、大きくなったばかりじゃない。まだ魔物が巣くう前なんでしょ」

「あ、そっか。街の魔物もおっぱらったし、中に誰も住んでいないのは当たり前なのかな」

「かもな。だが、逆はどうだ? 天界に魔物が住んでいて、それがここから地上へ向かう。だとしたら、そのうちこの中で出くわすんじゃないか?」

「うぇー……嫌な事言わないでよシュンちゃん」


 ま、それもありえる話ではあるな。

 そうして道なりに進んで行くと、オインクの言った通り、樹液が昇っている大きな空間に出た。

 無色透明ではあるが、粘度の高そうな樹液がゴポリと音を立て、定期的に泡を上へと送り出している。

 実際にあれに入るのか……?


「いや、無理だろ。物理的にありえない……」

「何をいまさら。魔法的になら十分にありえるだろ」

「カイヴォン、安心してください。私達の国の世界樹にも似た生態がありますから」

「そういうことだ。さ、とっとと飛び込むぞ」


 そう言って、一足先に気泡に飛び込み、遥か彼方へと浮上していくシュン。

 それに続き、ダリアとオインクが同じ泡に入り、そしてエルが無理やりリュエに引っ張られて次の泡へ。


「……どうにも、下手に現実的な所為で疑ってしまうな。レイス、行こうか」

「はは、は……はい! い、いっしょに……ひ……ひ……」

「そっか……下が見える状態で急浮上だもんな……レイス、目を閉じな。俺が手を掴むから」

「わ、わかりました……離さないで下さい、絶対に……」


 セリフだけ聞くと、ロマンチックです。ただしその握った手はありえないくらいガタガタに震えていますが。

 次に現れた気泡に身体を食い込ませると、まるで大きな浮き輪やバナナボートのような反発があり、そのまま押し込むと、ブルンと震え一気に身体が飲み込まれる。

 同じくレイスを中へ引っ張り入れると、久々にエレベーターの上昇時のような重力を感じ、見る見ると速度を上げ浮上していく。


「……結構、楽しい気がする」

「た、楽しくないです……まだ、まだつきませんか……?」

「もうそろそろかな」


 頭上に水面が見えてくる。恐らく、あそこから空気を外に排出しているのだろう。

 軟着陸のような衝撃と共に気泡が止まり、急いで泡から近くの足場へと脱出すると、それと同時に気泡が破裂した。


「到着。レイス、もう目を開けても大丈夫だよ」

「は……はい。凄い……深い湖みたいになっていますが……これが下まで続いているんでしょうか」

「ええ、そうですよ。どうやら全員無事に到着出来たようですね」


 オインクの声に振り向けば、皆がこちらを待ち構えていた。

 どうやらまだまだ道は続いているようだが、微かに空気の流れも感じる。


「みんなが揃ったら昼食にしようと思っていたんです。良い場所が近くにあったんですよ」

「どうやらここは、酸素や魔力を外部に放出する部分らしい。外が見える場所があるんだ」

「景色が良いのは良いんだけどさ、さっきから身体に着いた匂いとれないんだけど……なんか微かにメイプルシロップみたいな匂いしない?」

「私はこの匂い好きですよ?」

「うー……いい匂いだけど、常時甘ったるいのって苦手なのよー」


 なるほど、ここらで休憩にするのか。確かに突入から一時間。丁度午後一時。

 出発前に渡したランチボックスの出番という訳だ。

 オインクに連れられ、明るい光が差す方向へと向かう。

 すると、まるで薄い膜に覆われた展望台のような場所に出る。


「見てください。私達の屋敷があんなに小さく見えます。大分上まで来ましたね」

「ひっ! も、戻ります! 木の中に!」

「大丈夫だよレイス。さっき突いたけど、すっごく丈夫なんだ。絶対落ちたりしないよ」

「気持ちはわかるけどね。私高所恐怖症じゃないけど、さすがにこれは恐いわ」


 雲が目線の高さにある世界。そんな絶景を臨みながらそれぞれがランチボックスを取り出す。

 ……思えば遠くまで来たものだ。何かのセリフだったとは思うが、この景色についそんなフレーズが脳裏を過る。


「ん! うまい! カイヴォン、このチーズはなんだ!? モッチモチだ」

「モッツァレラみたいなヤツだな。隠れ里の特産品だぞ」

「そうか、あの里の……いずれは、あの里の農業、畜産業を援助することになりそうだ」

「ふふ、そうですね。私も大豆畑を里長に頼みましたから」

「ふむ? サーディスにも豊かな畑があるのですね? いつか、セミフィナル大陸とももっと交流を持ちたいですね、是非」

「あ、それでしたら是非、いつか大豆畑が軌道に乗ったら、アギダルやエンドレシアにあるという醤油作りの技術をですね……」


 ひと時の休息、その最中の交流。

 それはこれから先の未来を見据えたものばかりで、俺がいうまでもなく、皆はもうこの先も続いていくのだと、もはやなんの不安も感じていないようだった。


「なに? なんだか楽しそうじゃんカイさん。微笑んだりしちゃってさ」

「ん、もう食ったのか」

「うん、美味しかったわ。でも――」

「おにぎりの具にした方が美味しいかも、だろ?」

「……ごめん、正解。いや、めっちゃ美味しかったのは本当なんだけど」

「まぁ俺も分かってさ」

「で、なんで笑ってたのよ? もしかしてあれ? 昨夜の余韻みたいな?」

「エル、品がないぞ」

「ごめんちゃい。ま、冗談はともかくさ。みんな、先を見ているわね」

「……こっちが考えてる事を知ってて茶化すんじゃない」


 まったく。世の女性というのはみんなこちらの思考を読めるとでも言うのだろうか。


「さっき外見たらさ、上の方に星……昼間に見える月っていうのかな? そういうの、ぼんやり見えたのよね。あれが天界なのかしら?」

「ああ、そうだ。ここから見えるって事は、そろそろ魔物も現れるかもしれない。気を付けるんだぞ、エル。強くなったとはいえ、戦いそのものにまだ慣れていないんだから」

「うん。あ、でもカイさん。私に不思議な力使ってるでしょ? あれ、カイさんがダメージ肩代わりしてるんだよね? あれ、解除してよ」

「ん、なんでまた」


 すると、またしても珍しく、エルがその表情を真剣なものにする。


「私とカイさん、死ぬなら私の方が良い。反論しないで。貴方は戦いの要なの。私は……死ぬ覚悟は出来てるわ。伊達に二回死んでないの」

「……分かった。別な力に変えておく。ダメージ軽減でどうだ?」

「ん、それならいいかな。ごめんね、折角の好意を断るみたいな事言って」

「いいや、それだけエルが大人なんだよ、俺よりも」

「……はぁ。やっぱ諦めきれないわ。カイさん、いつか年を取り始めたら連絡頂戴な」


 そう言い捨てながら、彼女はリュエの元へと歩いて行った。

 なんだ? どういう意味だ、最後のは。


「ところで……レイスはいつまで俺の腰にしがみ付いてるんですかね」

「こ、ここを離れるまでです……どうして皆さん平気なのですか……? 落ちたら助かりません……こんな、植物の上なんですよ?」

「とはいえ、凄く頑丈だからなぁ。もしもレイスがここから落ちそうになっても、俺達がそれを見過ごす訳もないし」

「そ、それはそうですが……」

「ところで……今聞いていたと思うけれど……その、なんだ。エルには感づかれているみたいですな」

「……本当の意味で大人の女性なのは、エルさんですからね……たぶん、仕方ないのかもしれません。きっと……私達とは違う、厳しい人生をこれまで送って来たんだと思います」

「なるほど。……母は強し、か」

「ええ、そうです」


 そうレイスが認めるエル。だが、当の本人はリュエのパンアイスを一口くれと頼み込むという、なんとも子供っぽい理由で追いかけっこをしておりました。




「さてと、そろそろ出発しよう。ここから先は魔物との戦闘も想定される。各自、装備のチェックを忘れないように」


 皆が昼食を摂り終え、再出発の前に装備の点検を促す。

 すると、どうやらパンアイスにありつけたエルが、リュエに指摘する。


「ねぇリュエっち? どうして髪飾り片方しかつけないの? 確か二つ揃ってるよね?」

「え? だてこれ、エルのなんだろう?」

「うんにゃ。カイさんに託した物だし、それを私がつける事はこの先も無いと思うの。でも、片割れはずっとリュエっちが付けてくれていたんでしょ? 一緒に付けてあげてよ」

「いいのかい? じゃあ遠慮なく……ついに揃ったねぇ」


 リュエが、ナオ君が遺跡の中で発見したと言う、以前エルの元から盗まれた髪飾りを取り付ける。

 あれは、七星が眠る遺跡最深部への鍵だったのだろうか……?


「おー似合う似合う。よかったわねぇリュエ」

「うん! これはね、カイくんが初めて私に贈ってくれた品なんだ。感慨深いなぁ」

「そうだったの? なんだけ因縁めいた感じねぇ」

「確かにな。なんだかんだいって、ダリアと良いエルと良い、うっすらと関係していたんだな、ずっと前から」


 リュエの弟子であるフェンネルの弟子だと判明したダリア。

初めての贈り物がエルの持ち物の片割れだったリュエ。

 不思議な縁もあるものだな。


「それを言うなら、私だってリュエの元で生まれたクロムウェル師の弟子ですよ?」

「あ、そういえば。じゃあ……シュン、シュンはなにかないか?」

「残念ながら、ない!」

「自信満々に言うなよ……」


 皆も装備を整え、いざ出発しようとした時だった。

 リュエが不思議そうな声をあげる。


「あれ?」

「どうしたんだいリュエ」

「いや……二つ揃ったからなのかな? なんだか不思議な魔力を感じるんだ、ここから」


 そう言って、彼女は頭に付けた二つの髪飾りを指さした。

 ふむ……そういえば以前、彼女から髪飾りを調べさせてもらった事があったな。


「ちょっと見せてくれるかい?」

「うん。私もさっき調べたけど……ちょっとだけ変わってたんだ」




『エリスの羽飾り』

『旧世界の遺産 製作者シュテル・カノーネ』

『蒼月の神シュテルが、愛弟子を運命から救う為に生み出した』

『たとえ多くの悲劇を生み出したとしても、世界を人の手に託す為に』


『付与アビリティ』

[運命反射]

[宿命勝者]

[技量+300%]




「ふむ。見覚えがある気がするな、このエリスって名前」

「本当かい? 前はもっと難しい名前だったよね? 蒼星がどうたらって」


 製作者の名前や、新たに付け加えられたフレーバーテキスト。

 そして消えかけていたアビリティの名前が明らかになる。

 これは確か――


「なになに? 今懐かしい名前聞こえてきたんだけど」

「ん? 知ってるのかエル」


 そう言いながら、この二つ揃った髪飾りをエルにも見せてみる。

 一瞬アイテムボックスに収納し、同じくテキストを読んでいるのだろう。


「え? これって歴史的発見なんじゃ?」

「何がだ?」

「カイさん、うちの大陸の神話知らない? 姫騎士エリス。救済の女神のことよ」

「あー……ちらっと見たかもしれない」

「そ。この女神様ってさ、名前が伝わっていない『蒼月と戦いの神』の弟子なんだってさ。て事はこの製作者の名前って、伝わっていないその神様の名前なんじゃないかしら?」

「あーなるほど……とりあえず貴重な資料って事かね。リュエに返してあげてくれ」

「おっけい。リュエっち、全部終わったら今度うちの国に遊びに来てよ。ちょっと歴史家と話をして欲しいわ」

「うん、分かったよ。そっか、これって神様の髪飾りだったんだねぇ」


 まさか場末のお土産屋で買いました、なんて言えない空気ですねこれは。

 そういえば、レイニー・リネアリスもこの髪飾りに拘っていた気がする。

 いずれ、またあの神様もどきにも会いに行くべきだろうか。


「そろそろ行きますよー! ここからの先頭はエルですからねー」

「あ。はーい! よし、じゃあ行くわよみんな。レッツ聖者の行進」


 そう言いながら、彼女は懐かしい地球の楽曲をハミングしながら歩きだす。

 確かアメリカの民謡だったか? 陽気なメロディが、なんだかミスマッチではあるが。


「エル、音程が違う。そこは半音下げるんだ」

「もー! うっさいわね元吹奏楽部! うろ覚えなのよ!」

「だが気になる。もう一度最初からだ」


 君達、さすがにマイペースすぎやしませんか?




「ぼんぼん、左の敵集団に『大地裂閃』そのままシュンのところへ!」

「了解」

「エル、ダリアに回復魔法を! ダリアは回復後、手数重視に切り替えて!」

「了解しました!」

「わ、わかったわ」


 狭いフロアを埋め尽くす、魔物。

 明らかに一体一体の強さが常軌を逸しているそれらを、必死に食い止める。


「レイス、数の減ったところに範囲攻撃を! 場の魔力は使わないで下さい、ダリアに使わせます!」

「分かりました!」

「オインク危ない!」


 魔物の大群の後方から飛ぶ白銀の閃光。それをリュエが剣で弾き落とし、そのまま返す刃に冷気をまとわせ、氷の範囲魔法を放つ。


「シュン、ダリアにヘイトが向かうはずです! 迎え撃って!」

「了解」

「ぼんぼん、敵がダリアに向き始めたら範囲攻撃のチャージ開始!」

「ああ!」


 無数の炎や雷がダリアからとんでもない速度で射出され、魔物の数が次々と減る。

 すると、オインクの予想通り、魔物の標的がダリアへと移行した。

 すかさず、その行軍にシュンが立ちはだかり、単独で押しとどめる。

 そこへ、同じく待ち構えていたオインクの援護射撃が入り、数がさらに減る。


「レイス、エル、オインクの元へ! デカいの決める!」


 そして、極限まで強化した『天断“昇竜”』を放ち、集まっていた魔物を一網打尽にする。


「……討ち漏らしは四匹! 飛行三、壁に一!」

「リュエ、止めを!」

「おっけい!」


 そして残りをリュエが魔法で仕留め、もう何度目になるか分からない、まるで氾濫とも言える魔物の群れを退けたのだった。


「……舐めてたわ。なんで雑魚のはずのアイツらがあそこまで硬いんだ」

「みんなお疲れ様です。ええ、正直一体一体が都市にいたボスクラスの耐久を持ってるなんて考えてもいませんでした……これ、ちょっと異常です」


 肩で息をするオインクに、リュエが回復魔法を施す。

 先程から、俺達に指示を出しながら自分でも攻撃に加わっている彼女は、当然俺達よりも疲労の色が濃かった。

 なんでも、右目で見下ろし視点、左目でそのままの視界という、普通は頭が混乱するような視界を作り出し、同時に見ながら指示を出しているそうだ。


「オインク、大丈夫?」

「ええ……すみません、目の周りにも回復をお願いします。出来れば少し冷やしていただければ」

「……この狭さにあの数だ。オインクが指示を出すのにも限界がある……少し戦い方を変えるべきか?」

「ですがシュン、私達ではあの大群の正確な動きは分かりません……最初の時のような不意打ちを受けてしまうかもしれません」


 全滅はしない。だが、痛手を負うのは十分にありえる状況だった。

 正直、出会いがしらに範囲技、範囲魔法を使っても殲滅出来なかったのは、俺からしても中々にショックだった。

 これはもう、明らかに俺達の火力に対して、対抗しているような頑丈さだ。


「うーん……カイさんなにか良い案ない? マンチプレイはカイさんの十八番でしょ?」

「一応確実に一体殺す手段ならあるが……大群相手じゃなぁ」

「例の自然回復効果を反転させて付与する技か?」

「ああ。けど、それでも確実に三三秒かかる方法だしな」


[生命力極限強化]の反転付与。確かに特別な相手でなければ殺せる手段ではあるが、即効性に欠けるのだ。

 マンチプレイ……ゲームならまだしも、この世界となるとなぁ……。


「木の中だし火を放つってのはどう? 魔物も上手に焼けましたー! って」

「俺らも酸欠で死ぬだろう。それに、先の通路が崩れたらどうする」

「うーん、参ったわね。聖者の行進で動きを鈍らせようにも、一瞬で解除されちゃうし」


 ふむ。フィールド攻撃か。だが木の内部という事もあり、あまり使いたくはない。

 ダリアだって、使う炎魔法は小規模の物に留めているくらいだ。

 だが、確かに木の内部という立地もあってか、虫の魔物や植物の魔物が多く、火は弱点でもあるのだ。


「あーそうだ……ダメ元で試してみるかね?」

「なになに! カイさん名案浮かんだ?」

「効果があるか微妙だがね。ダリア、リュエ、ちょっとこっちきて」

「うん? なんだい?」

「何か攻略の糸口が見つかりましたか?」

「あ、ついでに一応エルもカモン」

「ついでってなによー」


 一先ず、このメンツの中で魔法に秀でた人間を集める。


「全力じゃない、そこそこの炎魔法。出来れば範囲に秀でたヤツをこの先の通路に使ってみてくれないか? エルは全力でいいぞ、火力低いから」

「な、なによー! 私が考えた上手に焼けました作戦じゃないの。さっきシュンちゃんに却下されたわよ?」

「ちょっと違う。まぁとりあえず試してくれないか?」


 さっき、シュンが『俺らも酸欠で死ぬ』と言っていた。

 生き物であるのなら、酸素は必ず必要になるはずなのだ。

 つまり――


「分かった! お蔵入りになったあの魔法だねカイくん! 懐かしい!」

「実は何回か使った事があったりします」

「ひっ! なんて残酷な!」


 無力化するのには便利なんです、あれ。

 とにかく、三人に通路に向け、炎を放ってもらう。

 出力の抑えられたそれは、一瞬で通路の壁を焼くという結果を出すことはないが、それでもジワリジワリと壁が焦げていく。


「ダリア、風で後押し。先の先まで炎を行き渡らせてくれ」

「了解。何か考えがあるんですね?」


[ソナー]の力で先のマップを観察すると、この先にいる魔物達が全て動き出したのが分かった。

 だが、倒すには至らないし、それまで木が持つとも思えない。

 そこで――


「よし、全員停止! 後は俺が!」


 そして、剣のアビリティを魔法用に組み替え、全力で広がっている炎にむかい――闇の魔導を発動させ、炎を侵食していく。

 紅蓮の炎が黒く染まり、そして見えなくなっていく。

 だが確かに、そこに無色の炎がある事を、景色の揺らぎが教えてくれた。

 先の先まで、炎を侵食させろ……。


「オインク、MPポーション」

「はいどうぞ!」


 一気にそれを飲み干し、さらに魔力を込める。すると――


「来た来た! 一気に経験値流れ込んできた!」

「おお!? なになに、カイさんなにしたの!?」

「秘儀、燃えない炎! しかし酸素はしっかり奪う!」

「マジかよ。じゃあ俺がその作戦に名前つけてやる。題して『闇の炎に抱かれて馬鹿な!』」

「やめろ! 縁起でもない!」


 次々と流れていくメッセージ。そして、マップの光点、魔物の反応がどんどん減っていく。

 一部残っているのは、恐らく無機物の魔物だろう。


「……よし、大分減らしたぞ。ただ……ちょっと休ませてくれ」

「お、お疲れ様です……ぼんぼん、そんな事も出来たんですか……」

「ここが狭い通路なのが幸いした。屋外じゃここまでの効果は見込めない。精々昏倒させる程度さ」

「まさか本当にここまで役立つ時が来るなんてねー……魔法の師匠として鼻が高いよ」

「……魔物の殆どが唐突に窒息死って……マンチプレイってレベルじゃないわねぇ」


 一先ず、急激なMP大量消費の反動で訪れる頭痛が回復するのを待つのだった。




 首元の氷が、火照った身体を冷やしてくれる。

 渡されるポーションを少しずつ飲みながら、徐々に体調が回復していくのを自覚する。

 頭の中に溜まっていた、重たい何かが流れていくような、そんな感覚だ。


「カイヴォン、先の様子を見てきた。無機物の相手、瀕死の魔物が残っていたが、全て討伐してきたぞ」

「本当に殆どの魔物が死んでいました……これは、拠点攻撃に関しては最強の魔法ですね……」


 戻って来たダリアとシュンが先の様子を伝えてくれる。

 そして、哨戒に当たっていたレイスとオインクもこちらへと戻って来た。


「後方にも討ち漏らし、いませんでしたよ」

「私の力でも見えない物陰を調べてきましたが、精々取りこぼしたアイテム程度しかありませんでした。かなり貴重な素材が大量です」

「はは、そいつは良かった。後でしっかり分配するからな?」

「……はい」


 なんで嫌そうな顔するんだよ!


「ふぅ、ありがとうリュエ、エル。だいぶ気分が良くなったよ」

「本当かい? あまり、無茶はしないでおくれよ? カイくん魔法の才能はあっても、普段あんな大規模な魔法は使わないんだ。身体への負担は相当なもののはずだよ」

「そうね。魔法で体力は戻っても、内臓や筋肉、骨格のダメージはすぐには治らないんだから。感謝してよね、私にマッサージの知識があることを」


 はい、そうなんです。ダリアも整体に似た知識はあったのだが、エルに至ってはマッサージ、テーピング、ストレッチなどの内面的な知識が豊富だったのだ。

 曰く、日本の高校時代、柔道部のマネージャーだったとか。

 それで道場にいた時、あんなにしみじみ見回していたのか。


「よし。さすがに本職ほどじゃないけど、魔法と併用したし、少しはマシになったでしょ」


 そう言われ立ち上がり、軽くステップを踏んだり屈伸をしてみると、確かに微妙な痛み、というか違和感が消えていた。


「凄いな、戦う前より調子が良いくらいだ」

「そ、そんなにかい!?」

「なんと……エル、今度私にも教えてください。本格的な知識が欲しいです」

「あ、私にも教えておくれ」

「ふふん、少し気分がいいわね! 私にも教えられる事があるなんて」


 体勢を整え、そろそろ攻略再開の準備に入る。

 だが、シュンがその必要はないと言う。


「先を見てきたと言っただろう? この先は……また、あの樹液の道があった。恐らくこれが最後だ。たぶん抜けた先は……天界だ」

「そう、か。じゃあ残りはほぼ一直線だな」

「ああ。今更、覚悟は問わない。皆、準備は出来ているか?」


 皆が振り返る。そして、ただ静かに首を縦に振る。


「……俺の記憶だと、天界はほぼ『創造神アストラル』専用のフィールドだ。皆、別れずに一緒に向かおう。ただ、あの気泡に乗る前にリュエとダリア、レイスには補助魔法を念入りにかけてもらう」

「うん、分かった」

「同じく、わかりました」

「……はい」

「オインク、ここからは指揮ではなく、攻撃と補助に専念で頼む」

「了解。アイテムによる補助もおしみなく行います。エルもリュエも、回復魔法は程々で構いません。最高級の範囲回復薬を投入します」

「頼もしいな。シュンは最前線。ひたすら切り込んでくれ」

「了解。動きを探る」

「リュエは途中からシュンに合流。魔法控えめで大技を狙い続けてくれ」

「……本気でやるね」

「レイスはオインクのいる位置から離れた場所から援護射撃。射線には気を付けて」

「……はい」

「そして俺も、今回はシュンと一緒に最前線に出る。さすがにゲーム時代みたいなハメ技は効かないだろうけどね。ただ、俺は最高の耐久構成で挑む。相手の能力を確かめる意味でも」

「カイくん、いつもの相手を調べる能力は使わないのかい?」


 今回、戦闘に、ステータスに関係ない力は入れない。

 ……そんな余裕、ないとすら思っている。

 そもそも、相手の能力を見られるとは限らないのだ。

 もし、レイニー・リネアリスの自由を封じた相手だったとしたら、それこそステータス画面に介入してくるかもしれないのだ。


「使わない。本気で殺す事だけを考える。絶対、小細工は通じない相手だと踏んでいるよ」

「……そっか。分かった、じゃあ準備するね」

「カイさん、私は? 正直回復程度しかする事ないとおもうけど」

「いや……隙を見つけて『背負い投げ』を狙ってくれ。ゲームとは違うが、人型の相手なら確実に転倒させられる技だ。効果があるかどうか確かめるだけでもいい」

「……おっけー。まさか自分でやる日が来るなんて思っていなかったわ」


 作戦を決め、道を進む。

 やがて現れる、一際大きな樹液の道。

 リュエが、幾つもの補助を重ねがけする。

 ダリアが、その補助を何重にもコピーして上書きする。

 そしてレイスも、同じことをこちらにする。

 泡が、現れるのを待つ。

 ここまで来ると、もうレイスも恐いなんていう思いは消えているようだった。

 そして――現れた気泡に潜り込み、この巨大な大樹の頂上へと向かうのだった。




「……大樹の中……じゃあないな。夜空が見える」

「先程一瞬外の景色が途切れた時、そのまま天界まで飛んできたのでしょうか?」

「そのようだ。地面を見ろ、木じゃない。石畳だ」

「……確かに見覚えがありますね。ここは間違いなく天界です。そして――」

「本当に一本道なのですね……魔物の姿も見当たりませんし」

「全部、木の方に投入したのかしら?」

「恐らくそうだ。討ち漏らしの中にゴーレム種も混じっていた。あれは本来天界の敵だ」


 辿り着いたのは、まるで天井のない神殿。

 石造りの広間から、一本の長い道が続いている。

 そしてその果てには……黄金の扉が鎮座していた。


「……この光景、懐かしいですね。最終日、プレイ画面を配信していたでしょう、ぼんぼん」

「そういやそうだったな。あの時とは違う、今回は俺一人じゃない」

「ああ、そうだな。それにレイスとリュエもいる……」


 一歩、また一歩と踏み出す。

 カツンカツンと硬質な足音が響く中、その扉が目の前までやってくる。

 そして、まるで代表するかのように、その黄金を俺が押し開く。


「……やっぱりいたな、カミサマ」


 そこは、舞台だった。美しい円形の、神々しさを感じさせる黄金の。

 そして、中央に佇むローブ姿の人物。

 その手には、独特な形状の杖が握られており、静かに身体をこちらの方に向けてきた。

 ……顔は、見えない。ゲーム時代にもはっきりとは見えなかったが、それでも確かに感じる、圧倒的強者の視線。


「舞台に上るのを待っている、か」


 その誘いに乗り、一斉に最期の戦いの舞台へと飛び込むのだった――


(´・ω・`)明日の更新はおやすみです

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