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三百九十八話

(´・ω・`)こんげつで完結よていですん

 再会の宴から一夜明け、一先ず皆は自分達の国へ帰った。

 シュンは午前中には戻ると言っていたが、エルは予定通り夕方以降になるそうだ。

 まぁ、何かイレギュラーがあればメールをすると言っていたが。


「離れていてもすぐに連絡出来るなんて、本当凄いよねぇ……これが神隷期では当たり前だったのに、なんだか不思議な感じがするよ」

「ええ、本当に。もし、この力がもっと早く戻っていたら私の運命はどう変わっていたのか……いえ、逆によかったのかもしれませんね。お陰で、ずっと思っていられましたから」

「自然な感じで言われると凄く照れくさいのですが」

「ふふふ、そうですか? でも、本当に不思議な力です」


 一夜明けてもまだどこか夢心地なリュエと、嬉しそうなレイス。

 先行きが分からない状況でも、やはり嬉しい物は嬉しいのだ。

 そんな余韻に浸っていたその時だった。屋敷の扉からノックの音が響く。


「シュンかな?」

「いや、テレポの場合は屋敷の中に現れるはずだから……そうか、レティシア嬢か」

「先日の騎士の女性ですね。今出迎えます」


 丁度良い、彼女からも色々話を聞きたいと思っていた。

 レイスが扉を開けると、今日も全身甲冑姿の彼女が、やや緊張しているかのような動きでお辞儀をする。


「おはようございます! レティシア・シグルト・アルバートです。先日は挨拶もそこそこに立ち去ってしまい申し訳ありません。改めてご挨拶に参りました」

「おはようございます。さ、どうぞ中へ入ってください」


 案内されると、彼女は緊張した様子でソファに座り、ようやくその兜を外した。

 現れたのは、紺色の長い髪を綺麗に結び納めていた、年の頃一七ほどの娘さんだった。


「よく来てくれたね。魔物が多い中、大変だっただろう?」

「いえ、私の住む地区からここまでは、比較的弱い魔物が多く、狭い路地もありますので」

「なるほど。レティシアさんが住んでいるのはこの都市からどの方向に出たところなのかな?」

「そうですね、東になります。各地に集落はありますが、東は比較的大きな町があるんです。北の町ほどではありませんが、多くの人が移り住んできているんです」

「へー! じゃあ、他の集落の人もみんな移住したらいいのにね」

「それが出来たら理想なのですが……やはり一度に多くの人を護衛してこの都市を突破する事は難しく……それに、私達の町にも収容出来る限度がありますから……」

「町を広げる事は、やはり難しいのでしょうか?」

「ええ……。幸い、私の町は古の加護の力で魔物の侵入は防げているのですが、その外に町を広げても、結局は魔物に占領されてしまうのです」


 恐らく、彼女の住む町というのは、ゲーム時代に存在した町なのだろう。

 確かにここから東に、割と序盤でプレイヤーが辿り着ける拠点があったはずだ。

 となると、古の加護というのはモンスター侵入不可エリアの事なのだろう。


「それで……挨拶と同時に、お尋ねしたい事があって参った次第なのですが……単刀直入に問います。古の民は、この地に戻って来るのでしょうか」

「それは一体どういう意味なのかな?」

「かつて、この大陸は古の民同士の争いで荒廃しました。また……その歴史が繰り返されるのではないかと、家の者達は危惧しているのです……私は、代々守り続けた屋敷の主が、そんな事をする人間ではないと思っています……ですが、やはり聞かねばならないのです。古の民たちは、今も外の世界に住み……再びこの大陸の覇権を争うのでしょうか」


 声が、震えていた。恐ろしいのだろう。きっと、聞かされてきたのだろう。まるでお伽噺の様に、かつての惨劇を。

 確認したいと言う彼女の表情は、酷く強張り、僅かに肩も震えているのが見て取れた。


「安心して良い、レティシアさん。古の民は……もう、この屋敷の主達しか残っていないんだ。そしてこの大陸を荒そうなんて気持ちも、微塵もない。だから……落ち着いて」


 なんだか、若い子を脅しているような感じがして、酷い罪悪感に苛まれる。

 レイスもそれを感じ取ったのだろう。震える彼女の手をそっと取り、安心させるように言葉をかける。


「私達は、ここに住む人達を害しようとは思っていません、どうか恐がらないで下さい」

「そうだよ! アルバートさんの子孫や他のみんなを苦しめたりなんてしないよ! 逆に、私達はこの都市を解放するって決めたんだ!」

「そ、そうなのですか……? もう、貴方達しか……?」

「ええ。他にも四人いますが、皆今はここを離れています」

「他にも……では、この都市の解放とは一体?」


 この都市に蔓延る魔物を全て駆逐し、どうにかして古の加護、つまり安全地帯にする方法を考えている旨を伝える。

 もしも難しくても、一度全てを駆逐してしまえば、強力な魔物が自然発生でもしない限り大丈夫だとは思うが。


「可能、なのですか? この都市にいるのは昨日のゴブリンだけではないのです。巨大な竜や巨人、それに動く岩の化け物や他にもゴーストがいるんです! 私は、屋敷の主を再び待つ生活に戻るのは……耐えられそうにないのです」

「……大丈夫、勝てるさ」


 気高くいられる為には、何が必要か。

 立場や地位ではなく、きっとそれは何か使命を帯びている事なのではないのか。

 彼女は、きっとこの閉ざされた世界でも、屋敷を守り続けるという代々の役目があるからこそ、今の様に振舞っている事が出来たのではないだろうか。

 その気高さを、失わせる訳にはいかないさ。

 始まりはオインクの気まぐれ。だが、その子孫が代々守ってきたのだ。

 他でもない、俺達の家をずっと。


「恩は返す。アルバート家が代々守った屋敷の主達は、絶対に恩を返す。この都市の解放という形で必ず。だから、どうか安心して欲しい」


 瞳を見つめる。恐怖で揺れる紺の瞳を。

 まだ、こんなに若いのに。魔物蠢くこの地に立ち戦って来たのだ。

 それはもしかしたら、義務感だけではなく、何かの制約でもあったのかもしれない。

 だがそれでも、報いたいと思ったんだ。


「お前は女に縁があるだけじゃなくて無意識に誑し込む癖でもあるのか?」

「お、シュン! 来たのか」

「ああ、さっきな。で……その娘さんは何者だ?」

「門番NPCさんの子孫。魔物ひしめくこの都市で毎日屋敷に通い周囲の魔物を退治していた」

「把握した。娘さん、俺からも礼を言いたい。よく、守ってくれた」

「は、はい!? あ、もしかして他の主でしょうか……」

「そうなるな」


 またしても唐突に表れるシュン。いやぁもうちょっとお邪魔しますとか何か一声欲しいです。

 そして、誑し込むなんて人聞きの悪い。真摯に向かい合うのは当然だろうに。


「誑し込むかー……うーん、カイくんって女の子の友達多いよね?」

「言われてみると案外多いですね……それに求婚もされていますし」

「どれも冗談みたいな物だと思うけどね。そもそもリュエとレイスが第一だし」

「そうかい? 照れるね!」

「……当たり前のように言われると、少し照れてしまいますね」

「ほらな? やっぱりお前は誑しだ。さて……じゃあエルが来るまで待機しておく」


 そう言うと、シュンはソファに腰かけ、刀の手入れをし始めた。

 そしてレティシアさんはそんなシュンの刀を眺めながら、どうしようかとソワソワし始めていた。


「ああ、そうだレティシアさん。この都市の伝説というか、歴史を教えてくれないかな」

「は、はい。そんなに多くは文献が残っていませんが……知っている範囲でなら」


 そう前置きし、彼女は静かに語り出した。

 とはいえ、それは以前集落の村長から聞いた話とは大差がなく、違いと言えばこの都市での戦いの細部を知っている、という事くらいなのだが。


「――それで、ある時古の民の一部から、大樹は切った方が良いという提案があったのです。あれは大地の力を吸い取る物だと、それが良くない者に続き、それで時に魔物の氾濫が起きるのだから、と」

「魔物の氾濫……七星が倒された後も続いていたんですか?」

「はい、そう記されています。我が家の先祖であるシグルト・アルバートの手記にはそう記されています」

「……なるほど。なら切り倒す事に反対する人間はどうして?」

「……猛りを鎮める為、と。魔物を倒す事が生きがいだと、そういう人間も多かったそうです。ですが、中にはその魔物の侵攻が人々の平穏を乱すと、他の住人の立場になって考えてくれる方達もいました。結果、両者は袂を分かち、それぞれの集落を築き、やがてそれが国へと変わっていったそうです」

「ほう、なるほどな。残された連中の境遇を考えれば気持ちが分からなくもないが、普通の住人からしたらたまったものじゃない、か」

「俺もシュンも、元々は戦闘狂の類だったしな。だが……確かに切り倒したくはあるか」

「そして、切り倒した後の事は……ご覧の有り様です。都市の加護は失われ、そして争いは激化し、天変地異により我らは隔絶された、とあります。この手記は我がアルバート家が何代にも渡り書き続けている物です。いつの日か、ここに主の帰還を記す事こそが悲願でした……これで……先代も浮かばれる事でしょう」

「先代というと……御父上でしょうか?」

「いえ、私には兄がいました。彼が先代の守り人だったのですが……ここに迷い込んだ強力な魔物に敗れ……」

「そうでしたか……お兄様の仇、必ず私達がとらせてもらいますからね」


 犠牲が出ていたか。当然と言えば当然だ。

 それでも、ずっと守り続けてきてくれたんだな。


「ふむ。どの道エルの育成に魔物狩りをするんだ。なら、仇を直接討たせるのはどうだ。エルの護衛は多い方が良いだろうし、察するにこの娘さんは戦えるんだろう?」

「無茶を言うな。確かに戦えるとは思うが……」


 念のため、彼女のステータスを覗いてみる。




【Name】レティシア・シグルト・アルバート

【種族】ヒューマン/守衛

【職業】堅牢騎士

【レベル】150

【称号】守人

【スキル】剣術 不動 回復効果上昇 盾効果上昇

     鎧効果上昇 自然回復(中級)



 あ、普通に強い。レベルは恐らく守衛という種族で固定なのかもしれないが、スキルの構成が防御主体のプレイヤーと同じだ。

 だが……明らかに鎧の性能が低いように思えるんだよなぁ。


「私が自分で……叶うならそうしたいところですが……」

「……鎧を新調したら、たぶんですが戦えます。自分が打たれ強いとは思った事はありませんか?」

「あ、それはあります。父や亡くなった兄曰く、私はとびきり打たれ強いと」


 もしかしてランダムでスキルが発現するのだろうか。


「ねぇカイくん。昨日ここに来てすぐに幾つか鎧、手に入れたよね? それをあげたらどうだい?」

「あ、そういえばあったな」


 初日にゴブリンを倒して奪った貴重な鎧達。

 それらを並べ、どれか気に入ったものはないかと問う。


「ほう、けっこう良い出来だな。ダマスカスコートなんて結構貴重じゃないか」

「なんならシュンが使うか? それ、あまり防御性能がなかったろ」

「俺は布系しか使わんよ。これだって、防御性能の代わりに回避と火力が上がるんだ」

「見事な鎧です……では、この赤い鎧をお借りしたく……」

「いえ、差し上げますよ。一応古の民の作ですので、身体にもフィットすると思います」

「で、では試しに……あの、お部屋をお借りしたいのですが」


 すると無言でシュンが彼女を自分の部屋へと通した。

 そういえばこいつの部屋ってどんなのだったか。


「ラコール鋼の赤鎧か。カイヴォン、彼女のステータス的にはどうなんだ?」

「彼女は堅牢騎士だし、防御系のスキルも彼女自身に付与されていたよ。たぶん、物理的な防御力だけならリュエにも引けを取らなくなる」

「むむ、それは凄いね。私もかなり打たれ強い方なんだけどなぁ」

「ですが、本当によかったのでしょうか……危険な目にあわせてしまって」

「……仇を取らせてやりたい。なにかに囚われているように俺には見えた。それが少しでも晴れるならと思ってな。幸い、俺達にはリュエもついている」

「へへへ、そうだよ私がいるからね!」


 なるほど。彼女の中に、そんな葛藤、義務感を見出したか。

 少しすると、赤い鎧に身を包んだレティシア嬢が戻って来た。


「あ、あの、この鎧に兜はないのでしょうか……」

「残念ながらないね。不安かい?」

「ええと、剣を振る時の顔が恐いと言われた事があるので……」

「恐くて結構。敵を威嚇する為にもその方が良いだろうさ。防御面に不安があるなら、何か効果のある装備品を用意する」

「い、いえそんな……これで慣れたいと思います」


 こうして彼女が探索に加わる事が決まったのだが、内心エルを守る人間が増えた事に安堵していた。

 シュンのポーションでレベルは上がっても、彼女がここの敵の攻撃を受けたらひとたまりもないのは変わらないのだから。


 その後、エルがやってくるまでレティシア嬢と手合わせをしたいというシュンに付き合い、敷地内の訓練場に移動したのだが、容赦なさすぎるぞシュン。

 鬼教官と化したシュンの様子を横目に、俺はこの時間を自身のアビリティ、ステータスの検証に使う事にする。


「……やっぱりそうだ。奪剣を持っている間だけ『アビリティ融合』が表示される。でも他の『スキルバニッシュ』や『サクリファイス』『カースギフト』『フォースドコレクション』は残ってる……ふむ」


 これは『アビリティ融合』が特別なのか、それともスキルを覚えた状態で次のスキルを覚えると、正式に俺の物になるのかのどちらかだとは思うのだが……いや、もしかしたら『アビリティ融合』が特別なのかもしれない。元々俺自身には一つしかアビリティを付与出来ない。だが融合するには複数セット、表示させる環境が必要なのだから。

 まぁメニュー画面には表示されるわけだが、これだって奪剣装備時だけの話だ。


「融合……か。融合結果を見られないとなると、本当にイチかバチかになってしまうか……」

「なんだ? 随分興味深い話をしているな? 融合ってなんの事だ?」

「お、シュンか。訓練はいいのか?」

「レイスと交代した。俺では訓練にならないとダメ出しされてしまった。が、確かにレティシアは強い……というか打たれ強いな」

「お前はもうちょい手加減を覚えろ」

「そのうちな、そのうち。で、融合ってなんだ?」

「ああ、実は――」


 俺が習得したスキルについて説明してやる。


「ふむ、融合するデメリットが思い浮かばないな」

「あるぞ。俺の持つアビリティの中には、所持しているアビリティの個数で攻撃力が上がる物もあるんだ」

「で、その上昇量と、アビリティの融合で得られるだろう恩恵を比べてどうなんだ?」

「……正直昔と違って俺の剣そのものが強い。ぶっちゃけ融合もやぶさかじゃない」

「マジかよ。ああ、分かった。どうせあれだろ? せっかく集めたのに減らすのが嫌なんだろ?」

「その通りだよチクショウ」


 いやだって……割と全部思い出深いんですよ。それが消えてしまうのはやはり少しだけ寂しいのだ。


「手段なんて選んでいられないだろ? あれだ、試しにあまり使わないアビリティで試してみろ。その結果を見て、主力アビリティを合成するか決めな」

「……そうだな」


 至極真っ当な意見を貰う、もとい背中を押してもらい、試しに使用頻度の低いアビリティを融合してみる。


[アビリティ融合]発動

対象スキル[攻撃力+5%][与ダメージ+5%]

融合完了

[与ダメージ+10%]

融合アビリティ習得済

自動合成[与ダメージ+10%][与ダメージ+10%]

融合完了

[与ダメージ+20%]

融合アビリティ習得済

自動合成[与ダメージ+20%] [与ダメージ+20%]

融合完了

[与ダメージ+40%]




 ……うわぁ。


「おいやべぇぞ! 融合結果のアビリティをもう習得してると勝手にそれを一つにまとめられちまう!」

「いいじゃないか、ダブっても二つセット出来る訳じゃないんだろ?」

「で、でもどんどんアビリティが減っていくぞ!?」

「だからなんでそこで貧乏性発動するんだよ。いいだろ、別に。ほら結果見せてみろ」


 言われるまま、システムメッセージのログを見せる。


「……これはちょっと考え物か? 乗算と加算的に考えたら損になるのか……?」

「だろ!? 10%と20%をセットするのと30%をセットするのじゃ効果が違う」

「ああ。けど枠を節約出来るじゃないか。悪い事は言わん、同系統のは全部融合しておけ」

「い、いやだ! そんなことしたらガッツリ減るだろ!?」


 いやこれだって俺の今までの集大成なんだぞ? そんな気軽に言ってくれるな!


「黙ってやれ! ほら、融合するぞ融合! ごちゃごちゃ言わずに合体するんだよ!」

「やめろ! なんか勘違いされそうな言い回しすんな!」

「だったら大人しくやれ、変なこだわりなんて見せなくていい、さっさとやるんだよ!」

「そうよそうよー、ほら、そこの物陰でヤっちゃいなさい。お姉さんは後ろで見ててあげるから」


 ……ほらー! お前が変な事言うから勘違いされただろうが!


「なんだエルか。お前からも言ってやってくれないか。変なこだわりは捨てろって」

「なになに? どっちが受け――グフッ!」

「あ! エルに当たっちゃった! おーい! 大丈夫かい? 今回復するよー」


 おかしな事を口走ろうとしたエルに、訓練場から弾かれ飛んできた木剣がクリーンヒット。

 大丈夫か、今ので死んでないか? よかったな、昨日四〇レベルになっておいて。




 その後、エルを含め全員に『強くなるのならやったほうが良い』と口々に言われ、非情に勿体ないような気持ちに苛まれながらも、似た効果を持つアビリティを融合していくのだった。

 その結果――


[与ダメージ+100%]

[攻撃力+110%]

[全ステータス+75%]

[素早さ+55%]

[被ダメージ-65%]


 とまぁ、今まで数字が違うだけで効果が被っていたアビリティ達を融合させた結果、こうなりましたとさ。

 確かに枠の節約は出来た。だが……やっぱり総数が減ってしまうのは少し悲しいのだ。


「他にも特殊なアビリティで試したらどうだ?」

「も、もういいだろ! どんな結果になるか分からないアビリティで試すのは……さすがに恐い」

「ふむ……それもそうか? でも使わないアビリティの一つや二つあるだろ?」

「良く分からないけど、やれる事はやろっか。エルも来たし、そろそろ出発するんだしその前にさ」

「昨日の頭痛が来ると思うと若干気が進まないけどね……それにこの装備ださいし」


 エルは、いつの間にかあずき色の長袖ジャージに着替えていた。

 なんとも懐かしさと哀愁が漂う服装だが、これはれっきとしたレア装備だ。

 オインクが以前使っていた物らしく、装備しているだけで習得経験値が増えるのだとか。

 ちなみに、エルには先程合成して作り出した[経験値+50%]もカースギフトで付与しています。

 やったな。これで一気に大幅レベルアップだ。


「……今後使う事がないアビリティねぇ」


 ふと、脳裏を過るあのアビリティ。

 デメリットの割に効果が薄く……それを得たタイミングが、印象に強く残っている物。


「何かに使えるのかね、これ」


[救済]

 対象を消滅させた際、使用者のHPとMPにリジェネ効果付与

 獲得経験値0.5倍 与ダメージ0.8倍


 それは、かつてフェンネルを消滅させ手に入れたアビリティ。

 本人の悪劣ぶりや、その大層な名前に反し、正直使いどころに困る物だった。

 ……いっそのこと、何かの素材にしてやった方がいいのかね。


「救済か……なら合わせるべきはコレか」


 その字面から、救済を与えたいと思えた物。

 これも同じく、手に入れた時の思い出が深いアビリティだ。


[怨嗟の共鳴]

 自分の周りで敵を倒した場合、その場に留まる限り攻撃力が上昇する

ただし時間経過により徐々に精神が汚染されていく


 忘れもしない。俺の奪剣が初めてその姿を変えた時の物。

 マインズバレーの廃鉱山。俺は、あの最深部でソレを見つけ……そして浄化、もとい消滅させた。

 思えば、あれもヨロキの策略の一つだったのだろうか。

 リュエ曰く、あれは呪物とされた人……という話なのだが。


「お前のアビリティなんかで救われたくはないかもしれないが……せめて、俺の役に立てよ、フェンネル」


[アビリティ融合]発動

対象スキル[怨嗟の共鳴][救済]

融合完了

[        ]



[        ]

使用不可。使用条件不明

複数セット可能


「……なんだこりゃ?」


空白のアビリティが生まれてしまった。

 それはまるで、どこぞの薄ら笑いを浮かべたガキが『お前なんかに教えてやるものか』とでも言っているような気がして、なんとも言えない気持ちになってしまう。


「本当、ムカつくガキだ」


 一先ず、これくらいにしておく。これはある意味失敗だし、この結果で皆にも許してもらおう。

 そうして、ようやくエルを引き連れての強行軍、パワーレベリングが始まったのであった。


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