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三百九十七話

(´・ω・`)ルマアアアアアアアンド

「ふぅ、あらかた片付いたか。ほらシュン、いつまでコーラ飲んでんだ」

「まだピザが余ってるからな。これくらい良いだろ」


 テーブルの上を片付け話の続きをすべく席につくと、エルが自分のアイテムボックスから何かを取り出しテーブルに並べだした。


「さっき使えるようになっていた共有倉庫見たらさ、ゲーム時代のコラボアイテムとかいっぱい入っていたのよね。はい、これでもつまみながらお茶にしよう?」

「以前ミササギで購入した茶葉がありましたので淹れてきましたよ。ミササギで加工された紅茶だそうです」

「ぼんぼん、ミササギに行ったのですか? 私も一度行ってみたいと思っていた街なんですよね。茶葉の名産地で知られているのですが……紅茶への加工もしていたんですか」


 今度はティーセットが並べられるテーブル。そして、エルが取り出したのは、ゲーム時代に他企業とコラボして実装されたアイテムだった。

 ……なんだっけ? どこかのお菓子だったと思うのだが思い出せない。

 戦闘以外のアイテムとかコラボとか興味なかったからなぁ。


「これは……なんだ、思い出せない。カイヴォン、思い出せないか?」

「五〇〇年じゃ思い出せないよな……待ってくれ、俺も既製品の菓子はあまり買わないんだが……なんだっけ、ほら……」

「まったく、これだからゲームばかりやってる男連中は。ほら、オインク答えてあげて頂戴」

「すみません、私もカップラーメン以外の既製品には疎くて……」

「ええ……もう、これはアレよ! アレ! ええと……」


 結局誰も思い出せなかった模様。


「うん? アイテムボックスに入れたら名前出て来たよ? ル〇ンドって言うんだってさ」

「あーそうだそうだ!」

「美味しいですね、これ……既製品というと、買える物なんですか?」

「そうだね、割と安価でどこででも買えた……と思う」

「むーん……カイくん達の世界って謎だよね。魔法とかないはずなのに、凄い発達してる印象だよ」

「ええ、確かにそうですね。私もその世界、日本の記憶はありますが、こちらとのギャップに少々驚かされる事が多々あります」


 そんな地球産の数少ないお菓子を頂きながら、紅茶を飲む。

 そして、話はサーディス大陸での出来事へと移るのだった。




「船を降りる時、一応密入国みたいな物だったし、万が一リュエの髪の事が露呈したらいけないからって、コンテナに隠れていたんだよ」

「そうだったねぇ……それでカイくん、すっぽんぽ……」

「はいストップリュエさん、そこまでだ」

「むぐむー!」


 慌ててリュエさんのお口を塞がせて頂きました。

 黒歴史抉るのダメ、絶対。

 そして、俺はサーディス大陸の因習と、歪んだ歴史、そして傷ついてしまったリュエの心を救う為に、ダリアとの再会を目指し動き始めた事を話す。

 あの隠れ里や、協力者として支えになってくれたアマミとの思いで。

 そして……かつて俺が一方的に手を出し、傷つけてしまったレイラとの再会。


「レイラ様の双子の姉妹……ですか」

「ふーん、私がファーストお姫様じゃなかったんだ。もうお姫様の友達が他にいたって訳ね」

「なんだそのファーストお姫様って」

「それにしても……ぼんぼんはつくづく女性と縁がありますね?」

「まぁ否定はしない。それにこの後もう数人と出会いがあったとだけ先に言っておく」

「……リュエっちもレイスも大変ね? 大丈夫? 今のうちに既成事実作っておかない?」

「え、ええ!? なにいってるんだいエル!」

「そ、そんな……既成事実とはその……」

「それについては、私の方からも少々補足がありますので」

「ああ、確かにな。オインクは知らないようだし、教えておくか」

「あ、私は知ってるからね? 一応、これでもエル・バーソンだった時代にお母さんしてたんだから」


 少々脱線。ここで、俺達が寿命を得る条件について言及される。

 ……そう、俺達神隷期の人間は、歳を取らない。ダリア曰く、この世界の理から逸脱した存在である事が理由という話だ。

 それはプレイヤーだけでなく、レイスやリュエのようなサブキャラクターにも言える事。

 だが、寿命を得て天寿を全うする事も可能なのだ。


「俺のセカンドとサードは……結ばれ、娘を残し……そして寿命でこの世界を去った。もしかすれば、俺が二人を育成していれば、通常よりも長い寿命を得ていたのかもしれないが」

「あ、なるほど。私って育成してなかったから、子供を産んだ後は普通の人と同じく老いていったのよね。確か……八七才で逝ったわね。まぁ……私より先に旦那の方が旅立っていっちゃったんだけどね」

「という事です。つまり、私達は子供が出来た時、初めて世界の理の輪に取り込まれ、寿命を得るんです。そういう意味ですと、私は寿命を得るのが難しいとも言えますね」

「補足すると、俺達の国は遺伝子、クローン、そんな人の命に係わる研究もかなり進んでいる。その気になれば寿命も得られるだろうが……そのつもりはないんだよ、ダリアも俺も」

「ええ。私達は、国を……世界を見守っていく義務があります。贖罪でもあると同時に、これは私達の責任でもあると考えているのです」


 ダリアとシュンの話を聞き終えた一同は、ただ静かにその言葉の意味を考えている様だった。

 永遠を生きる覚悟。それを捨て、人として生きる方法。今はまだ急すぎる話ではあるが、いつか……選択を迫られる日もあるのかもしれない……な。


「さて、話を戻そうか。俺は一先ずダリアと出会う事で、エルフの王族に会う手段を得た訳だが……まぁ罠だったんだよ。いやぁ、あれにはさすがに参ったね?」

「ちょ、ちょっと待ってください! それでは私が一方的に騙したみたいじゃないですか!? 知っていたんですよね、カイヴォンも分かっていたんですよね!?」

「ははは、まぁな。立場上、お前もああするしかなかったんだろう? それに……シュン、お前だってああしないといけなかったんだろ? 俺だって同じ状況なら……国を落とせと言われれば、喜んで落とすさ。それがたとえ、オインクのいる国だろうが、なんであろうが……」

「……随分と聞き捨てならない発言ですね、ぼんぼん。それほどまでの状況が、シュンを襲っていたとでも言うのですか?」


 シュンは、自分の意思を殺してでも、リュエを封じた元凶であるエルフ、フェンネルに従わなければいけない状況にあった。

 自分の分身とも言える二人のサブキャラクター。その二人の娘であるジュリアが、七星封印の犠牲となり、囚われていた。

 いつか訪れる解放の時まで、決してフェンネルの機嫌を損ねるような事は出来なかったのだ。

 もしも……俺もリュエやレイスを封じられ、自分ではどうしようもない状況になったなら、きっと従うだろう。二人の為なら、俺はきっとどんな非道な事でもしてしまう。


「――と、いう訳だ。シュンにとっちゃ、唯一の肉親のような、娘のような存在だったんだよ、そのジュリアって子は」

「…………随分と、悪劣な人間もいたものですね。それで、しっかりとその相手には報いを与えたんですよね?」

「そうよそうよ。子供をいじめるヤツなんて許しちゃおけないわよ」

「ああ、しっかりと報いは受けさせたよ。あれは……歪みに歪みきった愛をこじらせた大馬鹿野郎だったよ。真っ直ぐ、迷わず地獄に落ちるように、祈っておいたさ」


 肯定はしない。だが、ある種の敬意は多少抱いたのかもしれない。

 そして、シュンが自分の身内の為に動いていたという事実と同時に、俺もまた……目を背け続けてきた、日本に残していた家族、妹との邂逅という、試練とも呼べる経験を経た事を伝える。


「まぁ……無事に妹を送り返したその後は、色々とサーディス大陸の復興に尽力したのさ。新しい観光名所を作ったりな」

「それなんですが、あの城の地下に出来た巨大な地底湖は、現在名前を募集中なんですよね。何かありませんか?」

「本当かい!? じゃあリュエ湖にしておくれよ! 私の名前を別な形であの国に残すんだ!」

「ははは……だ、そうだ。ダリア、どうする?」

「……安直すぎる気もしますが、候補に挙げておきます」


 リュエのその提案は、案外悪くないような気がする。

 ふん……お前が死んだ場所に、リュエの名前がつくかもしれないってよ。

 少し、過ぎた褒美だとは思うが、まぁ……彼女があそこに付けたいと言うのなら。


「ああ、そうだダリア。近い将来、お前のところに里長の同胞と思しき集団が押し掛けるかもしれないから、その時はよければ隠れ里まで案内してやってくれないか? もしかしたら、その後は少し協力してくれるかもしれない。かなりの手練れの人達だよ」

「同胞というと……まだ、存在していたのですか……分かりました。出来るだけ城にいるようにします」

「さて、じゃあそろそろ終わりかな。サーディス大陸で、多くの人の協力を得た俺達は、そこでみんなと別れたんだ」


 共和国の領主達。そしてダリアとシュンや、アークライト卿やアマミ。

 隠れ里みんなや、レストランを手伝わせてくれたミスティさん。

 敵だらけだと思っていた大陸だが、気が付けば多くの人達に助けられていたのだ。

 そして……セカンダリア大陸に俺達は辿り着き、そこで再び彼、解放者のナオ君と再会した。

 原初の解放者であり、他の解放者がこの世界に訪れるきっかけ、術式を伝えた存在。

 世界を狙い続ける何者かの力で直接送り込まれた人間であり、恐るべき力を持っていた男、ヨロキ。

 本人の力はそこまでではない。だが人心を操り、そして禁忌と言える地球の知識、核の概念を持ち込んだその存在は……文字通り、世界にとっての致死毒のような存在だった。


「なんて事を……その歴史だけは……その概念だけは一度も口にしたことがなかったのに」

「……かつてフェンネルと共に研究していた存在、ですか。確かに……彼はクローンという存在について、最初から概念を知っているような言動を見せていましたが……」

「地球の学者かなにかか。もし、もっとフェンネルと長い時間を一緒に過ごしていたらと思うと、恐ろしくてかなわんな、そいつは」

「あー……そっか地球の化学ってこっちじゃ危険過ぎるのか。私、余計な事言ってないか不安になってきたんだけど……絵具の発色の仕方とか、配合とか口出しちゃったかも」

「ま、まぁそれぐらいなら良いのではないでしょうか……?」


 不可逆な物。それがもしも一度でも認知、広まってしまったら、もう存在しなかった世界には戻れない。

 危険性を孕んでいると分かっていても、絶対に利用せずにはいられない。

 平和的利用まで否定しようとは思わない。だが……その力を扱うには、あまりにもこの世界はまだ……幼いのだ。

 一人の代表として、国を導く立場にあるオインク、ダリア、エルの三人もまた、考えは同じようだが……オインクだけは、どこかその表情に『考察』が混じっているような気がした。


「……俺が、認めない。それだけは肝に銘じてくれ、みんな。俺は一人、あの力を受けた人を知っている。いいか、絶対だ。もしもその片鱗すら見えたその時には……」


 釘を、刺す。そんな恐ろしい力以上に恐ろしい、既にこの世界に存在する恐怖として。


「俺が、潰しに行く。それを知る者全員を、この世界から跡形もなく消す。その思想を受け継ぐ人間や、それを知っているであろう人間もろとも。俺達は、この知識だけは広げないように尽力するべきなんだ」

「っ! 当然、です……すみません、少しだけ……考えてしまいました」

「ま、嫌でも考えちゃうかもだけどさ? でも魔法っていう原動力があるんだし必要なくない?」

「いえ、そうとも限りません。カイヴォンの話では旧世界と呼ばれる世界は滅んでいますし、もしかしたら魔法も絶対ではないのかもしれません。ただ……可能ならば、もっと他の方法を考えたいところですね」

「……それなんです。私は、今回の悪性魔力というものが……なにかの負の産物のように思えてならないんです……旧世界で生まれた何かが……今の七星や世界を狙う何かを生み出したのではないかと……」

「ない、とは言い切れないな。悪かったな、脅かすような事を言って」

「いえ、こちらこそ紛らわしい顔をしてしまいました」


 そしてヨロキを倒した後、解放した七星エレクレールが語った内容、何故ファストリア大陸がゲームという形で、その姿を大幅に縮小し、次元を超えた世界に現れたのかについて考察する。


「元々、この世界を狙っていた存在をファストリアまで追い詰めたのが、旧世界の人間というわけではないのか……だがそれでもその時代の人間達は随分と強いんだな」

「それはどうでしょう。この世界に現れた七星が、ゲーム時代に力を蓄えたという可能性は考えられませんか? そもそも、世界をそのままゲームに流用なんて通常は考えられません。やはり……制作スタッフの中にも、何者かの影響を受けた人物がいたのでは?」

「今となっちゃ調べようがないがね。だが、これまで解放者が全員地球、それも日本から召喚されている事から察するに、ピンポイントで日本と繋がりが生まれていた可能性は十分にある、か」

「……なぁ、お前達は制作会社の名前、思い出せるか?」


 するとここで、シュンがポツリと告げる。

 制作会社……? 割と有名じゃないか、忘れる訳が。


「〇〇〇だろ? さすがに覚えてる」

「いや、それはサービス提供会社だったと記憶している。だが、開発はどこだったか思い出せないんだ」

「カイヴォンは確かαテストからいたんですよね? 覚えていませんか?」

「……覚えていないな」

「私も覚えていませんね。いえ……そもそも知らない……?」

「待て、でも俺は何かの雑誌でインタビューを見た記憶があるぞ」

「それは俺もある。だが……名前こそ思い出せないが、知らない名前だった気がする。いや、間違いなく知らない。自慢じゃないが俺はたぶんこの中じゃ一番色んな分野のゲームに手を出していたが、それでも知らなかったんだ」


 シュンが言うのなら、そうなのだろう。

 確かにこいつは、今でこそこんな様子だが……俺とダリアとこいつの三人の中じゃ、一番サブカルチャーに精通していた。

 という事は……この世界の為だけに生まれた会社だったのか……?


「……ゲーム最後の日、GMからのアナウンスがあっただろ。あれは……制作会社、運営の物じゃなかったのか?」

「どうなんだろうな……だが、少なくともあのメッセージを流した存在は、あのゲーム、世界を良くしようとしていたとは思ったな」

「確かにそうですね。ただ……一瞬だけ触れた『下手に触ると強すぎるから、不遇のままだったアイテム。ゲームの根底に関わる』という話。あれは……きっと奪剣の事ですよね」

「ああ、言っていたな……だが、今にして考えると、ただのアイテムの数値がどうしてゲームの根底に関わるんだろうな?」


 いや、だが実際には、俺がこの剣で七星、ゲーム時代のレイドボスからアビリティを奪った事が、今のこの状況の原因になっていたと考えると……。


「まぁここから先は考察の余地もないな。多分、ここから俺達がどう動くかがそのまま答えに直結している気がする。カイヴォン、長々と話させて悪かったな。ここからは今後の方針を考えるとしようか」

「途中から私も良く分からなかったけど……見えざる神が黒幕とは限らないって事なのかい?」

「ええ、そうなりますね。見えざる神は……何者かに与えられた世界を、崩壊しないように維持していた存在にすぎませんから」

「正直、当事者の私もさっぱりなんだけどね。ただ――思ったんだけどさ、その何者かっていうのは地球にも影響を及ぼせるかもしれないのよね? だったらどの道やっつけるしかないじゃない? 私、地球には両親と弟がいるのよね。何かあったら嫌じゃない?」

「ふふ、単純明快な良い答えです、エル。私も……あまり仲はよくありませんが、家族が残っている世界ですからね。それに……ぼんぼんの妹さんの件がある以上、可能性としては十分にありえる。人を、選んで異世界へ送る力は持っているようですし」


 ……そうか。そりゃそうだ。

 チセがこの世界に召喚されたのは、勿論召喚したファルニルの影響もあるが、同時にそれに便乗し、意図的に選ばれる人間を選定した何者かの影響もあるのだから。

 だとすれば、もうこの話はこの世界に留まらないって事にもなる。


「……俺は、まずこの街を解放しつつ、この大陸に残った人間を徐々に街に戻したい。きっと伝わっていたり、残されているはずだ。かつてこの大陸で起きた事件の詳細が」

「街の解放はともかく、人を戻すのは暫く避けましょう。もしかすれば……またここが戦場になります。気持ちは分かりますが、かつての賑わいと取り戻すのは、もう少し先の未来の話にしましょう?」

「そうだな。カイヴォン、かつての姿を取り戻すのは、まずはその何者かを殺してからだ。もしかすれば、その時には大陸も元通りに……いや、海の終わりなんて狂ったこの世界そのものを正せるかもしれない。そうなれば人の交流も戻るはずだ」

「……そうだな。少し、先走ってしまった」


 冷静に、こちらをたしなめる言葉が、とてもありがたかった。


「ねぇ……一つ提案というか、お願いがあるんだけどいい?」

「どうしたんですか? エル」

「私さ、たぶんこの中だと断トツで弱いじゃない? この先の戦いについていけないなんてどこかのギョウザ君みたいな展開、嫌なのよね? だからさ……」

「ツヨクナリタイ」

「シュン、ちょっとそのイントネーションで言うのやめて? 今私結構マジなトーンだから」

「悪い、つい。だが確かに戦力強化はあったほうが良いと思う。実際、この街の解放の為に戦うとしても、ダリアは毎日こられる訳じゃないからな」


 するとシュンは気遣うようにダリアに目を向ける。

 そこには、酷く申し訳なさそうなダリアの表情が。


「……現状、サーディス大陸のエルフ達は、急激な変化に混乱しつつあります。王族の皆も精力的に動いてはくれていますが、今あの国を支えているのは……やはり、昔からそこに存在する聖女という分かりやすい象徴なのです……自由な時間は、確かに少ないですね」

「それでしたら私もそうなりますね……同じくセミフィナル大陸は今転換期を迎えています。あまり、長い時間姿を消していては、またよからぬ考えを持つ者が台頭しかねません」

「そりゃそうだ。ああ、そうだな。二人は自分の国を優先してくれて構わない。何か動きがあればこっちからメールを送るから安心してくれ」


 そうだ、二人は少なくとも自由に動ける身分ではないのだ。

 だがそうなると、エルも似たような状況ではないのか?


「え、私? 私はまぁ、夕方以降は暇してるし、お父様も今日明日で死ぬような状況でもないしね。まぁずっとこっちにいる訳にはいかないけど、毎日夕方にはこられるし、そこまで融通効かない訳じゃないわよ」

「なるほど。じゃあシュンはどうなんだ?」

「俺の役目は元々武力による鎮圧と牽制。だが、俺達の大陸は、今や共和国との蟠りも消えつつある。まぁジュリアの事は気になるが、割と自由だ」

「ジュリアちゃんって今何してるんだい? その後身体の調子はどうだい?」

「最近は城で勉強をしているな。学校ではないが、希望者を募って次世代の研究員を育てている。自慢じゃないがかなり評価が高いんだ。身体の方も問題ないな」

「そっかー、それだと安心だね。でも、ちゃんとジュリアちゃんには説明して許してもらってくるんだよ?」

「ああ、勿論だ」


 となると、シュンは常駐し、エルは毎日顔を出す。オインクとダリアは、何か動きがあれば連絡し、都合が付けばこっちに来る、と。


「じゃあそうだな、とりあえず現状の街のマップを用意したから、メールで送る。目を通してくれ」

「……これは、敵の位置も分かっているのか。どうやったんだ?」

「ま、俺の数あるアビリティの一つだ。ククク、想像以上に俺は万能だぞ」

「ぼんぼん……これ、間違いなく戦略的アドバンテージが取れますよ。私の[天眼]以上です」

「この大きな丸印が敵の中でも強大な存在ですね? 随分と沢山いますが……」

「一体だけ教会前にいた魔物が常軌を逸したレベルの強さだったが、それ以外はそうでもない。まぁそれでもレベルは三〇〇をこえていたから、単独で挑むのは危険だな」

「ふむ、俺とダリアなら問題なさそうだが、確かにこれは……オインク、まだレベルはここまで上がっていないよな?」

「ええ、残念ですが……仮に戦うとしても、後方支援が手一杯です」

「……自分で言っておいてなんだけど、私こいつらと戦って修行って無理じゃない?」

「一発適当に魔法打って後ろに隠れとけ。パワーレベリングだパワーレベリング」

「後程私が専用の装備をお貸ししますよ」


 この世界にレベル差補正なんて物が存在していないのは、ナオ君やレイス、そして俺自身が証明している。ならばエルも物凄い勢いで成長出来るとは思うが……地獄の頭痛でのたうちまわる事になりそうだな。

 そう思っていたのだが、予定よりも早くその光景を目にする事となる。


「そうだ、実はジュリアに使ったレベルアップポーションがまだ残っている。残念ながら四〇を越えると効果が消えるが、もしもそれよりレベルが低いなら効果があるが、エルのレベルは幾つだ?」

「ふふん、聞いて驚きなさい! なんとレベル一よ! この世界に来てから虫一匹殺してないわ! あ、でも昔台所でゴキブリは殺したかも」

「そうか。じゃあ……このグレードなら一気に上げられるか?」

「待てシュン! 低いグレードのを使って一つずつ上げた方が!」

「ん? 悪いが低いグレードのヤツは身体が弱かったジュリアに全部使ってしまってな」

「そうよそうよ、それに四十本なんて飲める訳ないじゃない? お腹がたぽんたぽんになっちゃうわ」

「……リュエ、どうにか出来るか?」

「ごめん、こればっかりは沈痛の魔法も効かないと思う……」


 意気揚々と、高級な外見の瓶に収められたレベルアップポーション(超高級)の蓋を開けるエル。


「凄いですね……ただのレベルアップポーションですら市場に出回らないのに……序盤の育成が一番の苦行だったあのゲームで一気に四〇まで上げられるなんて……売りに出せばとんでもない大金が手に入っていましたよ」

「金ならアリーナの賞金で有り余っていたからな」

「そういえばシュンってアリーナチャンピオンだったよねー最初期からずっと」


 そして、意気揚々とポーションに口を付け、ゴキュゴキュと一気にそれを飲み干した。

 無駄に良い飲みっぷりだが……急激なレベルアップの代償は――


「なにこれ美味しい! 桃味? なんだろう、凄くさわやかで――」


 瓶が床に落ちる。


「どうしましたかエル」

「ん? どうした?」

「ウグオオオオオオオオオオオオ!!!!! アアアアアアアア!!!!」


 そして絶叫。頭を抱えソファから落ち、床を転がりまわるエル。

 滑稽ではあるが、その苦しみを知っているだけに笑えない。

 それに……レベル一の温室育ちのお姫様だぞ、これは辛い!


「な、なんだ!? どうしたんだエル!」

「シュン! まさか毒を!?」

「そ、そんなわけないだろ!? おい、大丈夫か!?」

「グギャアアアアアアア割れる割れる割れる!!! シュゥゥゥゥゥン!! 謀ったなあああああああ!!」

「……ぼんぼん、何か知ってますね?」


 とりあえず、俺もリュエもレイスも、そしてナオ君も知っている、この世界での急激なレベルアップの反動だと伝える。

 身体に害はない。だが、正直俺でものたうち回る程の激痛だ、とだけ。


「ホア! ホア! ホア! なにこれイタイ! 子供産む時よりイタイ!」

「そ、そこまでですか!? リュエ、どうにか出来ませんか!?」

「残念ながら……」

「やばいやばい! 頭がパーンしちゃいそう!」

「なんだ、案外余裕あるな」


 それから数分、徐々に落ち着きを取り戻したエルが、まるでゾンビのようにソファに這いずり上ってきたのであった。


「カイさん……知ってたのね……」

「……今更だが、二〇上げるのを二回飲むって選択もあったんだが」

「……あそこまで痛いと程度の強弱なんてわからないわよ……一回で済んでよかったかも」

「忘れているかもしれないが、これからパワーレベリングをする以上、暫くはあの苦しみを味わう事になるからな?」


 その残酷な事実を告げると、数瞬の沈黙の後――


「や、やっぱり私は大人しくここで待機……っていう訳にはいかないよね?」

「……諦めてください。取り敢えず私が持っている育成用装備、渡しておきますね」

「ひぃ……カイさん、出来るだけ弱めのモンスターから順番にお願いします……」


 とりあえず、明日からはエルの苦悶の声をひたすら聞き続ける事になりそうだな。


(´・ω・`)重圧から解放され、徐々にマスターおしゃべり剣士に戻りつつあるシュン

そしてエルはギャグ要因となりつつあるのであった。

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