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四百一話

(´・ω・`)こんげつももうすぐおわり

 なぁ、お前らどんな顔するんだろうな。

 実際そんな素振り見せてこなかったし、とてもじゃないが信じられないだろうが。

 絶対ビビるよな? 豚なんかは半泣きになりそうだ。

 でも、俺は間違っちゃいなかった。当たり前だ、そういう人間を集めたんだ。

 ただ……お前は、お前だけは偶然だ。見間違えただけなんだ。

 あんまりにも懐かしくて、ついお前を選んでしまったんだ。

 だから……ここでお前を、お前達を待っている。

 そうだな、最初にかけるべき言葉は……『遅すぎワロタwww』ってところか?








「カイヴォン、次の角を曲がってすぐ反転。剣を斜め上に突き出して!」

「了解した!」


 指示に従い、迷いなく剣を突き出すと、そこに丁度追いかけていた魔物の頭が現れ一撃で消滅する。


「いや、助かった。広範囲技をぶっぱなす訳にもいかないし、あそこまで速いと俺じゃあピンポイント攻撃は当てられない」

「申し訳ありません、私にもう少し攻撃力があれば……」

「いえいえ。レイスのお陰で誘導出来たのですから、これはレイスのお手柄ですよ」


 割り振られた三体のボス格のうちの一体。

 それを無事に撃破出来たところで一息つく。

 マップの反応の強さから、俺達の班に振られた魔物は相当に厄介な相手だったのだろう。

 現に、この最初の一体だけで、すでにレイスもオインクも肩で息をしているほどだ。


「っ! なるほど……これが急激な経験値吸収の反動ですか……」

「お、今のでレベルが上がったのか?」

「ええ……二上がりましたね。そこまで強力な魔物だったんですね……」

「恐らく、今この都市にいる魔物は、俺達が担当している残り二体が最強だと思う。次いでシュン達の三体だが……同じ場所にいるってのが厄介だな」

「ダリアさんやシュンさんへの加勢の為にも、早くこちらを終わらせた方がいいですね」

「そうですね。あの二人の強さは知っていますが……やはり不測の事態には備えるべきかと」

「不測って言うなら、リュエ達の方も心配だな。あまり強い反応じゃあないが、ボスには変わらないんだ」

「ふふ、とか言いつつ、三人に何か加護を与えているのでしょう?」

「まぁな」


 エルには【サクリファイス】を発動させ、ダメージを俺が肩代わりしている。

 リュエには[再起]を付与して、万が一に備えている。

 レティシア嬢には[回復効果二倍]を付与し、耐久力を増してあるのだ。

 まぁさらに言うと、この三人だけでなく、全員になんらかのアビリティを付与しているのだが。


「さて、次だな、次」

「次は……ここからですと武器工房が密集している通りですね。ここにも一体反応があるみたいです」

「ああ、あそこか。たぶんこの街で一番人が密集していた場所じゃないか?」

「そうですね。装備を買うならあそこでした。他にも工房はありましたが、ここは自分の工房を持てるプレイヤーが集まっていましたから。よくここに素材を売りにいっていました」

「なるほど……そんな場所があるんですね。もしかすれば……強力な装備を纏った魔物もいるかもしれませんね」


 そのレイスの予想通り、俺達がその通りに到着すると、まるで見計らっていたかのように一体の……いや、一人と呼ぶべき姿の魔物が待ち構えていた。


「……おいおい、ここに来てコイツかよ……」

「あれは……ヒヒイロセンキの色違い……ですか?」

「し、知っている魔物ですか? これは……あの教会前の魔物と同質の気配を感じます……」


『ヒヒイロセンキ』。ゲーム時代、即ち神隷期の七星であり、ゲーム最終日に俺が倒した物とほぼ同じ姿の魔物。

 身長六メートル程の武者甲冑を纏った魔物である。

だが、こいつは緋色の鎧ではなく漆黒。闇を凝縮したような鎧を纏い、まるで鬼火のような揺らめく青を瞳に宿していた。


「豚ちゃん。こいつレベル四〇〇超えてるわ。全力でサポートしてく――」


 慎重になるよう豚ちゃんに言葉をかけた瞬間、猛烈な勢いの槍が飛来し、身体を貫いた。


「グァッ! グ……」

「ぼんぼん!」

「カイさん!?」

「下がれ! 『ウォークライ』を使う!」


 槍を引き抜きながら、その激痛を誤魔化すような絶叫を上げ、同時に相手の標的を俺に固定させる。

 おいおい、こいつの攻撃力こんなに高かったか? 今のでHP七割消し飛んだぞ。


「……よし。レイス、どこか遠くの狙撃ポイントに移動して援護。豚ちゃん、こいつは俺がやる。臨機応変に動いてくれ」

「分かりました。気を付けてください、カイさん」

「こちらも了解です。相手の弱体化に尽力します」


 ……今の一撃、俺じゃなかったら即死だった。

 この攻撃力の高さは不味い。元々火力特化ボスだったが、それが強化されている状態だ。

 万が一にも二人を狙わせる訳にはいかない。


「【フォースドコレクション】発動……火力直結型のスキルは無しか」


 相手から[武扱の心得]というスキルを奪い、そしてそのまま【スキルバニッシュ】で消し去る。

 これで、多少攻撃の速度は落とす事が出来た。


「ぼんぼん。相手に鈍化を付与します。行動速度を遅らせますので、何か仕込みがあればその間にお願いします」

「……わかった」


 巨大な刀を構える魔物が、その巨大な足で地面を抉りながら、猛烈に迫って来る。

 こちらも奪剣で応戦、打ち付けるように刀へと攻撃を繰り出し、凄まじい衝撃が全身を揺さぶる。

 その瞬間、オインクの矢、付与術の効果を得ている紫色の光を纏う一矢が、魔物の肩、鎧の隙間へと吸い込まれる。


「そっちに気を取られるんじゃねぇ! こっち見ろコラ!」


 叫びながら、刀をへし折るつもりでもう一度一撃を放つ。

 豚ちゃんへと振り向きかけた首が、再び俺へと向く。

 その隙に、豚ちゃんが近くの工房に身を潜めるのを確認した。


「……武器破壊は諦めるか?」


 折れない刀を諦め、大人しく身体に攻撃を繰り出す。

 が、やはり刀により防がれてしまい、思うように攻撃が通らない。

 動きが鈍ってこれか。こんな巨体で素早く動かれちゃかなわん。


「……出会いがしらの一撃で七割なら……いけるか?」


 捨て身へとシフトチェンジする。

 剣をもう一度打ち付け、防がれた直後に剣を手放し、膝を猛烈に殴りつける。

 瞬間、まるで滑ったように魔物が膝をつき頭を下げる。


「っ! 死ね!」


 飛び上がり、兜に手を掛け身体に上り、そのまま首をへし折るように頭をねじる。

 人間じゃあないが、それでも効果はあったのだろう。崩れるように倒れ、動きがさらに鈍る。


「ぼんぼん、下がって!」

「了解!」


 オインクの声に飛び退り、先程手放した剣を拾いつつ魔物の様子を見る。

 すると、その瞬間倒れた身体に無数の光の矢が降り注ぎ、警鐘のように硬質な音が周囲に鳴り響く。


「『地平線“驟雨”』か……ダメージは……通っているようだな」

「それでも微々たるものです。ですが……全てに鈍化の効果を付与しています。これで、しばらく起き上がれないでしょう。畳みかけてください」

「なるほど」


 付与術は相手が動いていない時にしか成功しない。

 俺との打ち合いで止まった一瞬を狙ったように、今度はダウンした隙を狙っていたのだろう。

 発動に時間のかかる技に付与術を使い待機していた訳だ。


「止めは……オインク、建物の中へ」

「え?」

「さ、一緒に隠れるぞ。チャージ完了したみたいだ」


 そして、少し離れた場所にある火の見櫓の天辺が赤く輝く。

 魔弓を構えたレイスだ。恐らく、今の今まで力を貯めていたのだろう。

 この都市は、魔力に満ちている。俺達の連日の戦いや、元々ここに住んでいた強力な魔物が放つ魔力が溜まっていたのだろう。

 もしかすれば、あの木も魔力を放出し始めていたのかもしれない。

 その魔力を、彼女は集めていたのだろう。


「……遠目からでも分かる。あれはやばい」

「だ、大丈夫なんですか!? 余波でこの辺りが吹き飛ぶのでは!?」

「……あ」


 そして、放たれた光が一瞬で、気が付けば倒れた魔物に突き刺さっていた。

 聞いた事のない音。高音と低音が混ざったような不気味な音が後から聞こえてくる。


「余波が……ない?」

「ぼんぼん……魔物が消えていきます。地面、見てください」

「……小さな溶岩の穴があるな」

「衝撃を全て一点に集めた一撃……ですか。魔弓を使いこなすとここまで出来てしまうんですね」


 まるで、ウォーターカッター。水を一点に集中して噴出し、鉄をも切断してしまう工業用マシン。

 それを魔力で完全にやってのけたであろうレイスの一撃は、確かに隙だらけの魔物を、完全に消滅させる最強の点攻撃と化していたのだった。


「あ、レイスが櫓の上で蹲っています……たぶんレベルアップの反動でしょうか」

「止めを刺したら経験値一杯入るからなぁ……」


 ひとまず、頭痛で動けなくなっている彼女を迎えに行きましょうか。




「さっきの反応であのクラスの敵か……となるとこっちの担当の最後はどうなることやら」

「ぼんぼん、過去の七星に似た魔物はこれまで出会っていないんですか?」

「ないな。今のが初めてだ。もしかしたら他の担当地域にいるかもしれないが……」

「あの……あの強さの魔物がもしもエルさんのところにいってしまったら……」

「いや、さすがに反応の大きさ的にそれはないよ。ただ、早く終わらせて加勢に行くべきではあるね。急ごうか」

「……最後は西門付近ですか。ここはゲーム時代なにもなかった場所ですが」

「少し通ったが、普通に居住区みたいな場所だったな。近くにある小さな広場にいるみたいだし、そのままそこで交戦って事になる」

「この道を途中で曲がって路地に入るとつきますね、少し走りましょうか」


 その提案に一斉に駆け出すと、意外な事にレイスよりも豚ちゃんの方が素早かった。

 建物の窓枠や屋根を乗り継ぎ、あっという間に距離を離される。


「先に向かい、地形を記憶しておきます!」

「ああ、わかった! 速いな……」

「ええ、ちょっと驚いてしまいました」


 あれか、豚は逃げ足が速いのと関係あるのか。

『(´・ω・`)ビビった逃げるか』みたいなノリで。

 彼女に続き、西の居住区に辿り着くと、建物が綺麗に残されている所為で、余計に寂しい光景が広がっていた。

 集合住宅のような物、だろうか。

 アパートメントのような建物が沢山立ち並び、小さな一軒家や少し立派な庭付きの家も点在する住宅街。

 プレイヤー向けの場所ではないからなのだろう。とても生活感に溢れた様相の街並みが、そのままそっくり残されていた。


「……壊れちゃいないが、だいぶ荒れてるな……」

「ここにどれだけの人がかつて住んでいたのでしょうね……」

「千人二千人じゃ済まないだろうね……魔物の気配はどうだい?」

「ありません。小動物が入り込んでいる程度だと思います。ただ……先にいる魔物が余程強力なんだと思います、それで近づかないのかもしれないです」

「……次も本腰入れないとまずそうだな」


 ゴーストタウンと化した住宅街を進み、オインクの姿を探す。

 するとレイスが、住宅街一角、大きなアパートメントの頂上にいるオインクを見つけた。

 さすがにこの高さを上るのは難しいからと、内部の階段を通りオインクの元へ。


「様子はどうだ、オインク」

「来ましたか二人とも。あれ、見てください」


 視線の先。小さな広場、恐らく元々は住民の水場だったのだろう。井戸や水路のあるその広場を、殆ど埋め尽くすような巨体がそこにあった。


「あれは……先日のとは違う種類のドラゴンですか……?」

「有翼種はいないって話だったが……なるほど、確かに普段はなにも生えていないからな」

「はっきりと姿を確認出来なかったのが悔やまれます。ぼんぼん、どうしますか? もしもゲーム時代と同じ能力を持つのなら……この辺りは火の海になってしまいますが」


 そこにいたのは……多少色味は違うが間違う筈がない。

 かつて俺が倒した『ネクロダスタードラゴン』がいた。

 翼はある。戦闘に入ると、背中から黒炎が上がり、翼を形成するのだ。

 思えば、最終日に最初に倒したレイドボスがコイツだ。こいつがいたから、俺は他のボスにも挑む気になったのだ。

 つまり、全ての始まりとも言える相手。


「……だが、竜だ。俺は竜相手なら、確実に殺せる。オインク、レイス。ここで待機していてくれ。俺も今からここで下準備をする。一撃で、一撃で完全に沈めてみせる」

「なんとも恐ろしい。分かりました、私とレイスは、もしもの時に止めを刺せるように準備しておきます」

「ええ。本当にここが火の海になるのなら……絶対に防がなければいけません」


 当然だ。こんな大きな住宅街、修繕すれば大陸中の人間だって呼び込めるかもしれないではないか。


『ウェポンアビリティ』

[与ダメージ+100%]

[攻撃力+110%]

[全ステータス+75%]

[アビリティ効果二倍]

[氷帝の加護]

[滅龍剣]

[天空の覇者]

[絶対強者]

[チャージ]

[震撃]


 確実に、一撃で殺す手段。

 周囲に建物がある以上、剣の攻撃では余波を生みかねない。

 だが[震撃]は、拳の攻撃を相手の全部位に伝えるという効果を生み出してくれる。

 剣ではなく、拳。この世界では剣を装備したままでも、拳を振るう事が出来る。

 なら、一撃で身体の全てを破壊し、周囲に影響を与えない一撃を放てる拳が生きてくる。

 ……認めたくないが、アビリティを融合したお陰で枠が空いて前より強くなっているし。


「オインク、俺に一撃倍加の付与を頼む」

「あれは本当に次の一撃にしか反映されませんよ?」

「ああ、だからその一撃で終わらせる」

「……本当に、いけるんですね? 相手のステータスは確認しましたか?」

「ああ、問題ない」


 オインクから付与を受け、アパートメントの屋上で助走をつける。

 全力で駆けだし、屋上の端を大きく蹴り、無人の街並みを見下ろしながら、その広場の上空へと飛び出した。


「懐かしいな、おい。再会の喜びを噛みしめながら……沈め!」


 そして上空で構えた拳を、落下の勢いも合わせ、そのまま竜の背中に――


「『剛陥拳“玉砕”』」


 対地技。そして同時に自傷ダメージをも喰らう一撃を放つ。

 アビリティにより強化されたダメージ。

 アビリティにより強化されたステータス。

 種族特効のアビリティに、弱点属性。

 アビリティにより、その衝撃は余す事なく、爪の先にまで伝達する。

 そしてダメ押しで、オインクの力で全てのダメージが倍加している。


「……耐えられる訳、ないだろうが」


 瞬間的に、その巨体が破裂する。

 鱗の一枚一枚が砕け散り、牙や爪までもが周囲に飛び散り、まるで水風船でも破裂させたかのように血が周囲を染め上げる。

 文字通り、一撃で全てが崩壊したのだった。


「……自傷ダメージで瀕死とか笑えないな。手足も動かねぇ……[生命力極限強化]がなけりゃ死んでたか」


 自分の付与していた[生命力極限強化]の力で、徐々に手足に力が入る。

 ……そういえばサクリファイスを使っていたな。もしも今エルが大ダメージを負っていたら、もしかして俺……死んでしまっていたのか?


「ぼんぼん! 大丈夫ですか!?」

「い、今のは……一瞬で竜が爆発して……」

「はは、回復待ち。無事、倒せたようだ」

「ええ、それは問題なく……本当に、ここまで強くなっていたんですね」

「ああ。本当に……俺はここまで強くなってしまったよ」


 ゲーム時代のボス。ソロで倒す事自体が難しい相手だが、それでも実現可能になるくらい、俺は強かった。

 だが、苦戦し、ピンチになり、回復薬をいくつも使い、それでようやく倒した相手。

 現実世界とゲームという違いはある。だが、それでも俺は、一撃で倒せたのだ。


「血まみれだ。こりゃ一度装備を変えて洗浄するかね」

「そういえば魔王の姿にはならないんですか?」

「あーほら、このコートあれだぜ? 法印の黒コートなんだよ。だから強いし性能も良いしで」

「なんと……私も持っていませんよ、それ」


 などと笑いながら気が付く。

 ……これ、ぐーにゃが作った物だよな……出所は……恐らくファストリア、この大陸なんじゃないのか?

 遺物として流れついて巡り巡って俺の元まで来たのだとしたら……。


「持ち歩いていた可能性もあるが……もしかして……」


 ぐーにゃはもしかして、この大陸にいた……のか?


「さて、では他の場所へ加勢に行きましょう。リュエとダリアにメールをしておきました」

「あ、ああ。じゃあとりあえず着替えて……俺はリュエの方に行くかな」

「でしたら、私とレイスはシュンとダリアのところへ行きます。恐らく苦戦しているはずです」

「分かった。じゃあ、ここで別れよう。午後四時になったら撤退、忘れないように」

「はい! カイさん、どうかお気を付けください」

「レイスも無理はしないようにね」


 久々の魔王ルックに身を包み、リュエ達が担当しているはずの、北西の広場へと駆け出した。




「あ、カイくんだ! おーい! メール見なかったのかーい?」

「え? メールなんて……あ、オインクから転送されてたわ」


 リュエ達の持ち場に着くと、いつも通りの様子の彼女がニコニコと手を振ってくれた。

 メールの内容を確認すると――


From:Oink

To:Kaivon

【From:Ryue】

【To:Oink】

【件名:あといっぴき】

【さいごのとこにいくところだよ。だいじょうぶだよ】


 ひらがなばかりで可愛いです。じゃなくて、どうやら既にノルマ達成間近だったようだ。


「ね? で、今最後の一匹をエルとレティシアちゃんが倒したところなんだ。私は回復に専念していただけだよ」

「そうなのか、それは凄いな二人とも……姿が見えないけど」

「あそこの木陰で横になってるんだ。凄い激戦だったからね」


 見れば、二人とも荒い息を整える事も出来ず、ゼェゼェと息をして倒れていた。


「お疲れ様、二人とも」

「カ、カイヴォン殿……ご無事でした――その姿は……?」

「装備の一種だよ。さっきの戦いでいつもの装備が血まみれになってね」

「なるほど……私は、てっきり魔物が化けているのかと……」

「ねぇ、カイさん褒めて……私達リュエ抜きで倒したのよ……それもでっかい化け物みたいな熊」

「そんな大きな相手を倒せたのか、そいつは本当に大したもんだ」

「いえ、私は殆ど注意を反らす程度でした。エル殿の活躍はすさまじかった」

「あーいいわいいわ、そういうのもっと言って欲しいわ……でもレティシアちゃんあっての勝利よ」


 完全燃焼といった具合の二人を見つつ、リュエにこの後シュン達の加勢に向かうから、先に戻っているように伝える。

 リュエも手伝うと言ってくれたのだが、こんなに参っている二人を放っておくのも危ないから、と。


「じゃあ、危なくなったらメールしておくれよ?」

「了解。エル、レティシアさん。帰りも気を付けて。夕方には戻るから、それまでお風呂にでも入って休憩していてくれ」

「分かりました。お気遣い、感謝致します」

「あーいいわねお風呂……シュンちゃんからコーラ分けてもらってるし……」


 フラフラの二人を連れ、リュエが帰路に着いたのを確認し、今度は街の中央へと急ぐ。

 俺の班が相手した魔物ほど大きな反応ではない。だが、一体ずつ相手をするのと、三体同時とはその攻略難易度は雲泥の差だ。

 周囲の倒壊を気にしなくていいという利点がある地区ではあるが、どうなっていることやら。


「見えた。確かに一面瓦礫だらけだな……ここが主だった戦場だったのかね……いや、大樹が倒れ込んできて崩壊したのか……?」


 その壊れた中央地区は、どうやらあの木を植えた方角から続いている。

 もしや、大樹を切り倒した時、その余波で壊れたのだろうか。

 いや、だとしたらこんな範囲で済むはずもないか。倒れている途中で大樹が消えたと見るべきか。

 なんにしても、この瓦礫が広がるどこかでシュン達が戦っているはずだ。


「向こう……か?」


 風が吹いた気がした。突風のような、瞬間的な。

 その方向へ向かうと、視界の先に半透明のドームのような物が見えてきた。

 恐らく結界。ダリアの手によるものだろうと更に近づくと――


「ダリア? なんで結界の外にお前がいるんだ? それに二人も」


 ダリア、そして俺と別れたオインクとレイスがそこにいた。


「これが最善策なんです。どうやら、この魔物は身体を光に変え、文字通り光速で飛び回るみたいなんです。ですので、こうして完全に遮断、徐々に魔物から魔力を奪いつつ、閉じ込めています。ただ、この結界は内部で発動すると私自身の魔力も奪ってしまうので……」

「内部でシュンが魔物三体を相手に戦っています。悔しいですが、私では足手まといになってしまいそうなので、こうして待機しているんです」

「私も、中に入るより、再生術でダリアさんの補助をしている方がまだ助けになると判断しました」

「なるほど。それで、戦況はどうなんだ?」

「現在、三体のうち一体を手負いの状態にしました。オインクから渡されたMP回復薬を大量にストックしているので、先に魔力が尽きるのは魔物です。恐らく、シュンの勝利は時間の問題でしょう」


 なるほど。互いに逃げられない状態でのデスマッチ。そして片方だけは回復あり、と。

 確かにこれはシュンの勝利は確定していると見て良いだろう。が――


「俺も中に入るぞ。いいか?」

「ええ、問題ありません」

「わかった。なら――シュン! 聞こえるか!? 俺も中に入る、ダリアの側に一度来られるか!?」


 少しすると、遠くからシュンの姿が見えてきた。


「カイヴォンか。他の……リュエの方はどうなった?」

「無事に殲滅した」

「く、俺がビリか。悪い、手伝ってくれ。一体は殺したが、それに反応して残りの二体の強さが増した。そこまで強くはないが、いかんせん速度がな」

「了解。お前はそのまま追い詰めてくれ。俺が広範囲技で全部巻き込む。それで出来た隙に止めをさしてくれ」

「話が早くて助かる。この先に朽ちた時計塔がある。その周辺が奴らの生息地だ、行くぞ」


 そう言うと、シュンは俺やオインク以上の速度で駆け抜ける。

 そして俺が追いつく頃には、魔物とシュンが、時計塔を駆けあがりながら縦横無尽に走り、数多の光を散らしながらぶつかり合っていた。

 おいおい、まるでアニメの世界じゃないか、こりゃ。


「シュン! もう一度頂点に行く時、塔の上部を丸ごと消し飛ばす!」

「分かった! こちらは頃合いを見て離脱する、そっちのタイミングで打ってくれ」


 そして地面に降りた光が大地を駆けまわり、シュンとぶつかり合い、再び塔へと向かう。

 そして駆けあがる光の動きを読み――


「『天断“昇竜”』」


 瓦礫をかき分け、そして途中で軌道をホップアップさせた光の奔流が、朽ちた塔の上部、文字盤の残骸を完全に飲み込み、光る魔物の姿すらも飲み込む。


「良いぞ、落ちてきた」

「よし、止めはまかせた」


 恐らく狼か何かだろう。光を失い、ただの獣の姿と化した魔物を、空中で微塵に切り裂くシュン。

 苦戦……とまではいかないが、ここまで手こずらせたとなると……中々に厄介だな。


「ふぅ……時刻は午後三時半。予定より三十分早かったな」

「ああ、そのようだ。ダリア達と合流してホームに戻ろう」


 無事に合流し、結界を解除する。


「お疲れ様です二人とも。やはりシュンとカイヴォンが一緒だと決着が速いですね」

「互いの戦術を熟知しているからな。即興の連携もやりやすい」

「手数と技、攻撃力と範囲。同じ剣士でも役割が大分違うからな。互いに補えばほぼ負けはないさ」

「ふふ、やはり懐かしいですね、こうしていると。さて、ではホームに戻りますか。ぼんぼん、テレポをお願いします」

「なるほど、レティシア嬢が先に戻ってるなら問題ない、か」

「ええ、そういう事です。これで、この都市で今出来る事の大半は終わらせられたでしょう」

「あの木がどこまで育ったか、確認もかねて戻りま――」


 そう言いながら、レイスが木を植えている方角を向いたその時だった。

 彼女の声と動きが、止まる。

 無論、その動きに釣られ、同じ方向を向いた俺達も。


「なん……だと……?」

「フラグ乙――なんて言っていられないだろこれ……おいダリア、あれは俺達の国の世界樹と同じなのか?」

「い、いえ……規模が、違い過ぎます! これ、居住区がのみ込まれるんじゃないですか!?」

「! リュエ達が巻き込まれるのでは!?」


 ドン、と空気が震えたと思った瞬間、居住区から黒い影が天へと延びる。

 太く、長く、みるみる成長し空の雲をも突き抜けるその姿に、不安を覚える。

 あの成長に、俺達の屋敷は飲み込まれているのではないか? と。


「全員、俺のテレポに入るんだ! ホームに急ぐぞ!」


 そして、俺が屋敷に戻ると――


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