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四百話

(´・ω・`)おまたせしました

「道場の中じゃなくて裏にあるな、敵の反応は」

「ふむ。闘技場の時もそうだったが、どうにもシチュエーションとずれた場所にボスがいるな」

「そうだな。やっぱり本来イベント戦が用意されているような場所は特別な加護でもあるんじゃないか? それで魔物を配置出来ないとか」

「配置、か。そうだな、どいつもこいつも持ち場を離れようとしない。意図的な物を感じる」

「ねぇちょっと二人とも! 考察してないで前に出てよ! まさか私に一騎打ちしろっていうの?」

「いぐざくとりー」

「その通りでございます」


 目的地である道場に到着し、ここにいるボスとエルを戦わせる。

 反応の大きさ的にそこまで強くはないと思うのだが、道場の裏手に回り込むと、案の定そこにいたのは魔物というよりは亜人といった様相の相手だった。


「広義的に捉えたら魔族になるのかね、あれも」

「意思疎通が出来ないなら魔物じゃないのか?」

「あー確かいたよね、ああいう魔物。ワーキャット? だっけ?」


 分かりやすく言うと獣成分がかなり多い獣人と言った様子の相手。

 ケモナーならきっと守備範囲内だと思います。


「ええと……エルさん一人で大丈夫なのでしょうか?」

「なんだかんだで結構レベルも上がったし、オインクの装備も借りているからね。十分に戦えるはずだ」

「しかし、エル殿は杖で殴る事しか出来ませんが……」

「まぁ、頑張ってもらうさ。この先、俺達と戦うならこれくらいの相手を倒せるようになってもらわないと」


 とりあえず、もしもの時の保険は十分に用意してある。張り切って戦ってくれ。

 文字通りのキャットファイトだ。


「や、やってやるわよ! リュエっち補助だけ頂戴!」

「うん、頑張っておくれ!」

「相手は素手です! 武器のリーチを生かしてください!」


 セコンドは二人に任せ、とりあえず俺とシュン、レティシア嬢で道場の中の様子を調べる事に。


「ほう、綺麗なままだな。ご神体は……ああ、あの神棚か?」

「のはずだ。やっぱりこういうイベントに深く関わる部分には干渉出来ないのかね」

「そうかもな。これでエルがアレを倒したら……マップを見る限り残りのボスは……まだ九体もいるのか」

「ああ。さすがに手間だし、エルもそろそろ強くなりつつあるし、そろそろ手分けして当たるか?」

「だな。念のためエルには俺とリュエが付く。カイヴォン、お前はレイスとレティシアと一緒に行くといい」

「まぁそれが安定か。ダリアと豚ちゃんが来てくれたらもっと回り易いんだけどな」

「そういえば二人にメールしたんだろ? まだ返事はないのか?」

「あ、そういえばまだだな」


 木が育ち始めた件と格闘家の装備の件をメールで送ったのだが、やはり二人は忙しいのか、そろそろ夕方になるというのにまだ返事は返ってきていなかった。


「屋敷の主ですか? まだ、他にもいたのですね。是非ご挨拶をしなければいけません」

「はは、そうだね。ある意味初代のアルバートさんを雇った本人でもあるからな、オインクは」

「なんと!」

「……そうなるのか」


 まだ見ぬ主に期待膨らませるレティシア嬢。するとその時、道場の裏から歓声があがった。

 決着がついたのかと裏手へと急ぐと、そこではエルが馬乗りになり、魔物を杖で殴打するというなんとも泥臭い、そしてえげつない光景が広がっていた。


「手を緩めないで下さい! 頭を潰す気持ちで!」

「とどめをさすんだエル!」

「……うちの女性陣恐すぎでは?」

「純粋な応援だと思いたいな」


 そして見事ボス格の一体を撃破したのであった。

 なお、どうやら大分レベルも上がっていた為、今回は反動の頭痛も大きくなかった模様。


「や、やっと勝てた……じゃあ、格闘家の職業貰って来るわ……」

「今更だが、先に貰ってから挑んだほうがよかったな」

「あ! もおおおおおおおおおなんで先に言ってくれないのよおおおお!」

「悪い悪い。さ、じゃあ早速行ってみるか」


 再び道場の中に入ると、エルはなんだが感慨深げに周囲を見回し始めた。


「なんだか懐かしいわ。学生時代に授業で柔道とか剣道とかもあったんだけど、その時道場使っていたのよね」

「ああ、そういえばそういう授業もあったな」

「カイさんって部活何やってたの? やっぱりこういう道場使う系?」

「俺か? …………やばい、覚えてない。遊び歩いてる記憶しかないな」

「くく、お前は部活なんて絶対無理だろ? 先輩殴って退部がいいとこだ」

「たぶん正解。そういうシュンはどうだったんだよ」

「俺か? 水泳と吹奏楽だな」

「え、シュンちゃん楽器弾けるの?」

「弾くというか吹くだな。トランぺッターだ。肺活量には自信があった」


 そういえばこいつの家に行った時、楽器が置いてあったような気がするな。


「さ、じゃあご神体にタッチしないと……どこ?」

「ほら、そこの神棚にある石だ」

「……カイさん肩車して」


 ゲームなら近づくだけで調べられたのだが、仕方ない。

 相変わらず軽いエルを持ち上げてやると、神棚へと手を伸ばし、なんとか触れることが出来た様子。


「あ……もらえたっぽい。格闘家がサブに設定されたわ」

「お、やったな。これでうまくすれば技を覚えられるし、さっきよりは肉弾戦も強くなってるんじゃないか?」

「そうなのかしら?」


 道場でなんとなくそれっぽい構えを取り、パンチを繰り出すエル。

 おい、それはボクシングのシャドーだ。ダッキングするんじゃない。


「シュッシュ! シュッシュ! なんかそれっぽくない!?」

「そこは空手の型だろう。ほら、とりあえずこう構えて……」


 かなり初期で覚えられる技の中には、素振りを一定回数こなすと習得できる物もある。

 とりあえずここで暫く彼女には白帯のように素振りを繰り返してもらいましょう。


「ふぅ……なんだかこの建物って静かで、ちょっぴり神殿みたいな雰囲気もあって落ち着くね」

「そうですね。ここは元々、武術を習う場所なんですよね?」

「そうだね。俺達の国にあった物をモチーフにしているはずだから……もしかしたら後から生み出されたのかね?」


 待てよ? もしかして魔物を配置出来ない場所というのは、ゲーム時代に後天的に作られた場所だったのではないだろうか?

 あのコロシアムだって、元々は地下金庫やなにか牢屋のような施設の上に建てた物なら説明が付く。


「今日はこのまま屋敷に戻るのか? 時間的にはまだ余裕があるが」

「今日はエルも頑張ったからな、早めに戻って休憩しよう」

「わかった」


 しばしの休憩。道場の端に座り、皆でエルの素振りを眺めていた時だった。

 聞きなれたコール音が脳内に響いた。

 メニューを操作すると、どうやらオインクからのメールのようだった。


From:Oink

To:Kaivon

件名:今夜伺います

非常に興味深いお話ですので、今夜直接詳しくお話を聞かせてください。

夜八時頃には時間もとれます。食事は済ませてきますので、特別準備は必要ありません。


 なんというか、メールでもいつもの口調だと調子が狂うな。

 顔文字とあの喋り方のメールの方が文字だとしっくりくるんだよなぁ。


「オインク、今日の夜に一度こっちに来るそうだ。メールが来た」

「ん、そうか。ダリアからはまだか?」

「まだだな。もしかして今忙しい時期だったのか?」

「そうだな。もしかしたら都市の有力者達と懇親会でもしているのかもしれない。これまで、あいつは絶対中立として王族以外が開催する催しには絶対に参加しないようにしていたんだ。だが、今はそうも言っていられない状況だからな。連日、あちこちに顔を出していた」

「なるほどな……しかし豚ちゃんが来るって言っても今日は遅いから、レティシアさんは戻った方がいいかな」

「ふむ。泊ってもらえばどうだ? 部屋なら余っているだろ? ぐーにゃの部屋とか」

「あれって他人がアクセスできるものなのか?」

「いけるだろ。エルの部屋にも入れたんだから」

「あ、それもそうか」


 一先ず、今日の夜にオインクが来る旨を皆に伝え、レティシアさんにも屋敷に泊まれないかと問う。


「問題ありません。街の探索のお供をさせてもらっている以上、泊りがけになる事もあるかもしれないと両親にも伝えておきましたので」

「そっか、ならよかった。おーいエル、そろそろ技覚えたかー?」

「た、たぶん覚えたかも! 途中から動きがスムーズに導かれるみたいになったから!」

「よし、上々だな。じゃあ戻るぞ、今夜はオインクも来るそうだ」

「お、本当? 強くなった私の雄姿を見せてあげるわ」






「ふぅ……テレポで一気にホームに帰りたいけど、そうすると自分の部屋に戻れなくなるのよね……」

「あ……じゃあ自力でここまで来た俺やリュエ、レイスが使えばよかった話だな?」

「そうなるとレティシアを一人残す事になる。帰り道に魔物が残っていないか確認する為にも歩いて戻った方が良いだろう」


 ようやく居住区画まで戻ると、今日一番疲れているであろうエルが限界を迎え、立ち止まる。

 仕方なしにと今日も背負うと、味を占めたのか――


「ふふ、明日から魔物が出るまではカイさんにおんぶしてもらおうかな?」

「何言ってんだ。落とすぞ?」

「ぎゃー! やめてやめて」


 屋敷へ向かいながら、あの苗木がどうなっているのかと進路を変える。

 すると、遠目からも既にその変化を見て取れた。


「うお!? 育ちすぎじゃないか!?」

「一体で苗木になったんだから……ありえない話じゃないが……」

「うわぁ……もうちょっとしたものだよこれ」


 そこには、町の街路樹程度では比べ物にならない、立派な大木が聳え立っていた。

 これは……このペースで残り九体を倒せば、確かに昔の大木レベルまで育ちそうだ。


「こいつはなんの木なんだ……ダリアなら分かるか?」

「私も森生活が長いけど、よくわかんないや。葉っぱの形的には……リンゴの仲間みたいに見えるけれど……あ、若い実がなってる」

「あ、本当ですね。若い実を発酵させたワインがありましたね、そういえば」

「へー……ねぇカイくん」

「ダメです」

「ま、まだなにも言ってないよ?」

「どんな危険があるか分からない、それに戦いの舞台になるかもしれない木の実なんて食べちゃダメです」

「むむ……そっかぁ。あ、でももしも熟して落ちてきたら?」


 よほど、食べたいと見える。

 いや気持ちは俺も凄くよく分かるんですけどね?


「まぁ、これでカイヴォンの推論は証明されたな。やはりボスとこの木は連動している」

「だな。さ、じゃあ戻ってお風呂にでも入ろうか。あのデカい温泉、たぶん使えるはずだから」


 そして屋敷に戻り調べてみると、本当に使えるどころか、お湯も綺麗に保たれ、温度も適温という、まさに今すぐ入れる状態になっていた。

 さすがゲーム時代の施設。便利過ぎる。


「そういや、ゲーム時代は異性の浴場、脱衣所には入れなかったな。今なら入れるかもな」

「シュン、試した瞬間俺は本気でお前と戦わないといけなくなる」

「冗談だから剣をしまってくれ」


 ならば良いと、服を脱ぎいざ浴場へ。

 しっかりとかけ湯もある辺り、ゲーム時代のデザイナーはよくわかっていらっしゃる。

 湯舟に肩までつかりながら、深く息を吐き出した。


「……案外、疲れていたのかね。お湯が染み込んでくるみたいだ」

「ああ、悪くないな。……そうか、毎日温泉に入れるのか、ここは」

「ああ。もし、全てが終わってまた旅を再開しても、いつでもここに戻れるんだよな。温泉に入る為だけに来てしまうかもしれない」

「くく、便利ってレベルじゃないな。俺は、この世界に来てからアイテムボックスの存在を一番のチート、反則だと思っていたが……テレポも大概だな」


 鳥の声も聞こえない。周囲に誰も住んでいない。それ故の静寂。

 そしてこの浮遊大陸の特徴なのか、星空が少しだけ、近いような気がする。

 満天の星空の下で温泉か。


「……これで隣にいるのがレイスとリュエだったらなぁ」

「悪かったな」

「ははは。ちなみにアギダルでは混浴してました」

「……マジでか。お前の理性どうなってんだ。リュエはともかく……レイスとか? アレ、あのアレとか?」

「アレが何を指しているのかはあえて問わないが、正直かなりギリギリだった」

「……俺は、お前の精神力に脱帽だ」

「ありがとう。そういうお前はこの世界に来てから……欲望的な意味ではどうなんだ?」

「ノーコメントだ。だが、少なくとも子供がいないのは俺の身体が成長していない事から証明出来てるはずだ」

「なるほどな」

「……カイヴォン、お前が歳を取り始め、いつの日か俺達よりも先に逝くのはたぶん、決定事項なんだと思う。まぁ、その時は精々盛大に見送ってやるし、お前が残した物も見守っていってやるさ」

「ああ、ありがとう。まぁまだ本当に先の事になりそうだがね。寿命を得るには、まだこの世界を知らなさすぎる」


 しんみりとした空気が漂う。

 ……ああ、そうだな。お前やダリアがいるのなら、何も不安はないだろうな。


『おお! このような浴場があるのですか! これはなんとも開放的な』

『へー! 露天風呂って何気にこの世界に来てから初めてかも! いやぁ懐かしいわねー』

『私はアギダルっていう場所でも入ったんだー! いいものだよねーこれが屋敷にあるんだもんねー』

『本当ですね……いつでも入る事が出来るなんて、贅沢すぎます。これは明日の朝も入ってしまいそいうです』


 そんなしんみりとした空気も、壁を挟んで向こう側の声に掻き消える。

 女性陣は随分と楽しそうだな、やっぱり人数も多いし楽しいのだろう。


「くく、ぐーにゃがいれば三人だったのにな」

「まったくだ。アイツは、どこで死んだんだろうな」

「少なくともあいつは戦わせても強い人間だ。きっと、誰かと結ばれて……幸せに逝った事を祈るよ」

「ああ、そうだな」


 が、再び作り出す、少し大人なしんみりモード。

 良いんです、そんな日があってもいいんです。

 だがしかし――


『服がないと改めて思うんだけど……レイスでけぇ! なによこれ、余裕で三桁あるでしょ!? それにすごい張り! パツンパツンじゃない! ほら、ほら! この重量!』

『え、エルさん……』

『ねー、せめて私ももうちょっとあれば、なんというか見栄えっていうのか? 大人っぽくなれたのに』

『やー、それはそれで需要があると思うわ』

『エル殿は、とても肌が綺麗ですね。勿論皆さん綺麗なのですが、エル殿はまるで赤子のような……』

『まぁ温室育ちだしねぇ……』

『エルもなんだかんだでおっぱい大きいよね、少なくとも私よりは』

『へへん、そうでしょうそうでしょう。背も私の方が微妙に高いわよ。ほら』

『あ、本当だ! でも私の方が手足は長いね』

『ぐ……確かに』


 どうやらしんみりムードを作る事は出来なさそうですね。




 女性陣より先に風呂から上がり、今晩の夕食を作っていると、再びメールの着信音が。

 確認してみると、やはり想像通りダリアからだった。


From:Daria

To:Kaivon

件名:今


「なんだ? この件名」


 操作を間違えたのだろうか? いぶかしみながらも本文を開いてみる。



『貴方の後ろにいるの』



「メリーさんかよ! 変な事覚えてるのな」

「ええ、割と記憶は残っているのですが、悪ふざけばかりですね」

「うお!?」


 すると唐突に話しかけてくるダリア。本当にここに来たのか……。


「なんだダリア、来ていたのか?」

「シュン、先程ジュリアからお届け物を預かって来ましたよ。着替えと軽食です」

「そうか、悪いな」

「なんで普通にやりとりしてるんだよ。結構ビビったんだが」


 聖女としての衣装なのか、上物のローブ姿のダリアが、なにやらバスケットをシュンに手渡していた。

 いいな、あれ。なんだか単身赴任の父親に娘からお弁当が届けられたかのような。


「お、チーズ入りのホットドッグか。カイヴォン、晩飯は俺の分はなしでいいぞ」

「はいはい。まったく、幸せそうな顔しやがって」

「ふふ、そうですね。さて、改めてこんばんはカイヴォン。メールの件について直接聞きたくて来てしまいましたが」

「ああ、それなんだが、もう少しでオインクも聞きに来るんだ。その時でいいか?」

「構いませんよ。では……その間少しご飯を頂きましょうか。さ、何かおすすめを下さいな」


 人格こそ聖女ではあるが、根っこの部分がヒサシに似ているのか、我が物顔で料理をねだるダリアに笑いをこらえつつ、昼の残りである天むすを提供する。

 記憶になかったのか、少々不思議そうな顔をしつつパクつく姿を確認してから調理に戻る。


「美味しいですね、これ。そういえば他の皆さんの姿が見えないようですが」

「みんなで屋敷の温泉に入っているよ」

「なるほど、そういえばありましたね、大きな浴室」


 少しすると皆が戻って来たのだが、案の定レティシア嬢とダリアが初対面という事で、互いが自己紹介をする。

 まさか、こんな子供も主だとは思っていなかったのか、少々面食らっていたが。

 そういやダリアの身長、シュンよりもさらに低いからなぁ。


「よし出来た。シュン、この間別なピザが食いたいって言っていただろ? ほら、ゴルゴンゾーラと蜂蜜のピザだ」

「なんで俺が飯いらないって言ったタイミングで作るんだよ! 嫌がらせか!」

「いやぁつい。女性受けがよさそうなんで。まぁアイテムボックスにしまっといて今度食え」

「く……そうさせてもらう」


 自己紹介を済ませたダリアが、先程天むすを食べたというのに再び食べ始める。

 それも、エルの膝の上で。もう完全に抵抗は無意味だと学んだ様子。

 そうして皆で食卓を囲んでいると、最後の一人、オインクがこの屋敷に現れた。


「こんばんは。遅くなってしまい申し訳ありません」

「バツとして俺達が食うのをそこで見てると良いでしょう」

「そんなー! ……丁度夕食どきでしたか」


 するとその時、レティシア嬢が立ちあがりオインクの元へ。


「お初お目にかかります。私、初代守衛を務めたシグムント・アルバートの末裔、現代の守衛をさせて頂いております、レティシア・シグムント・アルバートと申します」

「シグムント……もしや門番NPCの……」

「正解だ豚ちゃん。よく名前覚えていたな」

「ええ。私が雇ったという事になるのでしょうね。初めまして、レティシアさん。私はオインク・R・アキミヤと申します。ここにいる皆さん同様、この屋敷の主の一人ですね」

「宜しくお願いいたします! 現在、カイヴォン様達と共に、都市の調査にあたっております」

「それは有り難う御座います。このように協力してくださる方がいて助かります、レティシアさん」


 完全によそ行きモードというか、出来る女風を装う豚ちゃん。

 一先ず、早く説明をしてあげた方が良いだろうと、夕食を済ませるのであった。






「――という事で、やはり俺の推論は当たっていたという訳なんだ。明日明るいうちに見れば分かるが、本当に立派な木に育っている。ちょっと加速度的に成長速度が上がっているようにも感じるし、もう二体ほど倒せば屋久島の杉の木クラスになるんじゃないか?」

「なるほど……もしかすれば、私の国に生えている世界樹と似た種類かもしれません。あれは魔力を放出する種類ですが……もしかしたらここの大樹も……」

「ええ、考えられます。七星の封印による影響は大地の衰弱。ならば、悪性魔力は地脈の奥深くに流れているのでしょう。それを吸い上げ、魔力を放出しているのだとすれば……」

「ええ、そういうことです。カイヴォン達が倒した魔物達が、その悪性魔力のバックアップを受けていたのだとしたら、倒した事で大樹へと流れが変わり、急速に成長したと考えられます」

「なるほどな……じゃあこのまま都市を解放すれば、そのまま天界への道も開かれる事になるんだな……」

「恐らくは。カイヴォン、今のペースだとどれくらいかかりそうです?」


 二人に木の成長について語ると、それぞれの考察を語ってくれた。

 やはり、二人が直接来てくれたのは大正解だったな。


「二手に別れたら二日。もしもオインクとダリアが手伝ってくれたら……三グループに別れて一日かね」

「……なるほど。私はこの後一度戻りますが、スケジュールを調整して一週間ほど休みを作りたいと思います。……それだけあれば、きっと決着を付けられる。そうでしょう?」

「ハードル上げやがって。ああ、きっといける」

「いよいよ大詰め、ですか。私の方は……そうですね、共和国に行った事にしましょうか。国内の貴族達との会合も、ある程度終わらせる事が出来ましたし。アークライト卿には真実を伝えておきますが」

「いいのか? 聖女が消えて国が混乱するんじゃないか?」

「私は、貴族達と王族が手を取り合い、新たに国を導いていくべきだと伝えてきました。きっと……これから少しずつ、聖女にすがる在り方から変わっていくと信じています。まずは一週間。私抜きでどうなるか、見てみる意味でもこちらに残りましょうか」


 二人が、こちらに来る。それはなんだか戦力以上に心強かった。

 頼もしすぎるんだよ、この二人は。自分よりも賢く導ける人間がいるというのは、なるほど確かに、下にいる人間にとっては居心地がよく、安心できるのだろう。


「さてと。エルは格闘家をサブ職業にしたようですね? そうなりますと、神官用のローブよりも、格闘家向きの道衣の方が良いかもしれません」

「格闘家……そうなりますと、武器は杖と拳。杖の邪魔にならないグローブタイプの武器も良いかもしれませんが、腕輪タイプの装備を私も持っています。お譲りしますよ」


 すると今度は二人がエルの為の装備を取り出した。

 シュンが今着ているような道衣を、白く変えたような、少しだけ西洋よりなデザインになった道衣を取り出すオインクと、何やら煌びやかな装飾が施されたバングルを取り出すダリア。


「おや? ダリアのそれは……凄いですね、そんな物を所持していたとは」

「私はこういう煌びやかな物は苦手でして……良いモノだと言うのは、ヒサシの頃から知ってはいたんですが」

「ほーん……なんなんだ? それ」


 俺、自分の装備以外はそこまで詳しくないんです。ゲーム時代の名前を教えてくれれば分かるとは思うんだが。


「なんだ知らないのか? お前が使ってる籠手が確かMP攻撃だよな? あの腕はHP吸収攻撃だ。お前のが対人向けの性能だとしたらあの腕輪は対モンスター用って印象だ」

「マジか、そんなアイテムあったのかよ」

「まぁ、ゲーム時代じゃ剣装備してちゃ効果は発揮してくれないがな。だがこの世界なら、杖で殴りつつ拳で殴って自己回復も出来る。戦闘中の自己回復に魔法使ってちゃ時間がかかるからな」


 なんとも豪華な装備に変わっていくエル。

 今度はオインクの持ってきた道衣を身に付け、そのデザインにご満悦の様子。


「これ中々かわいいわね。神聖な感じするし、装飾も可愛いし! オインク、ありがと!」

「いえいえ。ただ、残念ながら神官向けの杖は先日上げた物が一番まともな性能でしたので……」

「えっ! 私こんな聖職者みたいな格好してあんな地獄みたいな武器使うの!?」

「そ、そうなります」

「うう……じゃあこれからもう私は拳だけで生きていくわ。幸いダリアのくれたこれ、かなり強いし」


 まぁ、杖がなくても魔法は使えるし、問題ないのかね?




 翌日。一度帰ったダリアとオインクが昼前に戻って来た。

 どうやら無事に時間を作る事が出来たらしく、今日から本格的に都市の解放に着手するという。


「じゃあ改めて編成を考えましょうか。まず第一班はエル、リュエ、レティシアさんです。これはエルの安全性を第一に考慮した結果でもありますね」

「よし来た、まかされた! 疲れたら私とエルで前衛と回復役を交代出来るしね」

「私も精いっぱいついていきます。エル殿の護衛はお任せください」


 中々に防御よりな割り振りだが、リュエは魔導師としてもやれるし、案外良いバランスだ。


「続いて第二班。レイスとぼんぼん、そして私です。回復魔法はありませんが、ぼんぼんには回復手段がありましたよね? それに私も大量のアイテムを所持しています。後衛は私とレイスに任せ、ガンガン前に出て貰おうと思います」

「それに、私は前衛をする事も出来ますからね」


 この割り振りも問題なし。正直俺なら一人でもどうにかなるくらいだ。

 そして最後が――


「最後がシュンとダリアです。人数こそ少ないですが……お二人は言うまでもなく、互いの連携はお手の物でしょう?」

「当然だな。それにダリアはもう封印に縛られていない。全力で戦える状態だ」

「ええ、そうですね。それにシュンの動きに合わせた術も沢山ありますから」

「ふふ、心強いです。では、マップに記された九つの反応のうち、南門から近い三体をエルの班が。東門に近い三体を私達の班が。最後に、街の中央に固まっている三つ。恐らく苦戦すると思いますが、そこをシュンとダリアの二人に任せたいと思います」


 そして、オインクの持つスキル[天眼]。

 これは戦場を上空からの視点で見られるという力だが、なんとこの屋敷のテラスから街全体の様子を見ることが出来たらしい。

 その結果、点在するボス格の魔物の姿を正確に捉える事が出来た、と。


「幸い、有翼種の存在は確認出来ませんでした。ですが、市街への被害を抑える為にも、出来るだけ広い場所に誘導してから戦ってください。担当地区の近くにある広場をそれぞれマップに記しておきました」

「ふむ、便利な力だな。俺達が担当する中央は……なるほど、ここはすでに崩壊している場所なのか。了解した。ここれでダリアと一緒に戦っておく」

「三匹同時になる可能性がありますね。恐らく手こずる事になりますが……ここなら私も本気で魔導を使えますね」


 そうなのだ。この都市を解放したあかつきには、いずれこの大陸各地に散った人達も呼び寄せたいと考えている。

 だから、出来るだけ街に被害は出したくないのだ。


「あ、そっか。じゃあ私は戦う前に結界を張るようにしよっかな」

「私とオインクはあまり派手な技を使えませんね……上空からの攻撃なら、地面へのダメージだけに抑えられますか」

「そうですね。まぁぼんぼんがいるなら、速攻で沈めてくれるかもしれませんが」

「ハードル上げるんじゃない。まぁ最善は尽くすさ」


 一通り作戦を伝え終え、オインクが立ち上がる。


「では、セントラルシティ解放作戦の会議を終了します。互いの班は対象を殲滅し次第、他の班にメールで連絡。連絡を受け取った班は、必要なら協力要請。もしもなにもなければ、そのまま周囲の調査をお願いします。作戦時間は……皆さん、メニュー画面の時刻は揃っている筈ですよね?」

「こっちは十一時半丁度だ」

「同じく。あ、いま三秒になった」

「私も同じだね」

「どうやら全員の時間は一緒のようだ」

「分かりました。では……作戦終了時刻は午後四時丁度です。もしも倒せていなくても、確実にその時間には撤退を開始、ホームに戻ってください。後日、皆で残りを討伐します」

「分かった。まぁ……このメンツで失敗する事は……」


 談話室に集まり、戦闘用の装備に身を包んだ面々の姿を見る。

 全員、俺の自慢の仲間だ。

 共に戦い、時には剣を交えた、歴戦の強者しかここにはいない。

 そしてレティシア嬢もまた、長年俺達の屋敷を、この最果ての地で守り続けた騎士なのだ。


「失敗する事はないだろうな。唯一の不安のエルだって、一緒にいるのがリュエだし」

「な、なによー! 確かに格闘家になりたてだけどさー!」

「ふふ、大丈夫です。エル殿はお守りしますし、リュエ殿は凄腕の聖騎士と聞きます。決して負けません」


 不満げにエルがシュシュシュとシャドウボクシングのような動きを見せ、皆が苦笑い。

 大丈夫だ。なんだかんだでお前さんの根性は買っているんだ。

 そして、屋敷の外に出た一同に向かい、オインクが改めて宣言する。


「では、皆さん、これより作戦開始です!」


 そうして、皆がそれぞれの方角へと駆け出していく。

 いよいよだ。これでようやく……大樹が完成する。

 その先で待っているであろう七星が、果たしてどんな相手なのか。

 そして待ち受ける、世界を狙う者がどんな相手なのか。


「オインク。懐かしいな、少し」

「ええ、本当に」

「俺達は、いつものようにお前の指揮の元、勝利をもぎ取ってやる。だから安心して指示を出してくれ」

「ふふ、そうですね。それに今回はレイスもリュエもいます。きっと、すぐに決着がつくと思います」


 そうして、この街を再び人の手に取り戻す、最後の戦いが始まった――


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